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ある一人の物語  作者: シンヤ
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始まり

 人は一人では出来ていない。それをこんなにも体感している人間がいるだろうか。いや、いない。皆も他人(ひと)の言動や行動に引っ張られてしまうことはないだろうか?少しはあるだろう。自分が自分で出来ていない。自分に自信があると偽りながら生きている。それが………俺だ。







『ウボォァァァァァ!』


 オークが振るデカい棍棒を短いステップで避ける。隙をさらしている間に側面に回り込み、剣で腹を突き破る。そして、そのまま横に振り抜き腹を掻っ捌く。振り抜いた剣で首の側面を切り裂き、絶命させる。


「やっと死んだか」


 体中が痛みを訴えてくるが、無視してこの場を離れなければいけない、血の臭いにつられて獣たちが寄って来るからだ。幸い、オークの武器が棍棒だったので、打撃を受けるだけですんだ。なので、血は出ていないのだ。


「なんで、こんなことになったんだ………」


 元はといえば、『あの依頼』を受けたことが始まりだったんだ。後悔してもしきれないが、このまま依頼を遂行するしかない。この空間から早いとこ脱出したいからな.



「今思えばすっげぇ怪しかったよなぁ」


 『あの依頼』を受けたのは昨日の昼まで遡る。







「あの、ほんとにこの依頼を受けるんですか?」


「マジで受けるよ」


「でも、どう考えても怪しすぎますよ…」


「確かに、オークを倒すだけにしては報酬が高すぎるけど、大丈夫さ」


 オークを倒すだけで、3000ルーンも稼げるなんて確かに怪しいが、その時はどうにかなるさ。金は上から、大金貨、金貨、銀貨、銅貨、青銅貨、石貨に分けられている。大金貨から順に、10万ルーン、1万ルーン、1000ルーン、100ルーン、10ルーン、1ルーンと下がっていく。それぞれ100枚で次のランクの貨幣になる。30000ルーンといえば金貨3枚だ。だいたい、一般庶民の半年の給料程度だな。大金貨を見ることなんて、冒険者や商人、貴族程度なものだろう。


「それに、オークの数も明記されてないなんて…」


 オークといえば中堅冒険者の俺でも一人で狩れる程度だ。ちなみに、冒険者には等級というものがある。上から、白金、金、銀、銅、青銅と分けられている。俺は銀等級だ。まぁ銀等級の、ちょうど真ん中くらいの実力しかないが…。


「まぁどうになかなるって。とりあえず受諾してくれよ」


「はぁ…、わかりましたが、どうなっても自己責任でお願いしますね」


「わかってるよ」


 そう言い残し、受付のカウンターから冒険者ギルドの出口へ向かおうとする。


「うわッ!」


 突然、目の前から小柄な人物がぶつかってきた。俺の目の前には、大きくて長い耳が揺れているので十中八九、兎人族(ラビットぞく)だろう。しかもまだ幼い。なぜそう判断をする事が出来たかというと、身長が低めな俺より、更に身長が低かったからだ。


「あぶねぇな。おい君、あんまり走ってると今みたいにぶつかっちまうぜ。俺だからよかったが…」


 そう、冒険者にはいろんな奴らがいるのだ。俺みたいに温厚な奴、短気な奴、頭のおかしいやつなどなど上げたらきりがない。例えばこの子がぶつかったのが俺ではなく、短気な奴だった場合、その場で殴り飛ばされていても不思議ではないのだ。


「ご助言ありがとうございます!それと、すいませんでした!では!」


「おう!気をつけろよー!」


  その子はそのまま受付の方に走って行った。


「それにしても元気な子だったなぁ」


  マジで変な輩に捕まらなければいいが………。


「まぁ、俺には関係の無い事だな」


 そう呟きながら、ギルドを後にした。








 俺こと、レイルは出発の準備を整えるために、ギルドから出発した後、この王都グランの大通りを通り、頼んでいた剣を受け取るために、鍛冶屋に向かっている。この大通りには食べ物の屋台が立ち並び、多くの人間や人種が闊歩している。鎧を着た人間の騎士、狼人族(ワーウルフ)の傭兵、鍛冶屋のドワーフ、容姿端麗なエルフなどなどだ。ワーウルフの女性は人間に耳と尻尾が生えた様な姿だ。男性のワーウルフは筋骨隆々の狼男といったところだな。ドワーフは男女でそんなに違いがなく、男性はがっしりとしていて、女性は丸みが強めの体形をしている。エルフは人間の耳が尖ったようになっており、男女ともに美男、美女である。若干の隔たりはあるものの、“ほぼ”すべての種族が仲良く暮らしている。なんでもその昔、『転生者』とかいう、伝説の勇者様が、色々な種族を率いて、邪神を倒したから、今、世界は平和で皆が仲良く暮らしていけるのだとか。まぁ俺は一般大衆向けに作られたおとぎ話だと思っている。そんで、王都は円状になっていて、内側から、王城、貴族街、庶民街、庶民街となっている。庶民街が二つもあるのは、それだけ庶民が多いということだ。無論、ギルドがあるのは庶民街である。


「親父。頼んでた剣はできてるか?」


「レイルの坊主か。おうよ、頼まれてた剣はできてるぜ」


 このずんぐりむっくりな体系をしたオヤジは鍛冶屋のドワーフだ。俺が駆け出し冒険者のころからお世話になっているんだ。なんでも自分は王都で一番腕がいいらしく、時々思い出したように、俺などの客に話している。信じていないが………。


「これが、魔鉱でできた剣か………」


「おうよ、そこら辺の鉱石で出来た剣とは、わけがちがう」


 そう、この剣は『魔鉱』でできている。魔鉱とは、鉄鉱石や銀鉱石などに魔力が含まれている物の事を言う。俺がたまたま拾ってきた魔鉱は魔力の含有率もそこそこ良く、澄んでいてとても綺麗だった。


「結晶の魔鉱で出来てるから綺麗だろう?刀身は全て魔鉱で作ってある。岩程度なら簡単に切れるだろうよ」


「まじか………。俺も運が良かったぜ」


 オヤジの言っている通り、本当に運が良かった。本当は、刀身の全てを魔鉱で作れるほどの量なんて滅多に採れないのだ。しかも、蒼緑がかった結晶の魔鉱で作ってもらったので、刀身がまるで月光を放出しているようで、その美しさに魔力を感じるほどだ。本当に魔力はこもっているんだがな。


「じゃあなオヤジ、また来るぜ」


 俺は背中にオヤジの返答を聞きながら、この店を後にした。





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