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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【交易生活3日目】


 回復薬の工場を作るため、朝から俺は植物園のダンジョンに来ていた。

 ジェニファーとリパが、ダンジョンから植物を採取している。


「回復薬ですか。眠り薬や麻痺薬も作るんですか?」

 ジェニファーが炎を吐き出す歩く草を掴まえて、花弁を縛っていた。炎を吐き出さないようにしているらしい。

「いずれはそのつもりだ。だが、瓶が表にある分しかない」


 俺のダンジョンは表で待機中。瓶を一本ずつ吐き出させているところだ。

「植物園のダンジョンの一部を工場に変えてもいいんじゃないですか?」

「それができるならいいと思う。ジェニファーがこの植物園のダンジョンマスターになるか? 今は不在だろう?」

「いいんですか!?」

「他のダンジョンと喧嘩するなよ」

「なんの得もないですから、そんなことしませんよ。瓶も材料さえあれば作れるんですよね?」

「たぶん、できるはずだ。瓶の材料なんかわかるのか?」

「砂と石灰、あと温泉にある石じゃなかったですかね。その辺はいろいろ試したり、メイジュ王国から輸入したりしてみます」


 温泉は今のところ魔境では見つかっていない。南西の山脈あたりにはありそうだ。


「エスティニア王国からでもいいんだぞ」

「あ、そうですよね! 魔石を送る代わりに何かを得ようという気持ちが出ちゃいました」

「小麦も揃ってきたし、食料も豊富だ。必要なものはあるんだよなぁ。リパは欲しいものがあるのか?」

「僕は……、建物があった方がいいんじゃないかと思うんですよ。せめて、植物園や遺伝子学研究所の建物があると、ダンジョンの民にとっても安心するんじゃないかと……」

「それは尤もだなぁ。結局、魔境ではダンジョンや洞窟、廃墟に住んでて、人が落ち着ける場所は欲しいよな。基礎を復活させて、柱を立ててみるか」

「マキョーさんは忙しいでしょうから、いろいろとやることが終わった後で構いませんが……」

「いや、重要な気がする。労働者の住環境は考えるべきことだ」


住みたくもない場所に無理やり移住させるのは気が引ける。

 魔石の鉱山付近にテントを張らせている場合ではない。北東の鉄鉱山にも住宅は必要になってくる。


「ヘリー、早めに時魔法の焼き鏝を作ってくれ」

 音光機に向かって言ってみる。未だ、使い方が合っているのか怪しい。


『今作っているところだ。取りに来い』


 しばらくして、ダンジョンの床に返事が来た。


「行ってくる。何か頼みたいことがあれば言っておいてくれ」

「週に一回でいいので、我々、初期のメンバーだけで食事をしませんか? 誰が何をしているのかわからなくなってきました。もしかしたら協力できることがあるかもしれませんし、マキョーさんの計画がどこまで進んでいるのかわかっていない人もいるかもしれませんから」

 ジェニファーの提案は正しい。

「それは、そうだな。安息日っていつだ?」

「明日です」

「じゃあ、一度、皆でホームの洞窟で食事をしよう。カタンに言っておく」

「お願いします」


 俺は植物園のダンジョンを出て、瓶を運び入れ、自分のダンジョンと共にホームの洞窟へ向かった。



「食事会? わかったわ。明日なら、仕込めるから。ヘイズタートルのスープが好物だったよね?」

「そう! 足りなかったら、沼のを狩ってくるけど」

「大丈夫。肉も骨もあったはずだから」

「じゃあ、よろしく」


 俺はそこから砂漠へと飛んだ。



「飛び回っているようだな。忙しいことだ」


 軍基地のダンジョンから出て、ヘリーが出迎えてくれた。

 なぜかカヒマンもいる。昨日は東海岸にいたけど、一気に移動してきたのか。


「建物を作るんだろ?」

「その通り」

「二種類の模様が描かれた焼き鏝を作った。試作品だから、期待して効果がなくても捨てないように」

 ヘリーから二本の焼き鏝を受け取る。

「木材は乾燥させなくていいんだよな?」

 時が止まった柱なら、急に水分が抜けて割れたりはしない。

「そうだ。その分、手間が省けるが、魔力の少ない場所で魔法陣に切れ目ができると崩壊するぞ」

「土地次第か」

「魔境は問題ないだろう」

「それで、カヒマンはどうした? 何か用か?」


 カヒマンは、ヘリーと俺の会話が終わるのを待っていたようだ。


「南部のハーピーが、水不足だって」

「ああ、そうか。西の水源に行くのも命懸けだって言ってたもんな」

「スイマーズバードの魔石を使ってみてはどうかな? あれは大気中の水分を集めて水球を作り出すから、それほど汚い水ができないはずなのだ」


 そう言えば、そんな水鳥の魔物がいたな。


「取ってきてやろうか」

「実は取ってきてある」

 カヒマンが笑って、魔石が入っている袋を見せてきた。


「用意がいいな」

「鶏肉料理をたくさん食べたから」

 カタンが料理に使ったらしい。


「持っていってやろう。カヒマンも来るか?」

「うん。飛べないけど」

 カヒマンがそう言うと、俺のダンジョンがふんわりとカヒマンを包み込んだ。


「乗せていってやるってよ」

「いいの?」

「いいさ。ヘリー、焼き鏝ありがとう」

「いや、どうせ作っておかないといけない物だったから、ゴーレムたちに頼んでたんだ。気にするな」

「あ、忘れないうちに言っておく。明日、食事会をするからホームに戻ってくれ。皆にも伝えておいてくれ。なかなか初期のメンバーと会えなくなってきて、誰が何をしているのか知りたい」

「わかった。それぞれゆっくり進んでいるつもりでも、やっていることが違うからな」

「でも、皆、魔境のために働いてくれてるよ。家賃分以上にな」

「そうだった。家賃など忘れていたな」

「それじゃ」

「ああ、また」


 俺はダンジョンごとカヒマンを持ち上げて、一気に空へと飛ぶ。


「うほー!」


 カヒマンが、柄にもなく興奮して声を上げていた。


高いところを飛んでいるデザートイーグルの真横に付けると、カヒマンが魔力の回転で仕留めていた。


「夕飯、できた」

 

 空中で掴んで、羽を毟り解体していた。相変わらず器用な奴だ。

 

 ほどなくハーピーたちが住む廃墟へとたどり着いた。


「やあ、頑張ってるか?」


 沈んでいたハーピーたちは俺が来たことで、にわかに活気づいたように見える。


「ダメだ。水を運んでくるだけで、羽がボロボロになる」

「食糧は確かに取れるんだが、栄養が足りないから、肌がカサカサになる」

「温かい食事は魔道具でできるのだが、砂以外に何もなさ過ぎて気力が削られていくようだ」


 それまで溜まっていた不安や不満が出てきた。


「魔境の誰も住んでなかったところを開拓しているからな。ある程度は仕方ない。ただ、こちらも水を集める魔石を持ってきた」


 スイマーズバードの魔石をカヒマンが見せた。


「この魔石を使うと大気中の水を集められるそうだ。朝や夕方みたいな温度差がある時間帯に使ってみてくれ」

「ほう。それはいいものだ。使ってみる」

「それから、今後は砂を集めてもらうことになる」

「砂なんかいくらでもあるじゃないか」

「瓶を作るためだ。仕事をしてもらいたい。何もやることがないと言っていただろう?」

「確かに。でも、どこに集めろと? 道具もない」

「道具はあとで持ってくる。集める場所は、廃墟でも使っていないところがいいな」


 使っていないところは砂にまみれていて、埋まっている。

 魔力のキューブを使って砂を掘り出してしまう。タイル張りの床と壁はあるから、屋根を付ければ住居として使えるようになるかもしれない。


「西には低木があったよな?」

「ああ、水源の方には背の低い木が茂っているよ」


 羽がボロボロになったというハーピーが答えた。

 ソナー魔法で診察して回復させていった。 


「案内してくれるか」

「わかった。でも、他の皆のケガも治してね」

「回復薬が足りなかったのか?」

「羽と爪じゃ、そんな細かいことはできないのよ」


 ハーピーたちが羽と足を見せてきた。種族的な問題だった。

 瓶も人間用に作っているのだから、合わなくて当たり前だ。なるべくこの差をなくしていこう。


「そうか。カヒマン、回復薬を塗ってやってくれ」

「了解」


 俺はハーピーの案内で、西の水源へと向かった。

 ダンジョンに水源の水を溜めさせ、低木を大量に刈る。一角ウサギも隠れていたので狩ってしまおう。


 低木を魔力の紐でまとめ、水を溜めたダンジョンを抱えて、廃墟へと戻った。

 カヒマンがデザートイーグルを捌いて、夕飯を作っていた。


「カヒマンさんがすごいよ」

「罠だってちゃんと直してくれたし、料理だってこんなに出来るなんて……」

「男の人が一人いるだけで全然違うね!」


 ハーピーたちに褒められているが、カヒマンは居心地が悪そうだ。


「ハーピーが道具を使うのが苦手なんだと思う。ダンジョンの民を誰か派遣した方がいいかも」

 カヒマンが小声で教えてくれた。


「それはそうかもな」


 枯れ井戸に水を入れ、壁だけ残っている廃墟に低木を並べて屋根を付けていく。カヒマンが持っていたミツアリの蜜と砂を混ぜ合わせて作った接着剤で、一旦貼り付けておくだけだ。


「いずれ板を持ってくるから、それまでは仮の屋根だ。少し居住空間が広がっただろ?」

「その分、サソリが出るんじゃないか?」

「多肉植物の麻痺薬なかった?」

 カヒマンがハーピーたちに聞いていた。

「まぁ、いいか。俺が持っているのを使おう。家の周りに撒いておいてね。サソリが来なくなるから」

 カヒマンが麻痺薬をできたばかりの家の周りに撒いていた。


「「「おおっ!」」」


 ハーピーたちからどよめきが起こっていた。カヒマンの評価がうなぎのぼりだ。


「魔境じゃ、そんなに驚くことじゃないから。頼む、これくらいはやってくれ」

「でも、私たちは知らなかった」

「魔物を狩る方法ばかり教わっていたから、魔物から守る方法なんて思いつきもしない」

「もしかして魔道具の使い方も他にあるんじゃないか?」


 ハーピーたちに迫られて、カヒマンは救いを求めるように俺の方を向いた。


「カヒマン、少し教えてやった方がいいかもしれないぞ」

「そんな……。じゃあ、今晩一晩、泊っていくよ。マキョーさんと……」

 ハーピーたちから「わぁ」と歓声が起こった。


「道連れにしたな」

「断ると領主としての評判が落ちます」


 カヒマンも言うようになっていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 羽と爪かあ…。人間から生まれてるから、意識は人で言葉も通じるけど、体だけが魔物になってしまっているんだったね…。 知らないことはわからない。一人で無我夢中でやってきたからわかることと、二人…
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