外面の良い奴ほど中身は酷いのかもしれない
「――――邪魔するぞクソ神父」
その言葉と共に教会の扉が蹴り飛ばされる。その奇行に中にいた一人の神父、マキシミリアノ・マリア・コルベは眉間の皺を揉みながら入って来た二人の人物に溜息を吐く。
「貴方はもう少し丁寧に扉を開けられないのですか?此処は神聖な場なのですよ?」
「知るか。神に碌な奴なんていねえだろうが」
まるで聞く気の無い様子でコルベを一瞥する響夜。小夜は神聖が苦手な為か眉を顰めている。
そんな二人に更に深い溜息を吐き呆れ果て、掛けていた眼鏡のレンズを拭きながら口を開く。
「そもそも神は善悪の二面性を持つもの。貴方が敵意を持ち襲い掛かるからですよ。・・・それで、妹を連れて今日は一体何の用で?」
「テメェを殺しに」
その言葉にコルベは目を丸くしやがて苦笑した。
「それはまた、面白冗だ――――!」
しかし視界の端に捉えた閃光によってその苦笑は消えた。彼がその場から一歩後ろへ後退した瞬間、彼がいた場所にギロチンが突き刺さる。
「何の真似でしょうか」
眼鏡の奥にある瞳には確かな敵意を露わにしてコルベが尋ねる。
「・・・・何の真似かはこっちの台詞だな。軍に情報を流したのはテメェだろうが」
その敵意に応える様に殺気を放ちながら魔力を高めて行く響夜。結果的には利があったが最悪の場合あそこで剣を交えた可能性もあるのだ。
高まって行く二人の緊張感。だがそれを破壊する様に突然教会の外から声が聞こえて来た。
「神父様、此処にいるのですか?」
その言葉と共に現れたのは聖女。彼女は破壊された教会の扉に目を丸くしながらコルベへと問い尋ねる。
「一体何があったのですか?誰かが襲撃でも?何故死んでいないのですか?」
「カルメル、貴方はどうしてそう辛辣なのですか。扉は立て付けが悪かったのでしょう。後で直してもらうよう手配しておきます。それで用件は?」
「ええ、実は――――――」
二人の会話を柱の影で聞き耳しながら響夜は舌打ちをする。
どうしてこうタイミングが悪いのか。しかし、此処で戦っても自分の存在がばれるだけだ。それに加えコルベが俺の来訪を予期していない訳がない。
「・・・・・兄様、申し訳ありません。そろそろ、不快感が」
何時までも此処にいるのは小夜には辛かったのだろう。それが決定打となったのか今回は諦めよう、と溜息を吐いて響夜は小夜を連れて教会から消えた。
◆
雑踏の中を歩いて行く響夜と小夜。二人が向かっているのは一軒の宿屋。
響夜は目的の宿屋へと着くと扉を開け中へと入って行く。
「いらっしゃいませ、宿泊ですか?」
中は喫茶店と宿屋として経営しているのだろう。受付の左側には寛いでいる人影が幾つかある。
響夜は受付の言葉に一言応え喫茶店へと向かう。
「待たせたな」
「・・・・結構待った」
響夜の言葉に対面に座っていた少女が応える。真っ白な髪は床に付かないよう上げられており恐らくは立っても地面に着く程なのではと窺える程の長さだ。
「兄様、これは何ですか?掃除してもよろしいでしょうか」
先程まで抱きついていた響夜の腕を握り潰す程の力を腕に込める小夜。響夜は冷や汗を浮かべながら答える。
「お前も会ったことはある。というかつい最近までいたぞ?」
「姿が変わっただけでこの扱い。深く傷つきました」
軽く拗ねた様子の少女に怒りを通り越し殺意を覚えながらも小夜は響夜の言葉から目の前の人物がだれなのかを推測する。
だが、どれだけ思い出しても目の前の少女に会った覚えはないし、マオやハク以外の女性では帝国関連だ。
「グローリアです」
「・・・・誰かしら」
名前を名乗った少女に小首を傾げながら小夜は問い尋ねる様に響夜へ視線を向ける。二人の様子に呆れながら響夜は目の前の人物がだれなのかを小夜に教えた。
「お前もそれじゃ分からないだろう。小夜、こいつはウサ公だ」
「・・・・・・は?」
その言葉に惚けた声を上げながら響夜とグローリアを交互に見る小夜。
「いえーす、ウサ公=グローリア。名前は主から貰ったよ」
無表情に棒読みでピースするグローリア。その姿に呆れて響夜は深い溜息を吐く。
「俺と繋がってるお陰で魔力はウサ公にも供給されるからな。それで人化させたらこんなのだったんだよ」
「酷い・・・態々メスの姿になったのに」
「外じゃなくて中身がお前は駄目なんだよ」
しょぼんと肩を落とすグローリアにジト目を向ける響夜。小夜は現在の状況に思考が追い付かなくなったのか頭から煙を噴き出させている。
「主が激しいから小夜が駄目になった」
「・・・・・ハア、本当にお前は中身が駄目だよ」
小夜の姿を見て呟くグローリアに響夜は心の底から深い溜息を吐いた。
◆
未だ頭がオーバーヒートしている小夜を背負いながら響夜はグローリアと共に宿の一室に入る。
響夜は小夜を簡素なベッドの上に寝かせるとグローリアへと振り向く。
「それで、何が分かった」
「取り敢えず、赤の国の頭から報告・・・・知ってると思うけど」
グローリアは何枚かの紙をバックから取り出すと読みあげて行く。
「あそこの頭はヴラド・ツァペシュ。主と同じクラウン序列第十位。噂じゃ吸血鬼の祖だとか・・・。
あそこの国は今の魔物の進行でも国力を失ってないね。元々あそこは一人一人の力量が他国と比べても頭一歩抜きん出てるし。それにあそこの仲間意識は異常。まるで国民全員が家族みたい。
ヴラド自信が戦っている姿は確認されてないけど何年も前から姿が変わっていないことから人間とは違う種族っていうのは分かってる。クラウンの一人である以上は相当な実力者の筈だよ」
グローリアは響夜に国内の詳細な地図や現在の他国との情勢が書かれた紙を渡していく。それに目を通しながら響夜は作戦を練って行く。
「・・・・主」
「何だ?」
「・・・・・クラウンと戦うのは初めてじゃないけど、勝率はどれ位?」
「・・・・・・・・」
グローリアの言葉に響夜は只無言のままパラパラと紙を捲って行く。暫く紙が捲られる音が室内を支配するが、やがて響夜は口を開いた。
「・・・・さあな、奴の能力が分からない以上、勝率なんてのは意味がねえからな」
懐から煙草を取り出す響夜。それをグローリアは奪い捨てる。
「それ、臭い」
グローリアの言葉に響夜は不満気な表情をするが何も言わず煙草を仕舞う。
「まあ、正直負けるつもりはねえよ。最初からそんなんじゃ直ぐに死んじまう」
響夜は気だるげに外を眺める。
「今回はお前達にも少し手つだって貰うぞ」
その言葉にグローリア笑みを浮かべ膝を折る。
「お任せを主。主の助けになるのなら、私は何でもするよ」
白髪紅眼の主従は互いに笑みを浮かべて視線を交差させていた。
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小夜が空気に・・・。最初はこんなつもりはなかったのに、何故だ。
ウサ公を人化させたのにはちゃんと意味があります。空気になりそうだからではありませんよ?いや、本当に、マジで。