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一歩を踏み出すために



「終焉が始まり創世が起きる。この世界というものは力ある者には実に都合よく出来ている」


 燃え盛る炎に包まれ、かつては栄華を築いていた町並みにはその面影さえ残ってはいない。

 その中心、広場の中央に一人の男がいた。漆黒の髪に端正な顔つきの男。だがその瞳は溝川の様に濁りその顔に張り付いた微笑は不気味にしか感じられない。


「ああ、よいぞよいぞ。踊れよ塵芥ちりあくた。舞台を整えるのがお前達の役目だろう」


 まるで指揮棒タクトを振るように舞う男。


「もうすぐだ。もうすぐ、最高の舞台が繰り広げられるだろう。魅せてくれ我が友よ、そして黄昏の破壊者ロキ。私の望みを叶えてくれよ」


「ふふふ、くはは、ハハハハハハハハハハハハハッ――――――!!!」


炎に包まれた中、男の哄笑が響き渡った。


 この日、一つの国が姿を消した。


 ◆


「っぐ、――――ッハア」


 エクレールにある一つの宿。その宿の一室で響夜は苦悶の表情を浮かべていた。


「無理はするな。再生こそしているがあの男の一撃でお前の心臓に負担が掛かっているのだ」


 響夜を諭す様に翁は口を開く。事実響夜の心臓はその機能の意味をほぼ果たしていない。悪魔の心臓グリモア・ハートの同化があるからこそ響夜はこれまで生きてこられたのだ。即ち、核たる悪魔の心臓グリモア・ハートが破壊されれば響夜は死ぬ。


「分かってる。だが――――」


 響夜は焦っていた。ロジオンとの戦い―――とはとても呼べるものではないが―――から三日が経った。伏羲は右腕を失い未だ療養、楽毅もまた療養の身だ。

 そして二日前に起きたある国が崩壊したという情報。目撃者も生存者もいないたった一夜で起きた出来事。それを切っ掛けに各地で魔物が再び進行していた。それはこのエクレールとて例外ではない。魔王城にもその入り口に向け多くの魔物達が進行している。

 伏羲から聞かされていたある戦争。


「神々の黄昏ラグナロク


 かつて世界の創世期に起きた出来事この世界の神々の戦い。文献にすら残っていない物だが、伏羲はそれが再び起こると言っていた。


「焦っても仕方あるまい。今は療養しておけ」


 翁はそれだけ言うと部屋を出た。そしてそのすぐ後、扉のノックと共に伏羲が部屋に入って来た。その後ろには桃子もいる。


「・・・元気そうで何よりだ」


「そう言うあんたこそ、随分元気だな」


 響夜の視線は伏羲の右手。そこにはただ風で揺れる袖だけだ。


「二位の奴はアンタでも勝てねえのか」


 響夜の希望的観測。もしかしたら、これも自らの師の狙いだったのではないのか、師はわざと負けたのではないのかという思いから出た言葉。


「ああ、私では無理だ」


 だがその希望も一言で切り捨てられる。


「ゲッツに勝てる奴ないはせんよ。ロジオンでさえ直撃すれば殺せるのだ」


 その言葉に響夜の胸の中に絶望が広がる。


「だがな、私はお前に期待している」


「何でだよ・・・」


 響夜にとっては不思議でしかない。自分ではあの三人に傷一つ付けることが出来ないのだ。


「ああ、私にもよく分らん。だがな、不思議とお前には期待してしまうのだよ」


「お前、この世界ここに来る前は殺人鬼だったらしいな」


 その言葉に頷く。


「だが、随分変わった。殺人鬼は友人も家族も作ろうなどとはせんだろう」


「それは―――――」


 ただ自分が家族を何よりも愛してるからで、友人も只の気まぐれの様な物で・・・


「なら、お前何であの白銀狼を殺さなかった、何故あのギルドマスターも此処にいる桃子も殺そうとはしなかった。それどころか、お前、私の下で過ごした時等殺人衝動すら湧かなかっただろう」


「・・・・・」


 答えられない。自分自身無意識でしかない。気付いたらそうだったのかと思ってしまう程自然で


「何故、魔王が皆に囲まれていた時あんなにも穏やかに笑っていられた」


 それが当たり前のことに感じてしまったから。このひだまりの中で笑っていられる奴でありたいと思ってしまっていたから。


 俯く響夜を見ながら伏羲と桃子が笑う。


「響夜、強くなりたいなら背負え」


「・・・・・・?」


「手を握ることを恐れるな、一を捨て九を救うのではない。子供の様に十全部背負ってみせろ。

確かに、一を切り捨てる者は世界という物をよく分かっている。己の誇りを、矜持を、確かな物と誰よりも思えるだろう。だがそれがどうした。握った手を離すのではない、握った手は絶対に離すな。大切な物は何がろうと護り抜け。でなくては私の様な男になってしまうぞ」


「・・・・・・・・・」


「背負った物の分だけ人は強くなれる。合理的な者には絶対に分からないだろう。いや、理解しようとは思わないだろう。この世界の全部を護れと言うのではない。自分の大切な十、その全てを護るのだ」


「鳴神様、私は巫女という立場上多くの人々と触れ合いました。時には治らない様な病の方もいます。けれど私達は諦めませんでした。一人でも多くの方を救いたい。どれだけ無駄と言われようと私はやらないで後悔するより、やって後悔したいのです」


「・・・・・・・」


 二人の言葉に響夜は再び俯く。


「お前は大切なモノを護れる強さを得たいのだろう。お前は私達と違う。鎖などに縛られずに何にでもなれ何処へでも行けるのだ。

お前はもう殺人鬼ではない。鳴神響夜というただの一人の男だ」


「―――――――――」


 その言葉は自分の中に今迄あった何かを壊してしまったかのようで。


「・・・・・・っ・・・・」


 気付けば響夜の瞳からは涙が溢れていた。

 それを見て伏羲と桃子は静かに部屋から出て行った。


 ◆


「良かったのですか?私には貴方様が彼のことを気にいっているように見えたのですが・・・」


 短いながらも伏羲という人間を見た桃子には彼はお気に入りの物は自分の傍に置いているように感じた。


「・・・・気に入っているからだ。あいつはきっと強くなるだろう。なにせ私の弟子だ、私のことなどすぐに追い抜くだろうよ」


「・・・それは勘、ということですか?水神様・・・


「・・・・何時から気付いていた?」


「三日程前です。貴方様が千年桜と繋がった時、これでも巫女ですから」


 その言葉に伏羲は笑みを深める。


「ああ、やはり人間というのは素晴らしいな。お前もそう思わんか?」


 その言葉が向けられた方向。そこには壁に寄り掛けながら不貞腐れた顔の楽毅がいた。


「・・・ルイス・キャロルとの勝負はついてなかったネ」


「仕方あるまい。あそこで黄金が動いたのだ。何にしても次狙うとしたら」


「神々の黄昏ラグナロクで生き残るしかない・・・ネ」


 その言葉に伏羲は頷く。


「何にしても響夜がどう動くかだな」


「分かってるヨ」


 三人の視線は宿の一室へと注がれた。


 ◆


「ああ、悪い。少しだけ遠くに出掛ける」


『む!また勝手にそんなことを!!戻って来たばかりだと言うのに!!』


 聞えて来る念話の声に響夜は苦笑する。


「悪いな、けどこれは譲れない」


『・・・・・帰って、来たばかりなのにぃ』


『大怪我して、私達には内緒にして・・・響夜、そんなに私達は頼りないか?』


 聞えてくるのは今にも泣きそうな声。


「そんな訳ないだろ。けど、今は話せない。何時か絶対話す。今は俺を信じていてくれ」


巻き込みたくないから、少しでも自分から離しておきたいから。自分勝手な理由だとは思ってる。けど、頼むから今だけは信じてくれ。

 響夜の今迄にない真剣味を帯びた声にマオは黙りこむ。


『・・・・・響夜、絶対だぞ。絶対!話すんじゃぞ!!』


 それだけ言い残しマオは念話を一方的に切る。それに驚きながらも響夜は苦笑いをする。


「・・・・・こりゃ帰ったら殺されるかも」


 響夜は部屋の中にある物を倉庫の中に仕舞う。そして部屋の扉を開けると受付に宿代を払い宿を出ようとする。外はもう暗い、家々からも光が漏れている。


「・・・・・・」


 それを眺めながら一歩踏み出そうとし


「一言もなく出て行くつもりか?」


 その足を止める。背後なんて見なくても分かる。この声は自分をここまで強くしてくれた人の声だ。

 

「・・・・伏羲」


響夜は大きく息を吸う。


「師匠!今迄ありがとうございました!!!」


 後ろを振り返らず響夜は大声でそれを口にする。それに満足したように伏羲は頷く。響夜はそのまま振り返ることなく、一歩踏み出した。


 この日が彼が表に出ていた最後の日。この日を境に鳴神響夜という名前を聞くことはなくなった。




感想、批判、意見、評価などがありましたら願いします。




 タイトルがついに意味をなさなくなってきた。いや、これは殺人鬼である響夜君が変わっていくというものなのだ!

 ということで三章ラスト。本当はもっと入れる予定だったんですけどね、何というか考え付いても納得がいかなかったのでここで終わり。

 第四章からは急展開・・・だったらいいな。第四章は当初から思いついてるんですけどね。

 四章からは神器やスキル、キャラの設定を後書きか前書きに書いたり書かなかったりしようかと考えてます。


あ、この作品にはチート要素が含まれます苦手な方はブラウザバックで!

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