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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~

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【リパの里帰り 生活百家を求めて4】


 翌日、王都ヴァーラキリヤで、シュエニーに依頼について報告。特に移民問題に関しては要調査とした。


「最後に残った貴族の娘の捜索も呪法家に任せた方がいいみたいです」

「かしこまりました。こちらが報酬となります」


 ドサッと財布袋がカウンターに置かれた。中は銀貨と金貨しか入っていない。


「こんなにいいんですか?」

「当然の報酬です。むしろ頂いておかないと他の人に迷惑がかかりますので」

「そうですか……」


 魔境での交易はほとんど物々交換なので、正直、こんなにお金を見たのは初めてだった。

 こんなにお金があっても魔境では使えない。クリフガルーダにいるうちに使ってしまうのがいいだろう。


「これで何が買えますかね?」

「何でも買えるんじゃないですか? よかったら、うちの交易品も見ます?」

「お願いします」


 シュエニーさんの店はそもそも交易品を取り扱う店だ。紙や筆記用具などが多い。

 冒険者ギルドを建てている魔境にとっては記録に必要だ。


 すべて買っても銀貨5枚しか使えなかった。


「お金を使うって難しいですね」

「王都ではほとんどの商品がお金でやり取りされるんですけど……?」

「ああ、そうですよね」


 魔境に行くまでは、俺もお金が欲しいと心から思っていた気がする。


「武具など買ってみては? ヴァーラキリヤでもいい物はありますよ」

「ええ、ちょっと見てみます」


 そう言って、とりあえず交易店の外に出てみる。

 記憶を頼りに武具店へ向かうが、木刀はないし防具もよさそうなのは見当たらない。マキョーさんは革の鎧を着ているが、丈夫で動きやすいからだ。それならシルビアさんに作ってもらった鎧で十分だ。


 食事も甘味をいいだけ食べても銀貨1枚にもならない。

 どうすればいいんだ。休暇だというのに、お金を使うことに悩んで、まるで休めない。


「お兄さん、どう? やっていく?」

 街角にいる鳥人族のお姉さんに声をかけられた。いつの間にか娼館街に迷い込んでいたみたいだ。


「いや、やりません。でも、やりたいことはあるんです」

「え? なに? 痛い変態プレイじゃなければ、協力するけど……」

「活法の練習です。お姉さんは、ちょっと腰のくびれを強調するあまり、無理な服を着ていらっしゃる。あと、顎を使い過ぎて凝ってますね。それから、お尻の炎症は直した方がいい。はい、回復薬」


 回復薬を無理やり手渡すと、そのまま娼館の中に引っ込んでしまった。


「ああ、またやってしまった」


 人が多い場所で暮らしている人たちは、自分を直視しない生き方をしているから、本当のことを言ってはいけない。魔境に慣れ過ぎてしまったせいで、難しくなってしまった。


「マキョーさんみたいだ」


 ああいう風になってはいけない。そもそもあれはマキョーさんだから成立することであって、俺には無理だ。


 俺は娼館街を通り過ぎ、コロシアムとの境にある通りに出た。ここでは多くの奴隷が売られている。昔、俺も売られていたが、売れ残ってしまったことを思い出した。見るからにひ弱だったし、肋骨と足の骨が折れていたからだろう。


 手が届きそうな範囲の身体の悪い者たちを見つけた。


 俺は閃いて、すぐに行動を開始。近くの屋台で塩を塗ったパンを買いこみ、薬屋で回復薬を調合してもらう。

その後、奴隷商が立ち並ぶ通りに戻ってきて、交渉だ。


「ちょっとすみません。あのぅ、旅のマッサージ師なんですけど、後ろの方で控えている体の悪そうな奴隷を診せてもらえませんか。ちゃんと回復薬も持ってきているんで、多少ねじれても治せますから」

「はぁ? あんな奴らに金をかけれるわけないだろう?」

「いえ、お代はいりません。まだ、未熟者なので」

「……まぁ、いいぞ。商売の邪魔だけはしないでくれ」


 奴隷商に許可を貰って、裏手に回る。

 奴隷小屋の中には、今にも死にそうな老人ややせ細った中年女性まで寝ていた。たいてい何かやらかしたか、借金をした者たちだ。


「こんにちは。旅のマッサージ師です。ちょっと身体を診せてください」

「え? なんだ? 嫌だぞ。これ以上、身体が動けなくなると死んでしまう」

「塩パンあげますから」

「じゃあ、いいぞ」


 寝ていた爺さんは、跳び上がって塩パンにかぶりついた。意外に身体は動くようだ。

 ただ、腰、足、肩から光る煙が立ち上っている。そっと触れながら、煙の元を注意深く見ていく。寝ている姿勢が悪いのか、右に偏っているので、骨盤から治していった。


 バキバキと音が鳴っているが、全ての煙を解消してみると、爺さんはまっすぐ立てていた。擦り傷なども回復薬を塗って治していく。


 一人上手くいくと、次の奴隷も塩パンを貰えるなら、と次々近づいてくる。

 たいてい、売れ残っている者たちは体のどこかがおかしい。やせ細った女性も、傷だらけの少年も、全員身体が歪んでいる。全員、まっすぐ立たせてケガも治していった。


 奴隷商一軒終わった頃には、次の奴隷商が待っている。

 結局、夕方までかかったが、通りの端の方にいた奴隷たちを全員立たせて、怪我を治した。


 その後、コロシアムに赴き、ケガをした剣闘士たちを活法で治し、パンと回復薬がなくなった。



 宿に帰り、夕飯のシチューとパンを食べながら、「旅のマッサージ師」でよかったのかと振り返った。もっと胡散臭い職業もあったかもしれない。

 それに活法は、光る煙なんて見えなくても、もしかしたら手触りなどでできそうだ。しかも殺法がわかると活法がわかるというのも、何となく理解した。

 骨の位置だけでなく、皮膚から引っ張るやり方や筋に効くやり方などもありそうだった。封魔一族に聞くとわかるだろうか。


「……リパさん!」


 気がつくと、隣にシュエニーが座っていた。


「ああ、シュエニーさん」

「さっきから呼びかけてたんですけどね」

「ああ、気がつきませんでした。何か御用ですか?」

「今日の昼に、『旅のマッサージ師』を名乗る者が、奴隷市場の奴隷たちを癒していったという噂が飛び交っているんですが、何かご存じですか?」

「そのマッサージ師は俺です。活法の練習に奴隷たちに協力してもらったんです。誰も死んではいないと思いますよ」

「そうなんですけど……! 無料でやったんですか?」

「ええ、練習に協力してくれたお礼に塩パンをあげましたよ」

「なんというか、病気の人やケガ人も奴隷商の通りに行けば、治してくれると思うじゃないですか。それで、薬屋も教会の僧侶たちがカンカンに怒っていてですね」

「あ~……。それは考えてなかったなぁ~」


 確かに、僧侶たちからすれば商売あがったりというわけか。

 俺の不器用も極まってきた。


「それから、僧侶見習いの方たちが、そのマッサージ師に弟子入りすると探し回っているみたいです」

「いや、僧侶見習いの方は回復魔法の練習をした方がいいんじゃないですか?」

「そうなんですけど、教会は寄進した人しか助けなかったり、お金持ちを優先して治したりするわけですよ。そこに奴隷にパンを与えて、しかも体まで治してしまう人が現れてしまったんです」

「はい。何か間違ってますか?」

「助け合いという教義からすれば、リパさんは正しいのです。正しいのですが……、教会側は、寄進がなければやっていけないので」

「わかりました。もう、やりません。俺を探している僧侶見習いの方たちには二度と現れないとお伝えください」

「それもそれで、教会側の圧力となり、いよいよ教会が悪者になってしまうのです」

「え~、なんですか。面倒くさい人たちは。別に、日頃から助け合いの精神で仕事をしていれば、こんなことにはならなかったのでは?」

「その通りなんですけどね。明日中には、おそらく『教会に来て、そのマッサージとやらを見せてみろ』ということになるかと予想されます」

「誰にマッサージしろって言うんです? 牧師さんですか? 教会には、あんまりいい思い出がありませんから、行きませんよ」

 

 教会でいじめられたことを思い出した。たらい回しにされた挙句、俺はクリフガルーダと魔境の境界にある崖から突き落とされたのだ。

 思い出したら、だんだん腹が立ってきた。別に許す必要なんてない。ましてや、わざわざ教会に協力なんてする義理もない。


「だいたい、人の休暇を何だと思ってるんだ……」

「教会に行かないんですか?」

「教会には行きません! これから本当に『旅のマッサージ師』としてクリフガルーダ中を回ることにしました。教義も実践できない教会の方たちには『お互いの尻でも舐めて、クソして寝てろ』とお伝えください。では」


 俺は空になったシチュー皿をカウンターに戻し、「ごちそうさま」と伝えると、部屋に戻って財布袋を確認。パンと回復薬程度ではまだまだ報酬を使い切ってはいなかった。


 財布袋を腰にぶら下げ、宿の主人に部屋を引き払うと伝える。

「こんな時間にどこへ?」

「風の吹くまま気の向くままです。休暇中の旅人なので」


 宿を出ると、シュエニーさんが待っていた。


「お世話になりました」

「本当に、教会を敵に回すんですか?」

「いけませんか? 教義も守れない僧侶たちが、この国の健康を守れるでしょうか。魔境では何もしない人間は魔物に殺されます。俺はすでに魔境の人間なので、そちらの教義を実践していくだけです。では」


 空飛ぶ箒を握り、魔力を込める。


 一気に上空へと飛び、煌びやかなヴァーラキリヤの町を一望した。

 きっと俺は、どう生き延びていたとしても、この国にいたら死んでいただろう。

 心の底から魔境の住人になれてよかったと思う。

 いちいち誰かの顔色を窺って、気を遣うのもやめた。

 現実を直視しなければ、発展できないことがある。そもそも魔境で、気を遣いながら喋ったことはない。

 実力不足という壁にぶち当たらなければ、改善方法も見えてこないのだから。


 人気やお金を気にしなければ、随分、気が楽だ。


 俺の休暇の目的は活法の習得。日常生活を学んで来いと言われても、こうなるんだから仕方ない。諦めてもらおう。

 魔境の評判が下がったら、マキョーさんに謝ろう。


 俺は東から上る月を背に、西へと飛んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] リパ頑張れ〜!( ̄▽ ̄)
[良い点] 蓋を開けてみれば、リパが一番マキョーに近づいているのかも。
[一言] これ僧侶見習いが魔境にまでお仕掛けて来るんじゃwww いやこれに恩を感じた奴隷達も向かうんじゃ?
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