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殺人鬼は異世界に来てしまったようです  作者: ひまめ
殺人鬼と漆黒の御姫様
6/91

殺人鬼と魔王は色々と初めてのことに戸惑った

「予想した通りの所だな」

            by響夜

「賑やかなのじゃ!!」

          byマオ

おはよ・・・太陽が見えねえ。目覚めて最初から躓くとは如何なものか。ちょっと太陽に文句を言いたくなった。余計な事を考えていたら俺の意識は完全に覚醒し大きな欠伸と共に起き上がろうとし、止まる。


「・・・・・デジャブ」


もういいよこのネタ。俺に抱き着いて眠っているマオ。お前は餓鬼か。そう思ってしまう俺は悪くはないだろう。


「・・・・・ベッドがあるのに何故俺と同じ床で寝るんだか」


寒いし硬いし良いことなんて一つもないぞ。それとも人肌が恋しいのか?俺はそんなことを考えながらマオを見る。


「安心しやがって・・・」


もしこれが他の奴なら襲われていたかもしれないというのに。俺はそんなことを考えてマオの頬を引っ張る。


「・・・柔け~。よく伸びるな~」


俺は柄にもなくマオの頬で遊ぶことに夢中になってしまっていた。思わずハッと意識を取り戻しながらも手はその行動を止めない。


「・・・・・・平和だな」


よく考えればここまで平和に過ごせたことなんて一度もなかった。普段からヒトを殺し、恨まれ追われの俺に休息など一日あれば良い方だった。俺はそう考えマオを一瞥する。


「ホント・・・いい寝顔だよ」


二度寝なんてのも良いか。俺はそう考えて横になる。不思議と睡魔はすぐに俺を襲い、俺はまた直ぐに眠りに落ちた。



「・・・・・・ん」


もう朝か・・・?我は眩しい朝日を浴びながらその目を開く。しかし温かいな・・・。我はその温かさが心地好くとても起きる気にはならなかった。


「・・・・・響夜?」


そういえばあやつは何処におるのじゃ?普段から我よりも早く起きている男の名を呼ぶ。しかしその声に答える返事はなく、ただ静寂だけが広がっている。・・・もしかして何処かに行ってしまった?

そんなことを考えてしまった我は突然不安に襲われた。我の姿を知っても態度を変えず、励ましてくれる男。何だかかんだと言いながらも我の頼みを聞いてくれる御人好しな男。あやつがいなくなるなど嫌じゃ!!眠気など吹き飛び我は堪らずに起き上がろうとし、止まった。


「・・・・・響夜」


目の前にあるのは先程まで考えていた男の顔。朝日を浴びながらその顔は心地好さそうだった。


「・・・・・ハア」


それを見た瞬間我は安堵する。それと同時にそれ程にこの男のことを想っていることに自分自身驚きを隠せなかった。


「・・・・・」


白髪赤眼というこの世界でも珍しい容姿の男。思わずその髪を撫でていると、そういえばこやつのことなど我は何も知らないということに気が付いた。


「・・・・殺人鬼のう」


とてもではないが今のこやつの顔を見ているととてもそのようには見えない。・・・・戦闘中はそう思えるだけのものがあるが。現にこやつが我に襲ってきた時など、正に鬼気迫るものがあった。我が人間に気後れするなど初めてのことじゃ。・・・それだけこやつの実力が高いということなのかもしれんが。


閑話休題


兎に角我はこやつのことなど全く知らない。


「・・・・・よし」


こやつのことを本人に聞いてみよう。ただしその為には今よりもずっと親密な間柄にならなくては。我はそう決心すると起き上がろうとする。


「・・・・・・・」


やはり無理じゃ。他の生物との触れ合いなど長らく感じなかったしこやつの心音は聞いてて落ち着く。我は再び響夜に抱きつくと目を瞑る。もう少しだけこの至福の時を感じたいと思いながら。


 ◆


「・・・・・・・」


こんにちは太陽。今度はちゃんと見えたか。俺はそんなことを考えながら未だに抱き着いて寝ているマオを引き剥がす。今度は抵抗しなかったので良かった。もうあんなことは避けたいからな。


「・・・・・・腹減った」


そういえば飯も付くんだったか。俺はそれを思い出すとシャツをとズボンを着替える。一応書置きを置いておくか。俺は部屋に備え付けてあった羊皮紙とペンを取ると書置きを残す。この世界の文字は初めて書くから少しぎこちないが問題はないだろう。マオから知識を貰って良かった。これならあの痛みと引換えだったとしても許容範囲内だ。俺は床に眠っているマオをベッドに運び部屋を出る。


「・・・鍵はいいか」


仮りにも魔王。何かあっても心配するのは相手の安否だろう。俺はそう結論づけ階段を降りて一回のバー(というか飲食店?)に顔を出す。


「あら?今起きたのかしら?」


俺が降りると偶然にも昨日の受付の女性が丁度食器を運んでいた。


「あ、はい。少し疲れが溜まっていて」


主に魔王の世話で。そんなことは口が裂けても言えるわけがなく俺は愛想よく笑って誤魔化す。


「あら、夜の方でかしら。」


この人は笑顔で何つうこと言ってんだ。俺はその言葉に思わず苦笑する。


「違いますよ。俺と彼女はそんな関係じゃありません」


俺がそう言うと女性はふふふと笑う。


「ふふふ、そうでしたか。お似合いだったのでついそうなのかと」


このヒト商売上手いなぁ。などと考えながらも俺は再び苦笑する。


「それじゃお昼にしますか?」


「ええ、お願いします」


俺は愛想よく笑って返事をする。女性もその言葉を聞いて厨房へと入っていった。


「・・・・何か職でも探した方が良いのかねえ」


俺はこれからのことを考えて頭を悩ませる。適当に街の外にいる奴らから路銀を毟り取るのも良いがそれだと来る日と来ない日があるから却下。だとすると何か依頼でも受けて働くかねえ。マオの知識にはそういうのがないから詳しくは分からない。


「・・・・・どうするべきか」


俺の横に置かれる水の入ったコップ。見ればさっきの女性が微笑みながら持ってきていた。


「どうぞ」


「ああ、済みません」


「いえいえ、それよりも何やら悩んでいるようですが」


この店のことだとでも思ったのか女性は少し心配そうな表情をする。


「いえ、ちょっとこれからについて――――」


そこで俺は気付いた。このヒトに聞けばいいんじゃね?と


「すいません。何か良い働き場所ってありませんか?」


俺の言葉が意外だったのか女性は少しキョトンとする。


「働き場所、ですか?」


「ええ、何分旅人でして。今までは何とかなってたんですがそろそろ路銀も尽きかけてきてしまいまして・・・」


「冒険者ではなくてですが?」


「?ええ」


俺は少し首を傾げる。


「ああ、いえ、その身のこなしというか、隙がないようだったので」


・・・・この女性何者だ?いくら冒険者達が泊まるのが多いとはいえ隙とかってのはそうそう分かるもんじゃねえだろ。


「・・・・まあ外は危険でしたから。それなりに実力がないと旅なんて出来ませんよ」


取り敢えず怪しまれたくはないからな。俺は肩を竦めて答えた。女性も何処か納得したのか頷く。


「そうでしたか。・・・ああ、それで働ける場所ですよね?」


女性はそう言って少し悩む仕草をする。


「・・・・そうですね。やはり一番メジャーで簡単なのはギルドに冒険者として登録することじゃないでしょうか。」


「ギルド、ですか?」


「ええ、やはり依頼が普段から数多く来ますし、ランクが上がれば知名度や依頼の報酬も大きくなりますから」


「・・・・・ん~」


ギルドか・・・。先ずはマオと相談した方が良いか。・・・・よく考えればあいつのことをここまで気に掛ける必要もないよな。


「有難うございます。連れと一緒に考えてみますよ」


「ええ、頑張ってください」


女性はそう言うと厨房へと戻った。この宿は中々いいな。やはりマオの勘は伊達じゃない。俺はそう考えながらコップに手を伸ばす。


「きょ~~や~~~!!」


「・・・またうるせえのが」


俺はその声に肩を落とす。


「五月蝿いぞマオ」


俺は階段を騒々しく降りてくるマオを注意する。マオは俺の顔を見た途端に笑顔を見せる。そして俺に集まる視線(主に嫉妬6割殺意7割の10割越え)。見た目だけなら美女なんですがねえ。俺は思わずため息を漏らす。


「響夜!酷いではないか!?昼食に行くなら何故我を起こさない!!」


「・・あ~?あんまりにも良い寝顔だったんでな。起こすのが忍びなかったんだ」


俺は適当な言葉を口にしてその場を乗り切る。マオはまだ不服そうな表情をしていたがそれも一時、飯が運ばれてくればまた笑顔になるだろう。


「はい。出来ましたよ」


マオの愚痴に適当に返事をしていると先程の女性が料理を運んでくる。


「済みません」


「いえいえ、これが仕事ですから」


俺は運ばれてきた料理をマオの前に持っていく。


「?」


「ほれ、先に食っとけ」


「でも・・・」


「文句言うな」


「そうですよ。こういう時は素直に受け取らないと」


女性の援護射撃にマオは料理に手を伸ばす。


「・・・・・おいしい」


「そう言ってくれると嬉しいです。では貴方の分も・・」


女性はそう言って一礼すると再び厨房に戻った。


「・・・・・いいだな」


「うむ、優しいのだ」


流石にあのヒトは人として見るか。中々面白いしな。


「・・・響夜も、ありがとう」


「どういたしまして」


頬を僅かに赤らめて言うマオ。だから切りたくなっちまうから止めろ。


「マオ、この後なんだが」


「む?」


マオは手を止めて俺の話を聞く。


「ギルドって所に行ってみるぞ」


「ギルド・・・ああ、冒険者の」


「金は必要だからな」


マオは納得したのか頷いて再び料理に手を伸ばす。俺はその様子を眺めながら自分の料理が来るのを待っていた。


 ◆


あの後ロシェル―――あの女性の名前だ。あの後聞いた―――によるとギルドはすぐ近くにあるらしいので俺とマオは今ギルドに向かっていた。よく分からんがロシャルから招待状を貰ったのでこれを渡せば良いらしい。ロシェル、お前はマジで何者だ?


「響夜!見えてきたぞ!!」


マオははしゃぎながらギルドを指差す。ここに来るまでも大変だった。マオの容姿が目立つから自然と人々の視線が集まる。そしてその視線は隣にいる俺にも向かうわけで・・・・。切り殺したくなった。


「あんまりはしゃぐな」


俺はマオにそう言いながらギルドの扉を開ける。ギルドの中は沢山の種族の奴らがおり賑やかだった。真っ直ぐ受付を目指す俺たちに注がれる好奇の視線の数々。俺はこの世界じゃコートは外套として誤魔化せられるかもしれんがそれ以外はこの世界じゃないものだ。それにマオは貴族といった方が言いからな。いや、貴族じゃなくて王か。・・・一応。

俺はそんなことを考えながら受付嬢の下に行く。


「すんません」


「はい、本日は当ギルドにどのような御用でしょうか?」


「実は冒険者として登録したいんですが、どうすればいいんでしょうか?」


「あ、はい。それでしたらこの用紙にお名前とご年齢、後は現在の住居の番号をどうぞ」


住居の番号・・・要は住所か。


「済みません。招待状を貰ったんですが」


俺はそう言ってロシェルから貰った招待状を渡す。受付嬢は差出人を見た後中に封筒されている手紙を取り出すと一言断って奥へ入っていた。


「・・・・・・。」


「あれは何なんじゃろうな?」


マオはそう言って受付嬢の入っていった扉を見る。いや、それはいいが。


「何故手を繋ぐ」


俺はマオの行動に少し混乱していた。ここは混んでるとはいえ別にはぐれるような所ではないし何も手を繋ぐ必要はないだろう。


「良いではないか」


そう言って更に密着してくるマオ。止めろ暑苦しくなる。俺が露骨に嫌そうな顔をしてマオの接近を防いでいると奥から受付嬢が戻ってくる。


「済みません」


「ああ、いえ。問題ありません」


俺は外面で愛想良く笑う。


「実はギルドマスターに御会いしていただきたいんですが・・・」


「・・・・・は?」


何?もしかしてマオが魔王だとバレたか?それともそれ以外で何かやっちまったか?


「いえ、特に何か問題があったわけではないんですが。只あの招待状のことで・・」


ロシェル、テメェ何渡しやがった。俺はロシェルへの恨み言を吐きながら受付嬢の後を付いていきギルドマスターの元へと向かう。


「マスター。お連れしました」


「うむ、入ってくれ」


ドアの向こうから老人の言葉が聞こえる。受付嬢はドアを開け俺達を招き入れると早々に出ていった。残された俺とマオの二人は取り敢えず椅子に腰掛けている老人をみる。


「む、主達が紹介にあった」


「響夜です」


「マオだ」


「そんな畏まらなくとも良い」


その一言で俺は敬語をやめる。


「そんじゃ、この口調でいかせてもらうわ」


俺の態度の豹変ぶりにマスターは少し驚き声を上げて笑う。


「ホホホホホ!!中々面白い奴じゃのう!」


老人は俺たちに席を勧める座ったのを見ると話し始める。


「先ずはロシェルからの招待状じゃのう。あやつには所謂審査員というものをやってもらっているのじゃよ」


「審査員?」


マオは首を傾げて言う。


「うむ、ギルドとして十分な実力があるであろう者たちを見定めるのじゃ。これは各宿屋に一人はいるのう」


成程。どうりで身のこなしがどうとか言ってたのか。


「それで大丈夫と判断されたものに招待状を渡すのじゃ。希望次第ではある程度のランクから始められるぞ?」


「・・・・いや、最初から地道に進めていくから良い」


「いいのか?」


「ああ」


この世界の基準を図るのに良いし魔法の練習台になるからな。俺の隣でマオも頷く。どうやら俺に同意らしい。


「では、あとは受付嬢から聞いてそれで登録完了じゃ。それ以降はランクに応じた依頼が受けられるぞ。・・・そうそう、たまには儂からも頼むことがあるかもしれんからその時は頼むぞ?」


老人のその言葉を聞きながら俺達は部屋を出る。受付でギルドカードを貰うと俺達は依頼を探し始めた。


ランクにはE~Aがあり、その一つ上にS、SSとランクがある。Sというのは殆どいなくSSなどそれこそ両手で数えられるかどうからしい。


「響夜。これはどうじゃ?」


そう言って俺に見せてくるのは一枚の依頼書。そこに書かれているのはゴブリン達の討伐というものだった。


「数は・・・13か」


まあ、練習だしな。俺が頷くとマオはそれを受付嬢に渡してきた。


「ほら!行くぞ響夜!!」


元気いっぱいに言うマオ。その様子を眺めながら俺も後に続いていく。こうして俺達の初めてのギルド生活が始まった。






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