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魔境生活  作者: 花黒子
~追放されてきた輩~
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【魔境生活26日目】



 翌日、ジェニファーはまだ寝ていた。

 折れていた足はチェルがもとに戻して回復魔法をかけていたので治っているだろう。

 畑で水やり、チェルと二人で朝飯を食べ、ジェニファーの分も用意しておいた。


『気をつけて帰れよ』とだけメッセージを残し、俺たちは砂漠へ向かう。

懐には方位磁石のリーフバード。


 森の中を走っていると植物も魔物も襲ってくるが、どれも見たことのあるものばかり。ポイズンスコーピオンも尻尾さえ切ってしまえば、怖くない。朝方は植物も魔物も動きが遅く、攻撃されても難なく躱せる。いちいち、倒していると時間がかかるので、ほとんどの魔物はスルー。


 朝のうちに砂漠についてしまった。サンドワームもP・Jの剣を使えば、そんなに強敵ではなくなった。サンドコヨーテやデザートサラマンダーなど砂漠特有の魔物も現れたが、魔力を手に纏わせた魔法拳で一撃だった。


「強くなっているのかな」

「マダマダ」


 チェルの言う通り、P・Jの手帳で確認しても、『砂漠の魔物は弱い』と書かれた。ただ、毒のある植物に関しては、『絶対に手を出さないように』と注意書きがあった。


「植物なんて見えないけどな」

「ウン」


 とりあえず、P・Jの手帳は無視して先を急ぐ。

 一番の問題は砂嵐だったが、朝のうちは風が弱いのかそこまでひどくはない。顔に布を巻いて対処するくらいだったが、効果はあった。


「ヘェヘェ……」

 チェルはちょっと辛そうだが、あまり水を飲んでいない。水を飲みすぎると余計疲れるのだそうだ。朝飯もそんなに摂らなかったが、食事で内臓にエネルギーを持っていかれるというのはわかる気がする。


 空に浮かぶ島の真下に到着したのは、昼前ぐらいだった。

 あとは空の島と繋がっている金属製の鎖を登るだけ。何の金属かわからないが、人が二人登ったところで、弛むということもなさそうだ。


 チェル特製のサンドイッチを少しだけ食べてから、鎖を登り始める。歩くようにとは行かなかったが、木を登るくらいの速度はあった。


 登っているうちに、あまりにも島が遠いような気がしてくる。腕や腹筋、脚の筋肉が悲鳴を上げるので、何度も休憩を挟む。チェルは風魔法で自らを浮かせようとしていたが、うまくいかないようだ。鎖の金属が特殊なものなのか、風魔法は弾かれてしまう。


「ゴメン」

 危うく落ちかけたチェルを助けながら、ひたすら上を目指す。


 ビョウッ!


 風魔法を使った後には必ず、砂嵐がやってきた。


「くそっ、しがみつけ!」


 砂嵐が来ると止むまで待たないといけないので、さらに時間がかかった。

「もうやるなよ!」

「ヤラナイヨ!」


 腕の疲労が半端じゃない。魔境で結構鍛えてきたつもりだったが、まったく歯が立たない。

 さらに汗に砂が混じって、肌がベタベタになっていると、お互いにイライラしてくる。


 途中、風魔法ではなく、身体に魔力を纏って、鎖に吸い付くように手や脚に魔力を込めると、ドンドンすすめることを発見。チェルにも教えた。


「オオッ!」

 と、二人で喜んだが、すぐに、この方法がやばいとわかった。

 なにか違和感があり、注意して魔力の流れを見てみると、鎖に魔力を吸収されていたのだ。


「モウヤルナヨ!」

「やらないよ!」

 チェルに注意された。


 魔法や魔力によるズルができない仕様になっているらしい。対魔法使いを想定したものか、単純に魔物が登れないようにするものなのかわからないが、自分たちの力で登り切るしかないようだ。

 チェルが砂嵐で意識飛びそうになったり、俺の手に力がうまく入らなくなったりしていたので、ロープでお互いの身体を結ぶ。お互い一人だったら、すでに落下して砂漠に埋もれていたかもしれない。


 何度目かの砂嵐が止み、空が茜色に染まった頃、ようやく島がはっきり見えた。

「もう少しだ!」

「モウスコシ!」


 力を合わせて、上りきると、東の空に一番星が輝いていた。

 島の周りに漂う雲はなく、遠くの北の山脈まで見える。島の反対側に行けば、崖、つまり魔境の南端が見えるかもしれない。


 空の島は木々に溢れ、色とりどりの小さな花が咲いていた。集落があったのか、幾つかのレンガ造りの家が半壊している。大きな木が家を突き破るようにして生えていた。

 人がいなくなったのは遥か昔のようだ。


 全身が疲れ身体が熱くなっていたが、冷えた空気をゆっくり吸い込むと汗が徐々に引いていった。

 島を回っているうちに日が暮れてしまったので、今日は半壊した家の中で寝ることに。小さな小鳥やリスの魔物しかないし、襲われるようなこともないだろう。

 今日はあまり食事をしていなかったので、干し肉とサンドイッチのあまりなどしっかり食べた。


「うまいな」

「ウマイッ!」

 俺もチェルも疲れていたので塩気がある食事がなにより体にしみた。


 やることもないので横になったのだが、とても寒い。山と同じくらいの高度なのだから当たり前だ。

 木の枝を折り火を焚いたが、燃え方が小さい。気が付かなかったが酸素が薄いのだろう。

 仕方がないのでチェルとくっついて眠ることに。


「ヤルナヨ!」

「やらねーよ! こんなところじゃ体力を消耗するだけだ」


 チェルは恥ずかしそうに、俺の抱きまくらと化した。チェルはチェルで俺を掛け布団代わりにしたようで、すぐに寝息を立てていた。

 俺はあまりにもはっきりとした星を見ながら、町にいた頃を思い出した。なにもやり遂げたことがなかった俺が、おとぎ話に出てくるような空に浮かぶ島までたどり着けるなんて思いもしなかった。


「魔境に来て、俺は変われたのかな」

 魔境は人を変える力があるのかもしれない。

 ジェニファーはちゃんと帰れたかな。いや、どうでもいいか。



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