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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【籠り生活6日目】


 音光機を集めるために、竜骨が必要だということでマエアシツカワズの肉を骨から削ぎ落している。


「本当は竜の骨じゃないってバレるんじゃないか?」

「わかるわけがないだろ。単なる骨なんだから」

 ヘリーには自信があるらしい。


「爬虫類系の魔物は針葉樹林だと小型のものが多いんだ」

「大きなトカゲは冬の寒さに耐えられないのか?」

「いや、変温動物は活動をしなくなるだけで、寒くても生きていられる。ただ、動いている餌の量が少ないから冬は冬眠しているだけだ。魔境でも砂漠の魔物は動いているだろう?」

 確かに、この前砂漠に行ったときトカゲの魔物が砂を掘っていた。


「竜も餌の魔物が動いていれば、巣から出てくる。爬虫類系の魔物と変わらないさ」

 ヘリーはそう言うが、手伝っている俺たちは意外に怪しいと思っている。


 チェルもシルビアも何も言わずに、とりあえず手伝ってはいるが、時々空を見上げて考え事をしているようだ。ヘリーは同胞であるエルフをバカにしているが、おそらくエルフたちも俺たちをバカにしている。竜の骨と偽れば、いずれ安く買いたたかれてしまうのではないか。


「俺は商売のことはわからないから、交易関係のことはわからない。ただ、不正をしてバレると不利になるんじゃないか?」

「まぁ、そうだろうネ」

「ふ、普通に大型の爬虫類系魔物の骨として売った方がこちらも弱みを見せずに済む」

 エルフたちがそこまでバカだとも思えない。


「ヘリー、もしエルフたちが何らかの方法で竜の骨を測定できるとしたら、どんな方法が考えられる?」

「まぁ、無理だとは思うけど骨密度とか魔力の伝導率とかだろうね。魔力の伝導率は魔境にいる魔物の骨なら問題はない。バレるとしたら、交渉役が顔に出てしまうことだろうけど、私だからな。精神魔法を使ってもバレやしないよ」

「鑑定スキルはないの?」

「持っている者はいるが、魔境にいる魔物は、エルフの国ではほぼ新種さ。わかりゃしないよ」


 なにか見落としているような気がしてならない。


「そんなに不安か?」

「うん。もう少し竜の特徴を確認した方がいい」

「エルフの国で言われている伝承との差異を考えた方が良いのではないか?」

 シルビアもきれいに肉を削ぎ落した骨を見ながら、ヘリーに聞いた。

「そこまで言うなら書き出していってみてくれ」

「じゃ、本当の竜から確認しようヨ」


 珍しくチェルがメモ帳を取り出して、竜の特徴を書き出していった。


「実はよく眠る種だ。喉の奥に火付け石のような器官がある。炎のブレスを連発すると喉が焼けてしまい、体調を悪くする。飛行は得意だが、歩行は苦手。大食漢。あとなにがある?」

「他の魔物よりも魔石は大きい。化石が見つかっていない。というか生きていた」

「つまりその地域で発生している魔力の影響を受けやすいということだろ」

「エルフの国では?」

「伝説上の生き物。吐き出す炎は村を焼き払い、魔法の威力を半減させ、鱗は刃を通さないとか……」


 チェルの書いたメモ書きを見ながら、最近行った村の跡を思い出した。


「竜ってもしかして魔力の吸収力が高いんじゃない?」

「え?」

「いや、特徴を見ればわかるけど、魔力に影響を受けやすく、よく眠るって……、なぁ」

「まぁ、実験してみればわかるヨ」

「待て待て。冬眠中ではないのか?」

 ヘリーが慌てている。


「普段から寝てるヨ」

「もし暴れたら、ダンジョンに閉じ込めればいいんだ」

 チェルもシルビアも確かめるつもりだ。


 実際、チェルの作った包帯があれば目に見える。

 早速北西の魔石鉱山まで移動。寝ている竜を引きずり出して鱗を磨いてやることにした。


 家のように大きな竜が、洞窟から悠然と出てくる。白い息を吐き出して、殺気を放つ姿は古代からの強者の風貌だ。近くの森で鳴いていた魔物の鳴き声は止み、鳥が逃げ出していた。


 ガウッ!?


「ちょっと実験に付き合ってくれ」

 すっかりシルビアに懐いてしまい、餌でももらえるのかと考えていたようだ。

 竜には水をかけてヤシの束子でゴシゴシとこすっていく。

 冬に冷たい水をかけるから、嫌がるかと思ったが、洗ってやると目を細めて気持ちよさそうにしている。


 ググググ……。


「ずっと穴倉にいると翼も固まる。時々、伸ばして動かした方がいいんだ」

 シルビアは竜にバケツで汲んだ水をぶっかけていた。

「水魔法じゃダメなのか?」

「やってみるとわかる」


 チェルが水魔法をかけてやろうとすると、竜は口を開けてバクンっと飲み込んでしまう。

 魔力を感知する包帯をしているヘリーは「ああ……」と呆気に取られている。


「どうだ? 魔力を吸収しているか?」

「食べてる。魔法を食べてる……」

 竜は魔法ごと食べられるらしい。

 束子に魔力を込めて、鱗をこすってやると表面の汚れは落ちるし、どんどん光沢を帯びてくる。


「もしかして魔力を込めると鱗が固くなるのか?」

「そう。でも、マキョーもそんな感じだろ?」

 確かに俺も魔力で攻撃を防いだりするのであまり変わらないかもしれない。

「喉元にある逆鱗だけ気をつけてやってくれ。鱗が逆さになっているから、無理に引っ張ると痛いらしい」


 洗っている竜に釣られて、寝ていた竜たちも起きて寒空の下に出てきた。竜たちも自分の周りに魔力を展開して空気の層を作っている。


「意識をしなくても自然とやっているのか」

「魔力の伝導率がいいってことは当然それだけ使いこなせているということでもあるだろうネ」

「吸収も出力も他の魔物と比べると高い。我々のような使い方はしないというだけで」

「人間は真似ることで学ぶからな」

「生まれながらの強者か……」


 ヘリーは、ようやく竜の魔力の吸収力について認めた。

 竜を洗って翼を広げさせて、ワイルドベアの肉をやった。その後、嫌がる竜の歯磨きもしておいた。口の中を熱くするから歯垢なんてないかと思ったが、眠っている間に細菌は繁殖しているようだ。


 エスティニア王家は竜の血を引いていると言われているくらいだから、竜のように魔力の使い方が上手なのか。


 それはさておき、竜骨だ。


「どうするんだ? 脱皮した鱗や爪、折れた歯なんかはあるけど、骨はないぞ」

「魔境の採取物が偽物だと冒険者も来なくなるんだけどネ……」

「わかった。あるものを売るよ。それからちゃんと亜竜の骨として取引する」


 ヘリーにはエルフの国での取引を任せている。そもそも密貿易なので面倒なことだけ起こらないように頼んだ。本当はジェニファーと一緒にやってもらうのがいいが、ジェニファーとリパは植物を育てているので忙しい。


 ダンジョンの民やクリフガルーダから来たハーピーたちが手伝ってくれてはいるものの、なかなか作業は思ったようには進まない。


 一度ホームへと戻り、昼飯。マエアシツカワズやワイバーンなどの細切り肉を使ったサンドイッチだ。午前中にそぎ落とした骨についている肉なので、食べ応えがあり美味しかった。


 カタンにお礼を言ってから、集合住宅建設地へ向かう。

 行ってみるとエルフの番人が一人で待っていた。


「おう、どうかしたか?」

「訓練兵の皆さんが来ていて、川原でグリーンタイガーと戦ってもらっています」

「そうか」


 グリーンタイガーがいつの間にか教官になっているのか。

 状況がわからないので、とりあえず入口の小川へ行くと、訓練兵たちがグリーンタイガーと戦っていた。怪我人が出ているわけではなく、じゃれ合いの延長のようだ。


「こんにちは!」


 向かってくるグリーンタイガーの首をわしわしと撫でながら、訓練生たちに挨拶をする。

冬の初日に出ていったはずだが、また同じような者たちが来ている。軍の中でも異端とされているメンバーなのだとか。


「お疲れ様です! 冬季演習の者たちを連れてきました。開拓の邪魔にならないようにしますので、よろしくお願いいたします!」

 いつも演習に来てくれる入れ墨だらけの訓練生が、挨拶をしてくれた。

 後ろには、新しい訓練生とこの前見た武道家の獣人もいる。


「いつも協力してくれて、こちらこそありがとう。休みはもういいのか?」

「ええ。魔境にいないと体が鈍るというか……。なぁ?」

 入れ墨の兵士は隣にいる大柄の兵士に聞いていた。

「スピードとか威力とかが、こう、なんというか、気持ち悪いんですよ!」

 大柄の兵士は言い難そうにひどいことを言っていた。

「なにが? ちゃんと里帰りした方がいいぞ」

「里帰りはしたんですけどね。弱い魔物を討伐して褒められたりすることに耐えられなくて、走って帰ってきちゃいましたよ」

「それも親孝行だろ?」

「一応、親に顔は見せましたよ。でも、私の居場所はなかったですよ」

「自分も昔の仲間と酒を酌み交わしたんですけどね。動けない言い訳ばかり聞かされて辛いんですよ」

「魔境だとやることが多いじゃないですか。動きながら考えるというか、考えながら動いているというか……。田舎の冒険者は本当に立ち止まって酒飲んでるんですよ」

 兵士たちが故郷の愚痴を言い始めてしまった。

 

「でも、冒険者なんてやっているんだから向上心はあるんだろ?」

 昔の自分のことは棚に上げて、聞いてみた。

「どうやったら強くなれるかとか魔物を倒せるかは調べているみたいなんですけどね」

「失敗して怪我したりランクを下げたりする不安の方が勝つみたいです」

「停滞するとどんどん動けなくなってくるから、一足飛びに魔境にでも来た方が良いんだけどな」

「そう言ってみたんですけど、魔境はやっぱり怖いらしいです」

「そっちの新人さんたちは募集してきた人たちじゃないのかい?」

 俺は後ろの兵士たちを見た。


「辺境の訓練施設での基礎訓練を終えた者たちです。イーストケニアやホワイトオックス、王都周辺で冒険者をやっていた者も何人かいます」

「そうか。俺も冒険者出身だ。よろしく頼むよ」

「「「よろしくお願いします!!」」」


 新人さんたちが大声で挨拶をすると、グリーンタイガーが吠えていた。

 ゴールデンバットも飛んでいるし、冬眠していない小型の魔物たちも奇声を上げている。


「一応、冒険者ギルドの建物もあるし、演習場もそのままにしてある。今から、集合住宅も作る予定だから、好きに使ってくれ」

「わかりました。ありがとうございます!」


 早速スライムに魔力切れを起こされた兵士を担いで、訓練生たちが森に入っていった。


「いてぇ!」


 早速、新人の訓練兵がイガ栗に被弾している。

 徐々に慣れていってくれるといい。


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