【魔境生活9日目】
篝火を焚いて、夜通しキングアナコンダとヘイズタートルを解体。結局、キングアナコンダは鱗の隙間に杭を打ち込み、徐々に身体を裂いていった。
腹の中には何も入っていなかったが、尻尾の方に小さな魔石が大量に入っていた。キングアナコンダが消化したものが残っていたのだろう。
皮と肉の間にナイフを入れたが、まったく刃が立たない。仕方がないので肉側から削ぐ様に皮と分けていった。
ヘイズタートルは、四肢を切り落とし、腹部分に薪を組み、3時間ほどじっくりと焼いた。もろくなったところを、杭を使って割り、中身を取り出す。
解体している最中、カブトムシの魔物であるヘルビートルや、蛾の魔物のビッグモスなどが火の灯りに誘われてやってきたが、難なく斧で倒せた。
ビッグモスの鱗粉は麻痺薬になるので、しっかり回収。タマゴキノコと合わせると強力な麻痺薬を作れそうだ。
内臓や血は沼に流した。
だからか、深夜から朝まで肉食の魚たちが、水面を叩くような音を立てていた。軍手は真っ赤に染まり、体中から血の匂いがした。
沼から水を汲み、自分の体と、切り出した甲羅や蛇皮を洗った。甲羅はちょっとしたテントの屋根になる。蛇皮はいくらでも使い道がありそうだ。
とりあえず、P・Jの武具を参考に胸当てでも作ってみようと思う。
肉を味見したが、ヘイズタートルは非常に美味で、キングアナコンダは味が淡白で、噛み切るのにかなり時間がかかった。
家まで何回も往復して、蛇皮や肉を運び、燻製にする。肉を冷やせるような魔法陣でもあればいいのだが。P・Jの手帳に描いてあるかもしれない。
魚は開いて、天日干しにしておいた。
キングアナコンダとヘイズタートルの魔石はどちらも大きかったが、あまり興味がなく、その辺に置いておく。水を張った鍋にヘイズタートルの肉を入れて蓋をし、かまどに火を入れた。
日はすでに高くなっていた。
スープが出来るまで待っていようとベッドに座ったら、一気に睡魔が襲ってきて、意識を失った。
起きたのは、夕方近くになっていた。徹夜で解体していたので、疲労が溜まっていたようだ。
鍋の中はトロトロになった亀汁が出来上がっている。塩の味付けだけだったが、信じられないくらい美味しかった。
起き抜けの身体と頭がスッキリ。疲労感が消えた。目もはっきり見えるようになった気分。
軽くストレッチをしてから畑の様子を見に行った。
やたらとスイマーズバードの羽が散らばっているところをみると、オジギ草が食べたらしい。実際、オジギ草は昨日よりも成長しているように見える。
地面を見ると、すでに芽が出ているものすらあった。
「いったい、どういう土なんだ?」
成長が恐ろしく早いようだが、とりあえず順調だ。
罠には特に何もかかっていなかった。
昨夜、解体した場所に行ってみると、昆虫系の魔物が大発生していた。
ヘルビートルやビッグモスはもちろんのこと、見たことがないサイズのベスパホネットや、キラキラしたタマムシの魔物(名前は知らない)など、地面に広がっている血に群がっている。
こちらに気づいたヘルビートルが攻撃を仕掛けてきた。血によって好戦的になっていたのかな。
昆虫系の魔物は、腹と胸の隙間や頭部など、脆い部分がわかっているので問題もなく全て殲滅。自分のレベルがどのくらい上ったのか定かではないが、虫の魔物の動きくらいなら捉えることが出来るようになっていた。
食べる気にはなれなかったので、魔石だけ回収して、あとは沼に放り投げる。
再び、魚たちが水面に顔を出して取り合っていたが、急にクジラのような大きな魚が、俺の背丈ほどあるヘルビートルの死体を一口で飲み込んでいた。
きっと、沼のヌシだろう。
いつか釣ってみようと思ったが、主を釣れるほどの釣り針も釣り糸もまだない。すでに、日が沈み始めていた。
虫の死体も釣りの餌くらいにはなるか。
「今度、ミミズの魔物を探そうかな」
まったく眠たくはなかったが、とりあえず帰宅。
完全に昼夜逆転の生活になってしまった。
干し魚を炙って食べながら、蛇皮を鞣して革にする。
P・Jの手帳を読むと、キングアナコンダの魔石は耐魔法の効果があり、革もほとんど魔法を通さないらしい。
正直、魔境で魔法を使われるとは思わないが、あって困るものでもないだろう。
鞣した革で、形の悪い胸当てを作る。
とりあえず、心臓に向けられた魔法は防ぐことが出来そうだ。
まだまだ、蛇皮は余っていた。大きな亀を飲み込もうとするほどの蛇だから、俺が食べられても腹の足しにもならなかったろう。
ブーツや帽子などを作ろうと思ったが、胸当ての出来の悪さに自分で作ることを諦めた。
今度、訓練施設に行った時、職人を紹介してもらおう。
ひとまず、キングアナコンダの牙を曲げて、大きな釣り針を作ることに。
曲がりはするものの、形状記憶しているため、すぐに戻ってしまう。
しかもかなり固い。鉄のナイフでも傷がつかなかった。
仕方がないので斧で叩き返しを作り銛にした。
沼には魚の魔物が多いことがわかったので、少し魚肉も食べていこうと思う。
夜風に当たろうと、家を出ると、月が中天を移動していた。