【魔境生活22日目】
朝食に昨日のコドモドラゴンの肉を食べ、軍の訓練施設に向かった。チェルは完全に肌を隠し、マスクまでしている。
訓練施設の畑に通りかかった時、隊長が農作業をしていた。
「こんちは~!」
「ああ、君は魔境の! もう二週間経ったのかぁ。早いな」
隊長は作業の手を止め、小屋へと案内してくれる。
「あれ? そちらはお仲間かな?」
チェルを見て、隊長が聞いてきた。
「ええ、変わり者なんですが、腕は確かです。これで二倍取引が出来ますよ」
「そうか。こちらに交換できる材料があればいいのだが。さ、入って」
小屋の中に案内された俺達は、大きな作業机の上に荷物を置いた。
チェルは緊張しているらしく落ち着かない。もしもの時の脱出経路を確認して、黙って壁際の椅子に座っていた。
「今回は、魔物の熟成肉に、ハムも作ってみたんですが、どうですかね?」
「はぁ、ハムですか。ハムは日持ちするので、ありがたいね」
隊長は手にとって見て、しっかり確認している。
「それから、魔石各種に、こんなものを作ってみたんですが」
俺は隊長に手作りの杖を見せた。
「杖ですか。ふむ、ここの訓練施設にはあまり魔法使いはいないから、詳しくはわからないけど、悪くない品だと思うなぁ。他にも、何かある?」
「魔物の爪や牙など、加工すれば武具に使えそうなものを持ってきました」
隊長は、魔物の爪や牙などを吟味し、何の魔物のどこの部位かを聞きながら、加工できるものと加工できないものを分けていった。
マエアシツカワズは存在も知られていなかったらしく、爪や牙をどう扱っていいかわからないとのこと。一応、定期便で、街の鍛冶屋に聞いてくれるという。
グリーンタイガーの牙はかなり希少価値があるらしい。交換材料ではないが、キングアナコンダのサーベルを見せると、「美しい」とつぶやいて惚れぼれと見ていた。
「それで、こちらからはまた、小麦粉や野菜とかでいいの?」
一通り見終わった隊長が聞いてくる。
「いや、えーっと、糸や裁縫道具、あと木を加工する工具が欲しいのですが、ありますか?」
「そのくらいなら、用意できるよ」
「それから、金属製の剣を何振りか。あと、用意できればでいいんですが時空魔法の魔法書が欲しいです」
「ん~時空魔法かぁ。それはまた、随分、値が張るよ。と言うか、あるのかなぁ」
「注文という形で、王都に問い合わせることなどは可能なんですかね?」
「それはできるけど、前金だけでも、相当するよ」
「そうですよね」
「それに、高価な魔法書なら偽物も多いし」
「ん~なるほど~」
「自分で王都に探しに行ったほうが納得できるんじゃないかな」
とても、大人の意見だ。隊長の言葉は、まったくその通りだと思う。
王都まで、馬車で10日ほどだろうか。
今の俺なら、そんなにかからないかもしれないが、数日、魔境を空けることになる。それに流石にチェルは連れていけない。だとすると、現状では無理そうだ。
「わかりました。魔法書は自分で探すことにします」
「では、小麦粉や野菜は多めに用意するから。実は、君のために町から余分に取り寄せていたんだ」
「ありがとうございます」
「お酒もあるけど、どうする?」
「いや、酒は飲まないんで」
「金属製の剣は、うちの兵士が使っているようなものでいいの?」
「あ、はい。大丈夫です」
隊長は剣を10本ほど一纏めにして持ってきた。糸や裁縫道具もすぐに出てきたが、工具はどんなものがいいか聞かれた。
「船を作りたいんですよ」
「あ~なるほど、だったら、大きい物のほうがいいよね。ちょっと一週間ほど時間もらえる? 作らせるんで」
「助かります」
辺境の海もない土地だから、船作りの工具なんかすぐに出てこないのは当たり前だ。
「あ、そうだ、あと女物の服を数着欲しいんですが」
「は?」
「あ、僕じゃなくて、仲間の分です」
「ああ、そうだよね。女物かぁ。今ならすぐ用意できるかもな」
「今なら?」
「あ、いやいや、5日ほど前に冒険者のパーティーがここを通ってね。そのうちの1人が突然昨日帰ってきて。他の奴らはどうしたのか、聞いたんだが、一向に要領を得ないんだよ。ただ、その帰ってきた女僧侶が可愛いと言って、兵士たちがプレゼントを買いに出かけてるんだ。その中に服もあれば、すぐにお渡し出来るが……」
隊長は意外にエグかった。
「いや、プレゼント用の服じゃなくて、普通に魔境で生活する用のものなので、ズボンと服がいいんですが」
「あ、そう? じゃ、それも一週間後ということで。一応うちにも女性隊員はいるけど、あいつらのはもうボロボロなんだ」
そんな風にして、交換を済ませ、一週間後の約束を取り付けた。
帰りは荷物もそんなに慎重に運ばなくてもいいので、楽だった。チェルは小麦粉が手に入ったのが嬉しいらしい。早くパンを作りたいらしく、ずっと「グフグフ」言っている。気持ちは悪い。
走って帰ったので、昼過ぎには魔境の洞窟に帰れた。
鉄の剣で、魔法剣を試してみると、うまくいった。そんなに魔力の伝導率も良くないため、自分の思った通りに威力を変えられるのがいい。
魔法陣を描けば、P・Jの剣のように特定の魔法の付与できるはず。必要な道具や習得したい技術は多い。改めて自堕落だった町の生活とは大違いだ。
「マキョウ!メシー」
チェルの声が聞こえる。パンが出来たようだ。