殺人鬼に出来ず魔王に出来ること
「・・・・・ああ、おもしれえ。最高にハイな気分だクソ野郎」
by響夜
「我の邪魔をするな!!」
byマオ
ギルドの依頼で俺達は今ゴブリンの討伐に来ている。そこまで苦戦することは無いと思うが油断すれば何があるか分からない。既に俺は此処に来てマオという規格外と会っているのだから。俺は適度な緊張感をもって目的の場所へと歩いて行く。・・・・マオを背負って。
「・・・・・おかしいだろ」
「何がじゃ?」
俺に背負われた状態でマオは首を傾げ聞いてくる。
「・・・・ハア」
「?」
俺の様子にマオは相変わらず首を傾げたままだった。地面に落としてやろうか?
「マオ。そろそろだから降りろ」
「・・・うむ」
マオは少し不服そうな顔をしたが素直に俺から降りる。
「ゴブリンは穴の中にいるんだっけか」
「うむ、奴らの住処は大体掘って作られた穴の中じゃ。狩りにでも行かない限りは大抵住処にいるの」
俺達がそんなことを言いなが進んでいくと拓けた場所に出る。そこから見えるのは一つの大きな穴。・・・・が5つ。
「・・・・・・13、だよな?」
「・・・・13・・・の筈じゃ」
俺の言葉にマオも自信を失う。・・だよな。あれ、どう見ても40は超えてるよな。俺達はゴブリン達の様子を見る。
「・・・?」
「どうしたのじゃ響夜?」
「いや・・・奥の方に何か建物が見えるからよ」
俺の指さした方向。そこに見えるのは神殿のような建物。だが半壊して建物の殆どが土砂に埋まっていて生物が住んでいる様子もないし使われているようにも見えない。
「・・・・・・」
「響夜。気になるのは分かるが今はゴブリンが先じゃ」
「ああ」
俺は神殿からゴブリン達へと視線を戻す。ま、さっさとやるか。
「・・・・・・」
俺のスキル想像形成。これはよく考えればこの世界の常識を覆すようなものだ。マオから聞いた。この世界は魔法を唱えるとき詠唱が必要になる。上位の奴らは詠唱破棄で無詠唱のまま魔法を使えるがそれも限度―――マオのような規格外除く―――がある。そして最初から存在している魔法に従った構成で魔法を放っている。
だが俺の想像形成は詠唱を必要とせず俺の想像で創られるからこの世界には存在しないものだ。ようは・・・
「俺にしか創れないただ一つの魔法だ」
俺は火の魔法で巨大な炎の蛇を創る。
「いってこい」
俺の合図と共にゴブリン達へ向かっていく。一匹のゴブリンがその姿を見て敵襲と悟るがもう遅い。目の前にいるゴブリン達を飲み込む。そこに来て漸く他のゴブリン達も動き出す。
「行くぞマオ」
「うむ」
炎の蛇によって焼け焦げた大地の上に俺達は降り立つ。
「中々のものじゃな」
マオは周囲を見てそう呟く。
「まあな、今回は炎と追尾性だけにしたからな」
俺達がそんなことを言っていると炎の蛇が突然凍り、砕け散る。
「・・・・ゴブリンメイジ」
「どれくらいだ?」
「身体能力はそれほどじゃないの。ただ知能が高く魔法が使えるの」
身体能力がそこまでじゃねえんなら奴に魔法を撃たせなければいいか。俺はそう考えるとゴブリンの群れへと駆ける。
「半分任せた」
「了解じゃ」
その言葉と共にマオはゴブリンの群れへ次々に魔法を放つ。
「・・・容赦ねえな」
天高く吹き飛ぶゴブリン達を見て俺は思わず同情してしまう。
「ギャギャッ!!」
「邪魔」
飛び掛るゴブリンの顔面に拳を入れると横たわるゴブリンの頭を踵落としで砕く。広がっていく血の臭い、俺はその臭いで自分が興奮していくのが分かる。
「・・・堪んねえ。堪んねえよ」
俺は懐からデザートイーグルを取り出す。
「オラオラオラァ!!派手にブチまけろやぁ!!」
放たれた銃弾は針となってゴブリン達を襲う。だが俺がそれだけで終わりにする訳がない。針が刺さったゴブリン達は叫びだし次々に仲間を襲う。幻覚作用。それがこの針に掛けた呪の効果。仲間を未知の敵と錯覚させ混乱させる。仲間同士で殺し合うゴブリン。それを見た俺は思わず肩を震わせて爆笑する。
だからだろう、俺はゴブリンメイジからの攻撃に気付けなかった。
「――――」
俺はその攻撃で手に持っていたデザートイーグルを弾かれる。そして同士打の中を抜けて俺に飛び掛ってきた5匹のゴブリン。
「―――しまっ!」
俺はそう言って左手に持った黒い塊をゴブリンの額に押し付ける。
「た訳ねえだろ?」
俺は笑いながらグロックの引金を引く。放たれた銃弾は眉間を撃ち抜き。俺は向かってきていたゴブリン共を次々に撃ち殺していく。
「ほらほらどうしたぁ!?もっと死ぬ気で来いやぁ!!」
俺は次々に倒れていくゴブリンを見て叫ぶ。
「鋼鉄の処女」
その言葉と共にゴブリンメイジの背後に鋼鉄の拷問器具が出現する。ゴブリンメイジはそれに気付く暇すら無く中へと押し込まれ閉じ込められる。その瞬間ゴブリンメイジの絶叫と血が漏れ出だした。
「・・・・・堪んねえ」
俺はその光景を見て満面の笑みを浮かべる。最高だ。まさかこれも再現可能とは・・・。
「・・・・・っち、もう終わったか」
辺りを見れば周囲にあるのは屍ばかりあと数匹程残っているがそれもやがては同士打で死ぬだろう。・・・・念には念を入れるか。
「燃やせ」
俺は周囲一帯に炎の矢を降らせる。残りもこれで焼け死ぬだろう。俺はそれを確認するとマオを見る。
「・・・まだ終わってないか」
魔王ってのは滅多に戦えないのか?随分顔が輝いているが。
俺はそれを見ると気になっていた神殿へと足を運ぶ。何かありませんかねえ。
「しかし随分古びてるな」
どれだけ昔のものなんだか。俺は何時でも戦闘が出来るようにグロックとデザートイーグルを手に持っておく。
「玄関でも作るか」
俺は崩れないように調節して弾丸を放つ。弾丸は神殿の外壁にぶつかると大体俺の予想通りの規模で爆発する。
「お邪魔しまーす」
俺は出来た玄関を通って中へと入って行った。
◆
「ふはははは!!逃げ回るがいい!!」
我は手当たり次第に近くにいる敵を吹き飛ばしていく。久しぶりに手加減無しで戦えるのだ。これぐらいは許してもらいたいものじゃ。
「さあ、次は何で吹き飛ばそうか」
闇で影を操るのもいいの。自分の影に刺されて死ぬ姿というのは酷く滑稽であろうな。我はそう考えながら魔法を発動させる。だが―――
「GYAAAAAAAAAAAA!!!!」
「む?」
突然空から咆哮が聞こえる。そして突風が吹き荒れると共に聞こえる翼を羽ばたかせる音。
「GRAAAAAAA!!!」
空を見ればそこには先程まではいなかったはずの――――というかこんな所に現れないはずの――――巨影。それは全身を覆う赤い鱗、二枚の翼、そして鋭い目付き。恐らく種としては代表格と言っても過言でない生物。
「赤竜」
我はその姿を見て不敵な笑みを浮かべる。まさかこんな所で出会えるとは・・・。
「・・・・響夜は何処にいるのかのう」
我は響夜の姿を探す。けれど何処を見ても響夜の姿はなくあるのはゴブリン共の死体だけ。
「む~・・・置いてかれたかのう」
我は証を使って響夜が何処にいるのか探す。・・・・神殿?
「あやつ先に行きおったな」
我は頬を膨らませて言う。だがそれも束の間だった。
「もう一体ドラゴンの魔力を感じるの」
感じるのは・・・神殿。響夜がいる場所も・・・・神殿。
「不味い!」
幾ら響夜でも人間。それもこの世界に来たばかりでドラゴンと戦うなど無謀以外の何物でもない。我は真剣な表情になると目の前の赤竜を睨み付ける。
「悪いが、早々に死んでもらおうぞ」
我はその言葉と同時に魔法を放った。
◆
「オオオオオオオオオ!!!!」
俺は目の前にいる化け物に弾丸の雨を浴びせる。だが化け物は多少怯んだものの俺へ突進してくる。
「クソっ!」
俺はその突進を何とか躱すと今度は背中へ弾丸の雨を浴びせる。だが化け物はその攻撃も物ともせずに俺を向く。そこで漸く俺は目の前にいるのが何なのか分かった。
「・・・・竜・・・の骨?」
そこにいたのは全身が骨で出来ている竜の形をしたもの。肉や皮もなく僅かに浮遊しているがその正体は分からない。
「GRUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
竜は吠えるとその口から黒い光線を放つ。
「うおっ!?」
その攻撃を何とか躱すものの俺の足場は崩れ身動きが取れなくなる。竜はその俺に向かって右の爪で引き裂こうとする。
「――――――」
その攻撃を俺は全身を使って受け止める。その衝撃でピキッと嫌な音がするが今は構いやしねえ!!
「――――ッ!」
竜の手を受け止めていた俺に突然衝撃がくる。
「・・・・・ガッ・・あ・・」
よろめきながら俺が見たものは尻尾。竜はその尻尾を使って俺を叩いたらしい。それにより体制を崩した俺を竜は一気に圧潰す。
「ぐ・・・・お・・・」
俺は想像形成でオブジェクトを竜と地面の間に創り出すと隙間から抜け出す。それとほぼ同時に竜はオブジェクトを破壊する。
「あ・・・ぶねえ」
ひしゃげたオブジェクトを見て俺は冷や汗を拭う。今のは今まででもベスト5に入る程の恐ろしさだった。俺は鞄から手榴弾を取り出すと竜へと投げる。
ドゴォォン!!!
手榴弾は見事に竜へぶつかり爆発した。俺は土煙の中にいる竜を睨み付ける。・・・・流石に少しは傷が付いたよな?やがて土煙が晴れたそこには顔の半分を破壊された竜の顔。その瞳には確かな憤怒の色が見えていた。
「・・・・ざまあ」
俺は口元に笑みを浮かべて言う。それが気に障ったのか竜は尻尾で俺へと強烈な一撃を放つ。俺は躱そうとするが肩にはしった激痛で動きが鈍る。
「―――――――――か、はっ!!!」
その一瞬の隙を逃すことなく竜の尻尾が俺の腹に直撃する。骨の折れる嫌な音と共に俺はその衝撃で壁へ吹き飛ばされる。
「ゴボッ・・・・」
壁に叩き付けられた俺は思わず咳き込む。口のなかには血の味が広がり床を赤く染めている。
「・・・・・舐めてんじゃねえぞ」
俺はその痛みを無視して立ち上がる。
「ぜってえ殺してやるよ」
俺は再び銃弾の雨を降らせる。今度は只の銃弾じゃねえぞ糞が!放たれた銃弾は次々にその効力を発揮する。あるものは爆発し、あるものは針となって竜を襲う。
「死ね死ね死ね死ね!!!」
俺の銃弾を浴びながらも竜はその闘志を燃やして突撃してくる。既に竜の体は半分近くがボロボロになり普通なら幾ら骨の体といってもとても動けるようには見えないだろう。
「・・・・畜生」
俺の体はもう動かねえ。最後の悪足掻きで引金を引き続けているがもうこの距離までこられたら倒しても俺に突っ込んでくるだろう。俺は最後に不敵な笑みを浮かべ竜に叩き潰された。
◆
「・・・・・・・」
体が・・・動かねえ。竜に叩き潰された後、俺は地下へと落下した。上からは勝ち誇ったような竜の咆哮が聞こえる。
「・・・けんじゃねえぞ」
俺は気力で床を這い蹲って動く。
「・・・ヤロウ、絶対痛い目みしてやる」
ぼんやりと俺が進む方向に二つの光が見える。
「・・・あ?」
俺は這い蹲りながらもその光がある台のへと上り、光に手を伸ばした。
「――――――――」
その瞬間、俺は確かに何かを掴んだ。
「・・・・十字架?」
俺が掴んだものは漆黒に輝く十字架。それは突然光だしやがて光が収まると共に十字架は消えていった。そしてその次の瞬間俺から溢れ出る何か。それは俺の全身を駆け巡りその効果を表した。
「・・・・・は?」
俺から消える痛み。みれば全身にあった傷も綺麗さっぱり消えていた。
「・・・・・。」
これは治ったと思って良いのか?俺は取り敢えず全身を確かめるように動かす。
「五体満足。・・・魔導具か何かか?」
後でマオに聞いておく必要があるな。俺は立ち上がると隣にあった台の上で光るものを見る。そこには一本の銀の鎖があった。
「・・・・これも魔導具か?」
俺はそれへと手を伸ばす。するとさっきの十字架同様鎖も光だし今度は俺の右手に巻き付く。
「・・・・・。」
俺はスキルの魔神の観察眼を発動させる。これは鬼神の武勇伝と違い常時発動ではないからいちいち発動させる手間が掛かるのが面倒だ。
神器:悪魔の心臓
神器:神殺しの鎖
・・・・神器ですか。もしかして上にいた竜ってのはこれの門番か何かか?
「・・・・・・これはひどい」
思わず効果を見た俺は頭を悩ませる。
悪魔の心臓…所有者に超再生能力を身につける。肉体が一部でも残っていれば再生を可能とする。
神殺しの鎖…対象へと鎖を放つ。鎖は自由に操ることができ、本人の魔力の分だけ数を増やすことが可能。
神殺しの鎖は兎も角、悪魔の心臓って、俺、強制的に人間止めさせられかけてる?これなんて呪い?
「・・・・ジーザス」
俺はそう言いながらも上へと神殺しの鎖は飛ばす。もしかしたらマオがどうにか出来るかもしれないからな。神殺しの鎖が天井に突き刺さると俺はそれを持って一気に壁を駆け上がる。
「よう、蜥蜴野郎」
俺は目の前にいる竜に声を掛ける。竜は俺が生きていることにキレたのか。宝を取られたことにキレているのか知らないが一際大きく咆哮を上げる。俺はそれを見て笑った。
「上等。今の俺に勝てるもんなら殺ってみやがれ」
「今の俺は・・・最高にハイな気分だぞ。」
その言葉と共に俺と竜の第二ラウンドが始まった。
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