表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
226/372

【交易生活2日目】


 早朝に海鳥の鳴き声で起きた。

寝ていたのは東海岸の倉庫で、ダンジョンの民と一緒に寝ていた。アラクネが作ってくれた即席のハンモックが気持ちよくて、すぐに商品化してほしい。


表に出て海を見ると、遠くで交易船がサメに襲われていた。

海面を走って行って、サメの鼻先をギュッと掴むと逃げていった。


「おはようございます」


 メイジュ王国の魔族たちは呆気に取られている。

朝っぱらから、急に海を走る奴を見るとびっくりするのかもしれない。もしかして悪霊にでも見えたかな。


「ほら、ちゃんと足も付いているよ」

「おはようございます! マキョーさん!」

「おう……」

 知り合いだったかな。


「前にお世話になったピートです」

「ああ! 思い出した。フィールドボアを狩った人か。元気だった?」

「ええ、元気です。あの、今船に上ってくるとき、浮いているように見えたんですけど……」

「そうなんだよ。最近、魔法で空を飛べるようになったんだ」


 甲板から浮いて見せると、船員たちが集まってきて驚いていた。


「クリフガルーダでは魔道具で空を飛ぶと聞いていましたが、マキョーさんのは何も使っていないように見えます」

「うん。魔力で浮力に干渉するだけでいい」


 船員たちは一様に首を傾げている。


「例えば、船もさ。魔力で風に干渉すると進むだろう?」


 風を受けている帆が破れない程度に、魔力で風に干渉してみる。

 波を切りながら、船は一気に進みだす。


「「「おおっ!!」」」


 魔族の船員たちは、被ってる帽子が飛ばないように手で押さえていた。


「それは風魔法とは違うんですか?」

「効果は同じだよ。でも、やってることは違うんだと思う。俺は学がないから、魔法を体系的に理解できてないんだ」

「じゃあ、魔法を自分で作ってるんですか?」

「そう。チェルと手合わせをしてから、だいたい自分で作ってるね。いろいろできて面白いよな」


 そのまま、東海岸まで船を送り届ける。


「魔石は竜で運んでいるから、まだまだある。積めるだけ積んでいってくれ」

「はい、ありがとうございます!」

「やめろ。マキョーが適当なことを言うと、魔石の価格が暴落する!」

 

 舫いのロープを受け取ったチェルに怒られた。

 交渉はチェルとダンジョンの民に任せて、砂漠にいるヘリーから音光機で連絡があったので飛んでいくことに。

飛んでいこうとしたらダンジョンの民が串焼きを持たせてくれた。


「昨日のお礼です」

「昨日? なんかしたかな? あ、訓練か。いいよ、気にするな。それよりも魔境をよく観察するようにね」

「はい」


 串焼きを持って、砂漠の軍基地へと向かう。飛んでいる最中に、革の鎧に隠れていたダンジョンが串焼きを一本食べていた。


「欲しければ言えよ」

「……ぐぅ」


 ダンジョンの初めての言葉は「ぐぅ」の音だった。


「俺の魔力ばっかり吸収していて、腹が減ってるんじゃないか?」

「ぐ……」

「ちょっとその辺の多肉植物でも食べておいてくれ。ダンジョンで話し合いをしに行くから」

 そう言って、革の鎧ごと砂漠の多肉植物の群生地に放り投げた。

「ぐぅううううっ!」

「大丈夫だ。後で迎えに来るから」

 ダンジョンは革の鎧から出て、蛇の形になっていた。そろそろ魔境の厳しさも教えないといけない頃だろう。




「やはり、早いな! 連絡してから、それほど経っていないというのに……」

 ヘリーが、空の移動速度と音光機に驚いていた。


「それで、何かあったか?」

「ああ、コインの話だ。概ね、ゴーレムたちにも説明したのだが、ダンジョンマスターたちで話し合いをしないと、簡単に複製ができてしまうということだ」

「でも、鉄の量がそれぞれのダンジョンで違うんじゃないか?」

「その通り」

 小さな体のグッセンバッハが広い工房の隅からやってきた。彼が軍の基地のダンジョンマスターだ。


「このダンジョンでは鉄のコインを作るよりも、ゴーレムの修復に使いたい。カリュー殿の言うように、骨格とは過去を思い出すにも大事だとわかったし、出来れば我々は作りたくない」

「いざという時は作れるけど、作りたいとは思わないか。金は大事だけど、まだまだ魔境では物々交換が主流になるかもな。でも、北東にある鉱山に鉄を取りには行きたいだろう?」


 ヘリーから来た連絡にも書いてあった。


「採掘にかなりの時間がかかるし、運搬、移動を考えると我々ゴーレムには向いていない」

 確かに森の中をゴーレムの集団が歩き回るのは想像できない。ゴーレムたちにとっては危険だ。むしろ、ちゃんと俺たちが道を整備して運んだ方がいい。

 ガーディアンスパイダーを護衛に付ければ行けるのだろうか。


「そうか。鉄を精製できたとして、ゴーレムが増えると言うことはあるのか?」

「それは無理ですね」


 サッケツが汗を拭いながらやってきた。エルフの国から連れ出されたドワーフはすっかりゴーレムの修理工となっている。


「鉄があっても、私たちにできるのは部品の作成くらいで、ゴーレムのキューブは作れません。金物細工の天才が緻密に作り上げないと再現はできないと思います」

「なるほどな。だったら、生産のためのアームなんかは作れないか?」

「それは可能ですけど……。何を作るんです?」

「それだよなぁ……。今まではほとんど生活に必要なものは、魔道具屋のヘリーが作っていた。武具はシルビアが作っていたし、足りない物は魔境にある物で作っていただろ?」

「魔境には何でもあるからな」

 ヘリーは頷いていた。


「でも、これから外と交易するには、材料だけじゃなくて製品も必要なんじゃないか?」

「例えば?」

「前は杖を作って、訓練施設に売りに行ってたんだ。でも、その杖でイーストケニアで反乱が起こってしまった。だから武具に関しては交易禁止にして、魔道具を本格的に売らないか?」

「確かに、それはいいと思う。だが、その前に瓶を作らないか?」


 ヘリーに言われて、「ハッ」とした。


「ああ、そうだった! 薬や毒の入れ物は作った方がいいよな」

「もちろん生活に使う魔道具も重要だ。エルフの国でも見つけて来たから、魔道具も作るつもりではいる。ただ、魔法陣は覚えるのだけでも時間はかかるし、大量に作るとなると、ゴーレムの職人たちでも訓練が必要だと思う。薬や毒なら、今もジェニファーたちがダンジョンの民に教えているだろう?」

「今でも、空き瓶に詰めて売ればいいだけだから即効性が高いのか。結局、ヘリーが生産した薬も瓶が足りなくて交易品も少なかったんだよな」

「そう」

「ちょっと待ってください」


 サッケツが止めた。


「どうした?」

「魔境の薬や毒を輸出するのはいいのですが、こちらは何を受け取るんです?」

「小麦に服、布はできてきてるけど、やっぱりアラクネの糸では足りないよ」

「農作物由来の物が足りていないと言うことですね?」

「そうだな。そう考えると、植物園のダンジョンを開拓していった方がいいかもしれない」

「それは今、ジェニファーとリパがやっているよ」

「なんだ、じゃあ、まだ原料を売るしかないか」

「いや、そんなことはない。計画を立てておくことが重要だ。特にマキョーは領主なんだから、その辺は剛腕を振るっていけばいい。薬の工場と魔道具の工場を作るって話だろ?」

 ヘリーが俺の言いたいことをくみ取ってくれた。


「そういうこと」

「だったら、薬の工場は入口付近がいいのか、魔道具の工場は工員が住む近くがいいのか考えればいい」

「狩りではない仕事があれば、移住してくる者もいると思いますよ。魔境はサバイバルですけど、工場が守ってくれるなら安心します。現に私はこのダンジョンとゴーレムに守られているから暮らしていけているので」

「我々としても領主殿が仕切ってくれるなら、ダンジョン同士で争う必要もなくなり安心だ」

 やはりゴーレムたちにとってはダンジョン同士の争いがトラウマになっているようだ。


「ほら、皆も場所を決めろと言ってきている」


 ジェニファーやチェル、シルビアにも音光機により会話は共有されていたようで、ヘリーが持つ、音光機からダンジョンの壁に文字が映し出されていた。


『工場を作るつもりなら言ってくださいよ!』

『早くやれ!』

『鉱山採掘だけでも人員が足りないのだから、住民の確保は大事だぞ』


 古参ほど領主を働かせる。


「時魔法の魔法陣を知ったから、建物だってできるのだぞ?」


 ちょっと前までは魔境で建物を建てる選択肢はなかった。植物と魔物に次の日には壊されているからだ。今は壊せない柱や床を作ることができる。


「そうか。だいぶ前に諦めていたから忘れていたけど、建物を作れるんだよな!」

「今なら灯台を作った不死者たちもいるし、適材適所に住民たちを配置していかないと、領主失格になりかねない」

「はい。がんばります」


 領民に尻を叩かれながら、俺は動き始めた。

 多肉植物を食べていた俺のダンジョンを回収。

すぐに交易村へと飛んで、空き瓶と服を集められるだけ集めた。


 運ぶのには大きな箱が必要だったが、仕方がないのでダンジョンに食べさせて持ち運ぶことにするほどだった。


「太郎ちゃん、なに、それ?」

「俺のダンジョン。まだダンジョンとして育ち切ってないから大丈夫だよ」

「大丈夫って言ったって、大きいのね」

「ぐぅ」

 娼婦の姐さんに顎を撫でられ、ダンジョンは鳴いていた。


 ダンジョンには「消化するなよ」と注意して、そのまま空を飛んで南下。


 南西にある不死者の港町まで行くと、相変わらずカリューが灯台を作っていた。


「服を持ってきた」

「ああ、助かる」


 ついでに魔力も補充しておく。


「工場を作るって?」

 カリューにも音光機は持たせてあるらしい。

「そうなんだ。建設も可能になったからね」

「不死者たちは回復薬の工場では働けないが、魔道具であれば働けるかもしれない。工場ができたらよろしく頼む」


 カリューは、いつの間にか港町を取り仕切っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いやあ、マキョーの忙しさが半端なくなってきましたねえ~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ