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Doomsday clock 0



「卿の力、魅せてもらったぞ白き夜叉よ」


 放たれる言葉の全てが他者を圧倒する。


「Access(回路接続)―――Vanaheimr(黄金回廊)」


 黄金はこの時、自らの全力を振るうべき『敵』を見つけた。


 



 空が爆ぜた。混沌であった世界を塗りつぶし、黄金が世界を侵食していく。響夜の視線の先、黄金の光と共に現れた一つの舞台の上に、男は立っていた。


「今宵、旧世界は我等を残し終わりを迎え、新世界が誕生する!共に祝おうではないか!そして決めるのだ!新世界に相応しき者を!」


 現れる光の階段は、黄金が立つ舞台へと繋がる。

 迷いも、恐怖もありはしない。響夜は黄金の道を疾走する。白銀の残光が黄金の道と溶け合い、一本の閃光へと変わる。


「さぁ、その刃を向けよ。私は、この瞬間を待ち望んだのだ!!」


神喰フェンリス・ヴォルフ


 神槍ロンギヌス


 ぶつりあう白銀と黄金。衝突は一瞬。しかし、その破壊は今迄の全てを凌駕する。黄金の舞台さえも役不足だとばかりに砕け散る。混沌の世界が弾け飛び、白銀と黄金だけが世界の全てを形作る。

 砕けて行く舞台を足場にし跳躍。天に立つ黄金へとその牙を剥く。


戦乙女ヴァルキュリア竜騎士ジークフリート!」


 放たれる雷光の一閃と悪滅の一撃。二つの剣が黄金の首を刎ねんと飛翔する。迫る刃を前に黄金は槍を振るう。その一振りで二つの剣が破壊される。


「もっと私を魅せてみせろ!」


 放たれる槍の一突きを聖剣でいなす、しかし、槍の一撃に聖剣は耐えきれず砕け散っていく。

 まだ足りない。もっと、もっと力を―――!

 響夜から放たれる力は周囲を呑み込んでいく。まるで全てを喰らい尽くす魔狼フェンリル

 貪欲に、黄金さえも喰らおうとするその力に黄金は笑みを深める。

 より速く、より遠く、遥かなる高みを目指し飛翔し続ける鳥は、ついにその臨界点へと到達し、完全な姿へとその身を変える。


修羅道・神威―――飛翔する世界インフィニート・クレアツィオーネ


 放たれる神性は世界を塗り潰さんとする。その力は先とは比べ物にならない程強く、そして美しい。白銀がその姿を変えていく、黄金の瞳の輝きが増し、不純物を殺ぎ落として行くかのように、まるで刃の様に一片の曇りさえない姿へと。


「そうだ、来るが良い!その力の全てを曝け出せ!!」


 飽いていた。生まれた瞬間から全てを超越し、ありとあらゆる全てを破壊する力の前には、敵という者など存在しない。ただ羽虫を潰すだけの、戦闘とも言えないそれ。喉の渇きを癒す事など出来ず。、日に日にその渇きは増していった。

 今、目の前に敵がいる。自らが全力を振るう事の出来る敵が、この渇きを満たせる唯一無二の存在が。ならばこそ―――自らの全力を振るい、破壊する。


地獄道・神威―――終焉を告げる箱舟ゴルト・アルヒェ・アポステル


 世界が悲鳴を上げた。しかし、それは白銀と黄金の産声でもあった。世界に罅が生まれ、膨れ上がる二つの世界に耐え切れずに弾け飛ぶ。

 一つは総てを背負い、敵を振り払って高みへと飛翔する世界。もう一つは総てを破壊し、己が高みに昇ることを許さない世界。


 産声を上げる二つの世界に、影法師が声高らかに叫ぶ。


『今この瞬間、新世界が誕生する!』


Doomsday clock 0



「オオオオォォォ!!」


「ヌウウウゥゥゥ!!」


 ぶつかりあう闇の衣を纏う金と光り輝く銀。鬩ぎ合う二つの世界は互いに譲らず、二つの世界がぶつかる度に波紋が生まれる。侵食された世界は破壊され、そこには混沌の卵から生まれた二つの世界だけが存在していた。


 これこそが自らが望んだもの。自らが全力を振るっても壊れず、それどころか逆に自らを破壊しようとする敵。黄金が歓喜する。一つの油断が勝利を左右する戦い。そう、戦いだ。

 放つ一撃を白銀が右腕で防ぐ。いまや、白銀のその身が武器。あらゆるものを背負って受け継ぎ、高みを目指す為に無限に進化し、障害を破壊する為に刃となる。触れれば一撃必殺足りえる刃は、黄金が持つ槍と同等にまでなっていた。

 お返しだとばかりに放たれたのは紅蓮の炎を纏う剣。黄金が配下であった番人が持つ終末の篝火。そしてそれに続く様に放たれるのは暴竜が放つ漆黒の閃光。


「ほう…」


 感心したように呟き、槍を振るう。魔剣は聖槍と衝突し、その隙を突いて魔剣ごと閃光が黄金を呑み込む。しかし、閃光は掻き消され、そこから現れるのは無傷の黄金。


「番人と暴竜の力さえも使うか…ならば」


 振るわれる右拳。そこに宿るのはかつて黄金と影法師の人形であった男の力。これまでの恨みの全てを晴らすかのような猛襲は、されど黄金には届かない。鋼の拳は聖槍の前に砕け散る。


「壊れろぉ!」


 白銀の掌から刃が生まれる。それは無数に枝分かれをし、黄金を襲う。襲い掛かる刃のどれもが、白銀の振るう力と同等のもの。迎え撃つ黄金は聖槍に込めた力を解き放つ。

 金の閃光が荊の刃を砕き、白銀の胸を貫かんと駆け抜ける。その一撃は回避をすることなど許さず、対象の息の根を完全に止める物。しかし、それは格下に対する絶対の理。今や同じ位階に立つ白銀にはその理は絶対ではない。

 全ての不純物を殺ぎ落とした殺意の塊である白銀の身体は、破壊の黄金よりも殺すことに特化している。迫る聖槍を『殺す』。左腕を断頭台の刃と化し、振り下ろす。

 ぶつかる刃。その神性はほぼ同等。互いの刃が互いを砕く。


「ならば二撃目だ」


 迫る聖槍が消え、再び黄金の手に戻る。振り下ろした腕を戻すより早放たれる二撃目。


氷獄ハティ紅月ヘル!」


 それを迎撃するのは、かつて白銀狼が使った氷槍と紅い月。破壊の聖槍と氷槍がぶつかる。影が、血が氷槍を覆い、その力を増大させる。破壊までの時間は数瞬。しかし、それで十分であった。


神喰フェンリス・ヴォルフ!」


 聖槍とぶつかる魔狼の牙は、聖槍を弾き飛ばす。しかし、攻撃はそれだけではなかった聖槍を弾き飛ばした直後、襲い掛かってくるのは十の角と十の冠を持つ七つの頭を持つ獣。


『666』


 自らの身体にその名を刻み、獣は迫る。極限まで練り込まれた殺意の刃を向けようとも獣は止まらない。


「卿の死をもって、我は新世界を育む天となろう!」


 破壊の獣が飛翔する獣の喉笛へ喰いつかんと口を開く。


「舐めるなぁ!!」


 黄金が終末の獣であるのと同様に、白銀もまた終わりを告げる獣。共に倒れる事はあろうと、一方的に食い破られる事などありはしない。七つの頭に落とされる七つの刃。獣は互いに互いを喰らいあう。

 それは、ほんの一瞬の油断を生んだ。そして、その一瞬で今迄水平であった天秤が傾く。

 放たれた聖槍の一撃が肩を貫く。破壊が全身を食い破ろうと身体を巡り暴れ出す。


「がっ……ぐ…ぅ…!」


「これだ私が望んだものは、この渇きを癒す唯一。今この瞬間、私は満たされる!」


 白銀を貫いた黄金が笑う。今迄味わった事のない甘美なる癒し。至高とも呼べるそれは、自らを満たすのに十分であった。


「唯一…?ハッ…ふざけんな」


 その言葉を聞き、白銀が嘲笑する。飛翔し続ける獣は聖槍に貫かれて尚、その性質によって成長する。極限とも呼ばれる殺意をより高め、あらゆるものを視通す。故に白銀には視えていた。遥か高みから見下ろす舞台裏にいる者が。


「まだ、いるだろうが。俺達の戦いを観客みてえに視ている奴がよォ」


「………」


 渇きを満たす者。最もその傍に居ながら、彼は気付かない。目の前にいる者こそがそれであるのだと疑わない。己さえも影法師の掌の上で踊っていると言う事に気付かない。そもそも、そうあるように彼は生まれた。

 全てを破壊し、来たるべき時にその力の全てを振るう頂点の一人として。地獄道を司る者として。

 彼の中の何かが砕ける。白銀の言葉によって、今迄布によって隠されてきた秘密が曝け出されていく。


 自らが生まれた時から傍にいた気配。初めて見た筈なのに、まるで旧知の仲の様に感じられたあれは何だ?総ての神を破壊し尽くした時にいたあれは何だ?総てを破壊する獣の傍にいながら、その身を留め破壊を受け付けなかったあれは何だ?


 黄金の唇が歪む。聖槍の拘束を逃れた白銀にさえ反応せず、黄金が笑う。


 そうだ、まだいるではないか。まだ破壊していない者が。誰よりも傍にいた友が。


 黄金の世界が輝きを増していく。それに呼応するように輝く白銀の世界。二人が目指す者への道は、既に用意されていた。


 顕現するは竜が持つ第三の眼。影法師が持つ神器まおうと血を分けた兄妹とも言えるその神器は、その場への道案内など容易であった。そして道は、既に他の者がその命を賭けて創っている。


 呼応する門の中の祭壇と千年桜。聖女と巫女の祈りによって道は創られていく。二人の全てを代償に。


「オオオオオォォォォォ!!!!」


「ハアアアアアアァァァ!!!!」


 ぶつかる二つの世界がその道を辿って、終着の場へと到達する。星々に囲まれた絶対なる場。一人の魔術師が住まう宮殿アースガルズ


「私は、こんな脚本など用意していないのだがね」


 到達した二つの世界を前に、影法師が呟いた。



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