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開幕の引金

久しぶりの投稿です。二次創作の方を執筆してたので遅れました。すいません。


 鳴り響く銃撃音と瓦礫や死体を蹂躙しながら行きかう多くの人間や戦車。空は暗く、夜の闇の中に紛れる様に戦闘機が飛び交い時折空を炎で照らす。

 その様子を、俺は地面に倒れながら眺めていた。

 どういう訳かどれ程力を入れようとも身体は反応してくれず、只赤黒い液体を流し続けているだけだ。

 此処が何処なのか。戦場と言うのは理解できるがそれ以外は全く分からない。此処は何処で――――そもそも俺は誰だ?

 全く覚えのない記憶。そもそも記憶と言う物が自分にあるのかさえ分からない。物の形状、名前は容易く出て来る。だが、自分の顔もこの景色も、友人や家族の顔さえも浮かんでこない。


 そのままはたしてどれ程経ったのか。体感時間ではおよそ数分、もしかしたら数秒かもしれない。気付けば戦闘機の姿は無く戦車の数も減っている。

 そんな中、奇妙な人影を見た。まるで実体を持たない亡霊や怨霊の様な風体の男、誰もその男をまるでそこにいないかの様に過ぎ去って行く。

 男は俺へと振り向くと、薄気味悪い笑みを浮かべた。何処までも人を嘲笑するかの様な、人の神経をやすりで削る様な笑み。


「―――――――――――」


 まるで砂嵐の様なノイズを放つ声。それが何を言っているのか俺には理解できなかった。

 男の瞳は腐った溝川の様でそれが一層男を不気味さを際立たせていた。男は何かを話すと俺へと手を向けた。指の間から覗く男の瞳を直視してはいけない。そう本能の様な者が訴えかけて来たが俺の身体は動かず、目を背けることさえさせずに男の瞳を直視している。


「何れ、君が此方へ来ることを楽しみにしていよう。そしてその時こそ――――――」


 突然ノイズが晴れ、男の声がハッキリと理解することが出来た。だがそれも束の間。男の声は直ぐにまたノイズに掻き消されてしまった。

 男が離れると共に徐々に不鮮明になって行く俺の視界。瞼が徐々に下がり、俺の視界は完全に黒く塗りつぶされた。

あの日、そうだ、燃え盛る炎に包まれる街の中、只閃光と硝煙と爆音だけが支配する場所で……俺は……!


「■■!■■!■■■■■■■■■■■■!!!■■■■■■■■■■!!!」


 深い、深い、闇の底から聞えて来た憤怒の色を宿した叫び。それは先程の男の様に何を言っているのかは理解できない。だが、その叫びは先程のノイズによって塗り潰されている訳ではない。まるで、本能的にそれを聞いてはいけないと判断し遮断されたかのようだ。

 その叫びは衝撃となって俺の全身に叩き付けられる。その時、何か見えた気がした。

 深い闇の底で、ナニか、決して触れてはいけないナニかがいた気がした。






「…………」


 俺は上体を起こすと窓の外を見る。


「……ああ」


 相変わらず太陽がうざったい。


 ◆


「―――それで、これからどうするのですか?」


 グローリア=ウサ公、という図解に何とか納得のいった小夜は小首を傾げながら俺に尋ねて来る。

 

「んなもん一つしかねえだろ」


 俺の言葉に小夜とグローリアが笑みを浮かべる。


「でかい戦だ。国が相手だろうとその首取ってやる」


 神々の黄昏が始まる前に―――


「一つ空席にしてやるよ」


 ◆


「……黄昏の破壊者ロキが、此処に来るか」


 暗い、日の光が差し込まない部屋の中、一人の男の厳かな声が響いた。


「はっ、先程入国を確認。直ちに捕らえましょうか?」


「いや、いい。放っておけ」


 そう言って男は玉座に深く腰掛ける。

 あれは…何時だったか……。いや、


「そもそも、私は何を聞いた?」


 思い出せない……思い出せない……。

 男は一人、玉座でそれを思い出そうとしていた。


 ◆


「…懐かしい」


 が、妙だ。

 俺達は街を歩きながらグローリアは眉を顰め、小夜は僅かに目を輝かせ、俺は剣呑な目つきで周囲に目を遣る。

 この国はおかしい。この国に入った瞬間から臭うこの悪臭。何故誰もこれに気付かないのか。


「…主、何か変な気配を感じる」


 元が弱者の獣である為か、グローリアの怯え方は分かりやすい物であった。


「気をしっかり持て」


「この程度で怯えるなどみっともないわよ」


「ごめんなさい…」


 小夜の言葉に小さな声でそう言うとグローリアは俺達から離れない様に傍に寄る。やはり怖いのだろう。少し身体が震えている。


「家族、か」


 成程、家族。あながち間違いでもないのかもしれない。


「兄様、この臭い…」


 小夜も気付いたのか俺に視線で訴えて来る。吸血鬼である小夜が言うのだから間違いないのだろう。

 この国は血の臭いで包まれている。流れている血が一人分ならばまだ分かる。だが、これはどう考えても十人、二十人を超えている。それが国中から悪臭となって襲い掛かってくるのだ。


「……こりゃ、吸血鬼の祖ってのも間違いじゃないのかもな」


「兄様、この臭い。全て同じ者です」


「――――なっ」


 小夜の言葉に俺は絶句する。これがたった一人から流れた血だと言うのか。昔なら在り得ない、と言っただろう。だが、今は違う。驚きこそすれど否定と言うものは出てこない。


「本当か?」


「はい」


 俺の言葉にこくりと頷く小夜を一瞥する。吸血鬼でる小夜が言うのだ。これはほぼ確定と言っていいだろう。

 俺達は進行方向を変え路地裏へと入って行く。


「どう思う?」


「誘っているのか、それとも魔法で私達に幻覚を見せているのか…何とも言えません」


「…私は分からない」


「そうか」


 二人のそれぞれの言葉に俺はそう言うと壁に背を預ける。恐らくこの臭いはヴラドが原因であろう。問題はこれが何なのか。今の所は問題は無いが何かあってからでは遅いのだ。


「どうするか…」


 少なくとも、国内は向こうの領域テリトリー。俺達にとっては絶対不利な戦場であり、俺達がどう動こうと向こうには手に取る様に分かる。

 この血の臭いに他の奴等が気付いていないのも妙だ。催眠、或いは一定以上の魔力量を持つ者が分かるのか。


「気にしても仕方ない、か」


 俺は思案することを止めると壁から背を放す。


「小夜、グローリア、お前達は予定通りに頼む」


「「はい!」」


 俺の言葉に二人はそう返事を返し通りへと出て行く。それを見送り俺も通りへと出て行く。


「花火は盛大に打ち上げなくちゃぁいけねえよな」


 俺は呟きながら雑踏の中を歩いて行った。


 ◆


―――ドガアアアアァァァァン!!!


 人々で賑わっていた通りは閑散となり、空には満月が昇り始めた頃、赤の国に盛大な爆発音が轟き突如城壁が破壊された。


「中々面白いことをする。先ずはようこそ、と言っておこうか黄昏の破壊者(ロキ)


 玉座に座りそう口を開くヴラド。その視線の先には骸骨の兵士達を連れた響夜の姿があった。


「んじゃあ、おじゃまします。そんでもって死ね」


 そう言い放つと同時に抜き放った銃弾はヴラドの眉間を貫く。血を流しながら力なく玉座に体をもつらせるヴラド。しかし―――


「くくく、まあそう邪見に扱うな」


 ぎょろりと眼球を動かし体を起こすヴラド。眉間の傷もまるで何も無かったかのように綺麗に消えていた。


「吸血鬼ってのは本当か」


「紛い物だ。元よりこの世界は虚像で満ち溢れている」


 ヴラドが手を振ると閉ざされていた扉が開き数十の兵士がなだれ込んでくる。


「客だ。盛大に迎えよ」


 その言葉と共に各々手に持った武器を握る。それを迎え撃つように骸骨達もまた武器を構える。


「「やれ」」


 始まりは自らの主の一言。両者の軍はほぼ同時に敵を殲滅せんとぶつかった。

 その戦は異常な物であった。互いに体を破壊されようと動き敵の喉笛に噛み付き、砕かれようとその身体を再生させる。骸骨達はまだしもそれは人間が行えるような光景ではなかった。


「(やはり、人間じゃない)」


 その様子を一瞥しながらもヴラドから目を放さない響夜。恐らくはこれは眷族か何かなのだろう。そう辺りを付けるが、それはいとも容易く崩された。

 血液。殺された者達は皆肉体を持っていないのだ。飛び散った血液がズルズルと集合し再び一人の人間を形作る。そう、人間達の正体は血液の塊であったのだ。

 それを見た瞬間、小夜の言葉を響夜は思い出した。


『臭う血は全て同一人物の者である』


 そしてそれが国中から臭っている。

 詰まる所、それが意味することは―――


「この国の人間全員が、お前の血液か―――!」


 人間の様な仕草も、言動も、全てヴラドの血液の集合体が行っていた。その光景に響夜は怖気が走った。


「左様、この国の人間は全て私の分身だ。私が指先一つ動かすだけで皆が私の命令通りに動く」


 決して滅びない不滅の人形達に徐々に響夜の兵は押されて行く。その光景に舌打ちをし響夜は巨大な火球を放った。


「燃えちまえ!」


 火球は人形にぶつかるとその血液を蒸発させ跡形もなく消滅させる。

 しかし、今迄人を形作っていた血液はぐにゃぐにゃと動くとその姿を槍へと変え響夜に襲い掛かった。

 それを右腕で薙ぎ払い響夜はその場を飛び退く。響夜の背後、城壁に開けられた穴から血液が入り込んできているのだ。恐らくはこの国の人間の姿をしていた物全員分なのだろう。

 見れば、開けられた穴の先にある城下町は炎が燃え移り地獄絵図になっている。


「……正気の奴がやることとは思えないな」


 襲い掛かる血液の槍を躱しながら響夜は呟く。


「お前ほど私は狂ってはいないぞ」


 背後から聞えて来た声。響夜はその声に思わず振り返った。


「相手が私のぶんしんだけだと思ったか」


 その言葉と同時に響夜の胴に衝撃が走る。


「―――――かっ!?」


 ヴラドの右手が響夜の胴に風穴を空けたのだ。急速に狭まる視界の中で、響夜は悪魔の心臓(グリモア・ハート)で体を再生させる。

しかし、状況は変わらない。響夜はヴラドの嵐の如き攻撃から逃れられず体を再生させることしか出来ない。ヴラドも決して響夜を逃す筈もなく。響夜はヴラドの暴乱に曝され続けていた。


「想像―――形成!!」


 僅かな時間。それこそ刹那の間で響夜は想像形成を発動させる。ヴラドの一撃に自身の左腕が消し飛ばされながらも、響夜はヴラドへと一つの手榴弾を投げつけた。

 それは両者の間で光り輝き、爆風が両者を包み込んだ。


「形成・破壊の脈動(ヨルムンガンド)!!」


「鮮血の舞台劇カズィクル・ベイ


 両者の声と共に発動される神器。響夜の鎌から放たれる破壊の斬撃はヴラドの血液によって防がれる。


「踊れ」


 着地と同時に響夜へ襲い掛かる血液の刃。それはまるで生き物の様に縦横無尽に動き回り響夜を翻弄する。

 右からの刃を屈んで躱し、上からの斬撃を鎌で往なし、左右の刃を破壊の一撃で吹き飛ばす。まるで無尽蔵に思える血液の刃は相対する敵の心を確かに挫くだろう。


「温いんだよ!」


 だが、それは常人であればの話。響夜はクラウンでこそ若僧だがその人生は常人、軍人であろうと圧倒するだけの理不尽で埋め尽くされてきた。

 死線の一歩先へと自ら踏み出し勝利を掴み取る。それが出来るからこそ彼もまたクラウンの席に名を連ねるのだ。

 刃を掻い潜りヴラドの目の前に躍り出る響夜。此処で初めてヴラドは防御に回った。


「オラアアアアァァァァ!!!」


 叫び声と共に振る下ろされる斬撃をヴラドは自らの腕に纏った鮮血で防ぐ。二撃、三撃と続く死の斬撃はヴラドの腕を切り裂いた。


「それは―――悪手と言うものだ」


 切り裂いた腕から飛び散った血液は即座にヴラドの武器へと変わる。形成された刃は響夜の体を切り裂く。

 それによって生じたほんの一瞬のタイムラグ。それは血液の刃が響夜を捕らえるのには充分過ぎた。背後から迫り来る刃に響夜は変わらず笑みを浮かべたままだった。


Accessアクセス Jotunheimr(忌むべき巨人の王)!!」


 その言葉と同時に響夜の背後に現れる巨大な死神。

 死神の一振りで背後から迫っていた刃は霧散する。


「ほう」


 それを見たヴラドは此処で初めて愉悦の表情を見せた。

 破壊したいと、あれを無残な姿へと変え地に這い蹲らせたいと、そうヴラドは思ったのだ。故に―――


Access(アクセス)・Helheim(死者が踊りし楽園)」


 自らも同位階の力を持って破壊する。

 その言葉と共にヴラドを中心に血が溢れだす。無尽蔵に溢れだすそれはまるで海の様だ。

 そしてこの総てがヴラドの刃を意味している。


 ズルズル、そう音を立て血液が蠢く。やがてその全てが刃となって響夜と死神へと襲い掛かる。

 それを薙ぎ払い、時に消滅させながら響夜はヴラドへと駆ける。襲い掛かる刃は数千、数万という規模へと膨れ上がり、尚も止まる気配は無い。

 しかし、突如ヴラドの体に異変が起こる。いや、ヴラドだけではない。この国、この夜に異変が起きていた。

 それはまるでルビーの様に、血の様に赤い月。それと同時に響夜の前方に障壁とスケルトンの群れが展開される。それは迫り来る刃の速度を僅かに遅らせ、響夜に道を作った。


「オオオオオオオオオォォォォォ!!!」


 咆哮と共に振り下ろされた死神の刃は、吸血鬼の喉元へと吸い込まれていき―――その首を刎ね飛ばした。



感想、批判、意見等がありましたらお願いします。



一気に書き上げられたら良いなぁ。


すみません、登場人物などの紹介は後日――たぶん最終話投稿後――纏めて紹介したいと思います。

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