第三話
インターホンが鳴る
ドアを開ける
01マキ「…なんでお前がここにいるんだ」
02ツキ「………っ!」(ふんす!って感じで意地でも帰らないぞ!という気持ち)
部屋の中
03ツキ「あの日は本当にごめんなさい!!」
04シロ「………」
05マキ「………」
06ツキ「皆さんに折角お礼をしたかったのにあんなことに…」
07タケ「君が謝ることじゃないだろ、マキも大人げなかった」
08マキ「謝るならお前じゃなくてアイツだアイツ。なんでお前一人で来てんだ」
09ハナ「そーだよ、どうやってきたの?」
10ツキ「ここの住所メモしてる紙を見つけたの。多分ミコトが私を迎えに来る時に書いたやつ。あとは携帯でマップを開いて…」
11シロ「なんにせよ、無断で来てるんでしょ。ミコトさん、また探してるんじゃない?グチグチ言われるの、君だけじゃないんだけど」
12ツキ「………っ」(さっきと同じ感じ)
13タケ「シロ、言いすぎだ。そんな言い方はないだろ?ツキちゃんもわざわざ来てくれたんだから」
14ツキ「シロさん、ごめんなさい。あんなに良くしてもらったのに…」
15シロ「早く帰った方がいいよ。僕は部屋に戻るから」
シロ退室
16ツキ「シロさん…怒ってますよねきっと…」
17タケ「いや、何も思ってないさ」
18ツキ「え?」
19ハナ「直接聞いた方がいいとは思うけど、関係ないところでツキちゃんが傷付くこともないと思うしね。シロってね、感情がないんだよ。」
20ツキ「感情がない…」
21ハナ「いわゆる無感情ってやつ。脳の障害ではないみたいだから、どっちかっていうと精神的にそうなっちゃったみたいでね」
22タケ「そう、だから君が気に病むことはないんだ、わかったかい?」
23ツキ「………でも。でも、シロさんは私に色々お話もしてくれましたし、優しい言葉もかけてくれました。感情がないなんて…そんな風には…」
24マキ「じゃあ直接本人に聞きゃあいいじゃねーか」
25ツキ「え?」
26タケ「マキ、それは」
27マキ「思ってることがあるのかどうか、シロに聞いてこいよ。何か言われたら俺が良いっつったって言えばいい。」
28ツキ「…わかりました、ありがとうございます」
ツキが退室
29タケ「……どういうつもりだ。俺達に関わるなと一番言ってたのはお前だろ」
30マキ「まあいいだろ、自分で確かめりゃ納得もいくだろうし。最もお世話になったシロに言われりゃあんな強気にももうなれねーだろ?」
シロの部屋 ノック
31ツキ「シロさん、ツキです。………開けていいですか?」
32シロ「いいよ」
扉開ける
33ツキ「シロさん」
34シロ「まだ帰ってなかったんだ、ミコトさんに迎えに来てもらう?」
35ツキ「いいえ、私はシロさんとお話したいんです。だからまだ帰りません」
36シロ「ふうん、僕も君も怒られるのは嫌だから。そこは配慮してね。」
37ツキ「はい!」
一緒に座る
38シロ「で、何を話したいの?」
39ツキ「シロさんの事です。」
40シロ「僕のこと?」
41ツキ「シロさんは感情がないって皆さんが仰ってて」
42シロ「うんそうだね。君のこと傷つけてたりしたら謝るよ。」
43ツキ「そんなことは無いです!シロさんはとっても優しいので」
44シロ「その優しいっていうのもよく分からないんだよね。僕そんなつもりもないし」
45ツキ「うーん、でもそんなつもりがないのに人に優しく出来るってすごいと思います。」
46シロ「そうなのかな。………前、君が僕に言ってたことで気になったことがあるんだ。」
47ツキ「なんですか?」
48シロ「僕の顔のこと、綺麗って言ったでしょ」
49ツキ「あ…はい、な、なんだか恥ずかしいな…」
50シロ「なんで君が恥ずかしがるのさ。それ、どういうところが綺麗って言ったの?」
51ツキ「えっ!?…えっと…そうですね、鼻も高いし…でも一番綺麗だと思ったのは目ですかね。」
52シロ「目……そう、なんだ。」
53ツキ「どうしてですか?」
54シロ「…僕、自分の顔見たことなくてさ。父親に少しでも似てるのかと思うと怖くて見られなかったんだ。」
55ツキ「…シロさんのお父様って」
56シロ「ああ、うん。凄い酷いやつでね。母親に暴力を振るってたんだ。それをずっと見てきて助けられなかったから僕は僕を許せない。あの…父親の目も、忘れられない。」
57ツキ「それで自分の顔を見ないように…?」
58シロ「うん、怖いってのはそういうこと。僕はいつも母親に守られてばかりでね、弱い母親が傷付いているのに僕が笑ってちゃいけないし、泣いたら余計にあいつを怒らせる。…だからかな、僕が感情を出さないことに慣れたのは」
59ツキ「………」
60シロ「父親がふらっとどっかに行ったと思ったら死んだって聞いてさ、ほんと清々したよ。でも、今でも夢を見る。僕はあいつの子なんだって思い知らされる。同じように、周りの人に手を上げることもあるかもしれない。そんなことするくらいなら始めから関わらない方がいいって思って…」
61ツキ「うん、やっぱり」
62シロ「え?」
63ツキ「そういうところですよシロさん、私が貴方を優しいって言っているのはそういうところなんです。自分が怖い思いをしているのに、それを隠して周りを守ろうとしてる。」
64シロ「違う、僕は自分を守ろうとしてるだけで」
65ツキ「それが結果的に人に優しくなっているならそれは素敵なことだと思います。でもシロさん、私シロさんに感情がないなんて少しも思わないよ」
66シロ「え…」
67ツキ「一番最初に話しかけてくださった時も、部屋でお話してた時も、すごく話しやすいなって思ってたんです。それはシロさんが私を遠ざける為に感情を出さないようにしてくれてたのかもしれないけど、でもその分、話してくれることは全部シロさんの本心なんだなって伝わってたから。」
68シロ「………っ」
69ツキ「私ってこういう立場だから、人とはお話しなくても人がたくさんいる場所には行くことがあって。その人達の口から出る言葉って全部嘘っぽいんです。それに私も嘘の笑顔で返すだけ。あ、そう思うとちょっとシロさんと似てるかもしれないですね。」
70シロ「君と…僕が…」
71ツキ「はい。感情がないって、そういう嘘みたいな言葉とか笑顔とかそういう事を言うんじゃないかなって思うんです。逆にシロさんの言葉はシロさんが意識して感情を入れてなくても、無意識に思いが詰まってる。それってほんとに凄いことですよ!シロさんにしかできないことです。」
72シロ「………」
73ツキ「お父様の目がどれほど恐ろしいものだったかは知りません。でも、私は、シロさんの真っ直ぐな目が大好きですよ」
74シロ「………(少し涙を零す)」
75ツキ「え、ごごごめんなさいシロさん…!悲しい思いさせちゃいましたか…?!」
76シロ「あれ、……僕泣いてるんだ。困ったな、……っ……嬉しいよ、すごく…」
77ツキ「…よかった。」
家の外
78ミコト「本当にお騒がせしました。もうこちらには来させないようにしますので。」
79タケ「あんまり怒らないであげてください。ツキちゃんも謝罪のためにわざわざ来てくれたんだし。どちらにも非はありますので」
80ミコト「…恐縮です。」
81ツキ「シロさんシロさん!」
82シロ「なに?」
83ツキ「お願いがあるんです」
84シロ「……ああ」
85ツキ「またねー!!!」(遠くに)
86ミコト「またね、じゃないですよ…、勝手にどこかへいくのだけはやめてください。あなたに何かあったら私は…」
87ツキ「大丈夫だよミコト。もう勝手には行かないから!」嬉しそうに
88シロ「………」
89タケ「シロ、お前よく連絡先なんて交換したな?そんなこと今まで……え」
90シロ「今までは、ね」少し嬉しそうに
91タケ「シロ…お前…笑っ…」
92シロ「早く家に入ろう兄さん。」
93タケ「あ、ああ……」