Doomsday clock 二九時間
短いです
次々に崩れていく建築物。地面に衝突する筈のそれは地面に広がる紅い大地に沈んでいく。
「漸く来ましたか」
紅い月が見下ろす世界の中を二つの影が対峙する。
「待ちくたびれましたわ」
紅く染め上げられた椅子に腰を据えながら彼女、小夜は眼下にいる存在を見下ろす。
「時間など、不要なものだ」
対し、それを見上げる一人の偉丈夫、ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンはその口を開き無感情な声で答える。
彼が一歩前へ出る。それと同時に小夜の目の前に出現した血液の盾が弾け飛ぶ。
速い。ゲッツの一撃を防ぎながら、小夜は心中で呟く。もう少し盾を形成するのが遅れていれば、自分は間違いなく消し飛んでいただろう。一撃でも喰らえば積み。小夜は椅子から立ち上がる。
「お前は危険過ぎる。死ね」
放たれた鮮血の刃。周囲全方位から襲い来るその無数の刃に対し、ゲッツはまるで動く様子を見せない。鮮血の刃は一撃足りとも防がれることなくゲッツに直撃する。小夜は攻撃の手を休めず、そのまま次々に全力の一撃を畳み掛けて行く。地面から血槍がその身体を穿ち、周囲から血液の鎌が、上空から巨大な血液の球が、ゲッツへと向けられる。
果たしてそれはどれ程の時間続いたのだろうか。周囲は更地と変わり、紅い大地が何処までも続いている。血煙が晴れた視界の中、小夜は肩を上下に揺らしながらゲッツのいた場所を見る。逃れた様子はなかった。幾ら敵が強いと言えど、彼女の視界が逃げる敵の姿を捉えられない訳が無いと彼女は考えていた。
全ての血煙が消えた時、彼女は戦慄した。脚が震える。自然と彼女は一歩後ずさっていた。
「………」
そこには依然無傷で立つゲッツの姿があった。服にすら一切の乱れを見せず、彼は立っていた。
彼の無機質な瞳が、小夜を捉える。
「気は済んだか、人形」
無機質な声が小夜を捉える。それは鋼鉄の刃がその首に落とされるのを彼女に錯覚させた。
「ならば、消えるが良い。お前も空の身へと成り果てろ」
◆
「……ぁ…っ!」
額から零れ落ちる鮮血を拭い。ハクは頭上を睨む。その視界の先、そこには見る者全てが目を逸らす程の醜悪な姿をとった異形の者がいた。
それは蛙、猫、そして王冠を被った男性の頭を持った蜘蛛であった。
『形を保っていたか…』
威厳に満ちたしわがれた声が響く。声を発したその蜘蛛、バアルは眼下にいるハクとゼクスを見て不機嫌そうに顔を歪める。
『小賢しい、その程度の氷塊で我の攻撃を防ぐなど―――っ!』
再び魔力が集中した時、その隙を狙っていた様に一筋の光がバアルの頭上から降り注ぐ。それは灼熱の槍であった。
「醜悪だな。貴様には品性がない」
その言葉が響き渡り、戦場を覆い尽くしていた蝿達が一瞬で塵も残さず燃え尽きる。その光景に唖然とする二人から遠く離れた場所に、炎の様に紅い赤髪を揺らしながらアンネローゼが現れる。
「ゴミは燃やすに限る」
アンネローゼは上空を見上げ熱線を放つ。それは雲を裂き、空を照らす。
「見えているぞ、ソロモン」
『…アモン、アスタロト、アスモデウス』
上空から響く声。次いで魔方陣が現れ、三体の悪魔が出現する。梟の頭を持った男性の姿をしたアモン、顔が炎の様に燃え、翼を持った人間の姿を取るアスモデウス、そして黒い服に身を包み込み美麗な姿を取る女アスタロト。
彼らは現れるとアンネローゼを囲むように彼女と相対する。
「ふん、木偶の坊どもが。貴様等程度が私を止められるものか」
鼻を鳴らし、そう言い放つアンネローゼ。その言葉にもただ黙り彼らはその魔力を膨れ上がらせる。
Access(回路接続)―――Muspellzheimr(灼熱地獄)
それに応える様にアンネローゼもまた自らの世界を展開した。
◆
「何だこの炎は―――っ!」
周囲一帯を呑み込み渦巻く炎の世界。ハクとゼクスの二人はその波から逃れる為に分厚い氷の壁を作っていた。アンネローゼの意識がソロモンの呼び出した悪魔たちに集中してる事が救いだろう。もしアンネローゼが二人を先に消そうとしていれば、二人は一瞬で消されていただろう。
周囲の炎の波が引き、二人直ぐ様その場を離れる。開けた視界の中、二人の視線の先には赤髪の女、アンネローゼと三体の悪魔を率いるライダースーツに身を包んだ男、ソロモンが対峙していた。爆音と閃光と衝撃が次々に生まれる。炎の波が彼らの周囲を渦巻き、その熱波が二人の肌を舐める。
「ハク!」
その戦いに気を取られていたハクを、ゼクスが押し倒す。その直後、二人がいた場所に光が落とされる。二人の頭上、そこにはソロモンが呼び出したバアルがいた。それを視界に納め、二人は構える。
「向こうの戦闘に巻き込まれないよう気を付けろ」
「分かった」
ゼクスの言葉に頷き、ハクは生み出した氷柱を足場に跳ぶ。ゼクスもそれに続き、バアルを左右から挟む。
『無駄なことよ』
しわがれた声が二人の耳に入るより早く、二人の頭上から光が降って来る。光は容赦なく二人の身体へと降り注ぎ、その身体を歪ませようとする。
「舐めるなよ化け物」
降り注ぐ光を斬り払いバアルの眼前に迫るゼクス。振り下ろされる剣はバアルが展開した防壁を一枚、二枚と切り裂きその切先を煌めかせる。
『目障りだぞ』
しかし、その切先が届くより早く、ゼクスの腹部に衝撃が走る。痛みにゼクスが吐血する。しかし、その口元は笑っていた。
「任せたぞハク」
「分かってる」
『――――ッ!!?』
吹き飛ばされるゼクスの背後から突如現れるハク。ハクはゼクスを踏み台にし、加速する。先の空爆によって吹き飛んでいたとばかり考えていたバアルはハクがいる事等微塵も考えていなかった。切り裂かれた防壁を張り直す暇はなく、咄嗟に見えない一撃をハクへ放つ。
「ぐッ!」
しかし、その一撃はハクの頬を裂き、炎の海へ消えていく。此処に至り、バアルは完全に無防備であった。
「届けぇ―――ッ!!」
放たれた氷槍は炎に照らされながらバアルへ飛翔した。




