【魔境生活19日目】
目が覚めたチェルが、汗臭くなったので水浴びをしてくるという。
また風邪を引かれても面倒なので、風呂を作ったと言って、連れていった。
チェルが風呂に入っている間、畑の様子を見に行った俺の耳に、
「アァァァアアア…」
と風呂に入っているチェルが、どこから出ているんだ? というような声を出した。中身はおっさんかもしれない。
畑の野菜は順調そのもの。
ようやくスイマーズバードが来なくなったのか、オジギ草はそんなに育っていなかった。
3日後に訓練施設に行くことを考えて、持っていく商品と必要な物を書き出しておかないといけない。行って帰ってくるのに、1日あればいいだろう。
チェルが来るなら、2日見ておいても良いかもしれない。
ハムはイマイチ出来ていなかったが、一応持っていってみよう。持っていくのはハムと魔石くらいか。
欲しいのは魔法書。特に時空魔法の魔法書と、金属製の剣だ。魔法書はあるのかどうかわからないが、剣はあまり魔力の伝導率が良すぎないものが良い。魔道具制作として試したいので、できればいくつか買いたい。
「となると、少し持っていく商品が少ないか」
野菜はできてないし、売るほど採れるとも思えない。
魚はどうだろう?
その日のうちに持っていけるが、少し臭くなる。
眠り薬や麻痺薬は町でも手に入るが、魔境産ということで、少しくらい売れないだろうか?
などと考えていると、風呂から上がったチェルがやってきた。
3日後に訓練施設に行く旨と、商品を書き出していることを伝える。
二人とも地面に絵を描くことに慣れ始めて、結構複雑なことも伝えられるようになってきた。
それから、チェルもついてくるか聞いてみたら、
「ん、チェル、イク」
と言っていた。
毛皮のフードを被らないといけないし、絶対に肌を見せないように、と伝える。何度も頷いていたので、大丈夫だろう。魔族がこちらの国で差別されていることも理解できているようだ。
商品について、チェルが杖を売ったら良いんじゃないか? と提案してきた。
現在チェルが使っている杖は、俺が適当に作ったものだ。
「そんなもの商品になるかなぁ」
「ダジョーブ!」
チェルから太鼓判を押された。
まぁ、売れなくても、元手はタダなんだから良いか、と思って、適当な魔石の杖を作ることにした。
すでにチェルが売れる魔石を見極めていたのか、次々と、倉庫として使っている部屋から魔石を持ってきた。
スライムやスイマーズバード、ワイバーンの魔石を使いたいらしい。全て試すと、わかりやすく攻撃できるものばかりだ。スライムとスイマーズバードは水魔法を、ワイバーンは風魔法が出る。
「知ってたのか?」
「フッフフフフ」
チェルは、何か勝ち誇ったように笑っていた。よほど自信があるようだが、作るのは俺だ。
握りやすそうな木の枝を切ってきて、魔石をはめ込む土台を作る。チェルはその間、ワイルドベアの毛皮を切ってフードを作っていた。
魚の骨を縫い針にして、細い蔓を糸に、裁縫をしている。
こういう時、蜘蛛の魔物や、繭を作る魔物の糸などが適しているが、魔境ではまだ見たことがないので、仕方がない。
意外に裁縫の才能があるのか、チェルは短時間でフードを完成させていた。
引っ張ったりしても大丈夫か、どうか聞いてきたので、軽く引っ張ってみたが、ちゃんとしたフードに仕上がっている。
「たいしたもんだ」
褒めたら、チェルは恥ずかしそうに照れていた。手や足の肌が見える部分は、軍手とズボンを履いて隠すそうだ。
それから、魔境の入口付近に作った落とし穴にハマると面倒なので、道を教えておいた。魔境に来た当初はひたすら落とし穴を作っていたように思う。
それも3週間ほど前と考えると、随分濃厚な毎日を送っている。
夕方に、チェルが魔力を動かす練習していたのを見て、俺も付き合うことにした。
右手から火魔法、左手から氷魔法みたいなことが出来るようになった俺に、チェルは石を投げつけてきた。俺も、最近、特に練習もせず、こんな感じだろうと思って魔法を使えることに違和感を覚えている。
本当に魔法ってイメージ次第なんだな。
願え! さすれば叶えられん! 的なことだろう。
だったら、と思って回復魔法や時空魔法を使おうと思うのだが、そこら辺はまったく出来なかった。
出来ない俺にチェルは「フッフフフフ」という不敵な笑いを浮かべる。
魔法に関しては完全にチェルのほうが上だ。自分が負けたことを認め、教えてくれと素直に言うと、チェルは熱心に教えてくれる。
初めは擬音ばかりでわからなかったが、なんでも知ることが重要らしい。
チェルが使っていたのは魔力を使ったソナーのような魔法だった。
地面に魔力を一瞬放ち、どこに何があるのか、地面の中に何があるのか知るのだという。
回復魔法はそれの応用で、体の中に一瞬魔力を放ち、どういう傷があるのか、本来はどうなっていたのかを想像し、治すだけだそうだ。
フォレストラットに試してみると、魔力を放つ量が多すぎたのか、失神してしまった。なんでも丁度いいバランスがある。
次々に実験していった結果、フォレストラットの母親はまたしても6匹子供を産もうとしていることがわかった。
父親のフォレストラットは、胃潰瘍になっていた。少しケージを離してやったほうが良いかもしれない。
胃潰瘍を治すと、父フォレストラットはカム実を喜んで食べていた。
なぜか、チェルは俺の分のフードも夜なべして作っていた。そのほうが仲間だと思われて、疑われないのかもしれない。魔族も考えてやがる。