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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~

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【運営生活36日目】


 呪法家の隠れ里に魔境の住人が集まっていた。

「隠れ里なのですが……」

 呪法家たちは戸惑っているようだが、あまり知り合いもいないのでチェルが目を覚ますまではいさせてもらう。

「そりゃあ、まぁ、魔人化の呪いを受けた者を他の土地に置いとくわけにもいかんだろう」

 天才呪術家の一言で、納得していた。


 大嵐が去ったことで、避難所から出た南部の鳥人族たちは壊れた町に戻っていったとカヒマンが報告しに来た。カヒマンも相当疲れていて、報告した途端に気絶するようにその場で眠っていた。


「それにしても、よく『渡り』の魔物たちについてきたな」

 呪法家の家の一室を貸してくれた。

「ミッドガードへの支援物資を運んでいる途中に鹿神が来たのだ」

 ヘリーは干したナツメを口に放り込んで言った。

「鹿神って白い鹿か?」

「そうだ。雷を纏っていたな」

「私も見ました。植物園のダンジョンから種を持って荒地に撒いていたら、雷が落ちてきたんですよ。気づいたら目の前に白い鹿がいて、目が合うと南に向かうよう言われた気がして……。何かあったのだなと、ダンジョンの民に任せて来たんです。まさか、マキョーさんが死んでいるとは思いませんでしたが」

 ジェニファーのところにも来たらしい。

「死んでいたわけではないよ。泥に埋まっていただけだ」

「いや、霊体も返事をしなかった。もしかしたら時の流れの外にいたのかもしれん」

 ヘリーが寝ていた時の状況を説明してくれた。

「そうなのか。じゃあ、それは鹿神のご加護かもな。ちょっと先の未来も見せてくれたし」

「ちょっと先の未来だと!? どういうことだ!?」

「皆が来て大嵐の呪いと戦っている姿を見せてくれただけだ」

「鹿神に!?」

「うん、時魔法を扱うんだろうな。あの鹿は」

「時の使者か……」

 歴史書にも鹿は「神の使い」と書いてあったが、「時の使者」だったか。


「これからどうなるんですかね?」

 リパが汗を拭いながら、誰に言うともなく聞いていた。

「クリフガルーダは南部が壊滅的だ。魔境も復興支援はできるだけやろう。獣魔病のハーピーたちがクリフガルーダを見限って魔境に来ると言っていた」

「また難民ですか。どこに住むんです? そもそも住めるんですか?」

 ジェニファーが呆れていた。

「い、移動だけでもかなり大変だ。飛べるとはいえ、砂漠の砂嵐は越えないといけないし、少し『大穴』で修業してから砂漠に町を作った方が早いかもしれない」

 シルビアは現実的な計画を立てていたが、もっと楽な方法があるはずだ。

「西の山脈沿いなら、地脈も通っているし、魔物もいる。草は生えているから水源はあると思うんだよな」

「ああ、そうか。マキョーさんは地脈を探れるのか……」

 リパは未だに俺に慣れていないのか。

「男子、三日会わざればなんとやらというが、マキョーの場合は慣用句、そのままの男だからな。また何かできるようになっているのではないか?」

 ヘリーから尋問された。

「魔力操作くらいだ。力は使うところに使って、使わないところには使わない」

「それだけか?」

「あとはいつも通りだよ。状況がわかれば、自分がすべきことも見通せる」

 鹿神の導きか、俺は杭を抜き、竜を解放した。『大穴』で魔力溜まりは噴き上がり、マグマが流れている。たとえ、それが大陸を割る結果になろうとも、時を止め続けることはできない。


「では、『封印の楔』を抜くべきだったと申しますか?」


 借りている家の呪法家が真っすぐな声で聞いてきた。俺たちの会話に参加していなかったが、聞いてはいたようだ。

鳥人族としては守らなければならなかったものだ。

だが、大嵐によって『大穴』から魔物も飛び出していたし、あの黒い水の流れと永遠に戦っているわけにもいかなかった。


「杭を抜かずにあの嵐と魔力が結びついた黒い濁流を止めることはできなかった。納得できないかもしれないけどな」

「いえ、『封印の楔』を守り続けることが使命だったとしても、そもそも我ら鳥人族は『大穴』に入ることも敵いませんでしたから。ただ、もしも『封印の楔』を抜いていなかったとしたら、クリフガルーダは……」

「それは誰にもわからないよ」

 可能性の話をしても仕方がないが、言葉を大事にする呪法家たちには丁寧に説明した方がいいかもしれない。

「もしかしたら、『大穴』から飛び出した魔物が王都に行って何もしないかもしれないし、黒い水竜を止めるのに魔人化する必要はないのかもしれないし、何もかも飲み込む黒い濁流を止める呪法があるかもしれない。リスクも楽観的希望もいくらでもあるさ」

「そんな……! 国が亡ぶリスクの方が高いのではないですか。魔境の領主殿が来なければ、我らの国は……!」

 話を聞いていた呪法家は後ろを振り返ると、控えていた呪法家たちは震えていた。


「魔力の法が魔法であるように、呪いの法が呪法だろ。きっと同じように時の流れにも法があるんだ」

「時の法ですか……?」

「子供が成長して大人になり、受け継がれてきたものを子供に受け渡し、老いていく。同じように土地や国にも、そういう時の法が適用されるんだろう」

「では魔境は、時の法に従ったということですか?」

「今回はたまたま時魔法を使う白い鹿に導かれるままに行動しただけだ。魔境には死んでも動き続けている連中が大勢いるし、1000年前の都市が漂流している。時を司る神がいるとすれば、ブチギレていると思うね」

「たまたまその場に居合わせた、駆け付けられる場所にいただけ、ということですか?」

「そうだ。人が人を助ける理由としては十分だろ。国同士だったら、話は違ったかもしれないけど」

「仁義ですか?」

「そうやって立派な名前を付けない方がいい。魔境ではそういう繋がりに苦しんでヌシになっちまった魔物を見ることがある」

「しかし、感謝の気持ちぐらいは……」

 なにか豪華な宝具を用意しようとしていたから、すぐに止めた。

「感謝されたくてやったことじゃない。同じ大陸のお互い様だ。楽に行こう」

 普段は金銭にがめついジェニファーも黙って見ていた。後で聞いたら「復興にお金も必要なんですから、そういうところからお金を貰っても高が知れてますからね」と言っていた。


 あまり俺が隠れ里にいると、面倒ごとが起きそうだ。

 リパを連れて、飯を狩りに出かけた。

 ついでに南部の町の様子を見に行った。家の中に入った泥をかき、無言で壊れた家具を片付けている町の人たちがいた。元には戻せない物もあるだろうし、思い出の品だってあるはずだ。

 うだつが上がらない数年前の俺にはどうしたらいいかわからなかったが、今はなぜか自然と体が動いていた。

 

 落ちていた大なべを洗って、山菜と魚の汁物を作り、「口に合うかわかりませんが、よかったらどうぞ」と振舞っていく。もちろん、物を食べる余裕なんてない人たちだっている。失ったものを確認する時間だって必要だ。

 何が足りないか聞けば、だいたい「きれいな水が足りない」と言う。町に流れるどの川も泥で汚れていた。

 壊れてない樽を担いで、北部の泉で汲みあげ、南部の町へと戻る。

 軍の魔法使い部隊が空飛ぶ絨毯に乗って支援物資を持ってきたら、任せて隣の港町へと向かう。

 その繰り返しだ。


「ありがとな。どこの兄ちゃんか知らないけど」

 たまに感謝して、なけなしの銀貨を渡そうとしてくる人だっている。

「魔境の者です。魔境は災害が多いから、きっといつかクリフガルーダに世話かけると思うんで、その時によろしくお願いします」

「魔境か。どうりで。動きが違うと思った」

「料理はなかなか野性味があるんでおおざっぱですけどね」

「いやぁ、あったかくて元気が出れば十分さ」

 泥にまみれた分だけ、共感できた気がする。


 南西部では服を着たハーピーたちが、折れた柱を持ち上げたり、壊れた家具を捨てたりと復興を手伝っていた。大嵐が終わったら魔境に来ると言っていた集団だ。


「普段は見向きもされないのに、こういう時だけ頼られるってのも、なんだかね」

 難しい顔で笑っていた。ふざけるなという気持ちと頼られる嬉しさと感情が追い付かないのかもしれない。

「簡単に割り切れるもんじゃない。内心でどう思っているのかわからないけど大事にしてくれ。俺たちよりよほど人間臭い」

「お前たちは化け物じみてるからな」

「そうか?」

「ほら、魔人がゴミを一瞬で焼いてる」

 ハーピーが指した方を見ると、いつの間にか呪法家の隠れ里で寝ていたチェルが集められたゴミを焼いていた。

 ヘリーたちもいつの間にか泥かきに参加している。

「この町に軍の部隊が来るのはひと月ほど先になりますから」

 皆がいる理由をリパが説明した。

 空を見ればいつの間にか日が傾いている。


「おい、チェル。まだそんな恰好でいるのか? 町の人が怯えるだろ」

「この方が飛びやすかっただけだヨ。マキョー、呪いを解いてくれ」

「こっち来て、魔力を吐き出せ。ゴミと一緒に燃やしておこう」

 俺はチェルの口を覆うように手をかざし、魔力でスライムの口を作り吐き出された魔人の呪いを受け止めて、解呪していった。


 魔境の住人が集まれば、すぐに食料は集まり、焚火がたかれる。日暮れの前には、町のどの家にも壁や屋根がなくても焚火と夕飯は届けられていた。


「いつまで復興の手伝いをするつもりですか?」

 獲ってきた肉を燻製にしながら、ジェニファーが聞いてきた。多めに作るつもりだろう。

「町や王都に避難していた住人達も帰ってくれば、人手は足りるだろ。明日には魔境に帰るよ」

「元々、こんなに滞在するつもりじゃなかったしネ」

「巨大魔獣の襲来も近い」

「ヘリー、巨大魔獣まであと何日だ?」

「9日ほどのはず。支援物資は十分だが、ミッドガードとの交渉は難しいぞ」

災害のような巨大魔獣の首はなくなり、限界だ。止まっていないことの方がおかしい。

 むしろ腐ってしまうと中のダンジョンがどうなるのかわからない。

 できれば、『大穴』に安置して『封骨』にするのがいいのだけれど、ミッドガードの住人に伝わるかどうか。


「災害がひとつ終わっても、また災害が来るなぁ」

「『封印の楔』を抜いて災害が増えてるかもヨ」

「嫌なこと言うなよ」

 こういう時のチェルの予想は大概当たる。



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― 新着の感想 ―
なんかもはや屁理屈?
[一言] 魔人の呪いの解呪って、酔っぱらいの介抱みたいだな
[気になる点] 楔を抜いて、地脈の流れが変わって、亀の通り道もずれたり…?しないのかな
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