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Doomsday clock 三五時間



 人の気配が消えていく街、その街を包み込むように広がる炎と黒い影は着実に千年桜へと迫って行っていた。


「……あれ全てが蝿か」


 空を覆い尽くす蝿の群れを見て、ゼクスはその顔を顰める。


「ゼクスは同じことをする敵と戦ったんでしょう?」


「ああ。…これ程の力を持つ者ではなかったが、それでも厄介な敵だった」


 ゼクスは記憶に残るその力を思い出しながら、その剣を抜く。迫る影と炎は後数分で此処まで達するだろう。結界は張ってあるが、影の大きさを見る限りはやはり数分が限界だろう。


 ゼクスはちらりと、ハクの背後にあるもう一つの結界へ目をやる。姿こそ見えないが、その中には自らの主に任された役目をこなしている桃子がいる筈だ。

 ゼクスは視線を前へと戻すと、一度深呼吸をし、剣を抜き放つ。


「五秒数えたら出るぞ。俺が先行する」


「…分かった」


 前方から迫る蝿は徐々にその影を大きくしていく。


「…一、…二」


 無数の蝿達の後ろ、僅かにだが、蝿とは違う巨大な黒い影達がその姿を僅かに覗かせる。


「三」


 結界に炎がぶつかる。炎は結界を舐め溶かしていく。


「四」


 炎の向こう側に広がっていた蝿達が結界へとぶつかる。蝿達の数は更に増して行き、結界に罅を生む。


「五!」


 生じた罅を抉じ開ける様に、炎が結界を破壊し侵入する。しかし、それらはゼクスが抜き放った剣の一振りで霧散する。


「凍れ」


 先行するゼクスをサポートするように炎の奥にいる蝿達を氷の中に閉じ込める。そして動けなくなったそれらをゼクスが霧散させる。そのコンビネーションは良く、蝿達では隙など付けはしない。

だが、体力と魔力を削る事は出来る。群がる蝿達は先程よりも多い。その中を、ゼクス達は駆け抜け、その元凶へと向かって行く。


「――――っ!?」


 しかし、その行方を遮る様に、一人の男が立ちはだかる。いや、それは人間と呼べる者ではなかった。それは梟の頭を持っていた。人間の身体を持ちながらも、梟の頭を持つそれは、駆け抜けるハクとゼクスを睨み付ける。

次の瞬間だった。それは、その嘴から炎を噴き出した。

 それを霧散させるも、ゼクスはその足を止めてしまう。


『我は、隠され足る者、計り知れぬアモン


 不気味な声と共に、再びアモンの口から炎が吐きだされる。今度はゼクス達を囲んでいた蝿達も突撃を開始する。

 しかし、前方の火炎をゼクスが、周囲の蝿達をハクが迎撃する。


『我は汝が力』


 低い声が二人の頭上から聞える。二人は、その声を聞くや否や、その場から飛び退いた。その直後、二人が先程までいた場所が炎に包まれる。そして、その炎の中に、一匹の豹がいた。


「くっ、次から次へと―――!」


 その言葉は、突如現れたもう一体の乱入者に阻まれる。青ざめた馬に跨り、蛇の尾を持つ男。それは現れると同時に、ハクへと突進する。


「はやっ――!」


 その速度に追いつけず、ハクは男に掴まり引き離される。それを追う様にして、先程現れた豹も消える。


「…成程。引き離すか」


 周囲を蝿達に囲まれ、ゼクスは目の前に居るアモンを睨む。


「お前達程度で、俺を倒せると思うなよ」


 ◆


 黒い影と、炎で包まれた戦場を、一人の男が見下ろしていた。顔全体を覆うヘルメットで素顔を隠し、黒のライダースーツで全身を覆っている。そして、男を護る様にして、その頭上に居るのは、巨大な蝿だった。


『これで良いのか?』


「ああ、やるなら徹底的にだ」


 キリキリと奇怪な音を出しながら、蝿は男に話し掛ける。


『何時もの姿の方が調子が出るのだがな』


「あんな気持ち悪い姿で出られてたまるか」


吐き捨てる様に言う男を小馬鹿にする様に蝿はキチキチと鳴いた。


『ソロモン。遠方に小生意気な魔力を探知した』


「…恐らく番人スルトだろう」


『………赤毛の奴か。それと、そいつに向かう魔力が感じられるな』


「(……戦乙女ヴァルキュリアか?こんなに早く来れるとは思えないが)」


『どうするのだ?』


 ソロモンは暫し、思案し、口を開く。


「今は放っておけ。互いに削り合えば御の字だ」


 それだけ言ってソロモンは再び眼下へと視線を戻した。


 ◆


 エクレールの地下深く。そこでは、決着が着いた、ように思えた。


「…驚いたよ。まさか僕の審判ブリューナクが相殺されるなんて」


 目を見開いて、ルーの無表情な顔が驚きへと変わる。その視線の先には端正な顔を歪ませ、荒い息を吐いて膝を着くミーナとアリアの姿があった。そしてその傍には右肩を裂かれた浩太を背負ったティミデスがいた。


「負傷覚悟でフラガラッハを潰しに来たのは良いけど。残念だったね、僕にはこの子もいるんだ」


 何時からだろうか。此処に来た時に居た筈の竜が姿を消したのは。いなくなれば気付かない筈が無いのに。視界には常に入っていた筈なのに。

 竜は、パンダの腹の中に居た。


「おいで審判ブリューナク


 パンダの中に居た竜はその姿を変え、穂が五本に分かれた槍となる。


「次は殺すよ」


 ルーは投擲の構えを取る。もう一度くれば間違いなくやられる。彼らは確信した。


「―――っ!」


 しかし、ルーはその穂先を突如として四人から外す。槍の切先から閃光が放たれた先、そこには一人の少女がいた。放たれた閃光は少女が展開した障壁とぶつかりあう。

 だが、ただの魔法が神器による一撃を受け止められる訳もない。閃光は結界を破り、少女の心臓を貫く。


 かのように思えた。放たれた閃光から、少女は逃れていた。


「死神の使い……グローリア、だったかな?」


「偽・神罰エクレール!!」


 ルーの意識が少女、グローリアに向けられていたのを狙い、ミーナが魔法を放つ。


「…審判ブリューナクの劣化版の神罰エクレール…の更に劣化版」


 しかし、その光はルーの片手で止められる。


「舐め過ぎ」


 呟き、我が騎士フラガラッハがミーナ達へと襲い掛かる。襲い来る我が騎士フラガラッハはアリアの水の剣を易く弾き、その心臓目掛けて飛来する。


「くっ!こい!神罰エクレール!!」


 アリアの右手に光と共に剣が現れる。それは飛来する我が騎士フラガラッハと激突した。


「………」


 ルーの表情が、僅かに歪む。


「砕け」


 静かに怒気を孕んだ言葉に、我が騎士フラガラッハの力が増す。我が騎士フラガラッハ神罰エクレールを弾き飛ばし、アリアの胸元へとその切先を突き刺そうとする。


「――――ッ!」


 しかし、その剣をグローリアが防ぎ、軌道を僅かに逸らす。剣はグローリアの脇腹を掠め、後方へ飛んで行く。肉を裂かれる痛みに僅かに顔を顰めるが、アリアの腕を掴むと、グローリアは直ぐにその場を離れる。その直後、二人がいた場所を光線が過ぎ去って行く。


「……」


 ルーは我が騎士フラガラッハ審判ブリューナクをアリアとグローリアに向けながら、残りの三人へと目を向ける。ティミデスとミーナの二人は浩太の傷を回復させながら、此方を警戒していた。

 ルーは三人の方へと人差し指を向ける。ルーが何かするより早くティミデスが動こうとすると―――強烈な光がティミデスとミーナの視界を白く焼いた。


「――――ッ?」


「逃げて!」


 閃光で動きを止める二人の耳に、アリアの言葉が入る。ティミデスは傍にいたミーナと浩太を横へ突き飛ばす。次の瞬間、ティミデスの脚を光線が貫いた。脚から走る激痛にティミデスは顔を歪める。彼女は脚を動かそうと必死になるが彼女の脚はピクリとも動かない。


「ティミデス!」


 彼女の傷を見て駆け寄ろうとするアリア。しかし、それを遮る様に我が騎士フラガラッハが襲い掛かる。


「一人」


 ティミデスに向けられる審判ブリューナクに光が収束する。


「…さようなら」


 光は今迄にない程に輝きだす。他の者達は我が騎士フラガラッハに阻まれ動けない。例えグローリアが結界を張ろうと、その結界ごと吹き飛ばすだけの力が槍には集まっていた。そして、


 集束した光が解き放たれた。



 その担い手の鮮血が飛び散ると同時に。

 光は茫然とするティミデスの傍を抜け、背後の壁に大穴を空けた。


「………」


 自身の胸から突き出る腕に、ルーは目を落とす。


「お疲れ様、ルー」


「死ね」


 その言葉と同時に、強引に腕を引き抜かれたルーが宙を舞う。

 ルーの背後から現れた男は嗤う。


「こんにちは、初めまして。クラウン序列第四位、ルイス・キャロルだよ」


 男は嗤う、目の前に立ちつくす者達へ。


「そして死ね」


 竜が嗤う。残虐に、冷酷に、非道に、本能の赴くままに。


 そして世界が変わった。


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