表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔境生活  作者: 花黒子
~追放されてきた輩~
16/370

【魔境生活15日目】



 翌日、チェルの動きは見違えるように変わっていた。何より素早くなっているのが、俺的には非常に嬉しい。


 魔物を倒す速度も、走る速度も上がっている。

 チェルは俺よりもイメージする力があるので、魔法を展開させるのも早い。まだ、グリーンタイガーなどには腰が引けてるが、ヘルビードルやコドモドラゴンなどには対応できそうだ。


「うわぁっ!」


 止せばいいのにチェルがインプの群れを発見。そのまま襲撃し、殲滅していたところ、老樹のトレントが出現した。

 今まで魔境で出会った魔物の中で最も大きいサイズ。2階建ての宿屋くらいある。サーベルで切っても、少し表面が傷つくだけ。チェルが火の魔法を放っても、樹皮が焦げるくらいだった。


「逃げろ!」


 俺はチェルの襟首をひっつかみ、走る。

 トレントは老樹のくせに、スピードが早く、無数にある根っこを動かして追いかけてきた。チェルは俺の首に掴まりながら、後ろに杖を向けて麻痺魔法を放つ。

 特にトレントが止まった気配はなく、まだ追いかけてくる。麻痺は効かないのか。


 丘を越えても、トレントの勢いは止まらない。

 走る勢いをそのままに、俺はチェルを抱えたまま沼に飛び込んだ。


 潜って、沼の底に足がついてもとにかく前へ進もうと必死にもがいた。首にしがみついているチェルを引き剥がし、息を吸うために水面に顔を出す。

 顔を出した拍子に振り返ってみると、トレントは沼の岸辺で、怒ったように枝の腕を振り回している。


 チェルが器用に水魔法を使い、水流を起こし反対岸へと泳いでいく。

 俺も真似をして、水流を起こしてみたが、単発で水の玉が出るくらいで、勢いが違った。

 ただ、チェルは魔物に足を掴まれて、沼の底に引きずりこまれそうになったりしていた。麻痺魔法は水の中にいる魔物にも有効なようだった。

 どうにか命からがらといった感じで、反対岸に辿り着いた。


「二度と不用意にインプを殺すなよ!」

 チェルに厳命し、家へと向かった。


 3日ぶりの我が家である。

 ハムはまだハムらしくないが、フォレストラットは死にかけていた。

 急いで熟れ過ぎたカム実や余り物の肉などを与えると、元気を取り戻していた。小さい魔物は単純でいい。


 チェルは友達の家に初めてきたようなリアクションをしていた。ひとまず、濡れた服を着替え、外の木の枝に干す。

 チェルは替えの服がないので、俺のお古を貸した。

 だいぶブカブカだが、紐で縛れば着ることはできる。


 畑の様子を見に行ってみる。

 案の定、カミソリ草が生え放題だった。

 そしてオジギ草は、3メートルほど伸びていて、ちょっとしたパラソルになっていた。

 危険なので、カミソリ草もオジギ草も刈ることに。

 芽が出ていた野菜はあまり育っていない。細い蔓が、ちょっとだけ伸びていただけだった。カミソリ草やオジギ草に栄養を取られてしまう。魔境の地面の中は弱肉強食になっているようだ。


「魔境で野菜作りは難しいか……でも、ここで諦めるわけにはいかない。俺が地主なんだから」

 魔境で俺が野菜を作れば、ここに人もやってきて土地を貸すだけで生計が成り立つようになるはずだ。それまでは少し頑張らなければ。


 家に戻って、チェルに今まで集めた魔石を見せる。チェルは驚嘆した様子で俺の顔を見て、舌をベーッと出した。感謝の意だとわかっていても、なんとなく殴ってやりたい気分になる。

 チェルがチョイスしたのは、ラーミアの石化の魔石と、ベスパホネットの毒の魔石だった。

 それぞれ握りやすそうな木の枝を切ってきて、杖を作ってやった。大した作業ではなかったが、チェルはやたらと感謝した。

「だから、その顔やめろ!」とは思った。


 昼ごはんは肉野菜炒めとパンだ。

 チェルは頷きながら、美味しそうに食べていた。魔法の練習をしていて、魔法剣ってつかえないのかなぁ、とふと思った。

 前世の夢の記憶では、物語などでよくある技術だ。

 サーベルで試したが、うまくいかない。

 チェルは不思議そうに見つめていた。ナイフでやってみると、とても燃える火の剣が一瞬だけ出た。ただ、素材がヤシの樹脂なので、ナイフが溶けてしまった。


 素材が重要なようだ。

 サーベルはキングアナコンダの牙だ。キングアナコンダの胸当ては魔法を受け付けないので、もしかしたら、牙も魔力の通りが悪いのかもしれない。

 火の魔法だったからいけないのだ。そう思って、風魔法をナイフに付与したところ、バラバラになってしまった。


「ヤシの樹脂は極端に魔力に弱いのか?」


 ヘルビートルの角や、マエアシツカワズの爪など、色々と試してみたが、どうもしっくりこない。

 やはり金属製のほうが良いのだろう。

 今のところ武器は無理そうなので、前世の夢の記憶を頼りに、拳に魔力を纏って地面を殴ってみる。

 半径5メートルほどのクレーターが出来た。

 結果的にすごい破壊力を得た。


 チェルは開いた口がふさがらないと言った表情で見ている。もしかして、魔族には伝わっていない技術なのかもしれない。

 魔力に属性をつけると必殺技っぽくなった。ただ、火は熱いし、氷は冷たい。

 チェルが地面に絵を描いて、「それならトレントを倒せる」というようなことを伝えてきた。


「とりあえず、落ち着け」


 そんな自ら危険に飛び込むような真似はしない。

 魔力を身体のいろんな箇所に集める練習をしていたら、すぐに日暮れ。後半はチェルも同じ練習をし始めていた。


 晩飯は昼の残り。

 ランプの灯りを頼りにP・Jの手帳を読みながら、ベッドに寝転がった。


 明日はP・Jの残した武器を魔法剣で使ってみようと思った。

 魔境のどこかにあるという遺跡も見つけてないし、必須と書いていた時空魔法も習得していない。

 やることは多い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ