【運営生活5日目】
休日のドワーフ2人が、洞窟前の焚火で肉団子を大量に作って煮ていた。ワニ肉とカメ肉の合い挽きで、汁はヘイズタートルから取っているので、匂いを嗅ぐだけでよだれが止まらなくなってくる。
「ドワーフの郷土料理なのよ」
カタンが食べ方を説明してくれた。
薄いパンに野草を巻いたものと一緒に食べるのだそうだ。
「美味い……」
魔物の肉が固いかと思ったが、時間をかけて煮込んだためかほろほろと口の中でほぐれて肉汁が溢れた。汁の旨さとスパイスで入れた魔境産の山椒が利いていていくらでも食べられそうだ。
パンに挟んだ野草はあまり香りがきつくない。いつも食べている野草を選別してくれたのか。
「香りがキツい野草は乾燥させてから砕いてちょっとパラパラっとかけるだけにしたの。香りよりも食感とかを大事にした方が美味しいんじゃないかと思って」
「これ、美味いよ」
「そう。ならよかったわ」
「でも、二人とも今日は休めよ」
「ん。たくさん食べて寝る」
カヒマンは懐かしい味だったのか、一気に食べて喉を詰まらせていた。
魔境に来てからそんなに日は経っていないのだが、濃密な生活を送っているのかもしれない。
「ん~、やっぱり駄目だった……」
ぼさぼさの髪を掻きながら、ヘリーがこちらにやってきた。
昨日、やりたいことが渋滞していたので、それぞれ計画を立ててみろと指示を出しておいた。やりたいことがすべてうまくいくとは限らないし、やってみたらそもそも無理だったなんてことになってるほど魔境は暇じゃない。
ヘリーは知識もあるので、俺とは見えている可能性がちょっと違う。俺は魔境の生活がちょっと長いから、できることとできないことの判断が早い。
「水路の計画を立てたんだけど、木を切って穴を掘って維持するって、労力がかかりすぎる」
「だろうな。俺が頑張って一日維持しても次の日には魔境の植物に侵食されているよ。作るのも壊れるのも一瞬だ」
「そうなんだ。工事もP・Jのナイフで一気に木を切り倒せばいいと思ってたのだけど、ガーディアンスパイダーが目を光らせている」
「保留にするか?」
「いや、保留にすると荷を運ぶ魔王がいつか体を壊す。シルビアに力を貸してもらおうと思っていてな」
ちょうどシルビアとリパが朝稽古を終えて坂を上ってくるところだった。
「な、何かするの?」
「ワニ園のロッククロコダイルを数頭貸してほしい」
「い、いいよ」
「ロッククロコダイルに荷物を運んでもらうのか?」
「ああ、そうだ。ロッククロコダイルなら不必要に無理な道は通らないだろうし、邪魔な岩はかみ砕ける。水辺に寄りながら多少蛇行しても確実に届けることを優先させたい」
「ワニの道をそのまま水路にするのか」
「どうかな?」
「いいんじゃないか。やってみたらいい」
無理に立派な水路を作るよりもいいかもしれない。壊れてもロッククロコダイルなら別の道を作りそうだ。
「あ、あいつら太ってきたから少しは運動させてやりたかったんだ」
シルビアも乗り気だ。
「アラクネの服は布織機を作って、アラクネの糸に色が付けられるのか試してからにするつもりだ。染料さえあれば魔法陣も描けるから効果が変わってくる」
アラクネの糸は真っ白でつるつるしているため染めにくいのだとか。
「そうか。南西の死人どもにとって服は自分を認識する重要なアイテムなようだから頼むよ。後なんだっけ?」
「北部の魔物と北西の植物の調査だ」
ジェニファーとチェルはまだ寝ている。
「リパ、どっちにする? 先に仕事を取っちまおうぜ。残った方をチェルとジェニファーに押し付ければいい」
「僕はどっちでもいいですけど、遠いのは北部ですかね」
「じゃ、北西にしよう。そもそも北西の山の方はそんなに調査は進んでないしな。やることも少ないはずだ」
ジェニファーとチェルが起きてきたら北部の魔物を調査するように、とドワーフたちに伝言を頼み、俺とリパは北西部へと向かうことにした。
「昼飯には帰ってくるよ」
「いってらっしゃーい!」
「いってらー!」
ドワーフ2人に見送られて、俺たちは鬱蒼とした森の中をかき分けるようにして入っていく。急ぐ必要もないので、走ることもない。
朝日も射さない暗い森を進んだ。家の近辺は植物も魔物も対処法がわかるので、どうということではないが、ちょっとした小さい川を越えたあたりから一気に植生も魔物の種類も変わってくる。
針葉樹林が並び、倒木や腐った魔物の死体から大きなキノコが生えている。
夜行性であろう牛のように大きな黒い狼が俺たちと同じように草木をかき分けながらのっそりと目の前を通過していった。地面には怪我でもしているのか、血が垂れている。俺たちへの警戒心もないようだから、結構な傷を負っているのか。
ついて行って傷の状態を見ると、何本もの剣で突きさされたような痕があった。
「魔境に侵入した誰かですかね?」
リパはそう言いながら、黒い狼の傷に薬草を貼ってやっていた。見放してもいいのだが、何となく放っておけなかったのだろう。狼はリパを食おうと噛んでいたが、嚙み切るような力もないようだ。
「魔境に夜襲をかけてくるような奴らがいるなら、とっくに乗っ取られてるんじゃないか。たぶん、植物だ。カミソリ草とは違う種類だな。傷口は全部同じ方向から突き刺されているだろう?」
「確かに、そうですね」
薄っすら森の中に日の光が差し込んできた。
キィイイエエエエエ!
ヴァンヴァンヴァン!
空気が張り詰めるような奇声と地面が震えているような重低音が聞こえてきた。思わず俺もリパも耳をふさいだ。インプの奇声とは質が違った。
数秒後には音が消えて静まり返っていた。
「なんだったんだ?」
「朝の挨拶ですかね?」
疑問を抱きながらも、俺たちは森の中を進んでいった。どうせここは魔境だ。わけのわかるものの方が少ない。すんなり通っていた場所も、次の日には魔物の巣になっていることだってある。
先日、石材を採りに来たが、こんな声は聴いていない。
ブン……。
遠くから羽音が聞こえる。
「空も警戒しておこう」
「はい……。マキョーさん! 危ない!」
振り返ると、火のついた松ぼっくりが飛んできた。
手甲で弾き飛ばして対処。次から次へと飛んでくるが、周辺には火のついた松ぼっくりが飛び散っている。こちらを狙っているわけではなさそうだ。
腐葉土に落ちて、枯れ葉を少し焼いて鎮火していた。
飛び散った中心地を見ると、大きな青い花が集まって咲いていた。花からボフッと炎を噴き上げている。
「なんの花なんですか?」
「形は竜胆だけどな。炎を噴き上げるなんて……」
「魔境らしいですね」
炎を噴き上げる竜胆モドキの上には松が伸びている。魔境で弾け飛ぶ実は見慣れているが、燃えながら弾け飛ぶと山火事になりかねない。
「危ないから摘んでおくか」
「そうですね」
竜胆モドキを採取して、水で湿らせた革袋に入れておく。効果は花弁から火を噴く。
キィイイイイエエエエ!!
すぐ近くから奇声が聞こえてきた。
草を耳に詰めて近づいてみると、フィールドボアが草の根っこを掘り起こしボリボリと食べていた。奇声の正体は木の根から発せられているらしい。
「マンドラゴラですか?」
「だろうな。フィールドボアの耳には奇声は関係ないみたいだな」
笑っていたが、フィールドボアはすぐに酔っぱらったように千鳥足になり、足を突っ張って倒れてしまった。麻痺の効果があるようだ。
「採取しておこう」
マンドラゴラは土ごと魔力のキューブで引き抜いて、そのまま小さい壺に入れておいた。
チチチチ……。
小さな鳥が樹上を飛び回っている。
鳥も鳴きはじめ、日が昇ると、遠くまで見通せるようになった。
「向こうを見てください。黄色いですよね?」
耳栓を外すとリパが不安そうに聞いてきた。
指さす方を見ると、確かに黄色い。
「大丈夫だ。幻覚じゃない。黄色いぞ。行ってみよう」
近づくと、菊の花畑だった。
ただ、黄色の中に、ところどころ赤が混じっている。おそらく魔物が餌食になったらしい。
花弁は剣のように鋭く固い。闇夜でこんな花畑に足を踏み入れたら、串刺しになるだろう。
「あの黒い狼はこれにやられたんですかね?」
「たぶん、そうだな。夜だとこれはわからないぞ」
花弁を採取してリパに見せる。普通の菊の花のようにつるつるしておらず、光に当てても反射しないようにザラザラとしていた。
花畑には何体も魔物の死体が横たわっていた。夜の間に仕留められて、栄養分になるようだ。菊の花も採取し革袋に入れておく。
棘のような葉をつけた針葉樹林地帯を抜けて山の方に向かった。
カーン、カーン、カーン!
いつものように黒ヤギの魔物が角をぶつけ合う音が響いている。
ブン……。
蜂の群れが黒い塊のように集まり、飛んでいた。
蜂の群れを追うと、俺が石材を採っている坂を越えて、崖の上に向かっていた。
「豆が焦げたような匂いがしませんか?」
「鼻と口に布を巻いておけ」
どんな美味しそうな匂いでも魔境では植物が誘う毒の可能性がある。手拭いで鼻と口を覆い、坂を越えると真っ青な花畑に出た。
花弁から炎を空に向かって噴き出し、蜂の群れを焼いている。蜂の群れだけでなく、竜胆の花畑だった。
遠くの山肌まで花畑は続いていた。空を飛ぶハーピーやワシの魔物を炎で焼き落としている様は圧巻だった。
「キャオラ!」
「ピョオエエエ!」
魔物たちが焼け死ぬ際の断末魔。それが北西部から聞こえてくる奇声の正体と断定。
「帰るか」
「はい」
俺たちは昼飯前に、家に戻った。
ヘリーとシルビアもすでに戻っていた。夜型の2人にしては起きている方だ。遺伝子学研究所のダンジョンの住人たちに計画を説明して、指示を出してきたという。
北西部の奇声の報告と共有を済ませると、カタンが作ったパンを食べてとっとと寝てしまった。
「このパンも甘くて美味いな!」
「そう。よかった。ミツアリの蜜と乾燥させたカム実を混ぜたの。疲れた時ほど、甘いものが欲しくなるでしょ」
「今日はあんまり疲れてないけど」
「チェルさんたちが文句言ってたわ。『自分たちだけ近場の仕事して』って」
「だろうな」
北部はミッドガードの跡地を越えるし、岩石地帯まで行くと遠い。
「チェルとジェニファーが帰ってきたら、これを食わせてやってくれ」
「わかったわ」
「休日なのに、料理ばっかりしていて疲れないか?」
「こんなに好き勝手に料理をさせてもらえるのは初めてだから全然疲れてないわ」
エルフの国では料理もさせてもらえなかったのか。
「多少、不味くても俺たち魔境の奴らは腹が丈夫に出来てるから、いろいろ食べさせてくれ」
そう言うと、カタンは笑って頷いていた。
「マキョーさん、なんか来る……。エルフのおっちゃんかな?」
黙ってパンを食べていたカヒマンが俺の肩を叩いた。
振り返るとエルフの番人が一人、道に垂れ下がった蔓を手斧で切りながら飛び出してきた。
エルフの番人は何度も転んだらしく、膝と手をすりむいている。とりあえず、水袋を渡して落ち着かせた。
「どうした? なんかあったか?」
「はい……。兵の皆さんが辺境伯をお呼びです」
「そうか。石材は置いてあっただろ?」
石材は採取して、小川の向こうに置いておいたはずだが、盗まれたかな。
「おそらく馬車に積めないのかと……」
「ああ、削っていけばいいのに。わかった。行くよ。南西の港の件もあるしな」
とりあえず、石を運ぶロープだけ肩にかけて入口へ向かうことにした。切り出したりするのは魔力のキューブで対処できるだろう。
ただ、俺がいなくなるとリパが暇になる。
「リパ!」
「ダンジョンの住人たちを見ておきます!」
いつの間にか、自分の仕事を見つけていたようだ。
「頼む! じゃ、行くか。ほら回復薬を塗っとけよ。毒が入ると切り落とすことになるかもしれん」
「はい」
エルフの番人を連れて、入口へと向かう。
枝から垂れてきた蔓がせっかく作った道の邪魔になっているので、ぶちぶちと引きちぎっていった。
入口にある小川の向こうには、一度魔境で訓練を受けた兵士たちが俺を待っていた。曲者ぞろいだったはずだが、服や顔は小奇麗にしている。隊長とサーシャはいないようだ。
その横にはエルフの小屋と同じくらいの大きさがある石も4つ置いてある。
「おう。どうした? 石を運びやすいように割ろうか?」
「いえ、それもそうなんですが違います。異例の早さではありますが、砦跡地に第一陣が到着しました。つきましては、商人及び職人たちが着工の挨拶に伺いたいとのことです」
砦の跡地に交易のための町を作る予定なので、その工事を始めるらしい。予定ではもっと先かと思っていたが、早めたのか。
「魔境まで来るのか?」
「ここまで来る途中でほとんどの者が死んでしまいます。できれば、辺境伯が行かれた方がよろしいかと。すでにケガ人多数とのことです」
無理に魔境に来られても人が死ぬということか。
「わかった。少し石材を持っていく」
俺は片手で持てるくらいの大きさに石を魔力のキューブで切り取ってロープで縛り、肩にかけた。
「今の術は空間魔法の魔法書を見つけて……?」
髭を剃りたてで顎に薬草を貼った兵士が聞いてきた。
「いや、防御魔法の練習してたら、なんとなくできるようになっただけだ。練習すれば誰でもできるんじゃないか?」
「……そうですかね」
「よし、行こう。あれ? 走れるんだっけ?」
「駆け足であれば……」
「いや、魔力を使って」
「我々には、まだできません」
「ああ、そう。じゃあ、ゆっくり行こうか」
いろんな人が関わると、顔を立たせないといけないから面倒だ。
訓練施設まではエルフの番人たちが道を作っていたので、それほど時間はかからないかと思っていたが、兵士たちが駆け足になってもなかなか辿り着かなかった。
先を走って待っていることも多くなり、空を飛んでいるベスパホネットを石で撲殺して回ったりしてしまう。やはり魔境の魔物と比べると格段に弱い。
寝ているワイルドベアを起こして、爪を研いでやったりもした。
「最近、どう? 飯食えてるのか?」
魔物に聞いても「バウ」と言うくらい。痩せていて元気が足りないので、研いだ爪でどうにか獲物を取ってほしい。
日が傾きかけてきた頃、ようやく訓練施設に辿り着いた。
兵士たちはずっと走りっぱなしだったので、体中から汗や涙、いろんな汁が出ていた。
「後の道案内は騎馬隊にでも任せて風呂にでも入った方がいい」
「「「了解しました」」」
隊長が畑の端で待っていた。
「お前ら、今日から魔境まで行って帰るのを日課にするように」
兵士たちを施設に行くよう指示を出しながら、隊長は命令を下していた。誰も返事をしないが、声が出ないだけかもしれない。
「悪いね。マキョーくん。世話ばかりかけて」
「いえ、これも領主の役目です」
近隣との付き合いは良好にしておきたい。
それに、交易の町作りは王家に頼りっぱなしだ。場所は無償で借りるようなものなのだから。
「魔境の訓練にまた参加したいと言っていたが、もう少し体力をつけさせてからにするよ。施設で生活していると気が抜けるのかもしれない」
「そうかもしれません。町の予定地へは?」
誰かが道案内をしてくれるのか。
「サーシャの騎馬隊が道の要所にいるから案内してくれる。マキョーくんについていくのは諦めた。そっちの方が速いだろ?」
「助かります」
馬を連れた女兵士が道に立っていた。
「我が隊が道を示します。もしも迷ったら、花の匂いを辿ってくださいとのことですが、匂いますか?」
女兵士が聞いてきた。
「ラベンダーの香りだ。新しく王都から取り寄せたのかい?」
「そう……です。そんなに匂いますか?」
「本人は気づかないものさ。俺も獣の臭いがするだろ?」
女兵士は首を横に振った。
「焦げた甘い匂いがします」
「昼飯、甘いパンを食べたんだ」
「魔境にも甘味があるんですか!?」
「うん。いつか食べに来て」
そう言って、俺は走り始めた。
道の先には必ず馬を連れた女兵士が立っていて手を横にして道を指示してくれた。皆、花の香りを身に着けている。
当たり前だが、そんな匂いを発しながら立っていれば魔物は寄ってくる。
女兵士がビッグモスに襲われていた。肩に担いだ石材で、ビッグモスを撲殺して助け、道を聞く。
「ありがとうございます。あちらです」
「もう道は覚えたから、戻っていいよ。ありがとうね」
その後も魔物に襲われている女兵士を助けながら、日のあるうちに交易の町建設予定地に着いた。
最後にはサーシャが待ち構えていて、しっかりグリーンタイガーに襲われていた。
「あ、どうも。こんにちはー。辺境伯でーす」
廃砦の近くに集まっていた職人たちに声をかける。
「辺境伯! ちょっと助けてください!」
サーシャが叫んでいるが、どう見てもグリーンタイガーはじゃれているだけだ。殺すつもりなら、とっくに首を狙って噛みついているだろう。
「大丈夫だ。そのグリーンタイガーは腹いっぱいみたいだから」
「だから、このグリーンタイガーは商人さんたちの食糧を食べたんです!」
商人たちが道端に寝かされていた。怪我をしているようだが、大した傷ではないだろう。
魔境の塗り薬を渡しておいた。
ただ、商人も職人たちも怯えている。
「魔物を見たことがないんですか?」
「ありますけど、こんな強い魔物は王都のコロシアムにもいなくて……」
そういえばエスティニア王国の魔物は、東強西弱と言われていた。
耳を澄ますと、魔物の鳴き声も聞こえてくる。
「少し駆除しておくか」
サーシャにじゃれていたグリーンタイガーの首根っこを掴んで、思いっきり投げ飛ばした。
「ここら辺一帯は、作り変えていいんだろ?」
サーシャに確認を取っておく。
「隣の領地まで行かなければ問題はないはずです。はぁはぁ、死ぬかと思った」
「魔物も取り放題ってこと?」
「魔物がいるなら早急に駆除してください。護衛の冒険者たちは何をやってるんですか!?」
サーシャが振り返ったが、冒険者たちと思しき者たちは震えるばかり。
とりあえず周辺を見回って、魔物を見つけたら石で撲殺していく。危険とは思えなかった魔物に関しては遠くへ放り投げた。
食べられそうな、ジビエディアとフィールドボアの死体は廃砦に持って行った。
「はい、食糧。解体くらいはできるかい?」
震えていた冒険者は何度も頷いていた。
「あ、これ。魔境の石材です。何度も魔物の頭蓋骨を割ってもこの通り! どこも欠けてません。置いとくね」
塗り薬で傷を治した商人たちは、ちょっと引いていた。本当に魔物を見慣れていないのかもしれない。
「あと、なんかあった? あ、堀とか直しておくか?」
砦跡には壁と堀があったので、魔力のキューブで直しておく。一通り周辺を壁で囲み、門の側に篝火を焚いたところで日が落ちた。
「こんなところでいいかな? サーシャ、部下たちを呼び寄せた方がいいかもよ。何人か、襲われてたから」
「ええ!? わかりました!」
ようやくサーシャが馬にまたがって、動き始めた。
「じゃあ、あとよろしくお願いします」
商人と職人たちにしっかり頭を下げる。
「「「よろしくお願いします!」」」
正気を取り戻したかのように、全員動き始めた。魔物の脅威に晒されて、動けなくなっていただけなのか。
開けた場所の真ん中に持ってきた石を置いて、俺は魔境へと戻った。