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魔境生活  作者: 花黒子
~長いプロローグ~
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【魔境生活10日目】



 昼寝のせいで、まったく眠れず、ずっとキングアナコンダの上顎の牙を研いでいた。一つは銛にしたが、もう一つはサーベルにしてみた。弾力性があって固いという特質を活かしてみたのだ。

 外に出て、ビュンビュン振っていると、樹の枝や、虫の魔物程度なら、余裕で切れる事がわかった。これからは、斧ではなく、このサーベルで、魔物を倒していこうと思う。


「ギョェエエエエ!」


 遠くの方から、魔物の叫び声がする。

 魔境、初日から聞こえていた声だが、その正体を俺は知らない。

 レベルも上がったようだし注意して行けばなんとかなるかもしれないと思い、まだ日も昇らない魔境の森をかき分けるように潜ってみた。

 

 すぐに道を見失って後悔した。日頃どれだけ、目に頼って生きているのかがよくわかる。

 五感を研ぎ澄まし、不意にやってくる魔物の攻撃に備えた。5分もやってると、かなり体力が消耗する。


 ただ、何度も繰り返しているうちに、目も暗闇に慣れるし、消耗の度合いも減っていく気がした。

 音が鳴ったら、その方向にサーベルを振ってみる。たいてい、魔境の植物が俺を狙って、攻撃を仕掛けてきていた。魔境では魔物よりも植物に警戒しないといけないのだから、気が休まる暇がない。


 最短最速でサーベルを扱っていると、振り方や突き方を自然と覚えていった気がする。完全自己流、いや魔境流かな。植物の根を狙う。魔物なら動きの起点となる腰や膝を狙う。


 向かってくる敵なら、対処できることがわかった。

 とにかく、道がわかる沼の波の音がする方へと向かう。


「ギョェエエエエ!!!」


 叫び声は近づいたが、正体を探ろうとは思わない。沼地まで辿り着いた時には、半径5メートルくらいなら周囲の状況を把握できるようになっていた。なんとなくだけど。

 無駄ではなかったと思いたい。


 沼地の方から、ぼそぼそと人の話し声のようなものが聞こえてきた。


 こんな魔境に一体誰が?

 ちょっと待てよ。

 現在の魔境の世帯主は俺なのだから、追い出さなければならないのか?

 魔境に好き好んで不法侵入してくるような奴なんかいないと思って考えてなかったが、変な冒険者ならありうる話なのかもしれない。


 とりあえず、「不法侵入ですよ」と伝えて、帰らなければ「いたければいていいです」と言おうか。

 別に、人間と争う気なんかないのだ。


「すいませーん! あの~…」


 森から飛び出した俺が見たものは、上半身が人間の女で下半身が蛇の魔物。

ラーミアの群れだった。魔境に来た時に、ベスパホネットの針を入れた肉を食べた間抜けな魔物だが、動いている時は油断してはいけない。目を合わせると石化にされる。


「しゃ~お~」

「らおうるるる~」


 ラーミアの群れが、月光を浴びて、なにやら踊っていたらしい。

俺に気づいたラーミアたちは臨戦態勢をとる。


 まさか、同じ蛇の魔物同士、キングアナコンダの仇討ちでもしに来たのだろうか。

 目線は地面の影。月明かりがある夜でよかった。

 襲い掛かってくるラーミアの尻尾を難なくサーベルで切り落とし、心臓や首があると思われるところを突いていく。


 一匹倒したら、距離をとり、襲い掛かってくるのを待つ。

 焦れて、目線をあげたら石化にされる。


 しびれを切らしたラーミアたちは一斉に襲いかかってきた。

 俺はなりふり構わず、迫る影の方向へ乱れ突きを繰り出していった。


 8匹ほど倒したあと、敵の数を数えてなかったことを後悔した。

 もう襲い掛かってくる様子も、気配もしなかったが、ここで目線を上げて石化されたら一巻の終わりだ。仲間が居て、石化を治してくれるわけではないのだから。


 一旦、森へと走り、草陰に隠れることにした。

 やはりというべきか、一匹のラーミアが追ってきたので、サーベル一閃。


 ザンッ!


 首を飛ばした。

 まだ、仲間がいるかもしれないので、明け方まで草むらの影に隠れ、空が明るくなってから、家に帰った。

 神経を使ったからか、帰ったらすぐ寝てしまう。

 

 昼ごろ、もそもそと起きだして、亀汁と肉野菜炒めを食べる。

 昨日作った亀汁は特に酸っぱくなるということもなく、ずーっとうまい。


 畑の様子を見に行くと、オジギ草がデカくなりすぎていた。

 ある程度、地面に日光が当たるように葉を切り落としたが、ぐんぐん伸びている。

 オジギ草に守られて、軍事施設で交換した野菜の種が発芽し、いくつか双葉になっているものもあった。


 沼から水を汲んできて、水をやる。相変わらず、雑草のカミソリ草は生えてくるので、刈り取った。軍手をしていても布が切れてしまうので、革の手袋が必要だ。

 刈り取ったカミソリ草は、投げナイフの練習用にでもしておこう。


 杭はあまり意味がないのかもしれないが、落とし穴にはワイルドボアがかかっていた。

 解体して燻製に。内臓は沼に投げる。

 魚の群れがよく集まってくるようになってしまった。魚の養殖でも始めようか。


 昨夜のラーミアの死体を見に行ってみた。

 鳥の魔物のデスコンドルがついばんでいる。ほかにはトカゲのような亜竜の魔物が全身を飲み込んでいるところだ。


 デスコンドルは確か、即死系の魔法を使ってくる魔物だったはずだ。トカゲの方は、コドモドラゴンだろう。


 牛のようなサイズでコドモなどと呼ばれているのだから、普通のドラゴンはどんなサイズなんだ、と思う。話だけはたくさん聞いた。噂では山と同じサイズだとか、かつて存在した大陸はドラゴンの死体でできているとか。冒険者とは想像力が豊かなのだ。


 即死系の魔法もキングアナコンダの胸当てが防いでくれるだろう。

 胸当てを叩き、魔物たちの前に飛び出すと、手当たり次第にサーベルで斬りつけていった。

 やはり、斧と違って、サーベルは軽い。切れ味も落ちない。デスコンドルが飛び立つ間もなく、首を飛ばしていく。コドモドラゴンの眉間に一突きして、戦闘は終了。


 全て倒すのに、1分もかからなかった。魔境の入口付近なので、魔物も弱いのだろう。P・Jの手帳でも、『ザコ』とされていた。

 

 解体しているうちにナイフが欠けた。連日の解体で、流石に酷使しすぎたようだ。

 とりあえず、ラーミアの分の魔石も含めて回収し、家に帰った。


 斧を作った時と同じように、ナイフの型をつくり、ヤシの葉の樹脂を流し込む。明日には良いナイフが出来上がっているはずだ。

 実際、斧はいまでも非常に重宝している。

 せっかくなので、スペアや形の違うものなど、いくつもナイフを作っておく。戦闘よりも圧倒的に解体の方が時間を食う。


 その間に、飯の支度をする。

 やはり仲間がいたほうが、分担作業ができるから良いだろうか。

 昨夜のラーミアとの戦闘でもそうだったが、仲間の必要性を感じ始めてきた。

 



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