町の下の方で
久しぶりの短編作品になります。『これは何もないことはない僕らの町の話である』という作品の中で、杏子について調べたので、それを題材に小説を書いてみました。
初夏の鋭い日射しが照り付けている。
7月、俺は親戚の農家の家に泊まっていた。親戚(以後、仁さん)は杏子を育てているそうだ。
「圭介!杏子の手入れに行くべ!はよ降りてこい!」
俺がこの家に来て2日目、俺は仁さんに連れられ杏子が育つ山に入っていった。
「圭介、ここからが家の敷地じゃ。しっかり撮ってくれや。」
「分かりました。じゃあ早速撮って行きます。」
俺は大学を卒業してプロのカメラマンになった。今はその仕事の一環で仁さんの作業風景を撮りに来たのだ。
『パシャ』
一つ一つの作業を丁寧に撮ってゆく、この時間が堪らなく好きだ。
自分が残しておきたい時間をカメラというタイムマシンの中に残してゆく。すると仁さんが、俺にこう切り出した。
「圭介や、撮ってるだけじゃ完全には分からんよ。どうだ?休憩がてら手入れ手伝ってみんか?」
「あっ、はい。分かりました。」
俺は仁さんに杏子の手入れの仕方を教えて貰うことにした。
「この杏子達はもう20年になるからたくさん実がなるんだ。だがな、あんまり実が多いと根からの栄養が分散する。勿体無いが少し数を減らさないといけないんだ。これを摘果って言うんだ。この畑は結構広いから頑張るぞ。」
「分かりました。」
俺は仁さんと一緒に摘果をはじめた。 それは写真を撮ってるのと同じ感覚だった。
「よし、こんな感じかね。あぁ二人だと早いわ。じゃあもう暗くなるから下に降りようか。」
~その日の夕食~
「よし、じゃあ食うか。いただきます。」
「いただきます。そういえば仁さん」
「どうした圭介?」
「俺、急に帰らないといけなくなったんです。」
「いつ帰るんだ?」
「明日の一番列車です。」
「 そうか…寂しくなるな。」
仁さんの顔が寂しげだった。
「でもまた来ます。俺、杏子が好きになったんで。」
「じゃあそれまで楽しみにしとかないとな。また摘果の頃にこいや。それとも花が咲く頃か?」
「花が咲く頃に来ます!」
「そうかいそうかい。じゃあ気を付けるんだよ。ご馳走さま。」
「ご馳走さまでした。」
次の日の朝、朝食を終え駅まで仁さんが送ってくれるというので、送って貰うことにした。
「よし、ついだぞ。」
「ありがとうございます。じゃあ、また。」
「あぁまたな。待ってるからよ。」
杏子の香り漂う町の下の方で俺はここに帰ってくる事を心に誓った。
最近、町や村の過疎化が進んでいます。その中で何か自分にできないかな?と思っています。いつか過疎化を題材に小説を書きたいですね。
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