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殺人鬼と魔王



 鏡花水月。マオの能力は正しくそれだろう。見えているのに、そこにいるはずなのに、触れることができない。如何なる存在であろうと彼女を侵すことなどできはしない無敵の力。影法師がその力を使わなかったのは、これがマオの意識に依存することと、俺とマオに契約としての繋がりがあったからだろう。


「行くぞ、マオ」


「うむ!」


 壊れかけの身体を動かし、疾走する。防御も回避も必要ない。今の俺たちには誰も触れられないのだから。展開される魔術は宇宙を埋め尽くしていく。もしかしたらこの中のどれかにマオの能力に対抗するものがあるのかもしれない。だとしても、慎重になど行くつもりはない。もう時間がないのだ。この身体の総てが崩れるより早く、奴を殺さなければならない。

 まるで豪雨のように降り落ちる魔法の雨の中を疾走する。魔術が触れる度に、鏡が割れる音が響き、マオの能力が発動する。この魔法陣の空を見る限り、奴にはまだまだ余裕があったのだろう。ならば、もし彼女がいなければ、俺は奴に辿り着く前に倒れていたに違いない。


「ありがとうな、マオ」


「ふへへ、もっと頼ってもいいんじゃよ?」


 俺の言葉に照れながら笑う彼女に笑みが零れる。行ける、これなら終が来るより早く奴を殺せる。

 魔術の雨が途切れるほんの数瞬に脚に力を込め、弾丸のように飛び出す。衝撃で脚が崩れたが最早気に留めはしない。


「オオオオオオォォォォォ!!!」


降り注ぐ魔術の雨を抜け、俺たちは奴の目の前へと飛び出した。




 認める訳にはいかない。こんなことを私は認めない。黄金も白銀も贄として呼び出された存在。決して中央・・に座す為に呼び出したのではない。


「死しか振りまけないお前達に全てを統べる資格などありはしない!」


 放つ閃光さえも、魔王の力によって無力化される。


「確かに俺は殺すことしかできねえよ。けどな―――」


 此処まで白銀を送り届けた魔王が消え、彼自身の能力である殺意が高まっていくのが感じられた。


「テメェと違って俺には仲間がいんだよ!」


 振り下ろされる刃を魔術で逸らし、距離を取ろうとする。


「一人だったら俺は此処まで来れなかった。皆がいて、黄金の力があって、マオが助けてくれたから、俺はてめえの目の前にいんだよ!」


 しかし、白銀はそれを許さず刃を振るう。それは寸分の狂いなく私の胸を貫いた。




「お前を殺して、全部終わりだ」


 貫いた刃は影法師を殺していく。その神性を総て殺し尽くしていく。


「く、ハハハハ」


 影法師が乾いた笑いを上げ、その顔を上げる。それと同時に白銀の身体を無数の閃光が貫いた。


「――――ッ!」


 声を上げることすらできず白銀はその身を焼かれていく。


「如何な君といえど、私の攻撃を完全に防ぐことなどできないだろう?ましてそのボロボロの体だ」


 嘲笑を浮かべながら、影法師は言葉を繋げる。自分も消えるなどという恐怖はそこにはなかった。


「その眼だ。それさえなければ、私の計画に狂いなどありはしなかった」


 刃に貫かれながら、影法師は白銀の黄金の瞳へと腕を伸ばす。


「消えろおオオォォ!」


 それを両断するように白銀は刃を振り上げる。影法師はその身体を裂かれ、徐々に粒子へと変わっていく。けれど、その表情だけは変わることなく白銀の眼へと注がれていた。

 やがて、全身が光の粒子へと消え、星が瞬いていた宇宙も白銀によって塗りつぶされていく。


「………」


 白銀以外の総てが消えた世界で、白銀は立ち尽くす。崩壊は喉元まで迫ってきていた。

 皆がいた。マオがいて、ハクがいて、ゼクスがいて、エルザがいて、小夜がいて、うさ公がいて…。


「ああ、満足だ」


 彼らの中に、もう自分はいない。自分はただ、この世界と同化し、漂うだけだ。恐怖なんてものはない。


「ああ、でも…」


 もう一度皆で笑いたかった。

 白銀の体が崩壊し、白銀もまた光の粒子となって消えていく。けれど、その粒子は白銀の世界総てを包み込むように広がり、やがて消えていった。



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