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死神は嗤う、仮面を付けてⅥ


「さっさとくたばれ老い耄れ!」


 剣戟の数は三桁をとうに超え、互いの身体はボロボロになっている。繰り出されるアストラルの突きを紙一重で躱し反撃とばかりに袈裟切りを繰り出すノーレン。先程からそれが続いている。魔法を放とうにもこの剣速では距離を取るしかなく、距離を取ろうにも決して相手は距離を取らせない。故に互いに剣による攻撃しかないのだ。

 だが、その攻防にも次第に優劣が現れ始めていた。


「―――――――ふっ!」


「おわっと!?」


 頭上を掠めた一撃にノーレンは思わず声を上げる。次いで放たれる攻撃を追い風による加速を加えた突きによる牽制で防いだ。


「随分温いな・・・その程度で私の剣に勝つか」


 語り掛けるアストラル。だがその佇まいに隙は見当たらない。


「ああ、勝ってやるよ。強い?それがどうした。もっと理不尽な奴等を俺は知ってるんだよ」


 剣を構えるノーレン。その瞳に宿る戦意は衰えるどころかより強いものになっている。魔王軍との戦い、魔物の進行、それらで自分より格上など星の数ほどいることを見せつけられている。ただその一人が此処にいるだけ・・・。何より、魔王の様に手も足も出ない相手ではないのだ。

 

「傭兵は戦うのが仕事だ。戦って死ぬ、傭兵に取っちゃあ誇りなのかもな・・・」


「けどよぉ、まだ約束が残ってからよ――――――此処で死ぬのは御免だ」


 何より育て甲斐のある奴、からかっていられる奴が残っている。

 それが何となく気恥ずく感じノーレンは頬を掻く。


「死ねないのは此方も同じ、傭兵には騎士の誇りなど分からんだろう」


 高まる魔力。どれ程齢を重ねようとも何十年と主を護り続けた騎士には錆一つ付いていない。その姿にノーレンは自然と彼を称賛していた。


「ああ、だからよ。教えてくれよ、騎士が護るものをよぉ!!」


 追い風によって爆発的な加速を行うノーレン。対するアストラルは全身を打つ突風に僅かに目を細める。


「舐めるな若僧!!」


振り下ろされる一撃を正面から受け止める。先程までのノーレンの一撃はアストラルにとっては子供が振るう程度でものであった。


「オラァ!まだまだ行くぞぉ!!?」


 振るわれる剣戟の一閃を受け止めるアストラル。だが、その衝撃までは受け止めきれずアストラルの身体は弾き飛ばされる。


「―――――――くっ!?」


 今の一撃は完全に今迄と違っていた。今迄の様に子供のチャンバラの様な物ではない、歴戦の戦士が振るう剣と同等の重さを持っている。

 嵐の様な連撃を受け止めながらアストラルはその隙間を縫うように鋭い一閃放つ。


「っ!その程度かあ!?」


 アストラルの一撃が肩を裂いく。その痛みに顔を顰めながらもその連撃を止めることはしない。


「――――――私にも、譲れぬモノがあるのだ!!」


 その連撃を真っ向から打ち砕くアストラル。風が斬撃となってその体を切り刻むがそれすらも強靭な精神力からか意に介さない。

 防御を捨て総てが全力による攻撃を繰り出す。互いにただ目の前にいる敵に全力を持って応える。二人の鎧は既にガラクタ同然となっており重りにしかなっていない。やがて鎧も金属音を立て地面へと崩れ落ちる。


「「オオオオォォォォォ――――――!!」」


 一手一手が刹那の攻防。しかし二人にはまるで走馬灯とでも言うべきかの様に遅く見えていた。自身に迫る死の危険。それを瞬時に判断し敵への反撃へと繋ぐ。

 不格好に見えようとも二人の熱は過去最大にまで高まっていた。

 だが、それもやがて終わる。

先に地へと落ちたのはアストラル。やはり老いた体には無理があったのだろう。彼は苦笑する。


「・・・やはり、老いとは恐ろしいものだな」


 彼は笑顔を浮かべる。

 まるで、もう満足したかの様に。


「何だかんだ言っていても、結局私も武人の一人だったか・・・・。主を護るより目の前の光に魅かれてしまった」


 彼が思い出すのはかつての自分。まだ一つの閃光として駆け抜けていた時代。


「だが、実に清々しい。最後にこれ程の戦いを出来たのだ・・・」


 それを見下ろすノーレン。


「まだまだ若いんじゃなかったのかよ」


「く、ははは・・・大人とは子供の前では見栄を張りたいものだ・・・」


「最後に・・・頼みたいことがある」


 最後の力を振り絞るかのように震える声で告げるアストラル。


「何だよ」


「――――――我が主に・・・もし会えたなら、私は貴方に仕えることが出来て・・・良かったと」


「・・・ああ、伝えといてやるよ」


 それを聞くとアストラルはやがてその息を引き取った。


「・・・・・・」


 その姿に、ノーレンは静かに黙禱した。


 ◆


「どうした、異界の勇者とやらの実力はその程度か?」


 繰り出される蹴りを屈みこむことで躱し距離を取る浩太。バトラーの脚は壁をまるで紙細工の様に貫通していた。彼の相貌の一部分から僅かに鱗が見える。


「・・・竜人?」


「そうだ・・・お嬢様に仕え続けてきた只一人の執事。私の義務はお嬢様を何者からも護り抜きその命に全身全霊を捧げること」


 その言葉に浩太は僅かに顔を歪める。


「・・・何て言えばいいのか分かりませんけど・・貴方の考えは間違ってる」


「何を――――」


「そんなの絶対おかしいですよ!只命令を聞き続けるだけなんて、そんなの人形だ!」


 その言葉にバトラーは眉一つ動かさない。


「それがどうした。例えお嬢様の人形であろうとも私は忠義を尽くすのみだ」


 バトラーが駆ける。彼の目には迷いなど見受けられない。繰り出される蹴りを剣で防ぎながら浩太は刺突を放つ。


「――――――ふん!」


 それをバトラーは自身の脇に剣を挟み込み逆に動きを封じた。


「貴様の様な者にはお嬢様の苦しみなど分かりはしない」


 突き出された拳は浩太の胸を直撃する。


「―――――かっ、は・・!?」


 肺が圧迫され息が詰まる。浩太はその衝撃に抗うことすら出来ず壁へと叩き付けられた。


「ふん、剣が無ければ何も出来んか」


 バトラーは聖剣を放り捨て浩太へと歩み寄る。


「所詮貴様らなどこの程度だ。脆弱で他者を犠牲にしなければ生きることすらできない」


「違う!」


 浩太は苦し気な表情をしながら何とか立ち上がる。


「確かに人間も獣人もエルフも皆弱いさ!けど、手を取り合える。皆で笑いあえる!」


「詭弁だ。その仮面の下にあるのは裏切りだ。貴様もその犠牲者だろう。誰一人信用できる者のいない地で皆貴様を騙し、利用している」


 その言葉に浩太は知らず声を荒げていた。


「違う!!確かに、最初は恨んださ!何で自分がこんな目に会うんだって、家族と離れ離れになって戦争の道具になんてされて!でも・・・それでも!心の底から自分を心配してくれている人がいたんだ!!」


 思い浮かぶのは優しい笑みを浮かべる少女。彼女は誰よりも自分のことを心配してくれていた。他の皆だって突然連れて来てしまったことを申し訳ないと思っていたし、自分のことを心配してくれていた。


「・・・」


「アンタだってそうだろう!?アンタのお嬢様は、アンタのことを思っていてくれている筈だろう!!?」


「――――――ないな」


「・・・え?」


「お嬢様にはもう私のことなど見えていない。お嬢様は旦那様の亡霊に憑かれてしまった」


「な、それって―――――!?」


 浩太が何か言おうとした瞬間顎を打ち抜かれる。そのまま悲鳴を上げることさえ許されず浩太は次々に殴られる。


「―――――っ・・・ぁ・・・」


 痛みに震える脚を押さえ浩太はバトラーを見る。


「力がない正義などこうなるだけだ。貴様の言葉等どうでもいい。そこまで吠えるなら見せてみろ。お前の力を」


 浩太は自身の魔力を張り巡らせ立ち上がる。まるでイルミネーションが明滅している様に焦点が合わさらない。

 

「・・・こ・・・い!」


「―――――こい!ムーツァルト!!」


 その言葉と同時にバトラーの背後にある聖剣に動きがみられる。


「――――――!?」


 そのことにバトラーが気付いた時にはもう遅い。聖剣は主の下へと向かっていた。バトラーは身を捻り躱そうとするが聖剣の切っ先は既にそこまで迫っていた。


「っ!」


 脇腹を抉られ苦悶の声が漏れる。


「見せてやるよ!あんたが認めるまで!何度だって立ち向かってやる!!」


 聖剣の恩恵によって治癒されていく体。浩太はバトラーへと疾走する。


「オォォォォォォォォォォ!!!!」


 聖剣の一閃をバトラーは横腹に力を加え受け止める。だが聖剣から放たれる力によってその手はボロボロになっていた。それでもバトラーはその手を離さない。彼が此処で手を離してしまえば浩太は主へと近づくことになる。

 バトラーの表情に思わず浩太は動揺する。

 その隙をバトラーが逃すはずもなく浩太の腹に重い蹴りが炸裂する。


「っが!―――――ぉ!!」


 それを一歩も引かず浩太はバトラーの目を見る。バトラーはその姿に瞠目した。

先程までは今の蹴りだけで吹き飛ばされていたというのに・・・。


「言っただろう?・・アンタが認めるまで何度だって立ち向かってやるって!!」


 浩太はバトラーの額に自身の額を全力でぶつける。


「―――!?」


「――――ってえ・・」


 その衝撃で思わず聖剣から手を離してしまうバトラー。


「あんたのそのお嬢様がどうしたのかは知らない。けど!皆、自分から歩み寄れる心があれば、分かり合えるんだよ!手を、繋げるんだ!!」


 まるで浩太の心に呼応するように聖剣の光もまた輝きを増す。


「あんたは!自分の大切な人が苦しんでいる時歩み寄ったのか!?どんなに突き放されても支えになってやったのか!!?ふざけんな!只言う事を聞くだけの人形が、一端の従者を気取るんじゃねえ!!!」


「――――――――!?」


 高まる魔力とまるで太陽の様に輝いている聖剣。それをバトラーは眩しそうに見つめる。

 ああ、そうか。自分は逃げていただけなのかもしれない。あの方の苦しむ姿を見たくなかっただけなのかもしれない・・・。

 思い出されるのは遥か昔、無邪気に笑っていた主達の姿。


「―――――――」


 バトラーの姿は聖剣から放たれた光の中へと消えて行った。


「・・・・・手加減はしてやったんだ。頭冷やしやがれ」


 浩太はぶっきらぼうにそれだけ言うと先へと足を進めた。


 ◆


「やりなさい、お前達。殺しても構わないわ」


 小夜の言葉に天井、床、壁、あらゆる方向からアンデット達が襲い掛かる。


「Gaw!!」


 その鳴き声と共に部屋の総てを冷気が襲う。それは低級のアンデット達にとってはひとたまりもなく次々に氷像へと変わっていった。


「人間の姿は止めたのね。貴方も本気と言うことかしら?」


 小夜の言葉にハクは氷柱放ち答える。


「そう・・・向かって来る敵は排除しなければならないものね?」


 その氷像を巨大な骸骨が砕くが一発だけその脇を潜り抜け小夜へと迫った。


「・・・・舐められたものね」


 小夜はその氷柱を容易く受け止める。


「貴方と私では魔物の格が違うの」


 小夜はそう言い放つとお返しとばかりにハクへと氷柱を投げつける。それは小夜へと放った時の比ではなく堪らずハクはその場から飛び退いた。


「くす、どれだけ逃げられるかしら?」


 行く手を遮る様に現れる骸骨をハクは次々に氷像に変え、それすら足場にして駆け廻る。

 それを眺めて小夜は呆れたように溜息を吐いた。


「やっぱり駄目ね。この程度じゃお遊びにもならないわ」


 小夜の全身が蝙蝠へと変わる。そしてその蝙蝠達が向かうのはハク。


「Gaaaaaaaaaaaa!!!!!!」


 その蝙蝠達を瞬時に凍らせハクは砕いて行く。


「あら?私は此方よ?」


 その声が聞こえてきたのは頭上。瞬間、ハクの胴に強力な一撃が入る。


「――――――――――っっっ!!!?」


 声を出す暇もなく、ハクは小夜に蹴り飛ばされ壁へと叩きつけられた。


「ふふふ、まだまだ行くわよ?」


 小夜の頭上には膨大な魔力の塊。ハクはそれを見た瞬間に動いていた。自らの正面に巨大な氷の壁を何重にも創る。


「ほら」


 放たれた魔力の塊はハクの氷とぶつかり―――――粉砕していく。


「早く逃げないと死んじゃうわよ?」


 それは驕り。今彼女は油断していた。だから気付けなかった。自分の背後にまでハクが迫っていたことに。


「―――――――!?」


 感じた気配に瞠目し小夜は咄嗟に腕で防ぐ。だが、勢いのついたハクの突進を体勢を崩した彼女が無事に防げる筈もなく。


「・・・・・く!」


 小夜の腕から血が滴る。先程とは逆に地に膝を着く小夜と氷柱から見下ろすハク。


「やってくるわね」


 小夜は自分の腕から流れている血を舐めハクを睨み付ける。


「少し甘く見過ぎた様ね・・・」


「Glwaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!


 獰猛な牙を見せ付け唸るハク。その全身には魔力が張り巡らされ瞬時に飛び掛かることが出来る。


「兄様の障害には消えてもらうわ」


 小夜もまた全身に魔力を張り巡らせると疾走する。それに応戦するように飛び掛かるハク。

 互いの初撃はほぼ同時。周囲に魔力の衝撃が波紋となってぶつかる。


「ハア!!」


 その状態から前転をするかの様に宙に舞う小夜は。背中の羽から無数の光弾が放たれる。

 その中を氷柱を足場にして進んで行くハク。当然総てを躱し切れる筈もない。次々に被弾していくがそんなものはお構いなしだ。


「捨て身だとでも?」


 だが、次の瞬間。ハクと小夜の間を突然煙が包む。いや、煙ではない――――


「・・・・・冷気」


 そう、冷気だ。それも氷点下零度を下回る程の物だ。人間やエルフなど凍り付いていくだろう。現に小夜の身体も所々凍てつき始めている。


「・・・・・何のつもりかしら?」


 その冷気を羽で吹き飛ばしながら小夜は辺りを見回す。血の臭いは此処からそう遠くは無い。

 動こうとした瞬間、冷気を裂き氷柱が迫る。それを余裕を持って躱す小夜。だがそれだけではない。全方位から次々と迫る氷柱。そこで小夜はこれが何なのか理解した。


「――――――氷でできた・・・枝?」


 見れば氷柱は枝の様に最初の一本起点に次々とその枝を伸ばし襲って来ている。次第に小夜の行動範囲は狭められていく。


「・・・・・邪魔よ!」


 小夜は枝諸共冷気を吹き飛ばす。だが冷気は一向に消えて無くならない。僅かに冷気が消えた場所。そこへ目を向ければ――――


「鏡?」


 そう、そこにあるのは鏡。ただし、氷によって出来た。それがどこまで続いているのか見渡せば、まるで鳥籠の様に小夜を隙間なく囲っていた。そしてその壁から次々に生えて来る氷の枝。


「じわじわと削ろうとでも?」


 だがその考えも直ぐに変わる。突如上空から氷塊が落ちてきたのだ。


「―――――!」


 それを巨大な光弾を数発当て砕く。それが過ちだったのかもしれない。


「な!?」


 砕けた氷塊の欠片から再び氷の枝が生えてきたのだ。それらは小夜に回避させる隙を与えず――――貫いた。


「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」


 その鳴き声を上げ冷気を裂き現れたのはハク。そこには無数の氷塊が浮かんでいた。


「・・・・・ハア、貴方と違って・・・私は熱くなり過ぎたらしいわね」


 その言葉にハクは何も答えず、小夜へと止めを刺した。


感想、批判、意見、評価などがありましたらお願いします。




剣戟が少し意味が違う気がします。というか使い方おかしいですよね。気にしないでくださると嬉しいです。

コウタの部分はバトラーに変えました。コウタのシーン自体忘れてて慌ててたら今度はバトラー忘れました。・・・・ハア。

コウタの所は背中が痒くなってきました。


今回も説明は特になし。

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