Doomsday clock 24
輝く星々に囲まれる世界で、影法師はその身体を振るわせる。それは歓喜と同時に畏怖でもあった。自らが望んだ展開。筋書き通りに進むことには不安などありはしない。唯一の不安要素である白銀は安定しているが、ここからは更に慎重に事を進めなくては…。
自らの友である黄金が笑みを浮かべる。その目には最早白銀しか映っていないだろう。
「世界はもう直ぐ生まれ変わる」
影法師は小さく笑った。
◆
世界が崩壊していく。地面が砕け、天が、海が、その全てが混ざり合って行く。自らの身体が消えていくのに、不思議と恐怖は無かった。白銀の巨狼が、白髪の少女が消えていく。
混沌とも言える暴竜の世界が消え、戻った世界。滅びに包まれながらも、眼前に存在する門だけは、その形を歪めていなかった。
「…ミーナ、早く中へ」
その背を押し、浩太が笑う。
「貴方も早く!!」
叫ぶミーナに、浩太は首を横に振る。
「俺はもう無理ですよ。それに、彼女が待ってる」
微笑む浩太の手が、足が、光の粒子へと変わっていく。
「貴女はまだ間に合う、だから早く中へ」
「―――――」
胸元までが粒子へ変わっていく。ミーナは涙を零しながらも、振り返り、黙って門の中へと消えていった。
何処が上で、何処が下なのかさえ分からなくなっていく世界で、浩太は上を見上げる。
「すぐ…行くから」
竜を打倒した勇者は、ただ静かに、愛する者の元へと消えていった。
◆
門の中は総てが白で染まった世界であった。目の前には祈りを捧げる祭壇だけがあった。
自らがすべきことは分かっていた。ミーナは静かに、祭壇の前で膝を着き瞳を閉じる。静寂の中を透き通った聖句だけが響き渡っていった。
そして、同時刻、もう一つの鍵もそれに呼応していた。
一人の巫女が静かに祈りを捧げる。彼女の周囲には千年桜の木の根が、まるで彼女を護る様に囲っていた。祈りに千年桜が呼応し、光り輝く。外の影響さえも、ここには届きはしない。
光り輝く神木にその身を護られながら、巫女はただ自らの役目を全うする。
◆
月の輝きが自らを照らす。正面にある窓からは風に流された桜の花が畳の上へと零れ落ちる。
これは夢なのだろう。それを眺めながら、響夜はそう感じた。
しかし、それにしては些か不可解であった。目の前に映る光景がどうしようもなく懐かしく感じる。指先から感じる畳の溝の感触はまるで現実の様で、そしてひどく懐かしい。
「鳴神」
透き通る声。顔を上げた先、そこには黒曜石の輝きを見せる黒髪にそれと対照的に魅せる白い肌を持った女性がいた。その声も姿も知っている。しかし、その顔だけが思い出せず靄が掛かる。
「鳴神」
女が再び自らの名を呼ぶ。
「何でしょうか■■様」
口は自然と動いた。しかし、確かに口に出た筈の彼女の名だけがノイズが掛かって聞き取れない。
「お前には、苦労ばかり掛けて済まないな」
女が自らの身体にその身を埋める。
「こんな眼さえなければ――――」
呟かれた言葉。女の金色の瞳が、自らを見つめる。
「愛しているぞ、鳴神」
囁かれた言葉に応える様に、そっと女を抱き締める。
そうだ、俺はこれを知っている。俺は、彼女を……。彼女の瞳を…。
全てが理解できそうになった時、世界が崩れる。暗転、響夜の視界には混沌に渦巻く世界があった。
「――――俺は」
総てが視える。何が起こっているのか、自分が誰なのか、自らの願いを果たす為の道が、視えていた。開かれた瞳は、金色に輝いていた。