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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【交易生活21日目】


 

 朝から、ホームの洞窟の周辺には辛み成分の強い実をこれでもかと辛くした液体を散布した。しばらく魔物が入ってくることはないだろう。


 もともと魔物が近づいたら、誰かが追い返すはずだ。今はカタンが常駐している。

 ヘリーが古代の食器に描かれた魔法陣を試すせいで、地面に凍った痕跡や焦げた跡などがあった。


「古代人の魔法陣はほとんど温度管理だ。熱する、温める、保温、冷やす、凍らせる。今も昔もだいたい生活に必要なことって温度なのだな」

「特別なものは専門家しか使っていなかったのか」

 だから封魔一族が活躍できたのだろう。


「あとは薬品の瓶が意外にあるのだ。古くは尿で洗濯物を洗っていた時代なんてのもあるが、ユグドラシールではかなり多くの洗剤が使われていたらしい」

 尿の時代じゃなくてよかった。


「発掘場はロッククロコダイルを連れていって、周りに壁を作らせたよ。トレントが根を伸ばそうとしてくるんだ」

 シルビアは、ワニ園のロッククロコダイルに芸を仕込み始めているらしい。土魔法が使えるので、建築には向いているのか。


「水路を作ってくれれば警備にもなるのだけどね」

「そういえば、ロッククロコダイルは冬眠しないのか?」

「それがなぁ……」

 シルビアが急に難しい顔をした。

「古代は道も水路も発達していただろう? その中に温水の水路というのがあったらしい」

「水路自体を温めていたのか?」

「そうなんだ。もちろん、魔物を警備に回すって考えは古代にもあってね。貴族街の周囲には温かい水路を作っていたようなんだけど……。それ以外に砂漠の軍事基地で石板を見ると、西側のどこかに温泉が湧き出ていた場所があるらしい」

「温泉かぁ、いいな」

 冬になる前に探しておきたい。


「冬眠しない鱗のある魔物は、温泉の周辺で暮らすらしい」

「じゃあ、冬は西側が危険地帯になるのか」

「そうなんだよね。そして竜もロッククロコダイルも鱗があるんだ……」

 シルビアの心配事がなんとなくわかった。


「気温はどうにもならないからなぁ」

「そうなのだ。魔物も植物も四季の移り変わりに対応して生きているだけで……」

「それがすべて過剰に反応していった結果、魔境になると……。つくづく、俺はなんでこんな場所を買っちゃったのかなぁ」


 今さら後悔している俺を見て、シルビアもヘリーも笑っている。


「おーい! いたヨー!」

 チェルが南の空から飛んできた。


「なにがいたんだ?」

「軍事基地のゴーレムの中に建物の設計図を書けるって人がいたんだヨ」

「冒険者ギルドの設計図を書いてもらうのか」

「うん、今なら素材は割と無理できるでショ」

「そうだな。整地もそれほど難しくなくなったし、木を切るのもずいぶん簡単になった」

「東海岸の倉庫を作った時よりも遥かに運搬も楽だ」

「うん、これならいけるネ!」

 チェルには自信があるらしい。

魔境のルールの中に、自主性を尊重するというのがある。


「ああ、チェルを冒険者ギルド建築責任者に任命する。頑張ってくれ」

「え?」

「じゃあ、俺は地図作りに行くから」

「私はまだ古代の食器に描かれた魔法陣の実験が残っている」

「水路の発掘調査に行かないと……」

「チェル、大事な仕事だからしっかりな! 手伝いが必要になったら、誰かを呼んでくれ」

「そんなぁ~!」


 チェルを置いていき、途中で会ったジェニファーとリパには今はホームにあまり近づかない方がいいと言っておいた。

 今日の予定を話しながら、ついでにカタンが作った弁当を渡しておく。


 昨日の根菜駆除で、西側はかなり根菜がなくなったはずだが、中央や東側はまだまだ残っている。ハーピーたちの地図作りも魔境の森の半分も済んでいない。


「根菜マンドラゴラの暴走は、たぶん止められない」

「ちょっと範囲が広すぎましたね」

「量も我々だけでは処理しきれません。もう少し獣に頼っていいのでは?」

 ジェニファーもリパも状況を理解できている。

「そうだ。だからこれから先は猪肉や鹿肉は取らないことにしよう」

「禁猟ですか」

「肉の在庫は、十分あります」

「あとは本格的に地形を変えていく。淀みができるとヌシが発生するからな」


 実際に、砂漠の近くの森にはまだ数体ヌシが棲みついている。できれば、これ以上増やしたくない。


「でも、谷に流すと言っても、森と砂漠はほとんど平坦ですからね。砂漠の地下へ流すんですか?」

「いや、そんなことしなくても暴走すれば走っていくだろ。それより、俺たちは……」

「運河でも作りますか? 大きい奴を」

「何本も道を通して、アスレチックみたいにすれば崖でも登れますよね!」

 ジェニファーもリパも考えていたらしい。カリューの件も聞いて、やる気がみなぎっているのかもしれない。

 

 とりあえず、現場を見た方がいい。

「ひとまず、地図に描いてある、この三方が囲まれた谷の終点に行ってみよう」


 固い岩に囲まれ、苔が生しているような谷がある。地形を変えるような植物が来たとしても、地中に根を張れないので通り過ぎてしまうだろう。1000年経っても、さほど景色が変わらない。いわゆる渓谷というやつだ。


 魔境の森の東側にその渓谷はあった。底には、水の流れはなくなり細かい砂が溜まっている。背の低い木が少し生えていて鳥や小さな魔物や虫の棲み処になっていた。

 他の場所よりも、少しひんやりとしていて音が谷に吸収されているのか妙に静かだ。


 谷の終点には古い祠跡が苔に覆われている。

 わずかな水溜りの真ん中には錆びて使えなくなった剣も沈んでいた。


「なんの神様が祀られていたんでしょうね?」

「水神かな」

 一応、ジェニファーが僧侶らしく祝詞を捧げていた。


「風がここで止まるし、水が流れて来てもここに溜まるだろ? こういうところは魔力も溜まりやすい。昔の人はそれがわかっていたから祠を建てて祀ったんだろうな」

「ここにもヌシがいそうですね」

「ヌシはたぶん他の戦いに負けた。子孫を残してな」

「子孫……?」


 2人には見えていなかったらしい。

 俺が拳に火の魔法を付与した。


 ボフッ!


 薄暗かった谷底の温度が急激に上がり、明るくなった。


 バサッ!


 牛よりも大きなワイバーンが翼を広げた。


 バサバサバサバサ……。


 谷で岩に擬態していたワイバーンの群れが一斉に翼を広げる。


「ちょっとマキョーさん! 知ってたなら言ってくださいよ!」

「こんなことなら、本身を持ってくるんだった!」

「見りゃわかると思って! 2人とも油断しすぎだ!」


 ギャーギャー!


 ワイバーンたちが騒ぎ始めた。


「伏せてろ!」


 谷底全体を思い切り火で炙る。


 ボッフン!!


 いくら耐性のある鱗があっても、酸欠になるだろう。

 谷の上から空気が一気に吹き下ろしてくる。

 落下するワイバーンの首をはね上げて、討伐は完了。ジェニファーとリパもトドメを打つ作業はしっかりと参加させた。


「と、いうことで、ここに穴を掘って淀まないように通りを作るぞ!」

「どうやって掘るんですか?」


 俺は以前、シルビアに作ってもらったつるはしを見せた。


「テッテレー! つるはしは用意しておきました! 2人で、崩れた岩を放り投げてね」

「そのために私たちを呼んだんですか?」

「単純な力仕事って意外に人材がいないんだよ。ダンジョンの民とかハーピーはまだ魔力の使い方があんまりわかってないしさ」


 言われてみればと2人も納得していた。


 カツーン、ボコッ! カツーン、ボコッ!


 谷底につるはしを振るう音が鳴り響く。崩れた岩をジェニファーとリパの2人が谷の上へと放り投げてくれる。

 

「こんなんでいいんですか?」

「ヌシさえ作らなければいいんだ! あとは勝手にダンジョンが守るだろう!」


 午前中の間、ずっと掘り進めたのでトンネルができ上がった。

 湧き水が出てきたり、穴から大きなモグラが出てきたりしたが、特には問題ないだろう。階段のように掘ったので根菜マンドラゴラも走れるはずだ。



「そう言えば、2人とも冒険者ギルドの職員になる試験って受けたことある?」

「ありませんよ」

「当然、俺もそこまで辿り着いたことがありません」

 リパは冒険者ギルドのゴミ拾いはしたことがあるらしい。


 音光機で皆にも聞いて見たら、不死者の町で数人、ギルド職員だった者がいるらしい。


『ただ、魔境は植生も魔物も種類が違うので、職員の試験に受かったとしても意味はない、とのこと』


 地面に照らされた光る文字を見て、俺たちは納得してしまった。


「確かにな」

「そもそも報酬を魔境コインで払っても、他で使えませんしね」

「試験的に、掲示板だけでも、各地に置いてみませんか?」

「ああ、そうしよう」


 こうして魔境にだけ通用する冒険者ギルドが誕生した。

 チェルとヘリーから、一応、メイジュ王国とエルフの国に声をかけてみるが期待しないようにという返事が来た。


 店舗を出すというのは難しい。


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― 新着の感想 ―
[一言] これは・・・・wものすごく難しそうだね^^; 先は長そうだ~
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