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神々の黄昏

 赤い月を覆い隠す程に赤く染まる空。その全てが血液等とはとてもではないが信じられるものではないだろう。

 そして城壁に空けられた穴から流れ出す血液。それは常人であれば発狂してもおかしくはないものだ。


「兄様!」


「主!」


 叫ぶ二人の頭上。そこには―――ヴラドの首を刎ね飛ばす響夜の姿があった。


 ◆


「―――――っ!」


 首を刎ね飛ばし、空けられた城壁の穴から飛び出る響夜と首の無いヴラド。だが、響夜はヴラドに起こる異変を敏感に感じ取った。

 はねられた首、そして胴から溢れだした血液が再びヴラドの姿を形作ったのだ。


「その程度で、私が殺せるとでも?」


 口を開くヴラド。だが響夜にはそれを聞いている余裕などありはしない。360度全方位から迫る血液の刃。いや、最早刃などと生温い物ではない。

 それは波だ。血液という刃の波。逃げ場等ある筈もなく、あれに飲み込まれれば塵すら残らないことが容易に想像できる。


「想像形成!」


 周囲に分厚い鉄板の防壁を展開するがそんな物で止まる訳もない。

 鉄板を薙ぎ払い迫って来る波に響夜には全身の魔力を自身の右腕に込める。

 何処か一ヶ所さえ崩せれば!

 

「疾走する魔狼の(フェンリス・ヴォルフ)!!」


 放たれた牙は鮮血の刃とぶつかり――――僅かな穴を空けた。

 その穴が塞がるより早く、響夜は疾走する魔狼(フェンリル)を呼び出し駆け抜ける。


「無駄だ」


 だが、そこも地獄でしかない。この国の民全てがヴラドの血液で出来ている。人間に流れる血液だけでも途方もないと言うのに、人間そのものを血液で作るのだ。その量も異常を通り越した程の物だろう。


「オラァ!」


 目の前に広がる血液を死神が薙ぎ払う。襲い掛かる刃を霧散させ、躱していく。ただ聞くだけであれば簡単だ。だが、その数は数千、数万を超え、その威力は並大抵の竜種ならば一撃で絶命させるものだ。

 徐々に体を刃が掠っていく。どれ程霧散させようと消えるどころか減る様子さえ見えないそれは悪夢そのものだ。


「――――――ぐっ!」


 ついに襲い掛かった刃の一つが響夜の脚を斬る。それを亀裂に次々に突き刺さって行く血液の槍。その光景は正しくかの串刺し公が行った串刺しの林だ。


 止めなく溢れる血液。全身を鮮血の槍に貫かれている響夜の前にヴラドは現れる。


「実に甘美な時間であった。流石は十三の席に座る男だ。あの影法師が座らせるのも納得できると言うもの」


 歓喜しているのだろう。普段あまり口を開かない彼にしては珍しく饒舌だ。


「ああ、今宵、今この瞬間を私は未来永劫忘れはしないだろう」


 ヴラドは響夜の首筋へと顔を寄せる。


「黙れ……変態が」


「その言葉も今この場を持って終わりだ」


 ヴラドは響夜の首筋に噛みついた。


 ◆


「あ…あ……」


 目を剥き震える声を出す小夜。グローリアは只茫然とその光景を眺めていた。

 首筋に噛み付くヴラドと血を流しながら小刻みに震える響夜。響夜の体は徐々に痩せ細り枯木の様になって行く、彼の眼も徐々にだが輝きを失っていっている。

 やがて、痩せ細った身体に徐々に罅が走り、響夜の身体はまるで硝子の様に薄れていく。そして―――――


―――パリィィィィン


 鮮血の世界に甲高い音が鳴り響いた。


「く…ははは、くはははははははは!!!!美味!誠美味な魂よ!!」


 ヴラドの哄笑が響き渡る中、ゆらりと小夜の体が揺れる。


「…ない、…さない、許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!!」


 目を血走らせ吸血鬼の凶暴性を表に曝す小夜。赤い月は鮮血に隠れてこそいるがその力は未だ健在だ。


「私の兄様を、よくもおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」


 叫び小夜は上空に居るヴラドへと飛翔する。過去最速での飛翔はヴラドの目の前に出るまでに数秒と掛からない。


「死ねええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 右手の指を伸ばし小夜はヴラドへと指突を放つ。


「ああ、黄昏の破壊者(ロキ)の妹か。良かろう、貴様のたましいもさぞ美味なのだろう」


 その手はあっさりと引き千切られ放たれた刃が小夜の翼を斬り飛ばす。小夜は怨嗟の籠もった瞳でヴラドを睨み付けながら落下していく。

 

「小夜!」


 咄嗟にグローリアは障壁を張る。それはヴラドの追撃を間一髪で防いだ。そして、その事実はグローリアに希望を持たせるのに十分であった。

 

主は、まだ生きている。

 

 グローリア一人ではヴラドの攻撃を防げる筈など無いのだ。響夜との使い魔の繋がりがない限りは…。

 響夜が殺されたという事実に頭に血が上っている小夜にグローリアの言葉は届かないだろう。

 なら、自分が出来るのは小夜のサポート。少しでも主が戻って来れる時間を稼ぐこと。


 体を再生させ眷族であるスケルトンや食屍鬼を呼び出しヴラドと対峙する小夜。そこから感じられる魔力は今迄の比ではない。

 その姿に恐れを抱きながらもグローリアにはその姿が頼もしく思えた。


 ◆


「ここは……」


 何処までも赤く染まる血溜まりが広がる空間で響夜は目を覚ました。

 意識が覚醒すると共に鼻孔から悪臭が入り込む。昔から嗅ぎ続けている自分の日常に溢れている物―――血の臭いだ。


「…俺は、ヴラドに殺された筈」


 今でも思い出せる。自身の中から何かが奪われて行く感覚。だが、今自分は此処に存在している。何故なのか。思案する響夜の頭にやがて一つの答えが導き出された。


「消化不良、ってやつか」


 神器は魂を喰らう。そしてヴラドの神器は血液である為に全身が神器の様なもの。詰まる所、恐らくは俺の魂を完全に消化できていないのであろう。

 しかし、それも時間の問題。時が経てばやがて俺の魂は完全に消化される。


「出口を探す必要があるな」


 出口が無い。という可能性もあるが何も出口そのものである必要はない。外に出られるであろう歪さえあればそこを抉じ開けて出ればいいのだ。

 俺は血溜まりが広がる空間を歩いて行く。血溜まりの空間、その先には一つの扉があった。


「……こりゃあ、何だ?」


 俺は警戒しながらもその扉に触れる。他に変わった所はないのだ。躊躇って時間を消費する様な愚は犯したくはない。

 扉を開けると、その先には燃え上がる炎と多くの人間が串刺しにされている光景が広がっていた。


「こりゃぁ……」


 自分でも知っている。これはヴラド・ツェペシュが行った串刺しだ。

 見れば、炎の奥、そこには数千の人影が見える。


「記憶…なのか?」


 ヴラドが歩んだ記憶。俺は魂に刻み込まれた記憶を見ているのではないだろうか。


「これは…あいつが見た光景か……」


 俺は他にも似たような扉は無いのか周囲を見渡す。城の中にでもあるのだろうか。

 俺は先程までの光景に背を向けると城内へと入って行く。

 中はまあ、予想通りだが中世の城だ。こういったことを見ると、やはりヴラドも地球むこうの出身だったのだろう。

 

 城内には多くの兵がいたが誰も俺には気付いていない。というよりも俺が見えていない。

 城内の中を歩いて行くとやがて先程見た扉が現れる。しかし、今度は二つだ。


「………」


 俺は数瞬の迷いなく右の扉を開ける。本能的に感じるのだ。左の扉を開ければ、自分は消えてしまうと。

 開けた扉の先。そこには鮮血で染まる道が続いていた。

 俺はその道を歩き出す。

 すると周囲の空間が色彩を持ち始める。

 そこは戦場だった。多くの人間が死に怒号が響く戦場。その中で、俺は見た事のある男を見つける。


「ヴラド…」


 そこには生気の失った瞳で倒れるヴラドの姿があった。ヴラドの胸には一本の剣が突き刺さっている。誰がどう見ようとそれがヴラドの命を奪った物であることは明白だろう。そしてその前に立つ一人の男。

 男は腕を上げると高らかに何かを叫ぶ。そして、そこでその光景は消えて行った。


「あれがあいつの最期か」


 鮮血の絨毯が敷かれる道の上を歩いて行くと、再び周囲に色彩が宿る。

 次に広がった光景はざあざあと雨が降る中に一つの墓が建てられている物だった。墓はそれ一つだけであり他には何もない。

 しかし、何時の間にだろうか。まるで亡霊の様にその男は墓の前に立っていた。


「アレイスター・クロウリー……」


 影法師は墓の前で何かを呟いている。何を呟いていたのかは分からないが、影法師が手を翳すと、突如そこに光る何かが現れた。

 影法師はそれを包み込むと墓に背を向ける。そして影法師は光に包まれ消えて行った。


「何だったんだ」


 それと同時に周囲の景色も元の物へと戻って行く。俺は先程の光景が気になりながらも道を先へと歩いて行った。

 様々な記憶を見て、戸惑いながらも進んで行く。やがて道の先に一筋の光が見えた。


「――――」


 それを見た瞬間、俺は立ち止まる。ふと、先程まで感じられていた血の臭いは悪臭というレベルを超え、一つの地獄を体現させた。

この先に間違いなく何かがいる。

そう確信し、悪臭漂う中を俺は警戒しながらも前へと進んで行った。


 光の中、開けた空間。しかし、そこは決して安全と呼べるものではなく、寧ろ嫌悪で彩られていた。

 周囲は生物の血肉の様に薄気味悪い桃色をし、時折脈動している。そして中心には肉壁から這いでた三本の鎖によって繋ぎ止められた一人の吸血鬼がいた。

 全身が痩せ細り青白い肌をしている。背中には巨大な黒い蝙蝠の羽が生え、口からは吸血鬼の特徴的な牙が僅かに覗いている。

 恐らくは、あれがヴラドの魂。この鎖は、恐らくは世界の枷だろう。自由を与えず、拘束する為の鎖。


「………」


 俺は無言のまま、鎖に縛られている吸血鬼に近付く。

 これをどうにかすれば外に出る事が出来るのだろう。


「人…間…」


 ぎょろりと眼球が動き、目の前の俺を捉える。まさか喋れるとは。


「……此処から出る方法は?」


「………血」


「あ?」


「血が欲しい」


 その言葉と共に吸血鬼から血が溢れだす。


「血を、永久(とわの命が欲しい!共に、我と共に歩める命が欲しい!!」


 彼女と共に、彼女と共に。そう叫ぶ吸血鬼を響夜は睨み付ける。


「それがテメェの願いかよ」


 狂乱状態の吸血鬼から次々に血液が溢れだす。此処こそが神器の中枢なのだろう。つまりは、今この瞬間、ヴラドは何かに神器を行使している。そしてその敵は恐らく―――


「時間が惜しいんだ。とっとと道を開けやがれ!!」


 溢れだす血液に押し流されそうになりながらも俺は一歩前へ進む。今この瞬間にもあいつ等が危険な目に遭ってんだ。


「テメェ何かに―――構ってる暇はねえ!!!」


 叫び、俺は血液の波に乗り吸血鬼の下へと跳び込んだ。


 ◆


「ああ、今宵は素晴らしい宴だった」


 地面に横たわるグローリアを踏みつけヴラドは右手で小夜の首を掴みあげる。


「ヨクモ…!!!」


 憤怒で彩られた赤い瞳で睨み付ける小夜。だが、それさえもヴラドには自らの感情を昂らせる物でしかない。


「だが、この宴ももう終わりだ」


 小夜を掴む腕に魔力が込められるのが分かる。


「その悲鳴で、この宴を終わりとしよう」


 ヴラドはそう言うと魔力を解放させる。それは小夜を吹き飛ばす事等造作もない程の魔力が込められた一撃。


「―――――――兄様」


 光が放たれる瞬間、小夜の瞳から涙が零れ落ちる。


『おい、なに俺の妹泣かせてんだ?』


 聞き覚えのある声。自らが愛した、たった一人の家族の声。それを聞いた小夜は目を見開き、そして目の前で起きた出来事に目を疑った。


「―――――馬、鹿……な…!?」


 驚愕、掠れた声でそう放ち瞠目するヴラド。


『何、俺の家族に手ぇ出してんだ?』


 ヴラドの首。その内側から赤黒い刃の鎌が突き出しているのだ。


「お前は……確かに私が、飲み込んだ筈…」


「死ぬのはテメェ一人で良いだろうが!!」


 その怒号と共にヴラドの首から胴に掛けて裂かれる。そして内側から出てきたのは死神の鎌を持った鳴神響夜だった。


「死は平等だ。不滅の物なんてこの世に在りはしない」


 響夜はヴラドの右腕を斬り落とし倒れ伏すグローリアと小夜を助け出す。


「終わりだよ。ヴラド・ツェペシュ。お前の望みは、死後のヘルヘイムでこそ叶う物だ」


 二人を降ろし、響夜は再生しようとするヴラドに向けそう言い放つ。


「さようならだ」


 右腕に魔力を込め、響夜は構えを取る。


「魔狼の爪牙フェンリス・ヴォルフ


 放たれた閃光はヴラドを飲み込んで行く。閃光に包まれ体が消滅していくのを感じながらも、ヴラドは今まで自分に蟠っていた物が晴れた。


「ああ、そうだ」


 あの日、自らが眠っていた時、影法師はこう言ったのだ。


『貴方は、此処で死ぬに実に惜しい人材だ。貴方にはまだ死ねぬ理由があるでしょう?その願い、此処で己が身と共に朽ち果てても良いのですか?』


 そうだ、あの時、私は伴侶と共にいたいと願い――――


『貴方の願いは、開幕の笛が鳴らされると共に叶うでしょう。その時まで、自らが責務を果たされよ』


 ああ、ならば今こそがその開幕の時か。これが開幕の引金ギャラルホンか。


『ヴラド、貴方は実に素晴らしい者であった。故、この黄昏に波紋を呼ぶ一石となるがよろしい』


 頭の中に直接届く声。人を小馬鹿にする、神経を逆撫でする声。


『今、開幕の時だ』


 影法師は消えゆくヴラドにそう告げた。


 ◆


 同時刻、軍本部でも動きがあった。


「中将、演説の程よろしくお願いします」


「ああ」


 一人の軍人の声に呼ばれロジオンは先を立ち台の中央に立つ。


『卿等は何を望み此処に生きる?』


 厳かな声と共に圧倒的威圧感を持って語られる演説。それはその場に集まった者達全員の耳へと入り込む。


『たった今、開戦の号砲ギャラルホンが響き渡った。今この瞬間を持ち、我等は神が大地を破壊し尽くそう』


「ちゅ、中将何を!?」


『神々の黄昏は始まった故に、我は新世界を塗り潰す破壊の獣となろう。この忌むべき名を持って、我が世界で満たし尽くそう!!』


―――形成・Longinus(神滅せし聖槍)



 ◆


 同時刻、エクレールにて。


「「全然つまんない。やっぱり君じゃ僕らには勝てないよ」」


 少女と少年の不貞腐れた声。しかし相対する聖王はその胸を貫かれていた。


「「姫君と戦って聞いたから期待したけど…」」


 溜息を吐きその腕を抜くルイス・キャロル。胸を貫かれた聖王は荒い息を吐きながらも神罰エクレールを構える。


「王!」


 破壊音を聞き王室へと入る兵士たち。兵士たちは皆一様に目の前の光景に驚いた。


「く、逃げろ!城に居る者全員に、直ちに脱出する様伝えるのだ!!」


 構えを解かず聖王は兵士たちに大声で叫ぶ。それを聞き兵士の半数は城内へ敵襲の伝達、半数は王に加勢する。


「王!御怪我は!!?」


「お前達、馬鹿者!直ぐに逃げろ!!」


 しかし、兵は王の怒号に聞く耳を持たず目の前の的に武器を取る。


「だ~め、此処はきちんと殺さないといけないんだから」


「逃がしてなんてあげないよ?」


 ルイスとキャロルは笑いながらそう言って歩み寄る。


「「大丈夫、どうせ自分が何時死んだかも分からないんだから」」


 その言葉と共にたった二人による虐殺が始まった。





 長い城内の廊下。その廊下を一人の兵士が走っていた。息は乱れ、全身が血で赤く染め上げられている。そしてその手には神罰エクレールが握られていた。

 

「おい、どういした!」


 その以上の姿を見て二人の男が声を掛ける。


「ノーレン様!浩太様!」


 兵士は二人の姿を見ると駆け寄る。しかしそこに安堵の色は無く、がたがたと肩を震わせ怯えている。


「は、早くお逃げに!!これを持って!」


 兵士は抱えていた神罰エクレールを二人に私そう促す。


「おい!どうしてこれを持ってる!?まさか王も―――」


「あ、三人見っけー」


「ホントだ。三人見っけー!」


 背後から聞えた声に兵士は肩をビクリと振るわせガタガタとその場に震えこんでしまう。


「テメェらが…」


「よくも―――」


 二人は剣を抜き放つ。その瞳には怒りの色が宿っていた。


「ノーレン、浩太!」


 二人の背後からバタバタと廊下を走る音が聞こえて来る。


「アリアさん!」


「小娘、それにティミデス。テメェ等まだ残ってやがったのか」


 二人の背後から駆け付けたアリアとティミデス。その姿を見てルイス・キャロルは拍手する。


「「良かったじゃないか。生き残れる確率が上がったよ?」」


「み、皆さん、早く逃げ―――――」


 瞬間、四人の目の前にいた兵士の上半身が消し飛んだ。飛び散る鮮血と肉塊。その光景に浩太とアリアは茫然とする。


「おら!こいつ持って先に行け!!」


 ノーレンは神罰エクレールを浩太に押し付けると先に脱出する様その背を押す。


「姫様、姫様も早くお逃げに!」


 ティミデスもアリアの前へと出て自らの主に先に逃げるよう促す。


「「だーめ。此処で皆死にな」」


「!――――らぁ!」


 視界に僅かに映った影。ノーレンはそれを目敏く捉え剣を振るった。

 その行動にルイス・キャロルは口笛を吹いた。


「まさか羽虫程度の力があるとは思わなかったよ」


 金髪の少年、ルイスはそう言って微笑む。


「これで少しはゲームのし甲斐があるもんね」


 金髪の少女、キャロルもルイスと顔を見合わせ微笑んだ。


「さっさとテメェ等は行きやがれ!!ティミデス!テメェもだ!!」


 叫びノーレンは浩太とアリアに叫ぶ。ティミデスも抗議しようとする。だが、この中で無事二人を逃がす事が出来るのは自分一人であることを理解し、ノーレンに一礼すると浩太とアリアを連れその場から姿を消した。


「「あ、時間操作かあ。才能あるねあの子」」


 呟き、ルイス・キャロルはノーレンに視線を移す。


「じゃあ、一分位遊んであげる」


 ◆


「この戦場に、お前達の様な生ゴミは要らん」


 無数の銃撃音と炎で包まれる戦場。その戦場に紅蓮の髪の女性、アンネローゼは立っていた。

 彼女の眼下には瓦礫の山に成り果てた大国の姿。何万、何十万という人々の死体の山が築き上げられていた。獄炎はそれを飲み込みその被害を拡大させていく。

 抵抗しようにも一切の行動を許されないのだ。一瞬のうちにして肺まで焼かれ死に絶える。


「神々の黄昏は始まった。こので私は総てを燃やし尽くそう」


 ◆


「下らん」


「オオオォォ!!!」


 襲い掛かって来る男を見て、ゲッツはそう吐き捨てる。次の瞬間、男の姿は完全に消えていた。


「幻でしかない俺達に、生きるという選択肢があるとでも思ったか」


 次々に襲い掛かる戦士を消しながらゲッツはその歩みを止めはしない。


「俺達は、行き場を失った残骸でしかない」


 だからこそ、終わりにしよう。


「この黄昏と共に、皆消えて行けばいい」


 ◆


 魔王城。その城の自室でマオは只空に浮かぶ月を眺めていた。


「………」


「あ~…実に久しい。最後に君の前に現れたのは果たして何時だったか」


 しかし、その背中に一人の男が声を掛ける。


「誰だ!?」


 その声に驚愕を露わにしてマオは振り返った。この部屋に入ったのならば自分が分からない筈が無い。しかし、男はそこに立っていた。彼女に気付かれることなく。


「そう言えば、名を名乗り忘れていたかね。いやはいや、道具にこうして名乗るのは奇妙な物だ」


「クラウン序列十三位、アレイスター・クロウリー。こうして再会できたことに感極まる」


「………」


「第三の眼は愚かな失敗作であった。自分が虚像であることにすら気付けない。だが、君は違った。今こうしてこの世界を創りあげたことがその証拠。虚像に満ち溢れた私が望んだ世界だ」


「お前は…何だ?」


 この男からは不気味さしか感じない。その筈なのに―――どうして懐かしむ自分がいる?


「魔王様!!」


 扉を開けゼクスが部屋へと入り込む。


「見張りの者が敵襲に――――」


 だが、その声も続きはしない。冷酷に、無慈悲に、ゼクスは見えない何かに押し潰される。

 それを気にも留めず、まるで最初から居ないかのようにクロウリーはその膝を着く。

 その行動とゼクスの身にマオは混乱してしまう。


「迎えに上がりましたよ、姫君。いえ―――」


 クロウリーはマオの瞳を覗く。すると、マオの瞳から生気は消え、その瞳はまるで人形の様に虚空を映す。


「私の神器むすめよ」


 今この時を持って、神々の黄昏は始まった。






女性の自室、それも背後に現れるとはとんだ変態でござるな。




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