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魔境生活  作者: 花黒子
~知られざる歴史~
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【攻略生活4日目】


 100年前のP・Jたちについて知った後、ポールの骨を袋に詰めて埋めることにした。蘇ってこないように念入りに土を固める


「その革袋はどうするんダ?」

 チェルは卵の形をした革袋を指して聞いてきた。

「ダンジョンの可能性があると思ったら、危ないよな。一緒に埋めるか? ポールのものだったみたいだし」

「中身を確認しなくていいのか?」

「封印されているみたいだし、いいんじゃないか。触らぬ神に祟りなしとも言うよ」

「誰かに確認が取れればいいんですけどね」

「今のところ、魔境にある死体からは聞けないのだ。ポールは限界だし、カ・ジーラもパークも声すら聞けなかった」

「試したのか?」

「マキョーには言えなかっただけだ」

 ヘリーは悪びれるそぶりも見せずに言った。

「じゃあ、ヘリーが会ってない空島のピーターか、クリフガルーダのファレルか……」

「マキョーが直接、聞いてきたらいいんだヨ」

 俺も降霊術を習得しろと言っているのか。

「俺は100年前の霊に会うつもりはないぞ」

「そうじゃなくて、巨大魔獣に住んでる人たちがいるでショ」

「今のところ3年半も無駄にしてミッドガードに行くつもりはないけど? そこら辺はメイジュ王国の愚王に従うつもりだ」

「ピーターが書いていた『時の番人』はダンジョンの外にいるかもしれませんよ」

「パ、パークの手帳にあった『遺跡の護り人』という人物も気になる」

 ジェニファーとシルビアが身を乗り出してきた。シルビアはP・Jの手帳をよく読んでいたらしい。

確認すると最後から二ページ前に『遺跡の護り人はなにかと戦っていたようだ』と書かれていた。ピーターの脇にあった石板には『魔獣にゐる「時の番人」に話を聞け』と書いてあったのは覚えている。


「確かにダンジョンと書かずに魔獣と書いてあったなぁ。巨大魔獣の上で生活なんてできるのか?」

「大きいからネ」

「でも、1000年だぞ」

「1000年で4000日。魔獣の上では11年余りと言ったところか」

 ヘリーが計算をしていた。

「11年だとしても食料はどうするんだよ。魔獣の上だけでなく、ミッドガードにも住人がいるんだろ?」

「ダンジョンで育ててるんじゃないですか?」

 ジェニファーは適当なことを言う。

「そんなこと出来んのか?」

「出来なくはないと思うけどネ……」

「え!? ダンジョンって農地になるのか?」

 だとしたら、ダンジョンの卵を使って農業ができるようになるかもしれない。

「通常は無理ではないのか? ダンジョンで倒した魔物だって討伐部位しか残らないのだろう?」

「メイジュ王国だと歴代魔王の誰かが、品種改良のための実験場を作ったはずだヨ。それに、魔境の植物はほとんど魔物だから出来そうだし」

「植物を魔物化して育て、一気に討伐して収穫するってことか……」

「やっぱり魔境の農業って、ちょっとおかしいですね」

リパは引いていた。

「でも、ちょっとでも希望があるなら、ダンジョンの卵を手放せなくなってきたな」

 もし本当に革袋に入っているP・Jの遺産がダンジョンの卵だったら、魔境産の農業ができるかもしれない。自給自足ができるようになれば、移住者だって来るはず。

 ただ、ダンジョン農業について説明したチェルは浮かない顔をしている。

「どうかしたか?」

「いや、愚王の言葉が気になっててサ。誰か、『天空に広がる麦畑』って心当たりある?」

「麦畑はないんじゃないか?」

「空に浮かんでるのは、崩れた家がある小さい島だけですよ」

 空島に流刑されていたジェニファーは魔境の空を見渡せたはずだ。少ししか滞在していない俺たちとは違うものを見ているかもしれない。

「遠くに動かない雲があったとかもないノ?」

「なかったですね。毎夜、星も動いていましたし」

「1000年の間に麦畑がどこかに落下し、砂に埋もれたとも考えられるのではないか?」

「マキョー、あの鎖の周辺に麦畑の痕跡ってあったカ?」

「遺跡はあったけど、農地の痕跡はなかったと思うぞ。地中も探ったけど、ゴーレムが出てきたくらいだ」

「き、き、消えた麦畑か……。く、食われたか?」

「うん、私もシルビアと同じ考えだヨ」

 チェルとシルビアが頷いていた。

「誰が食うんだよ。麦畑ごと食うって山脈ぐらいデカい魔物でもいないと……、いるなぁ!」

 麦畑を食えるとすれば、巨大魔獣しかいない。

「巨大魔獣にもエネルギー源が必要だし、ダンジョンで農業をやるとしても土と水がなくちゃ無理だけど、空島の農地ごと取り込んだとすれば、辻褄があうんだよネ」

「でも、時を飛んでいるとはいえ、11年だぞ。さすがにエネルギーも減ってるだろうし、土が痩せるんじゃないか?」

 同じ品種を育て続けると、土の栄養が偏って病気になりやすくなる。高度な文明のミッドガードだから、良質な肥料もあるだろうし輪作もしているとは思うが……。

「ダンジョンって隔離された空間なんだよな?」

「そうだヨ。マキョーは農家の息子だから見過ごせないカ?」

「うん、ちょっとな。単純に、今もし自分がミッドガードに住んでいたとしたら、食料とエネルギー不足で不安にならないか?」

 俺の問いに、全員が頷いた。

「魔境の領主としてどうするつもりだ?」

「領主としては、巨大魔獣の出現なんか迷惑極まりないよ。領地を散々荒らしていくしね。ただ、もし今でもそこに人が住んでいるとしたら、それは言ってしまえば流民だよな?」

「過去からの流民だネ」

「高い技術力を持った流民ですね」

「りょ、領主として助けるつもりか?」

「助けが必要なら、助けよう。助けが要らないようなら、今後、触らない」

「無報酬で助けるつもりですか? 僕たちは聖人ではないし、ミッドガードの奴隷でもないですよ」

「報酬は技術力と歴史の知識だ。ちゃんと足元見てふんだくってやろうぜ」

 俺とリパは互いに顔を見合わせ笑った。

「どっちにしろ、マキョーが巨大魔獣に乗り込めなきゃ、どうにもならないけどネ」

「支援物資も決めておかないといけませんよ」

「交渉材料は意外に少ないかもしれん。それから、あと何日で来るのかもしっかり計算しておこう」

「い、い、一度、訓練施設に行って、野菜の種を取り寄せたほうがいいかもしれない」

 急に女性陣が動き始めた。俺とリパは何をしていいのかわからず、おろおろしてしまう。


「マキョー、準備と魔獣登りの練習!」

「リパ! 何もすることがないなら、料理でもしていてください!」

「「はい……」」

 井戸の底にある地底湖がにわかに活気づき始めた。



 俺は、チェルと地上に出て、空中に浮かばせた無数の土壁を登る特訓に入った。

「相手は動いているんだから、鎖と違って揺れるのも衝撃も当たり前だからネ!」

「はい!」

 正直、初めのうちは壁に張り付くこともできなかった。


「なめてんのカ! 魔力を使えヨ!」

 チェルに言われるがまま、魔力を使うと土壁がぶっ壊れてしまった。

「壊してどうするんだヨ!」

「チェルの土壁が弱すぎるんだ!」

「バカいうナ! 巨大魔獣を殺すつもりか!? 魔力の性質を変えるんだヨ!」

「ああ、そうか!」

 粘着力のある魔力をイメージして、壁に張り付く。

 顔面は痛いが、バシッと張り付く感覚があって面白い。ただ、手だけで身体を支えていると体勢が保てず、ずり落ちてしまう。落ちる前に登りたいのだが、魔力を切るタイミングと身体のバランスが難しい。

 全身運動で普段使っていない筋肉を使うせいか、すぐに疲れる。揺れや衝撃にもなかなか対応できない。ナイフでもあれば、突き刺しながら登れるか。

「どうした、マキョー? そんなもんカ?」

 教官は鬼のチェル。

「ちょっと待て。俺だけで巨大魔獣に向かわせる気か?」

「当たり前だロ! 他に誰もできないんだから」

「いや、チェルだってそれだけ魔法が出来るんだから、登れるはずだ。支援物資は多い方がいいし、2人で行けば俺が騙されるのも回避できる」

「無理だロ! 私はガーディアンスパイダーを一人では倒せないんだゾ。巨大魔獣の上に大量にいたらどうする?」

「その時はその時だ。リパの空飛ぶ箒を借りて、脱出すればいいさ」


 ちょうどよく支援物資のリストを書いたジェニファーが井戸から出てきた。


「出来ましたよー」

「ちょうどよかった。ジェニファー、チェルも巨大魔獣に登れそうだよな?」

「ええ。そのための特訓じゃなかったんですか?」

 ジェニファーは元からチェルも行くと思っていたらしい。

「ほら、な?」

「ジェニファー、私には無理だヨ!」

「いえ、ヘリーさんが言うにはまだ巨大魔獣が来るのに一週間以上、時間はあるそうですから、大丈夫です。私たちだって変われたので、チェルさんもきっと変われますよ。ここは魔境ですから」

 ジェニファーは悪魔的な笑みを浮かべていた。

「ジェニファーだって、登れるんジャ……」

「私は発射台にはなれるかもしれませんが、お二人と比べるとどうしても身体能力と魔力が足りません。無理ですね」

「大丈夫だヨ。ここは魔境なんだからサ」

「魔境だからです。今伸びているところを伸ばしたいので、方向をブレさせたくないんですよ。チェルさんはどこまでも魔法を伸ばせるからいいですよね」

「……そうかもネ」


 ジェニファーの言葉もあって、チェルも巨大魔獣に登ることになった。


「あ、これが支援物資のリストです。食料多め、種もいろんな品種を持って行った方がいいと思います。魔石も各種必要だと思いますが、武器や武具などは向こうの方が優れているものが多いかと」

 俺はリストを受け取って、すぐに地底湖に戻って準備を始める。魔境にはないものが多いので、一度訓練施設に行くことに。小川を渡ったところにあるエルフの交易小屋が機能していたら、早いのだが、期待はできない。


「シルビア、ナイフの柄だけでもたくさん作っておいて貰えるか?」

 魔力で形作れば、刃はいらない。

「ほ、骨製がいいか? そ、それとも木材?」

「どっちでもいいけど、丈夫で使い回しが利くのがいい」

「りょ、了解」

 シルビアはすぐに取り掛かっていた。失敗することも含めて、いくつか用意しておいてもらいたいので助かる。


「マキョー、おそらく巨大魔獣の出現まで、あと12日ほどはあると思う。ただ、出現場所やルートの予想も必要だ」

 ヘリーが簡単な魔境の地図を描いて見せてきた。遠くで出現したら、巨大魔獣を追うだけでも時間がかかる。

「わかった。巨大魔獣の足跡を追うんだな。なるべく付き合うよ。リパとジェニファーは、ヘリーを手伝ってやってくれ」

「わかりました」


 リパが作った夕飯を食べて、リュックを背負い西へと出発。

井戸の外ではチェルが、土魔法で無数のはしごを作っていた。無謀な挑戦をしているが、やってみないとわからないこともある。


岩石地帯から森に入る頃には東の空に一番星が輝いていた。



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