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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【攻略生活39日目】


 翌日も、魔境の西に訓練場を作る。

入り口までの道の途中に分岐点を作り、訓練場へ獣道を作っておいた。別に馬車が通るわけでもないので、カミソリ草で鬱蒼としていても問題はないだろう。


丘で囲んだ小さな森を訓練生がサバイバル生活をする場所にする。

 魔境の植物は生命力が強いので、植え替え作業も楽だ。

タマゴキノコやスイミン花などを丘の上に配置すれば、魔境の魔物は寄りつかなくなる。魔境の中で、セーフティーゾーンができる。もちろん、数日で植生が変わる可能性もあるのが魔境だ。丘の上に適した毒草も探しておきたい。


「各種、野草のリストがあるので試していきましょう」

 ジェニファーとリパが野草のリストを作っているので、それを見ながらパッチテストでも食べられない、つまり毒と判断された野草を中心に試していく。失敗には失敗の使い方があるものだ。


訓練場の森にはカム実の蔓やヤシなど、サバイバルに有効だった植物を植えてひとまず訓練場の森を見て回る。

 魔物はフィールドボアやエメラルドモンキー、グリーンタイガーなどわかりやすい魔物しかいない。時々ゴールデンバットが飛んでくるが、特に襲ってくるようなことはない。

 小鳥やフォレストラットなど小さな魔物も多く、入り口に行けば小川も流れているので飢えて死ぬようなことはないだろう。

 テントを張るもよし、ヤシの葉で住処を作るもよし、どうにでも拠点は作れるはずだ。

魔境の中でもこれほど安全な森はないように思える。


「どう思う?」

 丘の上で隣にいたチェルに聞いてみた。

「なにが? 訓練場? いいんじゃないノ? 死にかけると思うけどネ」

「そうかなぁ……」

「でも死にかけないとわからないことは多いからいいんだヨ。これで」

 たぶん、今魔境に住んでいる連中はほぼ全員が死にかけている。カリューなど死んだ経験があるくらいだ。


「いいのか。じゃあ、ジェニファーとリパで毒草の植え替えをやっていってもらえるか?」

「了解です」

「大丈夫だ。回復薬や解毒作用のある薬草も揃えている」

「ワ、ワ、ワニ園からロッククロコダイルも何頭か沼に連れてきて待機させておく」

 ヘリーやシルビアも準備をしてくれていたようだ。

「よし、それが終わったら、魔境の訓練場を解禁してみよう」

 なんとなく大きな仕事をひとつ終えたような気がした。



 昼飯前に沼の畔にある風呂に入って、ぼんやりヘイズタートルが暴れている沼を眺めていたら、チェル、ヘリー、カリューの3人がやってきた。即席で作ったベンチに座って、同じように沼を眺め始めた。


「それで、運営はどうするのだ?」

 ヘリーが裸の俺に聞いてきた。

「訓練場の運営は皆でやればいいと思うけど……」

「魔族とエルフの犯罪者、ゴーレム、元貴族の娘もいるが構わないということでいいんだナ?」

「いいよ。文句を言われても『魔境の住人です』と言って押し通す。危害を加えられるようならやり返していい。魔境の法は生き残ることであって、差別することじゃない」

「人殺しや窃盗をする者も出てくるかもしれないが……?」

「人殺しは『生き残る』ことに反するので、即時拘束の上、追放。窃盗に関しては、飯の窃盗は重罪。金品は別に使うところがないからなぁ……。どうでもいいんじゃない? けど、骨の一本でも折っておくか」

「重罪は島送りってことカ?」

 魔境の島送りは空島になる。

「そうだな。一週間の島送りだ」

「ほぼ死刑ではないか」

「飯の恨みは恐ろしいってことを叩き込まないといけないから、仕方がない」

「色恋沙汰に関しては?」

「勝手にやってくれ。領主があれこれ言う問題じゃない」

 そんな風に俺が裸のまま、魔境の法ができていった。人が増えるのだから、大事なことなのだろう。


 概ね法が定まったところで、3人は洞窟へと帰っていく。

俺はひとり腰に布を巻いた状態で沼を見ていた。こうしていると捨てる物が何もないという気になってくる。魔境という領地を持っているけど、今さら捨てようと思っても竜の血を引く王家が許してくれそうにない。なるようにしかならないと思えば、張っていた気が抜けてきた。

 あと俺の役割としては残っているダンジョンの探索か。魔力を消す方法を考えないとな。

 どうにか魔力を身体から捨て去ることができればいいんだけど……。


全身を弛緩させ、緊張を取り除き、魔力を手や足から放出していく。

風が吹き、俺の魔力を魔境の中心へと運んでいった。

沼に波が立ち、インプたちが泣きわめきながら飛んだ。

対岸では植物が蠢き、ワニ園のロッククロコダイルたちが慌てて岩で自分たちを覆う。

スパイダーガーディアンが一斉に起動した。

ミッドガードにいる『渡り』の魔物たちが子育てをしているなか、空を見上げた……。


ふと気が付くと、俺は腰に布を巻いた状態で、大きく息を吸って立っていた。何だったんだろう。おそらく全身の魔力量がかなり少ない。全身を巡る魔力を丹田に集中させてゆっくりと回転させていく。むしろ体のどこで回転させてもいいかもしれない。胸の辺りで回転させると、足が軽くなったようだ。

 そのまま、洞窟に帰ってみた。


 カリューが待ち構えていた。

「何をしたのだ?」

 カリューは視覚がないので魔力を見ている。

「魔力を捨ててみたんだ。俺の身体から魔力が消えてるか?」

「表面的には。ただ放出されたマキョーの魔力が大変なことになってないか?」

「ただの魔力だ。風に吹かれて飛んでいっただけさ」

「何か見えなかったか?」

「ミッドガードの跡地で、魔物が子育てしているのが見えたよ」

 なにやらおかしな事態が起こっていると思ったのか、昼飯時にもかかわらず、全員一斉に立ち上がって寄ってきた。


「遠視の能力を得たということカ?」

 チェルがカリューに聞いていた。

「いや、そういうことではないようだ」

「魔力を風に飛ばして捨てたら、その先で起こっていることが見えたってだけ。不思議なこともあるもんだ」

「マキョーは、また奇人なのか稀人なのかわからないことを言う」

「そんなことができたら生き物としてちょっとおかしいんじゃありませんかね?」

 ヘリーとシルビアが眉を寄せた。

「幻を見ただけかもしれない。もし、ワニ園のロッククロコダイルが岩で自分の身体を守っていたら、本当だけど……」

 そう言うと、シルビアが確認しに向かった。


 今日の昼飯は、野草と猪肉のスパイシー炒め定食。スープもついてめちゃくちゃ美味かった。


「ほ、ほ、本当だった。マキョーが見たものは本当だった!」

 帰ってきたシルビアが皆に報告した。


「マキョー!」

 チェルがなぜか怒っていた。

「なんだよ」

「いろんな国の魔法の歴史を変えるんじゃない!」

「変えてないだろ」

「変えているから、ヘリーとカリューが頭を抱えてるんだヨ!」

 見れば確かに、ヘリーとカリューは蹲っている。


「おい、飯が冷めるぞ」

「そういうことじゃない!」

「なんだよー!」

「昨日も魔力で魔法を解体したな! 毎日毎日、魔法の常識を破って楽しいか!?」

 チェルは自分が作ったパンを毟り食べながら、ブチ切れている。

「別にそんな気はねぇよ。やってみたらできたんだよ! できちまうもんはしょうがねぇだろ!」

「だから、できるからってやっていいのかって話だヨ! だいたいそんな簡単に魔法を作られちゃあ、こっちだって説明ができないんだぞ!」

 だんだんチェルの訛りも消えていく。

「なんですか? また学問的な話ですか!? すみませんねぇ、学がないもんで!」

 言い争いをしていたら、リパが木炭と紙を抱えて洞窟から飛び出していった。


「なにやってんだ、リパは!?」

「だって、残しておいた方がいいでしょう! 新しい魔法の影響がどうなってるのか、後世に伝えた方がいいんじゃありませんか!?」

「そうだ、その通り! 私も連れて行ってくれ! 大丈夫、魔法の研究なら得意だ」

 そう言ってヘリーがリパにしがみついた。

「おい!」

 俺が呼び止めた頃にはすでに沼の岸辺をリパが走り抜けているところだった。もう止められないだろう。


「お前らは、ちゃんと飯食えよ!」

 そう言うと、残っていたジェニファーとシルビアが、スパイシー定食を掻っ込んでリパとヘリーを追いかけていった。

ジェニファーが小さくなったカリューを持って行ってしまったので、チェルと二人きり。


「マキョー、革袋に入ったダンジョンの卵を開けよう。ダンジョンを作るべきだヨ」

「ん~……」

「魔力の実験や新しい魔法の試し射ちはダンジョンの中でやったほうがいい。影響が出るんだから」

「確かにそうだな……」

 真面目に諭されると、言い返す言葉がない。


「ただ、突発的に思いついちゃうんだよ」

「そこが魔境の住人の弱点なのかもネ。好奇心に勝てない」

いなくなった奴らの汚れた皿を見ると納得だ。

魔境の法は生き残ることだが、住人の性格は好奇心にかられ理性で抑えることができないこと。これからも好奇心が強い者たちが増えると考えると、ダンジョンの作成は魔境の領主の条件か。


「魔族に似てきたネ」

「似たくないこともある」


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― 新着の感想 ―
[良い点] すれ違いモノとか、勘違いモノとか、暗躍モノとか、復讐モノとか、主人公が並外れた力でなにかをする作品は色々ありますけど、 作者さんの作品は、題して「開き直りモノ」とでも言うような空気ですね(…
[一言] どこかの偉人の修行風景かな? そのうち悟りを得そうw
[一言] 野生だw
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