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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
231/371

【交易生活7日目】


 蝙蝠の魔物・ゴールデンバットの毛が金色に輝いていた。


「冬毛に変わったんだね」


 カタンがそう言って、蝙蝠肉の辛味スープの弁当を持たせてくれた。


 冬毛に変わってもエメラルドモンキーを攫って、飛んでいる。

 沼ではヘイズタートルたちの数が減ってきていた。徐々に冬ごもりの準備を始めているのだろうか。


 逆にイタチの魔物であるアイスウィーズルは数が増えて南下し、マエアシツカワズを凍らせていた。毛皮が厚い魔物たちが冬眠のために餌を溜めているのかもしれない。



 俺は北東にある鉄の鉱山にいて、鉄鉱石を掘り進めていた。作業用のガーディアンスパイダーの試作品を持って、サッケツとゴーレムの修理工たちも連れて来ていた。

 魔石を運び終えた竜に手伝ってもらったのだ。


「寒いですね」

 確かに、山脈から吹き下ろす風が冷たい。

 ただ、寒さを感じているのはサッケツだけだろう。ゴーレムたちもガーディアンスパイダーも寒暖差は感じないし、俺は魔力で全身を覆って寒さを防いでいる。


「辛味スープを飲んで、魔力で温めればいい。あんまり金属を肌に当てない方がいいぞ」

 いろいろとアドバイスしたが、結局サッケツは厚手の毛皮を着て作業をしていた。


 作業用のガーディアンスパイダーたちが、次々と坑道に入り、鉄鉱石を掘る音が聞こえてきた。古代では鉱山事故が多発していたため、坑道での作業はほとんどガーディアンスパイダーが担っていたという。


「今よりも文明が進んでいるよな」

「でも、たぶん採算が取れないのです。ガーディアンスパイダーに使う魔石の量と整備する修理工の賃金を考えると、採掘できる鉄の量が少なかったと記録されていました」

 今は魔力を補充しなくても動いているし、修理工もゴーレムたちだ。


「上手く運用しないとな。金か。貨幣はどうなった?」

「今、ヘリーさんが作ってますよ。裏面はヌシのシンボルにするそうです」

「そうか。それがいいかもな」


 サッケツと会話をしていたら、鉱山の底にガーディアンスパイダーが掘りだした石が続々と溜まっていく。


「指示はどうやってしているんだ?」

「それが……、カリューさんとヘリーさんが言うには精神魔法の一種でコントロールができると言っていました」

「つまりガーディアンスパイダーは気分で動いているのか?」

「そのようです。ゴーレムたちもかなり影響を受けるようで……。使用許可を頂けませんか?」

「いいよ。というか、事後承諾だろ?」

「そうですね。実験を繰り返していました」


 魔境はその辺がぐずぐずだ。規則があってないようなもの。


「魔境の魔物には精神魔法の効果がある魔石を持っている物が多いので、杖を作るのは簡単でした。特に東部の魔物が特殊で、ダンジョンの取ってきた魔石を重宝しています」


ガーディアンスパイダーを操れるようになれば、魔境での生活も楽になる。

 俺の知らないところで、いろいろと研究が始まっているようだ。


「任せるから、いろいろ試してみてくれ。ただ悪用だけしないでくれよ。魔境の刑罰は結構厳しいから」

「わ……わかりました」


 魔境にも一応、法があることを報せておく。


「あれ? 人が飛んで来ましたよ」


 サッケツに言われて見上げると、チェルが飛んできていた。


「やあ、元気?」

 下りしなにチェルが聞いてきた。本人は少し痩せて、疲れているようだ。魔石の鉱山でダンジョンを作っていたはずだ。


「元気だ。チェルはちゃんと飯を食ってるのか?」

「ん~、まぁ、そこそこ」

「カタンが、ちゃんと美味しい料理を作ってくれてるんだから食べろよ」

「そうなんだけどね」

「で、何しに来たんだ?」

「ちょっと手伝ってくれる?」

「人手なら、ダンジョンの民もいるじゃないか?」

「船が来るまでは休みだから。どうせ、マキョーは仕事と言っても終わらせてるだロ?」

「まぁ、あとはサッケツに任せればいいからな。手伝ってやるか」


 結局、サッケツに「悪いんだけど、ちょっと任せる」と言って、俺とチェルは魔石の鉱山へと向かった。


「森が色づいていて、岩石地帯を侵食しているんだよ。知ってたか?」

 飛んでいる最中にチェルに話しかけた。


「ん~、知らなかった。仕事がない時はダンジョンに籠ってたからネ」

「思うようにいかないのか?」

「そうネ」


 説明も面倒なくらいやつれてしまったようだ。


 とりあえず、魔石の鉱山に行ってダンジョンに潜る。俺のダンジョンは外で待機するように言ったが、革の鎧は取られてしまった。


 ダンジョンキーを回して、真っ白い空間に入っていく。

 ただ、中は坑道と変わらず、普通の通路が伸びていた。


「ダンジョンマスターになって知ったんだけど、かなり自由に物を作れるんだよネ」

「そうなのか。俺のダンジョンは今のところ物入になっているけど……」


 広い部屋に出ると、どこか異国の町並みが再現されていた。メイジュ王国だろうか。


「魔族の町か?」

「それっぽくしてみたんだけどサ。どうもおかしいんだ」

「何が?」

「まぁ、家に入ってみてくれヨ」


 一軒の家に入ると、テーブルに椅子が置かれた居間だった。奥には台所があり、廊下の先にはいくつか部屋があるらしい。特におかしいところはなさそうだ。

 花瓶とかがあったほうがいいとか、窓にカーテンがないとかはあるが、特別必要がない家もあるだろう。特に、ここはダンジョン内なのだから、別になくても構わないものが多いはずだ。


「どこがおかしい? おかしいところなんかないじゃないか?」

「やっぱりそう思うよネ。食器や寝具さえあれば、今日からでも住めそうでしょ?」

「ああ、立派なもんだ」

「この生活様式の中で魔法って必要なのかな?」

 チェルが真面目な顔でふざけたことを聞いてきた。


「何を言ってんだ?」

「私としては新しい生活魔法を作ってみたいと考えてたんだヨ。その魔法が未来の生活に役立つようなさ」

「魔境にいてよくそんなことを考えられるな」

 

 魔境の生活は原始的な生活だ。未来というよりも、都市生活に疲れた者たちが求めるような生活であって、未来の生活を考えるなんて、チェルはやっぱりぶっ飛んでる。


「魔族の歴史を考えると、魔法の歴史でもあるんだけど、マキョーが作ってる魔法って見たことがないのヨ。未来から来たんじゃないかって思ってたことがあるくらい。でも、異世界の記憶があるって言ってたから、きっとそれが影響しているんだと思うんだよネ」

「確かに前世の記憶は割と多いんだけど、だからって未来なわけではないんじゃないか?」

「まぁ、そうネ。でも、そこにヒントがあるんじゃないかと思うんだ」


 真っすぐな目で見られると、ふざけてるんじゃないかと思うが、本人はいたって真面目なようだ。時々、頭がいいことを言うチェルだが、いよいよおかしくなったのかもしれない。


「俺はチェルに魔法を教えてもらったんだぜ」

「それは知ってるし、見てた。だから、新しい魔法を作るなんて、そんなに難しいことじゃないんだろう? 教えてくれヨ。魔法の作り方」

「教えろって言われてもなぁ。別に作りたかったわけではないし、なんでチェルは魔法を作りたいんだ?」

「魔族が魔法を作ったら歴史書にかかれるんだヨ。でも、マキョー見てると、バカバカしく思えてくるんだ。私は別に歴史に名を残したいとも思ってないんだけど、人々の生活が楽になったらいいなとは思うわけ。だから、便利な生活魔法がないかと思ってさ。どうせ、暇だろ? 付き合ってくれヨ」

 俺の仕事中に連れて来たくせに結構な言い分だ。でも、実際のところ、俺ができることはほとんど終わっている。


「仕方ないか。協力してやるよ」

「よし。で、前世の生活を教えてくれ」

「前世では魔法がなかったと思う」

「え!? なんだよ、それ」

 チェルは眉間にしわを寄せて、あからさまに怒っていた。


「でも、便利だったことは覚えている。家の中にトイレも風呂場もあった」

「臭くならないのか?」

「水で流れていくんだよ」

「凄まじい水の力だな」

「お金も冒険者カードみたいなので支払いができたはずだ」


 冒険者カードを見せた。俺のカードには名前ぐらいしか書いていない。


「財布袋がなかったってことか?」

 チェルが興奮して聞いてきた。紙と木炭を持って、俺が言ったことを書き込んでいる。

「それはそれであるんだよな。貨幣も紙幣もあって、紙幣の方が高価だったはずだ。でも、生活の中ではほとんど使っていなかったかもしれない」

「約束手形とか権利書替わりだったのか。概念としてはわかるけど、それで偽造されない技術があるのだろう? ヘリーが今貨幣を作っている最中だっていうのに、なくそうとしているのか?」

「いや、信用としては必要なんだよ。でも、持っている貨幣を記録できるようなカードがあればいい。しかもそれは偽造できない形で」

「それはわかるけどさ……」

「まだ、無理だな」

「やっぱり未来の魔法じゃないか?」


 そう言われると、返す言葉がない。俺の前世は未来だったのだろうか。まさか、俺は時の旅人だったりして……。そんなわけないか。


「あと、移動はものすごい速かったな。大量の人が乗り込む箱があって、一斉に動くんだよ。職場や旅行もそれでいくんだ」

「一斉に移動か。なるほど職場と家を好きなところにできるのか。自由、水、量、移動、記録……」

「どうだ? ヒントになったか?」

「うん。これを考えていれば、四大魔法とかいう分け方は邪魔なだけだなぁ」


 チェルは感心しながら、紙を見つめていた。紙には、『目の魔法、呪い?』と書かれている。


「魔法ができたら、教えてくれ」

「わかった」


 俺はチェルを置いて、ダンジョンから出た。

 ちょうど、大蛇となった俺のダンジョンが、竜たちと戯れているところだ。


「寒くないか?」

 

 爬虫類系の魔物にしては、二種とも動けていた。

 風に揺れる木々から乾いた音が聞こえる。秋の音だ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『目の魔法、呪い?』 どういうこと?!;;; [一言] なるほど確かに、「四大魔法とかいう分け方は邪魔なだけ」ですなあ。
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