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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【交易生活13日目】



 早朝、明るくなると、すぐに出発した。ハーピーたちはなるべく魔物たちが起きていないうちに、移動したいという。

 

「それに対応できるようになった方が……。まぁ、今はいいか」


 途中、岩の隙間から染み出る湧き水で水分補給をした。朝飯も食っていないのに、ハーピーは元気だ。

 飛ぶ方が速いと思っていたが、羽だけではなかなか速度が出せていない。風魔法の推進力も使ってはいるようだが、これなら走った方が速いように思う。


「どうやって速度を出しているんだ?」

 ハーピーの一人が聞いてきた。

「え? どうやってんだろう? 気にしたことがなかったな」

 そう言われると、どうしてハーピーたちよりも速く飛んでいるのかわからなくなってきた。


 とりあえず、浮遊魔法で浮いてみる。

 宙にジェニファーが使っているスライム壁を斜めに設置。落下と共に、反力を使って一気に加速する。

 他には風魔法を使うが、推進力を出そうとすれば防御魔法の壁を空中に設置していた。


「そもそも飛び跳ねる力も利用しているな。いろいろ方法はあるぞ」


 一応、ハーピーたちには一通り説明した。おそらく羽だけで浮いているわけではなく、浮遊魔法も使っているだろう。人間の重さを浮かす胸筋はついていない。


「あ、そうだ。魔境コインを使おう」

 

 8人のハーピーたちに鉄貨の魔境コインを渡しておく。


「魔力を通すと防御魔法が出るから、風魔法を当ててみてくれ」


 ハーピーたちと共に実験だ。ただ、空中で風魔法を使うよりも壁があった方が少しは加速している。


「あと、皆、一人で飛んでいるわけじゃないんだから、仲間を風魔法で吹き飛ばそうとしてみたらいい。順番に風魔法を使って、風に乗っていった方が速いんじゃないか?」


 やってみると、かなり速く進んだ。協力して風魔法を使えば、ほとんど羽ばたく必要もなくなって移動も楽になった。


「これはいいわ!」

「全然、魔物が追い付いてくる気がしないね!」

「自分のことより、人を活かした方が結果的に速度が上がるなんて!」


 口々にそう言いながら、一気に進んだ。


 朝のうちに割れた岩の山に到着。カラスの群れや大フクロウもいたが、風魔法で加速を続けるハーピーたちの速度に魔物はついていけなかった。


「この速度に慣れたら、どこにでも行けそうだ……」


 そう言っていたハーピーが、痺れ効果のある花の花粉であっさり麻痺していた。動けなくなったハーピーを担ぎ上げる。


「このように植物には気を付けるように。魔境で油断すると死ぬ目に合うのはどこでも同じだ。うっかり死なないようにね」


 ハーピーたちは黙って頷き、地上に下りていた。

 山の上を通らず、ちゃんと岩の隙間を歩いて通って、海岸側へと向かう。


 双頭の狼に目を丸くして驚いているが、ハーピーたちはしっかり観察しながら距離を取っていた。


「そう。そうやって見知らぬものには常に注意を払ってくれ。砂漠だと植物には近づかないだけでよかったかもしれないが、森に入ると、全方位に罠が仕掛けられているから」


 ハーピーたちが唾を飲み込む音が聞こえた。


 坂を下り、不死者の町へと向かうと妙に港が騒がしかった。

 船が流れ着いたようだが、帆はボロボロなのに壊れていない。


「おお! マキョー、いいタイミングだ。交易したいという幽霊船がやってきたんだよ」

 カリューが俺を見て、すぐに近づいてきた。


「ああ、ジェニファーが言っていた奴らだ。エスティニアの南部とも交易できるようになるらしい」

「そうなのか。じゃあ、ジェニファーを呼んだ方がいいな」

 カリューはすぐに音光機でジェニファーを呼び出していた。


『夕方、行きます』


 返事はすぐにきた。


「一応、領主だし、挨拶しておくか。カリュー、悪いんだけどハーピーたちに町を案内して、井戸に連れていってやってくれないか?」

 俺はカリューに魔力を込めながら頼んだ。

「わかった。クリフガルーダから来た移住者たちだろう? よく来たなぁ」

 カリューはハーピーを町に迎え入れた。残念ながら表情は変わらないが、かなり人間らしい顔と体になっている。


 俺は幽霊船へと向かった。

 町の通りを進むと、鬼火や骸骨たちが服を着て挨拶してくれるので俺の恐怖心もかなり減少している。鬼火たちの身体も薄っすら透けて見えてきていた。火の妖精だと思えば怖くない。


「幽霊船が来たって?」

 船長のような三角帽子を被った骸骨に聞いた。彼は町の住民だ。

「ああ、見ての通りだ。どうやら万年亀の島々から許可が出たらしいんだ」

「そうか」


 この前、封魔一族に頼んでいてよかった。

舫いは結んであるので停泊はしているが、船から下りてきてはいないらしい。


「こんにちはー。どうもー、魔境の領主のマキョーでーす」


 幽霊船に声をかけてみると、わらわらとボーダーの服を着た骸骨たちが甲板から身を乗り出してきた。


「こんにちは。あの、ジェニファーの姐さんから言われてやってきたんですけど……」

「おう。悪いな。まだ、交易の準備が整ってないから、下りて少しゆっくりして行ってくれ。怖がらなくても、この町は船員と同じ不死者だらけだ」

「ありがとうございます」

「ちなみに、南部の人間が何を欲しがっているとかわかるか?」

「さあ? でも、魔境産のものなら何でも欲しがるんじゃないですか? できれば竜の骨があれば嬉しいんですけど……」

 そういう骸骨剣士を無視して、ドラウグルという腐肉の付いている骨が続々と幽霊船から桟橋に飛び降りてきた。

「ゴーレムでも構わないぜ」

「時魔法の魔法書があれば頂きたいものだ」


 身がある分、全然怖くない。


「ゴーレムなら、あそこにいるカリューがそうだ。奪えるもんなら奪ってみな。時魔法の魔法書はない。竜は今のところ生きているから無理だ。ワイバーンの骨なら用意できる」

「頼む」


 音光機でカタンに、ワイバーンの骨の在庫を教えてもらった。ホームの倉庫には骨は大量にあるらしい。武具屋のシルビアに聞くと、持って行っていいと言っていた。

 夕方に来るジェニファーに連絡して、取ってきてもらおうかと思ったら、すでにこちらに向かっていた。


 近場だと、万年亀の封魔一族のところにもワイバーンがいるが、あれは飼われている大事なワイバーンだ。万年亀の上は素材が少ない。骨も大事にしているだろう。


「自分で取ってくるか」


 ハーピーたちをカリューに任せて、ワイバーンの骨を取りに行こうとした頃、チェルから音光機で連絡があった。


『幽霊船が来てるのか?』

「来てるぞ。ワイバーンの骨を交易に使いたいんだけど、ホームの近場にいないか?」

『ああ、通り道だから、私とシルビアが持って行くヨ』

「頼むわ」


 続いて、ヘリーからも音光機で連絡が来た。


『幽霊船が来たって?』

「ああ、不死者の町に来たよ」

『だったら忙しいか? グッセンバッハから、魔境前期の歴史を聞きただしたんだけど……』

「あとで、向かう」

『いや、今から行く』


 なぜか皆、不死者の町に集まってくるらしい。


 皆が来るまで暇なので、新しく建てた灯台を見ていた。霧も晴れていて、海風が気持ちいい。不死者しかいない町でよく作れるものだ。日の光も当たって心地よく昼寝までしてしまった。


 起きてみると、がやがやと町は騒がしくなっていた。


「おーい。マキョー、幽霊船を見て気絶しなかったカ?」

 骨の束を担いだチェルが遠くから、俺を見つけた。


「骨があるから、別に怖くないさ」

 俺がそう言うと、いつの間にか揃っていたジェニファーもシルビアもヘリーも「なぁんだ」と期待外れの様子だった。


「もしかして、俺が気絶するところを見に来たのか?」

「ああ、マキョーのピンチは滅多に見れないからネ」

 女性陣はこれだから困る。


「暇だと碌なことしないな。とっとと骨を船に運んじまえ。ジェニファーが連れて来たんだから仕切ってくれよ。ヘリー、グッセンバッハはなんだって?」


 指示を出せば動き出す。魔境では働かない奴は食えないと叩き込まれている。


「やっぱり竜人族が去った後、エルフが強権を振るおうとしていたらしい」

 ヘリーがグッセンバッハの彫った石板の写しを広げた。羊皮紙には絵と共に、文字が書かれている。


「『魔法都市として復活させる。竜人族と魔族が去った今、我々こそがユグドラシール随一の魔法使いだ……?』 竜人族と一緒に魔族も去ったのか?」

「愚王はメイジュ王国に帰ってきていたヨ」


 いつの間にか、桟橋近くに骨の束を置いたチェルが隣に立っていた。


「夢に破れたのか、恋に破れたのかはわからないけどネ」

「古代人も恋ぐらいはするか。で、このエルフっていうのは?」

「サトラの技術者たちだろう。ミッドガード移送後、すぐに植物園のダンジョンを拠点にしていたらしい。ただ、当時は封魔一族や、聖騎士の一派なんかもいたから、誰もエルフを随一の魔法使いとは認めていなかったそうだ……」

「本当に混乱期だったんだな」

「そう。でも、その後は他に技術者もいなくなって、一時的にエルフがユグドラシールの大半を治めていた時期がある」


 羊皮紙の先を見ると、エルフたちが各地に種を蒔く様子が描かれていた。


「これは植物園で開発した種か?」

「そう。エルフたちの危険な思想に賛同しない者たちはダンジョンに籠り、エルフたちは各地に種を蒔いていったらしい。この時はまだ豊穣の女神を信仰する聖騎士とは仲が良かったみたいだね。でも、植物が人を襲い始めてから、仲たがいしたようだ」

「なるほど。それで、この後、暴走した植物の魔物に、エルフたちはやられたのか?」

「いや、それがわからない」

「え? なんで?」

 チェルも思わず声を出していた。


「グッセンバッハ曰く、いつの間にかエルフの姿が消えていたらしい。地下水脈を通って逃げ出したのは証拠も残っているから事実なんだけど、砂漠と植物園とは距離があるから、何があったかは見ていないのだそうだ」

「誰が、エルフを魔境から追い出したのか……?」

 謎が深まってしまった。



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