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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【籠り生活5日目】


 目を覚ますと海に島が浮いていた。植物も生えていて、小さな鳥の鳴き声も聞こえ、ゆっくりと流れに身を任せるように移動している。


「浮島だナ」

「海の中に魔物がいるわけじゃないのか?」


 魔力を探っても島の下には小魚程度の魔物しかいない。


「漂流物でできた島があるんだヨ。そうか……」


 チェルは一人納得していた。


「どうかしたか?」

「メイジュ王国に魔族が住み始めた古い御伽話がある」

 真面目な顔をしたチェルが話し始めた。

「伝説みたいなものか?」

「そう。小さな島で大魔法使いが死んだ。2人の息子は、父親が魔物になってしまわないよう死体に溜まった魔力をすべて吸い出してから船の棺桶にいれて黄泉の国へと送ったんだ。息子たちは島から出て、兄は父親の魔力を受け継いで魔法使いになり人々に魔法を広めた」

「弟は?」

「弟は別の土地へ行って、人とは付き合わずに魔力を風に与えた。すると近くに住んでいた人たちが父親と同じ病にかかり町の人たちが次々と死んでいった。弟は町の人が魔物にならないように魔力を吸って人々を黄泉の国へと送り出した。以来弟は魔法を使わずに魔力を体内に溜めて生きていった」

「この町に魔力がないのは、弟の一族が生き残っていたからか?」

「わからない。けど、兄が作った国がメイジュ王国と言われている。もちろん御伽話だから、ほとんどが嘘だ。無暗に魔力を使ってはいけないという教訓のためだと思っていたんだけど、元ネタがあるんだなと思ってネ」

「ああ。それと浮島には何の関係があるの?」

「兄も弟も船に乗ったという記述がないんだヨ。私が学生時代に調べたんだけど、どんなに古い本を読んでもなかった。小さな島と書かれているし、船の棺桶があるのは書かれているから、ボートぐらいなら作れる」

「草で作る船もあるくらいだからな」

「でも小さな船で海を渡れるのかな、という疑問は湧いてくるでしょ。でも、兄も弟も別々の土地に渡っている。いろんな説が出ていたんだけど、浮島なら別に船を使わないんだ」

「チェルは変なことを勉強してたんだな」

「古い船を勉強していたお陰で、メイジュ王国から魔境まで渡ってこられたんだけどネ」

 勉強というのは、何が役に立つのかわからない。


「マキョーは?」

「え? なにが?」

「死んだら、ほぼ確実に魔物になると思うんだけど、どうするの?」

「ええ? どうって……。俺の場合は、前世の記憶があるからね。死んだら別の世界に行くものだと思ってるよ。現世の肉体は容れ物に過ぎないみたいな考えかな」

「地獄や天国に行くっていう考えはない?」

「ん~、想像はするけど、善い行いをすれば天国に行くとか、悪い行いをすると地獄へ行くとか、そう言う考えはないかな。普通に生きていれば、どちらもやるでしょ。それは別に意地悪してやろうという考えがなくても、他人から見ればそうなってしまう場合もあるからさ」

「新しい魔法を作るとかは別に悪いことだとは思ってないの!?」

「悪くはないだろ?」

「歴史が変わってしまっても関係ないとでも!?」

「俺は目の前のことに対処してるだけだ。でも、魔法を使わずに生きていくと決めた弟の気持ちはわからなくはない。弟にとっては親の魔力は過ぎた力だったんだよ」


 町の跡はあるもののほとんど物は残っていない。

 俺たちは1000年前の記録が残る砂漠の軍基地へと向かった。


 ダンジョンに入るので、いつも俺の鎧の中に隠れているダンジョンは飛び出してくるのだが、大きく膨らんで日除けになっていた。冬でも日差しが強い砂漠だが、俺のダンジョンは蒸れた体を乾かしたかったようだ。時々天日干ししたいのだろう。


 軍基地のダンジョンで、ゴーレムたちが北東から持ってきた鉄鉱石を溶かしている横を通り過ぎ、グッセンバッハに話を聞きに行く。


「やや、領主殿ではないか」

「ちょっと聞きたいことがあって。環状道路を作るんだけど、南東にある魔力が少ない町の跡があるだろ? あそこは危険はないか?」

「封魔一族の集落よりも南か。あそこは吸魔海岸と呼ばれる地域で、昔ながらの魔道具を使わない人たちが住んでいたはずだ。獣魔病の発生もほとんどなかったが、感染を恐れて沖の島に避難していた記録があったと思う」

 

 古い石板が立てかけてある棚から、吸魔海岸の石板を取り出していた。


「ああ、やっぱりだ。ビーズ文化が発達していた」

「ビーズってアクセサリーとかに使う?」

 チェルが聞いていた。


「そうだ。海で魚を獲り、魔物から取り出した魔石をビーズにしてアクセサリーを作っていた。人生を穏やかに過ごそうとする宗教で、海が荒れるとあの土地では誰も働かなかった」

 前に、俺はクリフガルーダの『大穴』で魔力を吸い過ぎてしまって、石に魔力を込めて魔石を作ったことがあるが、同じようなことをしていた民族が古代にはいたらしい。


「その土地の人は魔力を吸う魔法を使えたのかな?」

「それが土地の由来になっている。墓守や葬式は彼らに頼むといいとされていた。死んだ者が魔物にならずに済む。逆に彼らが行かなかった西海岸を見ると、よくわかるが……」


 確かに、1000年後でも不死者の町ができているところとは大違いだ。


「チェルも魔力を吸収する呪いをかけられていたよな?」

「魔境ではあんまり意味ないけどネ。メイジュ王国にも伝わっているから大魔法使いの能力の一つだったのかもしれない」

「すごいな。大魔法使いじゃないか!」

「マキョーに言われても全然嬉しくないネ!」

 正直、魔境ではほとんど魔力の補充で困ったことはない。


「まぁ、とにかく、環状道路を作るのに支障は出ないということだな」

「砂漠に道はどうやって作るつもりですかな?」

 グッセンバッハが聞いてきた。

 砂嵐で埋もれてしまう未来は予想できる。


「塔みたいな目印があった方がいいかな?」

「そうでしょうな」

「空に道を作る手もある」

「なるほど……」

「また協力してもらうことになるから、よろしく頼む」

「承知した」


 グッセンバッハにお礼を言って、軍基地のダンジョンを出た。


 外では砂嵐が吹いていて、俺のダンジョンが身体を広げてくれていたお陰で砂に埋もれることもない。砂嵐が通り過ぎるのを待ってから、出発した。

 

 ホームの洞窟まで飛ぶと、別の問題が生じていた。

 ヘリーが、ジェニファーとリパを叱っていた。ただ、ジェニファーもリパも悪いことはしていないと思っているらしい。


「なにがあった? とりあえず、ヘリーは昼飯でも食べて落ち着けよ」

「落ち着いていられるか! この二人は光に反応する葉っぱを見つけて来たんだ!」

 根菜マンドラゴラは風に反応していた。光に反応する葉っぱくらいあるんじゃないのか。


 話が見えないので、その場にいたシルビアに聞いてみた。

「光に反応する葉を見つけると、なんかダメなのか?」

「ん~、音光機の光が定着するんだ」

「うん。それで? つまり発言を撤回できなくなるってこと?」

「い、い、いや、そう言うことじゃなくて……」

「葉から抽出した薬品を紙に塗ると喋ったことを本にできるってことじゃないカ?」

 チェルが説明してくれた。

 葉のエキスを紙に塗って音光機から出た光りを当てると黒く変色するらしい。その紙を水で洗うと、黒ずんだ箇所が定着するのだとか。


「そう言うことだ! 白亜の塔の知識をすべて盗めるんだぞ! どうしてそんな悠長にしていられるんだ?」

「いや、だって……、え~? そんなに悪いことしちゃいましたか?」

 ジェニファーが困惑している。

「とんでもない発明だと言っているんだ!」

「ごめんなさい。俺、まだわかってないんですけど……?」

 リパは俺に近づいてきて、こっそり聞いてきた。


「本を作るのってすごい大変だろ? インク代にペン代、表紙の革代もかかるし、なにより文章を書く技術者が必要だ。それが全部要らなくなる。ジェニファーとリパが見つけてきた葉っぱさえあればいい」

「それはわかるんですけど、それでなにかとんでもないことになっちゃうんですか?」

「知識の伝播が一気に進むんだヨ」

 チェルが優しく教えていた。

「でも、知識があったところで経験して身になっていないと魔境じゃ使えなくないですか?」

「毒草、薬草の知識は使えるだろ? 発見した魔物の特徴もだ。今までは一冊しかないP・Jの手帳を参照していたけど、これから何十冊もできるから、ダンジョンの民や新しく入ってきた移民もその危険度がわかるようになるんだヨ」

「それ以上に、社会システムが広がる」

 ヘリーは興奮しすぎて疲れたのか、焚火近くの椅子に勢いよく腰を下ろしていた。


「そもそも音光機があれば鳥小屋もいらなくなる。足りなかったのは光を定着させる技術だったのだ。どこにどういう冒険者がいて、どこに技術者が足りないか、どこ町が発展していて税制はどうなっているのか、文字が読めるものならすべて知ることができるようになる。鳥だって飛んでいく時間があるのに、音光機にはそれもない」

「商売の質が変わるカ?」

「そういうことだ」

「じゃ、私たちはどうすればいいんです?」

「すぐにその葉の植物を育ててくれ。大量に……」


 ジェニファーとリパは、ヘリーの言葉を聞いて頷いていた。


「儲かりますか?」

「儲かるなんてもんじゃないね。私も音光機をエルフの国からかき集めてくるよ」


 一人で喋っていても、音光機を複数用意すれば大量に本が出来るらしい。


「紙も必要だな。メイジュ王国から仕入れるか?」

「うん、頼んでみるヨ」

「魔境の図鑑も作れるってことだろ?」

「そうだネ。でも、図のために絵描きは必要かも」

「た、体系化もできるんだ」

「ちょっと待て。やること増えてないか?」

「「「そう!」」」

 

 冬で暇だと思っていたら、そんなことはないようだ。

 集合住宅の建築に、環状道路の建設と空島の製作。そこに魔境の図鑑作りが加わった。


「料理できるけど、いる?」

 カタンが呼びに来た。


「食べます!」

「もちろん!」

「食べないとやってられないよ!」


 冬は魔境に籠って作業を進めないといけないようだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 写真とかできないかな? ピンホールカメラみたいに時間がかかるなら魔物写真図鑑は無理そうだけど。 [気になる点] 音声印刷してる最中に母ちゃんが晩飯できたと呼びに来て台無しになるまでがセット…
[気になる点] 音光機かき集めちゃうのか…w 印刷機になるねえ
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