表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
146/370

【攻略生活38日目】


 朝風呂に入りながら、魔力を消す訓練をする。

 目の前に広がる沼のように波風を立てず、身体全体に魔力をゆっくり流していく。

 へその下あたりに魔力を集中させ、回転させていくと周囲のお湯も回転し始めてしまった。そこで集中力が切れ、魔力が周囲に広がって水しぶきが上がる。


「わっからーん!」


 だいたい皆、どうやって魔力を使ってるのか。

 近くにいたヘイズタートルを捕まえて、魔力を放ち体内を覗き見る。心臓を中心に血管が通っていて、魔力も血管に沿うように流れているが、血液と違って魔力は甲羅に向かって集中していた。

 ヘイズタートルの甲羅が固いのは魔力によるのかもしれない。

 試しに、甲羅に向かう魔力の流れを止めてみると、慌てて四肢と首を甲羅の中に引っ込めて転がるように沼に逃げていった。


「もしかしたら、新しい魔物の討伐方法を思いついたかもしれない……」

「裸で何を言ってるんですか?」

 木陰で見ていたジェニファーからツッコまれた。

「あ、すみませーん」

「お風呂にお湯、足りないので入れて行ってくださいね」

 恥ずかしいので退散しようとしたら、注意された。

「はい……」

 人間は裸だと弱い。


 洞窟に戻って朝飯を食べながら、リパを触診させてもらった。

 所々に羽が生えている以外は、大して俺と変わらない。魔力の流れも普通だ。


「男同士で何をやってんノ?」

 チェルがサンドイッチを食べながら聞いてきた。

「魔力の流れを見てるんだよ」

「『手合わせ』すればいいノニ」

 そういえば、チェルに初めて魔法を教わった時、手を合わせて魔力の流れを教えてもらった。

「そうだな。これさ、カリューに魔力を注入しておいてなんだけど、触れている奴の魔力も操れるんだな?」

「えっ?」

「いや、さっきヘイズタートルの甲羅に向かう魔力を止めたら逃げていったんだ」

「あ、これは……」

 チェルが急に真顔になって、ヘリーを見た。


「魔力を注入するくらいなら普通の者でもできるが、他人の魔力まで操作できるようになるのはちょっと珍しいことだ」

 ヘリーが説明を始めた。

「ただ、マキョーはいろんな力に干渉するから遅かれ早かれ、気づくとは思ってたけどネ」

「練習した方がいいかもしれない。不意に人を殺してしまうかもしれないから」

「えっ!?」

 背中を触られていたリパが振り返って、俺を見ていた。


「いや、そんな誤って操作するようなことじゃないから大丈夫だと思うぞ」

「それならいいが、エルフの歴史でも他人の魔力を操作する者は稀だ。有名なのは精神魔法の開発などに尽力した医者なのだが、あまりいい最期を遂げていない」

「魔族でも限られているネ。メイジュ王国に現れたら厳しく隔離されると思う」

「そうなんだ」

「例えば、他人の片耳の後ろ側に魔力を集中させると、バランス感覚を鈍らせて倒せてしまうらしいが、マキョーはできるか?」

「それくらいならできそうだけど。三半規管を壊しても回復魔法でどうにか元に戻せないのかな」

「傷は治せても魔力の流れに後遺症が出るらしいヨ」

「それは嫌だな。ちょっといろいろ魔物で試してみるか」

 そう言いながら、シルビアを見た。

「ワ、ワニ使う?」

「いや、育ててるんじゃないのか?」

 すでにロッククロコダイルのことはワニと呼んでいるらしい。

「だ、だ、大丈夫。多すぎるくらいだから。私もちょっとマキョーの戦いを見ておきたい」

「別に戦い方を変えるつもりはないけどなぁ……」

「また、強くなるんですか?」

「はぁ~」

 リパとジェニファーは呆れている。魔力を消す方法を探っていただけなのだが、違う方向へ行ってしまう。


「中心部のダンジョン探索なんだけどさ」

 話題を変えて、カリューに話を振る。

「ああ、聞いている。気が立ってる魔物が多いのだろう?」

 ミッドガード跡地周辺は徐々に繁殖期も落ち着いてきたが、すでに卵を産み始めている魔物も多い。昨日、リパと様子を見に行ってみると、魔物でも子を守るため親は周囲に殺気を放ち好戦的になっていた。

相手をするには量が多すぎるし、こちらに向け積極的に攻撃してくるわけでもないので、放っておく。

「そう。中心部のダンジョン探索は後日にして、先に魔境の訓練場を作りたいんだけど」

「私は急いでいないから、構わない。それより、マキョーは妙な戦い方を訓練した方がいい。魔法ができる瞬間などそうそう立ち合えないから」

「いや、魔法なんか作る気はないんだけど……」

 俺に注目が集まっているらしい。


 朝飯の後、なぜか全員でワニ園へと向かい、魔力の実験。ロッククロコダイルの背に乗り、魔力を放って体内を見る。

 暴れまわっているロッククロコダイルの魔力に干渉し、急流のように流れていた魔力を大河のように緩くする。

 途端にロッククロコダイルが落ち着いて、動かなくなった。それだけで周囲のギャラリーから「おおっ」などと声が上がる。大したことじゃないのに。

 さらに、ものは試しとロッククロコダイルの緩くなった魔力の流れを尻尾で止める。尻尾に魔力がどんどん溜まっていき、尻尾が一気に膨らんでいく。

ロッククロコダイルは体勢を変えて尻尾を振り上げ、そのまま地面に振り下ろした。


 ボンッ!


 爆発音に似た音が鳴り、地面から見上げるほどの高さがある岩の柱が飛び出した。

 ロッククロコダイルは尻尾を切って転がっている。

 周りにいたロッククロコダイルの群れは当然、俺から距離を取るように端へと逃げていった。


「何をやったんですか!?」

「思ってたのと違うケド?」

「だ、だ、大丈夫。尻尾は再生するから。でも……」

「相変わらず、予想のちょっと斜めを行くな」

 女性陣は柱を見上げながら、各々、感想を述べていた。リパは岩柱を叩いて、固さを見ていた。

「尻尾で魔力の流れを止めたんだ。だから俺の力はほとんど使ってない。ロッククロコダイル本人の力だよ」

「魔力を使わせてしまうということだな?」

 カリューが聞いてきた。

「そうだね」

「いや、なんで自分じゃないのに魔力を止められるんだヨ!」

「拳に魔力を込めるのと大して変わらないだろ」

「変わるヨ!」

 チェルは「何を言ってんだ!」と憤慨している。

「マ、マ、マキョーは魔物の魔力の流れと自分の魔力の流れを繋げてるんじゃないのか?」

「そうかもしれないなぁ」

 シルビアに言われて、自分でも無意識でやっていることに気が付いた。

 確かめるため、俺は牙を剥いて威嚇してくるロッククロコダイルに近づき、鼻を掴んだ。魔力を放ち、魔力の流れを読む。この段階で、自分の手とロッククロコダイルの身体全体が繋がっているような感覚があった。

ロッククロコダイルの魔力がこちらに流れ込んできて、俺は魔力を調節して引き渡しているような……。

「触れることによって相手の魔力に接続するということか?」

「そうみたいだ。でも、『手合わせ』と変わらない感覚だけどな」

「『手合わせ』で、こんな岩の柱が建つんですか!?」

 ジェニファーが困惑したように聞いていたが、誰も答えられない。確かに、事実だけ見ると結果がおかしい。

「チェル、『手合わせ』って相手に魔力を調節しないで、無理やり引き渡すとどうなるんだ?」

「腕が千切れるんじゃないカナ? 人それぞれ、魔力の容量は違うから、病気になったりするヨ」

「スライムとか形を変えられる魔物で実験した方がいいかもしれん」

「そうだな」


 ヘリーの提案を採用し、俺は入り口付近にいるスライムで実験することにした。

 当たり前のように全員ついてきているが、仕事はいいのだろうか。道もできていて移動が楽だ。

 

 突然、魔境の全員が現れたので、エルフの2人が驚いていた。


「どうされたんですか!?」

「いや、ちょっと実験だ。あ、いい機会だから紹介しておくか。皆、このエルフの2人が魔境の番人だ。あんまりいじめないように」

 皆、「おう」とか「よろしく」とか言っていた。

「そのぅ……、人類かどうかわからない人もいるのですが……」

「あ、カリューはゴーレムだ。1000年前の時の番人だから先輩だから、失礼のないようにな。あとは鳥人族とか魔族とかわかりやすいだろ?」

「わかりやすいというか……、いいんですかね?」

「魔境はなんでもありだ。どうせ魔境に入れば知ることになるんだし、隠しても意味ないだろう」

「それより、離れておいた方がいいヨ」

「エルフの禁術に触れるかもしれないから、見ない方がいいかもしれん」

 チェルとヘリーが脅すように言うと、番人の2人は大急ぎで小屋の向こうへと逃げていった。


 人払いもして、小川から一匹だけスライムを捕まえる。

 俺から魔力を貰えると思って嬉しそうに震えているが、スライムに魔力を放ち、内部の魔力の流れを覗こうとした。だが、魔力は吸収されて跳ね返っては来ない。

 仕方がないので限界まで魔力を注入し、膨らませてから魔力の流れを確認した。表面に反物のような平たい魔力の膜があり、それがゆっくり中心にある核に向かって流れている。魔力の流れを変えることによって移動しているらしい。


「流れの形を変えられるのか。別に血管みたいな管状にしなくてもいいよな。それならちょっと魔力をまとめられるかもしれない……」

「なにを一人で納得してるんだ?」

 チェルが聞いてきた。

「いや、魔物って魔力の操作が上手いんだな、と思ってさ」

 俺はそう言いながら、スライムの表面を指でつついて水分を吐き出させ、元の大きさに戻した。つついて開けた穴は魔力さえあれば元通り。


 その後、右手で魔力を流し込み、左手で流れてきた魔力を受け止める、というような実験もした。スライムは魔力の膜を維持できず、核だけを残して水と化してしまった。


「入口と出口さえ決めればいいから、結構使えそうだね。他の魔物に応用すれば、魔力切れを起こさせることも可能だ」

「『可能だ』じゃないですよ! 人でも魔力切れを起こしますよ!」

 ジェニファーが抗議するように言ってきた。

「それ、対魔法になるんじゃないカ?」

「え?」

 チェルに水球を作ってもらい、魔力を右手で流し、左手で抜き取る。


 パシャン。


 水球の形が崩れ、地面に水たまりができた。


「んん~!? 魔法が書き換えられたのか?」

「なんだ? チェルの魔法をマキョーが食べたようだが……?」

 ヘリーとカリューが腕を組んで、納得いかないと言い始めた。

「魔法ってそんな簡単に崩せるものなんですか?」

「む、む、無理! おかしい。法則が崩れてる」

 リパとシルビアも慌てていた。


「なんかヤバいことしたみたいだな」

「マキョーは、出会った頃からずっとヤバいヨ」

「よし、一旦実験は中止。昼飯にして、午後は訓練場を作ろう」


 一度、全員洞窟に戻り、昼飯を食べてから、入り口付近の森を整備をする。

それほど凶悪な魔物はいないが、侵入してくることも考えて、スイミン花やカミソリ草、オジギ草を植え替える。

 この日、俺以外は上の空で、なかなか思うように作業は進まなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ