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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【攻略生活20日目】


 一晩中、水を抜いていたが、沼の底には水が溜まっていた。

 それでもダンジョン跡と思しき小島は出てきたので、早朝から発掘を開始する。


「見てヨ。これ」

 チェルが掘り出したのは、ワニの頭骨らしきもの。ダンジョンという亜空間から出てきたもののようで、骨が雑巾で絞ったようにねじれている。

「崩れたりしてないのが凄いな」

 他にも骨は出てきたが、形が崩れているものがほとんどだ。

「ダンジョンが崩れるとこうなるのか?」

「いや、私にもわからない。事故は聞いたことがあるが、私の生きている時代ではダンジョンが崩壊したという記憶はない」

 ヘリーの質問に、カリューが答えていた。

 背格好が似ているからか、ヘリーとカリューはよく一緒にいる。

 

「なんで崩壊するんですかね? 寿命とかですか?」

 リパが何気なく聞いていた。

「ダンジョンの寿命か……。考えたこともなかった」

「ダンジョンって寿命があるようには思えないんですけど……。そもそも元は魔物とはいえ、別の形態になっているわけですから」

 ジェニファーはダンジョン寿命説には懐疑的だ。

「で、で、でも、魔境には巨大魔獣の中のダンジョンしか、今のところ見つかってないから、案外、本当に寿命説はあるんじゃ……」

 シルビアは、ダンジョンを魔物っぽいと思っているのかもしれない。

「あくまでユグドラシールで作っていた人工的なダンジョンってことでいいんじゃないノ?」

 チェルはもっとアバウトだ。

「とにかく、そのカリューが言ってるダンジョンコアってものを見つけてから考えてもいいんじゃないか?」

 俺はわからないことは先送りにしたいと思っている。

 カリューが言うには、ダンジョンコアはスライムの核のようなもので、表面や内部に大量の魔法陣が描かれているらしい。この時点で何を言っているのかわからないので、俺は諦めた。

 見ればわかるだろう。


「地中にそれらしいものはないのカ?」

 チェルが俺に地中を探れと言ってきた。

「見える範囲ではないぞ。ねじれた石板がいくつかあるけどな。もっと深く掘らないとないんだろう」

 地中はいろんな層に分かれている上に、歪んでいる。


 その後、皆、黙々と掘っていた。俺も黙々とスコップで掘り続ける。

 ねじれた石板が見えてきたので、魔力のキューブで周りの土ごと抜き取って、地面に上げた。身の丈ほどもある土塊をチェルが水魔法で削り取っていく。

「初めから、その魔法を使っていればよかったのでは?」

「確かに、そうだな」

 結果、俺が引き抜いた土塊を、チェルの魔法で土と汚れを落とし、ジェニファーたちが仕分けするという工程になった。


 出てきた石板にはダンジョンでの訓練を達成した者の名前やランクなどが書かれていたようだ。

「名前と、数字が書かれているな」

「剣闘士のランクだ。どのくらいの魔物と戦えるのか、それによって出られる大会も決まってくる」

「今でも冒険者にランクがあるけど、似たようなことをしてんだな」

「クリフガルーダでは奴隷にもランクがありましたよ」

 リパはその中でも最低ランクだったはずだ。

「イ、イ、イーストケニアでは奴隷のランクというよりも得意技能で分けていた。その中でのランクもあったけど……」

「魔族は魔力量で、自然と分けられるネ。私は気にしてなかったケド」

「どの国、どの共同体でも内部で格差はある。指令系統が上手く行かないからだ。物事が進まなくなるのだろう」

「でも、魔境では……?」

 ジェニファーが俺を見てきた。


「俺が領主だぞ。愚民どもめ」

 一応、全員を見下してみたが、皆、昼飯の話を始め出した。よく自分を見れば、一番泥だらけで、着ている物も粗末だ。

「魔境に格差はないな。もしかして、だから開拓も進まないし、人が来ないのか?」

 カリューに迫って聞いてみた。

「どうだろう……」

 1000年前の騎士を困らせてしまった。

「今、格差なんて作っても仕方がないヨ」

「確かに、何の利権もないのだからな」

 チェルもヘリーも弁当の贅沢ハムピクルスサンドを食べ始めた。

「そうだな。気長に偉くなっていこう」

 

 俺も手を拭いて弁当を食べながら、発掘したものを確認していく。

 魔物の骨に、石板、剣闘士が装備していたと思われる鉄の胸当てや剣。いずれも歪んだり曲がったりしていた。

「どう思う? なにか足りないものはないか?」

 ひとり発掘物の前で佇んでいるカリューに魔力を送りながら聞いてみた。

「足りないものか……。実は、皆が発掘してくれたものをあまり認識できていないのだ」

「ん? どういうこと?」

「いや、昨日のように水草などはっきりとした有機物なら、微量の魔力を感じ取れるのだが、ここに並んでいるはずの遺物はどうにもぼやけているというか……」

 カリューに目はない。魔力を感知しているだけなので、無機物は認識しづらいのだろう。

「微量の魔力もないのか?」

「うむ。人の残滓でもあれば、わかると思ったのだが。たくさん魔力を貰っても、感じ取れないとは……」

 ねじれた石板には魔力がないのか。


「もしかして、ダンジョンが壊れた理由は魔力がなくなったからじゃないのか?」

 魔石を発掘したことはない。もし、ダンジョンのコアが魔石で、できていたとしたら……。

「この魔力だらけの森でそんなことがあるのか……」

 カリューによると、魔境は魔力だらけなのだという。野草のほか、大きな石や切り出した肉にすら、微弱な魔力を感じるとか。

「逆に小麦には感じないみたいなのだ。小麦だけは魔境の外で交換しているだろう? やはり魔境産の食べ物は魔力量が多いみたいだ」

 ヘリーが解説してくれた。どうやら夜にシルビアと共に実験をしているらしい。

「そ、そ、それとコップも……」

「あ、そうだ。魔法陣が描いてある魔道具を使うと、カリューは影響しすぎることがわかった」

 魔力を込めると冷たくなるコップをカリューに持たせたところ、肩まで凍ってしまったとか。

「いろいろと遊んでもらっている」

「嫌なら断っていいからな」

 昼飯の後、ヘリーとシルビアは洞窟へ、寝るために戻っていった。


 俺たちは再び発掘をしようかと思ったが、せっかくなのでカリューに魔力がなくなったミッドガードの跡地を感じてもらおうと案内することに。

 魔物や襲ってくる植物をリパが撃退して進む。特に木刀で対応できない魔物はいなくなっているようだ。


 途中、岩に足を挟んだスパイダーガーディアンがどうにか抜け出そうともがいていた。砕けばいいと思うのだが、挟んだ岩には各種魔法の痕跡が残っている。魔法ではどうにもならなかったようだ。

 仕方がないので岩を拳で砕いて足を抜いてやると、スパイダーガーディアンはとっととどこかへ歩いて行ってしまった。

「ドジな魔道機械もいるもんだ」

「本当にマキョーはスパイダーガーディアンを一撃で倒せそうだな」

 背負子の上でカリューが感嘆の声を漏らした。

「信じてなかったのカ?」

「……時々、思うのだが、マキョーの強さは普通ではないのだよな?」

「もちろん、普通じゃありません」

「マキョーさんが何人もいたら、クリフガルーダは滅んでますよ」

 ジェニファーとリパは自信を持って言っていた。

「それならばいい。いったいどれほどレベルがあるのやら……」

「今は変わってるだろうなぁ……」

 冒険者ギルドで金を払えば、レベルやステータスもわかるはずだが、魔境に来る前の冒険者時代はそんなことをやったことがない。金がもったいないからだ。

「知りたくないのか?」

「別に……」

「魔力量だけなら、だいたいわかるヨ。でも、魔境では生き残れるかどうかの方が大事だし、ステータスが高くても死ぬときは死ぬと思う」

「たぶん、冒険者ギルドでは計れない数値の方がここでは必要なんですよ」

 チェルもジェニファーも特にレベルは気にしていないようだ。

「確かにそうですね。変化を受け入れる柔軟性とか、理不尽を観察する目とか、慣れる力とかはどう暮らしてもついていってしまいますよね」

 リパも襲ってくる植物を蹴散らして、カム実をもいでいた。そろそろおやつの時間か。


 スパイダーガーディアンの奇岩地帯を抜けると、ミッドガードの跡地。湖には相変わらず、『渡り』の魔物が泳いでいる。


「卵、取ってくるケド!?」

 チェルが、ダメと言われても行くという決意を見せながら聞いてきた。晩飯で、よほど卵を使いたいらしい。

「勝手にいっていいよ。俺の分も取ってきて。雛が入ってるのは巣に戻しておけよ」

「ワカッタ! リパも来い!」

「はい……」

 卵泥棒たちは、悪びれる様子もなく『渡り』の魔物に向かっていった。


「確かにここは魔力が少ないようだな」

「ミッドガードの跡地だ。どうしてこうなってるのかはわからない」

「空間ごと移送したから、一時的にこうなるのはわかるが、確かに魔境の植物の生命力を考えると不思議だ」

「ちなみに森の先、砂漠のもっと南にある、クリフガルーダってリパの出身国には、逆に魔力の密度が濃い大穴があって、バカでかい杭が刺さってる場所がある。竜人が大陸の断絶を防いだって書いてあったけど……」

「ああ! 地殻変動を止めた大杭がまだ残っているか。あれは私が生まれるよりもっと前のことだが……」

「今はもう地殻変動を止める技術なんか残っていないけどね」

「ユグドラシールでも伝説だった。ただ、どんな田舎でも親が子に教えたり、学校の教本に書いてあることだ。地質学者と空の魔法使い、それから杭を作った鍛冶屋と魔道具師の話は有名だ。伝えられてはいないか?」

「俺は知らない」

「いがみ合っていた者同士が、互いに手を取り合い大陸の危機を救ったという単純な話だが、それ以降、職業の差別意識が薄まったはずだ」

「そうなのか」

 

「ただ、大杭周辺で魔力の密度が濃くなっているとなると、再び誰かが差し込まねばならないのだろうな」

「鳥人族が守り続けると書いてあったけど、1000年前はそんなことは言われてなかったか?」

「鳥人族と言っても獣人の一種だろう。それほど特別扱いはされていなかったはずだが……」

 大杭の表面に書かれていたあの言葉は、後の世の人が書いたものだろうか。


「それにしてもここは魔物の位置もチェルたちの位置もわかりやすい」

 カリューは倒木に腰を掛けて、チェルたちに顔を向けていた。

 異常な魔境で、唯一落ち着ける場所なのかもしれない。


 晩飯はゆで卵サンドだった。




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