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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【攻略生活33日目】


 早朝から、砂漠に来ている。

 チェルを叩き起こし、カリューを背負い、走った。

 

「軍事基地にいくつかダンジョンがあった。訓練場や倉庫として使っていたはずだ」

 背負子に乗っているカリューの証言で、ダンジョンを探している。

 砂漠の地下からはゴーレムも出たので、慎重に探らないと飛び出してくるかもしれない。

「軍事基地の中に『留め山』があるんだろ?」

「ああ、1000年前はそうだった。だが、今は砂に埋もれているのではないか?」

「軍事基地だとサトラの業者が入り難いだろうから、『留め山』の土台が移動することはないか?」

「封魔一族が関わっているから、そんな適当な施工はないはずだが……、周囲にはないのか?」

 鎖の下は一面砂漠だ。ただ、地下には『留め山』らしき、四角錐の建物があるはず。


「いや、地下に魔力を放つとゴーレムが出てきちゃうから、ちょっと腰が引けてる。前は7体も出てきて焦った」

 正直にカリューに伝えると、震えながら空を見上げていた。

「それは向こうも同じだろう。一度に7体もゴーレムのコアを盗まれたのだから」

 カリューは鉄のキューブのことをゴーレムのコアというらしい。

「それはそうだな。じゃあ、挨拶代わりに一気に掘ってみるか。チェルも、いい加減起きろ」

 チェルはあくびをしながら、魔封じの腕輪を外して足元の地面に水魔法を放った。

「寝起きにこんな場所まで走らされたから、疲れたんだヨ。よいしょ」

 地面の砂を球体にして浮かばせて、遠くへ放っていた。

 俺も魔力のキューブを大きく広げて、砂のブロックを作り、遠くへ放り投げる。穴掘りを開始すると、すぐにサンドワームが近づいてきた。


「あれに掘ってもらえればなぁ……」

「やっぱりシルビアを連れてくればよかったんだヨ」

 確かにシルビアとヘリーは起きていたが、砂漠へ行くと言うと「いってらっしゃい」とついてくる気はなさそうだった。


 チェルは大きく溜め息を吐いて、地面から5本の炎の槍を突き出し、サンドワームを串刺しにしていた。サンドワームの身が焼けて周囲に異臭が漂う。

「食べれない魔物を殺すと、なんだか損した気分になるネ」

 まだ気温が低い朝方なので、行動的なサンドコヨーテやデザートサラマンダーなども近づいてきたが、サンドワームの異臭でどこかへ行った。

 こちらも砂山を掘っているだけなので、邪魔をしなければ殺すこともない。


 作業は、せっかく砂地に大穴を空けても、砂が流れ込んできてなかなか進まなかった。チェルが水魔法で砂を固めつつ掘り進めていくしかない。面倒な作業だ。それでも、ダンジョンのためと思い、徐々に穴を広げて深く掘っていった。


水を飲みつつ、砂山の影で休憩を取っていると、唐突にゴーレムが砂をかき分けるようにして出てきた。俺たちを見ても襲ってくるような気配はない。むしろ後ろにいたカリューが気になるようだ。


「ユグドラシール騎士にして時の番人、カ・リューだ。基地内のダンジョンを視察したい。許可を願う!」


 カリューの言葉に、出てきたゴーレムは手を胸に当てて返した。


「いいのか?」

「よさそうだ」

 カリューは頷いて答えた。カリューがいるだけで、こんなに対応が変わるのか。確かに、ずっと地中にいたゴーレムたちからすれば、突然やってきた俺なんかただの不審者だとは思うが……。


 ゴーレムは砂の壁に入っていった。

「いや、俺たちは生身の身体があるから砂の中に入るのは難しいんだけど……」

 俺がそう呟くと、ゴーレムの周囲の砂が渦を巻き、小さなつむじ風のように外に飛び出していく。いくつものつむじ風が俺やチェルの間を通りすぎていった。

 振り返ると、穴の外ではつむじ風が成長し砂嵐となって、砂漠の空を覆っていく。砂嵐を発生させていたのは、ゴーレムたちなのか。


「マキョー、進んでるゾ」

 先頭を行くゴーレムの進む方向には通路ができていた。壁や天井は固い砂岩でできているようだ。これなら生身でも進んでいける。

 

「マキョー、あんまり魔法は使わない方がいいカモ。岩の中になにか埋まってるカラ」

「チェルは目がいいな。おそらく魔力量を計る測定器のようなものだ」

 ぱっと見ただけではわからないが、壁の砂岩にはところどころ小さな穴が空いていて、魔石の光のようなものが見えた。以前、ソナー魔法で地中を探った時は岩ぐらいにしか思わなかったが、もしかしたら俺は岩の中の測定器を壊した可能性はある。ゴーレムたちに襲われるのも頷ける。

 

「悪いことしたかも。カリュー、ゴーレムたちに謝っておいてくれ」

「まだ、わからない。それに今の魔境の主は、マキョーだ。詫びる必要などないさ」


 進んだ先は、広めの部屋だった。埋まった建物の一部だろうか。

 部屋の真ん中に扉が縦に置かれている。支えるものもないのに、どうやって立っているのかはわからない。


「どこもダンジョンの入口は変わらないネ」

 チェルは安心したように大きく息を吐いた。

「そうなのか。初めて見るけど」

「鍵、持ってきたカ?」

 俺は懐から雷紋の模様が描かれたドーナツ型の石を取り出した。

「これだろ」

 扉の中心には、丸いドーナツ型の窪みがある。

「え? 俺が開けるのか?」

 ゴーレムもカリューもこちらを見ている。

「誰が開けても同じだ。もし、それがマスターキーなら、開けられるはず。試してみろ、ということさ」

 俺は言われるがまま、窪みに石を嵌めた。

「魔力を込めて、ちょっと回してミテ」

 チェルに教わって、やってみると扉が青白く光り、鍵の石だけを残して消えてしまった。扉があった場所には黒い通路が伸びている。


「これがダンジョン?」

「そうだヨ」

 扉の裏手に回ってみたが、通路は何もない。扉があった枠の中だけに空間があるらしい。

 俺が観察しているうちに、ゴーレムもカリューもチェルさえもダンジョンの中に入っていく。

「ちょっと待って。置いてかないでくれ。初めてのダンジョンなんだから」

「マキョーは、怖がり過ぎだヨ」

「私も初めは怖かった。亜空間というのも理解していなかったからな」

 俺も未だに亜空間なんてわかってない。

 ゴーレムはどんどん黒い通路をどんどん進んでいく。遠くから警報のような音が聞こえてくるが、気にしていないらしい。


 突如通路は途切れ、砂岩に囲まれた大きな空間に出た。王都で見た城のホールよりも大きいかもしれない。

 壁際ではガーディアンスパイダーが並び、人型のゴーレムがメンテナンスをしているようだ。

「もしかして、あれは俺が吹っ飛ばしたガーディアンスパイダーかな?」

「チガウ」

 案内してくれているゴーレムが答えた。

「喋れるのか?」

「私も喋れるのだから、喋れるだろう。それより、目を持ったゴーレムはいないか?」

 メンテナンスをしているゴーレムの中には頭部に魔石を嵌めたようなゴーレムがいる。他にも鉄の腕を持つゴーレムや、足が鉄の車輪になっているゴーレムなどもいたが、身体のほとんどは砂でできているらしい。

「あれで見ているのかもしれないネ。ゴーレムの目はあるみたいだヨ」

「そうか。できれば手に入れたい。取り付けてくれると助かるのだが……?」

「魔道技師は失われマシタ」

「そうか……」

 やはり現代の技術者を連れてくるしかないか。


ガーディアンスパイダーの他にも翼を付けた大きな鳥のような機械や家のように大きな鉄が動いていたが、敵意もなければこちらを気にする様子もない。


 奥には鉢植えに植えられた背丈よりも大きな多肉植物が並んでいた。鉢植えの数は多く、仕切りのようになっているらしい。

ゴーレムは鉢植えの隙間を通り、俺たちを案内してくれた。

「部長、ユグドラシールの騎士様をお連れしマシタ」

 鉢植えの先には机と椅子があり、子供ほどのゴーレムが石板を彫っていた。

「アー、ワカッた。声を出すのは久しぶりダ。魔法陣が汚れてないとイイガ、キコエルか?」

 子供のゴーレムが喋り出した。

「聞こえます。つつがなく」

 カリューが答えた。

「ならばヨカッタ。この軍事基地のダンジョンを統括しているダンジョン部長、グッセンバッハだ。残念ながら、このダンジョンには生者はいない。ゴーレムに魂を移し替えた者のみだ。冷凍保存された者たちもおそらく幾度かあった魔力枯渇によって生きてはいないだろう」

「メンテナンスをしている技師たちには意思はありますか?」

「わからぬ。いつのまにか昇天してしまう者もいる。おそらく、このダンジョンで意思がある者たちはすでに30名に満たぬだろう」

 もしかして、たった今、魔境の領民が増えたのか。ゴーレムを人としてカウントするかにもよるか。とりあえず意思の疎通ができる者はいるようだ。

「あなたがダンジョンマスターなんですカ?」

 チェルがグッセンバッハに聞いた。

「ダンジョンマスターはとうの昔に殉職した。マスターの座は空席のままだ。お前は生身の者だな? 魔族が漂流してきたか?」

「部長、生身の2名デスガ、魔力の異常数値が出ていマシタ。それから騎士様は時の番人を兼任しておられるそうデス」

 案内してくれたゴーレムがグッセンバッハに報告した。

「ああ? お前たちは……どこのダンジョンからやってきたのだ?」

「エスティニア王国からです」

「私はメイジュ王国からだヨ」

「ここにいるマキョーこと現在の魔境の主にゴーレムとして復活させられた。時の番人としての役目は引き継いだ後だ」

「すまぬ……。ダンジョンでの生活が長く、状況が把握できぬが軍の兵器使用から幾年月が経っている? あるいは植物園の暴走でもいい。いや、遺伝子学研究所の侵略でも構わん」

 魔境ではいろいろ起こっていたようだ。

「それはわからないけど、ミッドガードの移送から1000年が経っているよ」

「では、ユグドラシールはどうなった?」

「なくなって今は魔境と言われている土地だ。エスティニア王国の一部で、俺がその魔境の領主ということになっている」

「んん? おお? なにをぉ?」


 だいぶ混乱しているようなので、俺とチェルが丁寧に現在の魔境の状況をグッセンバッハに説明した。


「そうか……」

 グッセンバッハは俺たちの話を聞いて、しばらく下を向いて考えていたようだ。


「皆に報告せねばならぬ。基地というよりもダンジョンとしての方針も決めなくてはならぬようだな。しばし待っていただきたい。よろしいか?」

「構いませんが、ゴーレムの目の部品っていただけませんか?」

「そんなものでいいなら持って行ってくれ」

 グッセンバッハはすぐにゴーレムの目を用意させて、カリューに持たせてくれた。


 後日、再会を約束し、俺たち3人はダンジョンから出た。


「どうなることやら……」

「とりあえず、カリューの目は貰えたからいいんじゃないノ?」

「残っているダンジョンもいくつかあるようだな」

「ダンジョンってあんな扉一枚なのか? 見逃しているかもしれないなぁ……」

「そんなことよりお腹すいたヨ」


 夕日が迫る砂漠を俺たちはダラダラと喋りながら、走った。



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