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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【交易生活25日目】


 月下美人モドキは一日経っても、枯れるということはなくまばらに咲いていた。花粉を獣の毛に付け、運んでもらっているのだろう。


 俺たちはというと、その花を踏んでいた。


「こっちは絞りだすだけでいい」


 岩の間に挟み、俺と竜で思い切り大量の花の汁を朝から数十回絞り取っている。沼の畔ではヘリーたちが鍋で花の汁を煮て濃度を上げていた。

 竜たちは臭いにやられて、早々にへべれけ状態になって、沼で泳いでいる。俺のダンジョンも沼で広がっていた。


「レベルの高い魔物の方が効くようなんだけど……、どうしてマキョーには効いてないのだ?」

 ヘリーとシルビアは純粋な目で俺を見てきた。

「魔物じゃないからだよ! リパには効いているみたいだぞ」


 リパも竜と一緒に沼に浮かんでいた。女性陣に股間を見られたくはないだろう。


「つまり獣人には効いてしまうと……。ダンジョンの民やハーピーにも効くが、不死者には効かないらしい」

「鼻がないのに効いたら怖いよ。あ、魔境で媚薬として使うのは禁止だからな」

「え!? なんでヨ!」


 瓶に出来上がった花の汁を詰めていたチェルが振り向いた。


「魔物寄せの薬として使うならいいけど、人間同士で使うと結構大変なことになる。前に、娼婦の姐さんの一人が媚薬を使って、身体が壊れた人がいるからな。あんまり性にどん欲になってドーピングすると身のためにならない」

 たぶん、交易村に持って行くと歓迎される薬ではあるけど、利用法は姐さんたちが一番よく知っている。


「性に関しては交易村の女性たちに絶対的に信頼を置いているな」

「そりゃそうだ。一生のうちに人ができる量を数か月でこなしている職業っていくつもない。餅は餅屋、船は船頭に任せるのが一番だよ」

 そう言うと、皆納得していた。シルビアは「だから貴族の息子は娼館に……」とつぶやいていた。

「なるほど、だったら魔境はマキョーに、だナ!」


「なんだ? なにか仕事を押し付けるつもりか? そろそろ道作りを始めないといけないんだけど……」

「いやぁ、魔境のことは一番マキョーがよく知っているからネ。魔境の冒険者ギルド職員はマキョーがいいと思う」

「ああ! それがいい!」

「いい案だ!」

「それが一番いいですね!」

「いや、俺は領主として道を作りたいんだけど……」


 ドワーフに助けを求めた。


「あ、マキョーさんなら大丈夫だと思うわ。同時に3つまでなら仕事はできるよ」

「適任」

「最も安心できます」


 もしかして俺に味方っていなかったのか。


「そもそもマキョーさんが計画していることを掲示板に貼っておいてもらえると、こちらとしても助かるんですよね」

 リパが腰巻をしながら、沼から上がってきた。股間は紐で縛って抑えつけているらしい。大変だな。


「計画はその場その場で考えてるからなぁ。むしろ魔境の動きに合わせていることの方が多いぞ」

 起点は自分自身にはあまりない。魔境の植物や魔物、地形への対処、対応が基本だ。


「交易ぐらいじゃないか。自分たちからやっていることなんて」

「いや、発掘もあるじゃないですか」

「発掘は趣味かな。あと王家からの依頼でもあるし……。ああ、でもそういうことを依頼書として掲示板に貼っていけばいいのか。後の依頼は全部緊急依頼になってくるな」


 魔境における冒険者ギルド職員の役割が何となくわかった。報酬は魔境コインで払えばいい。やっぱり作っておいてよかった。


「あー、たぶんできるぞ」

「ちなみに、ランクってあるんですか?」

 リパは気になるらしい。クリフガルーダでは汚れ仕事ばかりやらされていたからな。

「ない。飛べる人とか穴掘り上手い人とか、そういう感じだろうね。まぁ、でも報酬は魔境コインだから外では使えないし、履歴書にも書けないけどな」

「経験にはなりますよ。それにマキョーさんが今何をやっているのかわかりやすくなりますし」

「依頼もしやすくなるし、いいことづくめじゃないか」

 今までは近くにいた者と適当に組んで、対処していたがそれが減るならいい。俺は余った仕事をしていればいいのか。もっと早く掲示板の良さに気づくべきだった。


 掲示板自体はすでに設置を進めている。

 ホーム付近だと沼の畔、東海岸は倉庫前、砂漠は軍事基地の中、南西不死者の町は灯台下だ。あとハーピーたちの居住区である廃墟にも置いた方がいいだろう。

 それを職員が音光機を使って読み上げて、まとめていればいい。


「アルバイトを雇おう。カヒマン?」

「はい。あ、ダメです。自分は地図作りのサポートの仕事があるんで……」

 今の森にハーピーが入れるのかどうかあやしいが、仕事があるなら仕方がない。

「リパ?」

「ちょっと今日は仕事になりそうにないんで、交易村の方に行ってきます」

「それはジェニファーが許すのか?」

「へ?」

 付き合っているのかと思ったが、違うのか。


 魔物寄せの薬を製作する女性陣以外は、それぞれの仕事に向かい始めた。


「現地で雇うか!」


 俺は、乾いている木材を集めて、指で適当な長さに切って整え板にし、丸太を二本用意した。


「釘ってあるのか?」

 サッケツに聞いた。

「ええ、今、量産体制に入っていますから、どんどん使ってください」

 小さい壺にいっぱい釘をくれた。


 トン。トン。トン。


 釘が新しいので入り過ぎてしまうが、とりあえず打てたので良しとしよう。あとは依頼書代わりの羊皮紙を掲示板にぶら下げておく。筆記用具ぐらい自分たちで用意してもらおう。

 あと、貼る時の接着剤としてヤシの樹液を採用。壺に入れて掲示板の下に置いておけば完成だ。


「次だな」


 ダンジョンも連れて行こうとしたが、竜たちと仲良く沼で遊んでいるのでそのままにしておいた。


 東海岸に行くと、ダンジョンの民が釣りをしていた。


「森には獣が繁殖期で入れないし、まだ船は来ないので、釣りくらいしかやることがないんですよね」

「ダンジョンは魔王と所長が暴れた後片付けをしているし、行き場がなくて……」

 アラクネとラーミアはぼーっと釣り糸を見ていた。倉庫にはしこたま食料もあるし、本当は魚が必要なわけではないらしい。


「だったら、海岸線の道作りに協力してくれないか。掲示板に依頼を貼っておくから、ちゃんと魔境コインが支払われる業務にしておくからさ」

「え!? やるよ!」

「あと、朝方、音光機で俺に連絡してくれる人を募集しているんだけど、誰かやってくれないか? 掲示板の依頼を読むだけでいい」

「あぁ、それは音光機を倉庫においておけば誰かやりますよ。たぶん」

 魔境コインを払わなくてもやってくれるのか。


「それより、道作りってどんなことするの?」

「ヤシの樹液と砂や砂利を混ぜて道を固めていくんだ……。で、その前に直線を引くんだけど、アラクネの糸を張ってくれるか?」

「じゃあ、海岸線に沿わせるような道じゃなくてもいいの?」

「そう。ゴーレムたちが通ると思ってくれ。いずれ馬車も通るから幅はこのくらいで」


 アラクネたちには道の基礎を作ってもらう。意外にダンジョンの民は仕事に飢えているらしい。魔境の運営に役立つことをやっている感覚が欲しかったのかもしれない。


 続いて、砂漠の軍事基地だ。

 ダンジョン内に作るので、特に問題はない。


「無論、私がやろう」

 連絡係はグッセンバッハが買って出た。

「何か依頼はあるか?」

「鉄の量産体制が整ってきたが、やはり移動に問題がある。輸送に関して適材がいればいいのだが……」

「東海岸に道を作っているところだから、封魔一族の谷まで行ければ、森は躱せるんだけどな」

「では、砂漠を移動できるものを作ればいいのだな?」

「鉄を運ぶから、重い荷物も運べるようなものだといいね」

「うむ。考えてみよう」

 グッセンバッハはゴーレムたちに何かの設計図を集めさせていた。


 そこから西へ向かい、山脈を超えて不死者の町へ。


 すっかり皆、服を着ていて鬼火だった者ですら薄っすら身体が透けて見えているので、怖さは半減した。


 灯台は完成に近づいていた。作業をしている骸骨たちは肉まで再生され始めている。


「やはり筋肉があると動きやすいらしい」

 カリューはずっと一緒にいるので気づかなかったとか。

 そういうもんか。


「ひとまず、ここに掲示板を置いておくよ。何か必要だったら、依頼書を貼っておいてくれ。報酬は少なくとも魔境コインを一枚出すから」

「わかった」

 連絡はカリューが担当する。幽霊船が来た時や、封魔一族がやってきたときは報せるとのこと。


「ここは木材が少ないから、持ってきてくれると助かる」

「わかった。やっぱり輸送、運搬だな」

「道作り期待してる」

「ああ」


 俺は灯台をぐるっと回って砂漠へと戻った。


 廃墟のハーピーたちは、住環境をよくしようと魔物の殻を使って壁や屋根を直していた。


「器用だな」

「他にないからよ! お願い。建材がないの」

「わかった」


 すぐにカヒマンに連絡して、木材と釘を持ってくるよう言った。


「水はあるのか?」

「ええ、水の確保だけはできるようになったんだけど……」

「大型の魔物が出ると、どうしても今まで狩っていた魔物を奪われちゃって……」

 お腹が空いているらしい。


 近くにいた大きなデザートサラマンダーの腹の中には、サンドコヨーテやデザートイーグル、砂漠のサメなどが入っていた。砂漠の食糧事情は厳しい。ただ、西の山脈付近に生えているサボテンは食べられることがわかったという。


「意外に食べられるのよ」

「味付けは酷いけどね」

 

 味付けは、麻痺薬に使う多肉植物を薄めて使っているのだとか。ほのかに辛いらしい。


「もうちょっといいものを食べさせるから、待っててくれ」


 カヒマンに山椒や塩も持ってくるように頼む。森を移動中だったようだが、夕方には持って行っていた。


 一番掲示板に依頼書を貼りたいハーピーたちは、文字を書けないこともわかった。


「とりあえず、音光機を置いておくから、朝方に依頼を報告するようにね」

「わかった」


 それを地図作りをしているハーピーたちに報告する。


「あいつら、そんなにか弱くないよ」

「なんでもかんでも言うこと聞かなくていいからね」

「まぁ、仕事が少ない上に、砂漠の気温差で疲れるから仕方ないんだけどね。運搬の仕事でも回してあげて」


 仲間のハーピーたちはよくわかっていた。



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[良い点] おお〜っ、運ぶ人材出来ましたね!^ - ^
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