表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔境生活  作者: 花黒子
~追放されてきた輩~
19/370

【魔境生活18日目】



「ヘックシッ!」


 案の定、チェルは風邪を引いた。

 岩石地帯は風が強く、夜は寒い。できるだけ急いで帰るため、荷物を極力少なくして、チェルを背負う。俺の背中に鼻水を垂らしながら、舌を出して感謝するチェルは完全にアホの子にしか見えなかった。


 魔力を使って走ると、朝のうちに森に入ることが出来た。途中で蔦を採って、チェルと俺をきつく結ぶ。これで、ちょっとやそっとじゃ、落ちないだろう。


 森ではやけに昆虫系の魔物に絡まれた。サーベルで瞬殺していくのだが、とにかく量が多い。魔石だけ回収して、進む。

 時々、魔石の場所が変なところにある魔物もいたが、チェルが場所を教えてくれた。

 魔族だからなのか、魔力の流れがわかるからなのか、よくはわからないが、チェルには魔石の場所がわかるようだ。


 カム実を採集し、背中のチェルに渡そうとした。


「ゼェゼェ……」


 目もうつろだったが、本能で食べなくてはいけないと思ったのか、俺の手から直接カム実を貪り食っていた。


「それだけ食欲があれば、大丈夫だろう」

 カム実を食べたチェルは俺の背中で眠ってしまった。

 ひたすら南へ向かって走る。走ること以外はあまり考えないようにして、魔物からもどんどん逃げた。


 昼過ぎには、遠くに沼が見えてきた。

 場所がわかると、あとは迷わず一気に洞窟へ。


 洞窟の我が家に着くと、チェルをベッドに寝かせ、ワイルドベアの毛皮をかける。

 布を水で浸し、頭に乗せるとチェルはゆっくりと息をし始めた。


 自分も風邪を引かないように、気をつけなければ。チェルの鼻水でベトベトになった服はすぐに着替え、洗濯をする。

 鍋に水を張って、弱火で温める。なるべく乾燥しないようにしてから、フォレストラットに餌をやった。


 またしても、メスのお腹が大きくなっている気がする。

「お前ら、子どもを産むペースが早くないか? もうちょっと家族計画考えろよ」

 オスのフォレストラットの顎を掻いてやると、疲れたように眠ってしまった。


 畑に行って、雑草を抜いて水をやる。ちゃんと野菜は少しずつ育っていた。成果があるので、嬉しい。

 沼で魚を獲る方法も考えた。魔物の肉を餌に、おびき寄せ、魔法で作った水の玉の中に閉じ込める。チェルがワイバーンに使っていた魔法だ。そのまま、持って帰れば、新鮮な魚が手に入るが、俺の魔法では、そんなにうまく水の玉ができなかった。


「まぁ、そこまで新鮮じゃなくてもいいか」

 相変わらず、餌に群がる魚を叩いて殺して、岸辺に投げる方法をとった。

 一番簡単で、一番早い。

 魔法を覚えたことで、時間をかければ火(おこ)しも失敗しなくなった。

 種火を作るのにも苦労していたが、魔力の扱いがわかってから火力を調節でき、魔法を組み合わせることによってお湯も一瞬でできるようになるかもしれない。


 そう思って、土魔法で石の礫を作り沼の畔を囲んでいく。水魔法と火魔法を組み合わせ、熱湯を作り出す。ちょっとした風呂が出来上がり。


「こんなもんかな。いい湯加減だ」


 せっかくなので入っていると、茹で上がったサワガニのような魔物が浮かんできた。あとで、フォレストラットに食べさせてみよう。

 風呂から上がり、家に帰ると、チェルが高熱を出していた。風邪薬はないので、フォレストラットがよく食べている葉っぱを与えたり、カム実を与えたりしたが、一向に良くなる気配がない。

頭に乗せた布を替えつつ、P・Jの手帳に何か書いてないか、と探した。


『インプ―人型の妖精の魔物。顔がおじさんだが、顔の彫りが深い方がメスらしい。

    魔石の効果:風邪薬                         』


「これだ!」


 俺は急いで沼の反対側に行き、「ギョェエエ!」という鳴き声のする方に走った。姿が見えればこっちのもの。サーベルで瞬殺。

 インプの体内から魔石を取り出していると、奴が現れた。


「くそっ! こんな時に限って!」


 老樹の魔物・トレント。かまっている暇はないが、今後、襲われても面倒だ。魔力を込めた拳で殴ってみたところ、腕である枝がバキバキに折れた。

 トレントは自分の折れた枝を見て、動きを止めた。


「これなら、いける!」


 足に魔力を込めて根っこを踏みつけ、火魔法を付与した拳で幹を殴ったりしていると、葉を落としてきた。葉が吹雪のように降ってくる。

 それが合図だったのか、金切り音がそこら中から鳴り響いた。手で耳を押さえないと、頭がおかしくなりそう。


「マンドラゴラか……!?」


 俺は音の攻撃で膝を付き、地面に突っ伏すことしかできなかった。

 金切り音が収まった頃にはトレントの姿は消えていた。


「魔境の秘密兵器だな。こんなのに構っている場合じゃない」

 とにかくインプの魔石を持ってその場から離れた。


 家に帰り、チェルにインプの魔石を握らせる。チェルの手に魔力を込めると、チェルは大きく息を吸い込んだ。


 目一杯吸い込んで、咳き込みながら、息を吐き出すと、黒い靄のようなものが吐き出されていく。

 これが風邪の正体なのだろうか。靄は湿った布で振り払った。

 布が真っ黒になってしまったが、チェルの容体はみるみるうちに良くなった。

 布は外で燃やし、消し炭に。


 寝息を立てて眠るチェルに安心して、俺も少し眠った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ