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魔境生活  作者: 花黒子
~追放されてきた輩~
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【魔境生活21日目】



 翌日、まだ日の上らないうちにチェルは平たいパンを焼いていた。

 朝食分の他に、昼飯用と晩飯用の分も焼いているのだという。パンを焼いている時のチェルの目は真剣だ。飯は森で調達しようと思っていたが、弁当があるならその方がいい。


 フォレストラットの家族に餌を多めにやり、畑に行って雑草を刈り、魔力で水流を作って畑の側まで水を引いてくる。これで水やりも楽になった。

 少なくなってしまったが、残った野菜は順調に育っている。

 

 朝食を食べ、荷物を背負って出発。

 行程としては、今日の昼までに森に入り、キャンプ地を確保。訓練施設の様子を探りながら、チェルが行ってもいい範囲を決める。


 落とし穴に注意しながら、進んでいくと、1時間ほどで入り口の小川に辿り着いた。

 走れば、もっと早いだろう。


「こんなに入り口の川が近かったとは」


 未知の魔境を進むのと既知の獣道を進むのでは体感が違う。

 スライムを倒しながら小川を渡り、魔境を出た。


「フエ~!」


 チェルにとっては魔境の外に出るのは初めてだ。あまり急ぐと、すぐに訓練施設まで辿り着いてしまうため、チェルに出逢った魔物の性格を教えたりして進む。

 谷間になっているところに、洞窟があった。


「ここを目印にしようか」

「ウン」


 覗いてみると、ゴブリンの集落のようだったので、キャンプ地にすることに。ゴブリンの殲滅はチェルが買ってでた。


 何の事はない、入り口で待ち構えていて、火の魔法をガンガン撃っていただけ。大半のゴブリンは焼け焦げてしまった。ゴブリンの討伐部位は耳だったはずだが、もう冒険者ギルドに行く機会もほとんどないだろうから回収は魔石だけにした。

 生き残ったゴブリンが逃げていくのを見届けて、ゴブリンの死体や魔物の骨など食べカスを片付ける。


 魔物が住んでいただけあって、隠れ家として丁度いい。

 入口近くは木々が生い茂り、火を焚いても外からは見えないだろう。

 家から出て2時間も経っていない。


「少し早すぎたか」

 穴を掘って、荷物を隠し、洞窟の周りに落とし穴を仕掛けまくる。作業は手慣れたものだ。


 仕掛け終わる頃に、金属がこすれ合うような音が聞こえてきた。

 耳を澄まし、音のする方に草木をかき分けて向かうと、冒険者のパーティーが魔境の方に進んでいくのが見えた。


 うちの魔境になにか用だろうか。特に用もなく、魔境に入るなら、不法侵入である。

 パーティーは全部で8人。

 魔法使いや僧侶、剣士、武道家など職業は様々だ。

 男女混合で、派手な鎧をつけた剣士がリーダーらしく、他のメンバーを先導しようとしている。


「どうする?」とチェルが目で訴えてくる。

 しばらく様子を見よう、と伝え、パーティーの後をつけることにした。

 と言っても、移動速度は遅く、近づき過ぎないようにする方が大変だった。

 森の魔物も倒していたが、連携が取れているのに戦力が弱いのか、ものすごい時間を掛けて倒していた。


 昼ごろになって、ようやく魔境との境にある小川についた冒険者達は、スライムに手こずっている。スライムたちはじゃれているだけで、大半のスライムは冒険者たちにあまり興味が無いらしい。

その頃には俺とチェルも遠くの岩の上で頬杖をつきながら、冒険者を見ていた。


「アー、マタカー」

 チェルはスライムに対し、同じ攻撃ばかりする冒険者たちに飽きているようだ。なぜか最も威力がある魔法を囮にして、攻撃の通らない剣を叩き込んでいる。


「バカなのかな?」

「バカデショ」


 時々、チェルは辛辣な事実を言う。

 数がいればいいというものではないな、と心底思った。

 小川を渡り、魔境に入った彼らの半数は魔力切れを起こし、あとの半数は体力が限界を迎えていた。


「よし、魔境の持ち主として、一言言いに行こう」


 小川のスライムを文字通り蹴散らし、彼らに近づく。


「すいませーん! 何やってんすか?」


 リーダーである剣士がこちらを見て、驚いたように目を丸くしている。


「いや、何って……我々は、『白い稲妻』という冒険者のパーティーだ。強き魔物を求めてこの地へやってきた。我々が来たからにはもう大丈夫だ!」


 そう言って剣士は金属の冒険者カードを見せた。自分たちは高ランクの冒険者だと言いたいらしい。


「どうでもいいですけど、私有地なんで勝手に入らないでくださいね」

「へ?」

「だから、ここ、僕の土地なんで、勝手に入って死なれても困るんですよ。ガイコツ剣士とかリビングデッドとかになられても迷惑なんで、帰ってもらえますか?」

「な…何をいう! 我々は都市でも最強のパーティの一角を担っているのだぞ!」

「でも、いま死にそうじゃないっすか。スライムに苦戦してるなら、ここから先には行かないほうがいいですよ」


 ちょうどその時、インプの鳴き声がした。

「ギョェエエエエエエ!!!!」


 冒険者達は恐れおののいたように、震え上がった。正体を知っていれば、震え上がることもない。

 魔境の中から、コドモドラゴンがワイルドベアを咥えながら出てきたのも良かったのかもしれない。冒険者達はなりふり構わないといった様子で、せっかく渡った小川を戻り逃げ出していった。


 後には、完全に魔力切れを起こし倒れている女僧侶だけが残ってしまった。

 都市最強のパーティなら、仲間を見捨てていいのか。とりあえず、コドモドラゴンを倒して、肉と魔石を回収。女僧侶はどうしようか考えた結果、訓練施設の付近に置いておくことにした。


 兵士の誰かが見つけて介抱するだろう。

 チェルに合図を送り、合流。女僧侶を肩に担いで、訓練施設へ走る。意外に肉付きはいい。


「いいもん食ってやがるな」


 訓練施設の側にある畑に捨てて…いや寝かせておいた。畑なら、そのうち誰かが見に来るだろう。

 チェルは誰かに見つからないよう、森のなかで待機していた。

 

 洞窟へと戻り、昼飯を食べる。相変わらず、食べたら昼寝は忘れない。魔境じゃないので起きたら地面がなかったなどということはないだろう。


 起きたら大型犬サイズのハチに囲まれていた。ハチの魔物・ベスパホネットである。起き抜けにチェルが魔法で焼いて戦闘せずに終わってしまった。

 魔石が溜まっていく。


 魔境の魔物より遥かに弱い。夕方、住処を奪われたゴブリンが上位種のホブゴブリンを連れて戻ってきたが、さっくり剣で倒した。

 ゴブリンもベスパホネットも食えないので、チェルが怒っていた。タダ働きだという。


 日が沈んだら、とっとと寝る。

 快適な中継地点を見つけた。




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