黄金を壊せし者
形成・破壊の脈動…生成・太初の塩水が変成した姿。その能力は所有者の全能力の増幅。特に加速、破壊力は神器の中でも破格のものである。
『何だお前は―――――ぎゃ、あがああああああ!!?』
外部スピーカーから聞える操縦者の悲鳴。それは二足歩行で歩く大型の機械の人形の中からであった。
魔導兵器。魔導大国と呼ばれたバンデモニウムが造り出した決戦兵器。かつては試験運転であったものだがこの数年の魔物達の進行に対し遂に完成することのできた物だ。これによりバンデモニウムではギルドは時代遅れの産物されその波は徐々に広まっていっていた。
『くそ!隊長!!?―――――て、めえええええぇぇぇ!!!!』
上司が見るも無残な姿で破壊されたのを見て頭に血が上ったのだろう。もう一機が槍を構え突進してくる。
男は自らの上司の敗因を油断だと思っていた。これに生身の人間が勝てる訳がない。そう思い込んでいることこそが彼自身の首にギロチンを落としたことに気付かず。
「・・・・・・・やれ」
迫る魔導兵器を前にしてフードを深く被った男はただ呟くだけだった。だが
『なっ――――――!?』
突然、機体の足が止まる。だがそれまで前進していたことによる慣性の法則から機体は前のめりに倒れてしまった。
即座に立ち上がろうと機体を動かす操縦者。だが機体は動きはするが立ち上がる気配はない。慌てていた男はモニターで脚にある異物を確認した。
「―――――――――ひぃっ!!?」
そこに映った光景に息を呑む。脚にあるもの、いや、しがみ付いている者がいる。それも複数。それらは全身が白くカタカタと音を鳴らす骸骨。それが複数両足にしがみ付いているのだ。骸の兵士は手に持っていた剣を脚に刺し機体を完全に動けなくする。
「ひ、や、ににに、逃げ―――――!!!」
機体は動かない。操縦者は自然とその手をコックピットの開閉スイッチへ伸ばす。だが――――
「誰が、逃がすと言った」
フードの男の言葉と共にベキベキと音を立てながらコックピットの開口部分が力尽くで破壊される。その音に後退りしながらも男は狭いコックピットの中携帯していた小剣を持つ。
やがて引き剥がされたコックピットの向こう。そこには――――――無数の骸の兵士が我先にと入り込もうとしていた。
「―――や、嫌だああああああああ!!俺は、俺はま、まだ死にたくないいいいいいいい!!!!」
顔を涙と鼻水で汚しながらの男の慟哭を無視し骸の兵士は男の足を掴んだ。
「や、いや、あ、嫌だアアアアアアアアァァァァァ!!!!!」
コックピットの中からは肉が潰れる音と男の声だけが聞こえた。
◆
響夜が消え三年が経った。魔物の進行は遂に三カ国をも滅ぼしこの世界の地図は大きく変わった。魔物との戦場にはエルザやシグルズ達の姿も見受けられ大規模なものになってきている。そしてそれは魔王城も例外ではない。エクレールと魔王間での結び付きはより強固なものになり各国もまたその結びつきを強めていっていた。
それと同時にある噂も流れていた。
『死神』『世界の終り』『神々の復活』
人々はこの出来事を世界が終る前兆だとも捉えていた。そして
「死神?」
「ええ、今の所、周辺での目撃情報はありませんが各国で目撃されています。正体不明、目撃も不明。ですが奴が現れるのは魔物の進行の際と各国での他国への侵略の際です」
「・・・・ふむ」
書類の説明をするゼクスと何やら考え込むマオ。ここ最近は魔物の進行により碌に寝ていない。
「魔王様、あいつからの連絡は・・・・?」
「・・ないのう。もう三年じゃぞ」
響夜が返ってくる様子は一向にない。伏羲や楽毅からは心配するなと言われているが、どうしても心配なのだろう。
「・・・・・マオ」
それを心配そうに見るハクと呆れた表情をする小夜。
「何時まで心配してるんですか。兄様は簡単に死ぬような人じゃありませんよ」
兄妹だからだろうか、付き合いの長い小夜は最早本能的に生きていることを悟っていた。二人も分かってはいるがどうしても心配というものが先に来てしまう。
「・・・・ハア。私は部屋に戻っています」
それだけ言い残し小夜は自室へと去っていく。
「・・・・・・響夜」
マオは城を照らす月を眺めながらただ溜息を吐くばかりであった。
◆
「・・・・・・・・」
喧騒に満ち溢れている酒場。ギルド内は相変わらず賑わいでいた。そんな中部屋の隅で一人酒を飲む男がいた。深いフードをかぶり全身を黒いコートで包む男。フードの奥の顔は窺うことが出来ない。
「よう、『死神』」
そんな男に近寄る影が一つ。
「・・・シグルズ」
「くくく、気分はどうだよ。探すの手間取ったぜ。お陰で鵺が過労で暫く動けねえ」
「戯け、どうせお前が無理を言ったんだろう」
その言葉にシグルズは肩を竦める。
「酷ぇな。しかし、よく今迄他の奴等の目を欺けたなあと郊外で魔導兵器数体ぶっ壊しただろう」
「・・・・本気で探してなどいないからな。今は魔物の進行や他国からの侵略に注意を払う必要がある」
「んで、パワーバランスを図る為に魔導兵器を破壊したと」
「・・・・・ふん」
シグルズの言葉に死神は鼻を鳴らす。知っているのなら聞くな、そう言外に言っている。
「はあ・・・・ま、いいや。ほれ」
そう言ってシグルズが渡したのは小さな紙切れ。死神はそれを取ると中を見る。
「・・・・・お前」
「俺が二年も掛けて探したんだ。情報にほぼ間違いはない。お前の今迄の出現場所から探してるのはこれだろう?」
まるで、これが間違いないという確信めいたものを抱きシグルズは問い尋ねる。
「・・・・・幾らだ」
「ああ、金はいい。本当なら代わりに戦えって言いたいところだが・・・生憎そんな暇もねえんでな」
飽き飽きした様子で語るシグルズ。恐らくは魔物達が生温いなどという事だろう。
死神は受け取った紙キレを懐に仕舞うと席を立つ。
「悪いな」
「気にすんな」
死神の言葉にそう答えるとシグルズは酒を飲み始める。それを一瞥し死神は酒場を去った。
「・・・・・・」
空は曇り今夜は満月も星も見えない。そんな中、死神は手元を炎で照らし紙に書いてある場所へと向かった。
◆
かつてこの世界には神族と呼ばれる神々がいた。神々は栄華を誇り人間もまたその神々に導かれていたらしい。だが突如神は人間の前から姿を消した。原因は分からない。そして残った人々の前には神が造ったとされる神器だけが残り神はこの世界から消えて行った。
それがこの世界に残る文献に記録されているもっとも古い出来事。神々が何故消えたのか、神はこの世界について何を知っているのか。それは歴史の裏へと消えて行くだけであった。
「・・・・・・此処を訪れる愚か者など随分久しいな」
石造りの玉座に座りながら男が呟く。赤い長髪にローブを着、その頭には二本の角。そして袖から覗く手はまるで獣の様に爪が鋭く伸びていた。
玉座に座りながら彼は上から伝わる振動を感じていた。ああ、果たして向かって来ているのは竜人だろうか、それとも獣人か、はたまたエルフ、人間という可能性もある。
彼は自分の下へと向かって来ている人間にただ思いを募らせていた。
◆
「邪魔だ」
群がる異形の怪物たちを骸の兵士で蹂躙しながら死神は歩いていた。飛び掛かる者は床から伸びた骸の持つ槍の生贄になり、逃げる者は背後から剣を突き立てられていく。たとえ異形の者達がどれ程骸の兵士を殺そうとも決してその波が途切れることはなく、逆に死んだ怪物たちが骸骨となって仲間であった者達に襲い掛かっている。
そんな中、一匹の怪物が死神に襲い掛かった。
「・・・・・・・・」
襲い掛かる化け物を只眺める死神。そして怪物が死神を喰らおうとした瞬間―――――その頭が吹き飛んだ。
「・・・その程度の脆い魂で俺は殺せねえよ」
その骸も兵士の一人となって動き出す。さながら死んだ者達を黄泉の国から連れ戻しているかのようだ。
「・・・・・もうすぐか」
死神は周囲にいた兵士達に床下を打ち抜かせる。ガラガラと音を立て崩れ落ちる床。当然それは周囲にいた全てを巻き込み落ちて行く。
「やれ、お前達」
その言葉に応え骸の兵士はその手に持つ武器、あるいはその顎で落ちて行く怪物を殺していく。骸達は徐々にその数を増し、当初百程度で合った骸達の数は今や三百に届こうとしている。
次いで骸達はその身を犠牲にし着地地点に広がりクッションの役割を果たす。
「悪いな、戻れ」
死神がそう言うと宙に巨大な門が出現する。左右に巨大な骸の兵が佇み、さらにそれを両腕で包み込むようにローブとフードを被った骸骨が守護する門。それが開かれると同時に骸の兵団は門へと消えて行く。
「・・・・・此処か」
目の前にある巨大な門。死神はその門を勢いよく開ける。
「よく来たな人間」
そこにいるのは一人の男。血の様に赤い髪を持ち頭には二本の角を生やした男。それを見て死神は理解する。
「・・・・お前が至高神だな」
「然り、我こそが至高神、不滅の神『バアル』。して、人間よ。何用だ?」
「お前を殺しに来た」
その言葉にバアルは眉を僅かに動かす。
「くくく、くくくくくくく――――――!!!良い、そのような言葉、久々に聞いたぞ!!」
哄笑を上げるバアル。対して死神はさして興味がないようにその視線は周囲に向けられている。
「ああ、何とも愉快なことか。過去数千、数万と生きてきたが人間風情からその様な事を聞くのは初めてだ!!」
「ああ、そうかよ。安心しろ。これが最初で最後だ」
「これ以上我を笑わせるなよ人間。ああ気にいった、貴様の名は何という?」
死神はコートを取りその素顔を晒す。
「クラウン序列第十三位代行、黄昏の破壊者。鳴神響夜」
そこにあるのは三年の月日が経とうとも変わらない白髪とバアルの髪と同じく血の様に紅い瞳。
「黄金を壊す人間の名前だ」
今、彼は再び表への門を開けようとしていた。
感想、批判、意見、評価などがありましたらお願いします。
四章始まりました。響夜君、名前出すかどうか迷ったんですけど出しました。三年前より客観的に物事が見れるようになりました。
名前 鳴神響夜 十九歳
階級 クラウン序列第十三位代行
二つ名 黄昏の破壊者、死神
属性 炎、呪
固有スキル
・想像形成…術者が想像した物を魔力を消費し創り出す。
・骸の主 …術者が殺した者を『門』と呼ばれるものを通し骸骨の兵として出現させる。これは死の舞踏などの使用による後天的なもの。しかし、これ自体は初期段階でしかない。
・魔神の観察眼…対象の筋肉の動きや体の構造などを理解することが出来る。
・鬼神の武勇伝…身体能力の底上げ
特殊スキル
・魔王の加護…魔王の後継者たる証。魔王が死ぬと同時にその全能力が譲渡される。
通常スキル
・属性付加…術者の属性を武器等に纏わせることが出来る技術的なもの。
所有神器
・形成・破壊の脈動
・疾走する魔狼
・神殺しの鎖
・悪魔の心臓
キャラ設定
ふと雷というものが思い付いたことから出来たキャラ。雷→神鳴り→鳴神へ変え、雷が尤も感じられるのは夜、そして夜に響き渡ることから響夜。そして雷は天が人に初めて与えた炎と何かで見つけた為、属性は炎。そこから殺人鬼というキャラにしなら恨みも凄そうということでもう一つ呪の属性。
神殺しの鎖が思い付いた為、疾走する魔狼そしてその父(所有者)ということで黄昏の破壊者。
大体こんな感じ。神器の渇望などは物語がもう少し進んでから紹介しようと思います。
また、幻想交響曲の神器等は三年の間で破壊されています。それは番外編で書けるといいな~とか・・・。
ではまた次回