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魔境生活  作者: 花黒子
~追放されてきた輩~
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【魔境生活17日目】



「マキョウ!メシー!」

 というチェルの声で起こされた。

 徐々に、こちらの言葉を覚え始めたようだ。

 腹が減ったから飯を作ってくれと言っているのかと思ったら、作ってくれたらしい。


「生肉とカム実じゃ、料理とは言わないぞ」

「ンア?」


 魔族は生食なのか?

 肉を焼いて、パンをこね熱した壺に貼り付けて焼く。

 チェルはそれが面白いようで、薪の調節をやってくれていた。

 パンはこんがりきつね色になると一番美味しいことがわかってくれたようだ。


 朝食後、畑の様子を見に行った。

 雑草を抜き、水をやる。相変わらず、スイマーズバードが杭の上に止まってこちらを見ていた。


「沼の近くばっかりじゃなくて、違う場所にも畑を作ってみようか」

 スイマーズバードの被害のないところがあるはずだ。隣のもう一つの沼の方に行ってみると、水草だらけ。ヘイズタートルがめちゃくちゃいたが、殴って追い払った

 ちなみに、魔力を付与した拳で甲羅を殴ると割れるが、拳も割れそうに痛い。


 食べるものに困っているわけでもないので、放っておく。

 チェルは魔法で戦っていたが、甲羅に引っ込んでしまったのを見て諦めていた。深追いは禁物だと学んだらしい。

 

 水草は浮力が強く、人が乗っても沈まない。


「ウハッ! ホホホ!」


 チェルは弾力のある水草でジャンプして遊んでいた。年はいくつなんだろうな。

 これで船を作ればいいんじゃないかと思ったが、船を編むなんて大変なこと出来そうにないし、信じられないくらい時間もかかりそうだったので、気づかなかったことにした。


 水草の隙間に何度か足を取られながらも、沼を渡り切る。

 魔境の北の方、正面には山脈が見える。

 自分の土地が山脈までなのか、どうかはよくわかっていないが、山脈の向こう側に何があるのか、は興味がある。


 少し走って行ってみることにした。チェルが追いつけるほどの速さだったので、そんなに速くはない。

 ただ、足に魔力を貯めて蹴りだすと、一歩で20メートルくらい跳んだ。


「なんだこりゃ?」


 今までどうして自分は魔力を使っていなかったのか、バカらしくなった。

 チェルも試していたが、そんなに進まなかった。


「おいおい、これすげーよ! あぎゃ!」


 調子に乗ってよそ見をしていたら、目の前の岩にぶつかり、頭にたんこぶが出来た。岩にヒビが入るほどの衝撃だ。石頭でよかった。


 チェルが回復魔法であっさり、治してくれたので、よしとしよう。それより、「回復魔法ってどうやるんだ?」とチェルに聞いた。


 自分が怪我した時以外にも他人の怪我を治したり、怪我した人間から大金をせしめようとしたりするときなど何かと使えるだろう。

 やはり、精霊とか見えるような清い心の持ち主にしか使えないのだろうか。


「ジュクジュクジュクジュク、パァッ~~~!!」


 チェルに聞いた俺がバカだった。これもイメージの問題なのか。

 だとすれば、細胞をどんどん繋いでいくようなことかな?

 試しに手のひらをナイフで切って、俺なりの回復魔法を掛けてみたが、皮膚は治ったものの血豆ができた。


「はぁぁ~~~~」


 マジなにやってんすか!? という気持ちを顔全体で表現したチェルが治してくれた。

「面目ない」

 体の構造とかがわかっていないうちにやるのは危険なのかもしれない。割れた岩の断面をテーブルに、お弁当を食べる。


「ウッフフフフフ、ウッッフフフフフフ」

 自分が作ったパンを食べながら、チェルが気持ち悪い笑い声を上げている。

「ウマイ?」

 チェルがパンの感想を聞いてきた。

「うまいよ」

「ウマイウマーイ!」

 飯の時間が一番楽しそうだ。


 食べ終わったら昼寝。せっかく自分の土地を持って、誰に邪魔されるわけでもないので、自由だ。

「食べたい時に食べ、寝たい時に寝る! やっぱ、これだな!」

「コレダナ!」

 柔らかい草を布団代りにした。

 



「ギャオエエエエッ!」


 魔物の鳴き声と頬に強風で目が覚めると、地面がなかった。

 経験のあるものしかわからないかもしれないが、起きた時に自分が横たわっていた地面がないと、ものすごくびっくりする。


 見上げれば、爬虫類系の鱗。横を見れば、鼾をかいているチェルが亜竜のワイバーンに捕まっている。その後ろにはワイバーンの群れ。

 俺を掴んでいるのもワイバーンっぽい。


 遥か下に魔境の森が見える。

「いやはや、なんとも…まいったなぁ~」

 どうやら遠くに見えていた山脈に向かっているようだ。

 とりあえず、飛び降りられそうな距離まで地面が近づいたら、攻撃してみよう。

 そんなことを考えていた時期が、俺にもありました。


 チェルが起きた途端に、魔法で攻撃を仕掛けた。飛んでいる最中で、地面は遥か下。

 かんべんしてくれよ、と思ったものの、こうなったら戦うしかない。

 サーベルを振り回し、ワイバーンの足から離れる。

 離れれば、落下するのは当たり前だ。

 そして、さらに当たり前だが翼のない人は空中で身動きがとれない。

 ワイバーンたちが追撃してくる体中に魔力を込め、防御するも捕まえられてしまった。羽音が風を切り裂く。


 急上昇して、叩き落とす気らしい。

 土魔法を付与した魔力を拳に集める。

 急に重くなった俺に、ワイバーンは驚いたように雄叫びを上げる。


 拳をワイバーンの足に叩きこむと、骨が折れる音がした。

 そのまま、折れた足を握り、ワイバーンが下になるように体勢を替えた。


 頭を曲げ噛み付いてくるので、殴る。

 殴る。殴る。

 強風で目も開けていられない。薄目で鱗が見えたら、そこを殴るしかなかった。


 気を失ったワイバーンは螺旋を描いて墜落していく。

 地面に当たる瞬間を見計らって、足に風魔法を付与し、上へと跳び上がる。


 ちょうど水の玉の中に入ったチェルとワイバーンも墜落していくところだった。

 チェルはワイバーンごと水の玉に閉じ込めたようだ。


 地面にあたった瞬間、パーンッ!! と盛大に水風船が割れるような音がした。

 着地すると、空からワイバーンたちの追撃が始まる。

 サーベルで迎撃しながら、チェルの様子を見に行く。


 息をしてなかったので、腹を踏むと口から水を吐き出した。

 自分の水魔法で溺れたらしい。


「バカだけど、やるなぁ……」


 ワイバーンたちはしつこく攻撃してきて、なかなか追い返せなかった。

 念の為に持ってきたP・Jの剣で一体ずつ倒していくと、5頭狩った辺りで、山脈の方に逃げていった。P・Jの剣は斬りつけると「ズッピャオ!」と音と閃光が出るので、恐怖心が煽られたらしい。

 チェルは辺りを見回した。俺もつられて辺りを見回し、ようやく事態を飲み込んだ。


 石と砂だらけの岩石地帯。

 いつの間にか魔境の森は遠くなってしまったようだ。

 山脈がとても近い。行く予定だったが、思った以上に早くなってしまった。


 ワイバーンの肉と皮を剥ぎ、魔石を回収。

 牙も爪も、ナイフに加工するには工具と技術が必要そうだったので、持てるだけ持って行き、訓練施設で交換しよう。

 もうすぐ、訓練施設に行く日だったはずだ。


「ゴホッ! 風が吹くと砂煙がすごいな」

「ゴホッ! ウエ~……」


 ここからちゃんと帰れるだろうか。

 西の空に太陽が沈んでいく。


 今日は岩石地帯で、野宿のようだ。

 チェルが水魔法で濡れた服を乾かしながら、くしゃみをした。

 風邪を引かなければいいが。



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