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再会の地にて


「形成・破壊の脈動ヨルムンガンド!!」


「泣き喚け!悪滅の断罪刃グラム!!」


「轟け!雷鳴轟かす勝利の咆哮フリスト・ヒルド!!!」


 ほぼ同時の発動。そしてそれと同時に三人は互いの獲物に全霊を込める。


「「「オオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!!!」」」


 ぶつかり合う三人の魔力。三者同様に全力を維持しながらの高速戦闘。無駄口も小手先の技も今この場では命取りとなる。互いに狙うのは一撃必殺となる瞬間。響夜が振るう鎌をエルザが捌き、そこから派生する暴嵐とも言える衝撃をシグルズはそれを凌駕する力で吹き飛ばす。


「極星の流転」


 その三人を纏めて吹き飛ばすかのように上空から放たれる純粋な力。けれど如何に同じ位階であろうと彼らと伏羲ではその密度が違う。直撃などすれば三人は跡形もなく消し飛ぶだろう。


「赤い夜の始まりよ」


 そしてその光さえも呑み込み赤い月が姿を現す。そして眼下から現れるのは無数の骸。その光景はかつて響夜がエクレールとの戦争で使った死の舞踏と酷似している。その中、他の骸を遥かに凌ぐ骸の巨人。巨人は迫りくる光と激突し、


「その程度で―――――!」


 全壊しながらも光を打ち消した。


「っち、兄が兄なら妹も妹か」


 その姿を見伏羲は舌打ちをする。もはやこの地帯に安全など無い。目の前にいる者は敵、敵であれば斬るという乱戦。そして


如意金棍棒にょいきんこんぼう!!」


 地獄はその密度を高める。乱入者による一撃。此処にいる誰もが予想出来ないタイミングでの一撃だ。


「疾走する魔狼のフェンリス・ヴォルフ!!!」


 放たれた一撃を響夜は咄嗟に反応し辛くも凌ぐ。だが、敵は一人ではない。


「ガラ空きだぜェ!!」


 背後から振るわれる悪滅の断罪刃グラム。響夜は右腕を盾吹き飛ばされながらも難を凌ぐ。


「それは貴方もよ?」


「全くですね」


 振るわれる吸血鬼の眷力による一撃。それは赤い月によって高みにいたりエルザに勝るとも劣らない威力を持つ。


「では纏めて消し飛ぶと言い」


「それは勿論伏羲も入るヨ?」


 もう一度言おう。今この場において安全な場などありはしない。


「「「「「「消し飛べぇ!!!!」」」」」」


 全員が持ちうる力でのぶつかり合い。それは伏羲の式神全員による結界を粉微塵に消し飛ばした。


 ◆


「・・・・・疲れた」


「全くだな畜生」


「はあ、これから仕事かぁ・・・・・・」


「軍人さんは大変ね」


 屋敷の縁側。響夜達は足を投げ出しながら空を仰ぐ。傍から見ればまるで老人のようだろう。


「あ~・・・暴れすぎたな」


 響夜達の目の前に広がるのは無残に砕け散った『元』屋敷。結界による異界の創造。式神たちが張った結界によってある程度の被害は抑えられたがそれでもこれだ。あれがこの場所で行われたら都市など数分もあれば崩壊するだろう。


「馬鹿弟子、お前宛に文だ」


 屋敷の奥から縁側へと出てきた伏羲。その手に持っていた手紙を響夜に渡すと伏羲も縁側に座る。


「・・・・・ああ、成程」


 響夜は渡された手紙に目を通すと何かに納得したように頷く。それを疑問に思い小夜は響夜の傍らに座り覗きこむ。


「どうしたのですか、兄様?」


「ああ、小夜にはまだ言ってなかったな・・・」


 響夜は懐から煙草を取り出す。


「そうだな、小夜にも紹介した方がいいか。・・・・俺の家族からだ」


 瞬間、小夜の目から光が消え失せた。


「兄様、どういう意味でしょうか?小夜にはよく分りません・・・」


「家族だよ。ウサ公と同じ、」


「兄様少しそこに正座してください」


「は?なんd「いいから正座してください」・・・ああ」


 縁側で向かい合いながら正座する響夜と小夜。


「兄様それは女ですか?ああ、いえ、男であろうと女であろうと変わりないんですが。ウサギは良いですよ?・・・ですがどうしてそんな大切なことを言ってくれないのですか?誑かされたのですか?兄様が認めたのですか?すぐさまそいつの場所を教えてください。いえ、何かするという訳ではありませんよ?ただもしかしたら事故にでも合ってしまうかもしれませんけど仕方ありませんよね?だって事故ですし?仕方ありませんよね?それに・・・・」


 その様子を少し離れた場所から見る三人。関わりたくないという意思がありありと見えている。


「・・・・・・あれはない」


「全くだな」


「・・・逆に凄いと思えてきますね」


 三人は各々の感想を述べる。けれど三人は共通して明らかにドン引いている。


「何してるネ?」


 頬にご飯粒を付け満腹による幸福感を放ちながら楽毅が現れる。


「おお、楽毅か。ちょいとあってな・・・」


「楽毅、出かける用意をしておけ・・・」


「む?何処にネ?」


「少しばかり知人から招待状が来てな・・・」


 その言葉に首を傾げる楽毅と戦慄するエルザとシグルズ。それを見て伏羲の額に青筋が浮かぶ。


「そこの二人、何故私を驚愕の瞳で見る」


「い、いや・・」


「そ、その・・・・」


 言葉を詰まらせる二人。やがて決心したのか二人は喉を鳴らしながら二人はそれを口にした。


「貴方(お前)・・・知人なんていたんですか(いたのか)?」


「貴様ら表に出ろ。ボロ雑巾にしてやる」


 伏羲から溢れ出る殺気。二人は目を逸らしながらも未だ信じられないのか体が震えている。


「さ、さて私は仕事に戻らないと!」


「ああ、安心しておけ。貴様の上司にはよく言っておいた」


 その言葉にエルザは顔面蒼白になる。自身の上司、知っている者はいるけれどその中で伏羲と関係のある者等一人しか知らない。思い浮かぶのは畏怖と尊敬の対象である大佐の姿。そして伏羲がよく言ったと言うことは絶対に碌なことではない。下手をすれば戻った瞬間消し炭、最低でも床に埋められ程の威力の拳骨を喰らうだろう。


「ひい!は、早く帰らないと!!」


 その場から走り去り消えていくエルザ。次いで立ち上がるシグルズ。


「俺には何もしてねえよな?」


「ああ、安心しとけお前のツケを三桁ほど増やしておいた」


 その言葉にエルザと同じく顔面蒼白のシグルズ。暫く彼が姿を現すことなど出来ないだろう。シグルズもまた逃げる様にその場から走り去っていく。


「皆大変ネ・・・響夜と小夜も良く分らないことになってるし・・・」


 未だに暴走気味の小夜を見て楽毅は呑気に欠伸する。


「水神の巫女も呼んでおくか・・・中々に面白いことになりそうだ」


 黒い笑顔を浮かべる伏羲。それを横目に楽毅は未だ鳴る腹の音を消そうと式神に食事を持って来るよう頼む。縁側は完全にカオスと化していた。


 ◆


「で、何でテメェも来るんだよ・・・?」


 伏羲から渡された軍服に身を包み響夜は目の前にいる相手を睨む。小夜は黙って響夜に抱き着いている。気のせいかその顔は幸福感に満ち溢れている気がする。


「おや、言っていなかったか?」


 そして目の前にはしれっとした顔の伏羲と、もしかしたら二度とないかもしれない正装姿の楽毅。楽毅は普段と違うからか着心地が悪いらしくそわそわとしている。それを横目に響夜は伏羲の背後に目をやる。


「お前はまだしも・・・桃子様はどうしてだ?」


「何、面白そ・・・もとい、交友関係は広い方がいいだろう?」


 黒い笑みを消そうともせず話す伏羲に響夜は危うく殴り掛かろうとするが、


「響夜、かりかりしちゃ駄目ネ?伏羲も響夜からかうの良くないヨ」


 横から出された楽毅の手に受け止められる。


「面白くてつい、な」


「・・・・っち」


「あ、あの・・・?」


 笑う伏羲の背後から桃子が恐る恐る声を掛ける。


「む?どうした巫女よ」


「あ、いえ、私、本当に着いて行ってしまって良いんですか?」


 その言葉に伏羲は響夜へ視線を移す。お前が決めろと言うことなのだろう。ここまで用意しておいて何を・・・。と思いながらも響夜は桃子に声を掛ける。


「構いませんよ。知人であれば問題は無いでしょうから」


「・・そうですか。あ、敬語は使わなくて良いですよ。依頼ではなく友人として行きたいので」


「・・・・・分かった」


 響夜は伏羲をもう一度睨み付けやがて溜息を吐く。


「何をしている。場所はエクレールだったか?さっさと行くぞ」


 先を歩く伏羲に追い付く様に響夜達も歩きだす。 

 

 ◆


「――――――――マオ」


 魔王城の一室。そこに薄く青みがかった白銀の髪を靡かせながら一人の少女が入室して来る。


「ああ、ハクか。どうしたのじゃ?」


 マオは机の上の書類を片付けながらハクに問い掛ける。


「キョウヤ、どうしたかなって・・・」


「ああ、そのことか。それなら返事が来た。今頃は此方に向かって来ている筈だ」


 そう言ってマオは近寄って来たハクに手紙を見せる。ハクもその手紙を見て顔をほころばせた。彼女の耳や尻尾も忙しなく動いている。マオはそれを見て苦笑する。


「・・・楽しみだね」


「うむ、そうじゃの」


 ◆


「大佐、エルザ・アルリッヒゲン大尉、只今帰還いたしました!!」


「む?・・・ああ、馬鹿娘か。伏羲の所はどうだった?貴様のことだどうせ何か押しつけられたんだろう」


「う゛っ!」


 その言葉にエルザはビクリ、と肩を揺らす。それを見て大佐は溜息を吐く。


「貴様もいい加減学習しろ。貴様のそれは自己の意思が小さいからだ。・・・・まあ、いい。大尉、私は暫く私用で空ける。留守は頼んだぞ」


「私用・・・ですか?え~っと、大佐、それは何かの冗談でしょうか?」


「何故だ?」


「いえ、だって大佐、友達いないじゃないですか―――――ごめんなさい、すみません、調子に乗りました!!」


 摂氏何百度という獄炎を放とうとした大佐をエルザは急いで止める。


「貴様らの様な馴れ合いなど私には不要だ。私はあの方の御供で着いて行くだけだ」


 あの方、目の前にいる人物がそんな言葉を使う者などエルザの知っている中には一人しかいない。


「も、もしかして、・・・中将ですか?」


「ああ、私の他にも何人か着いて行くがな・・・・」


 まるで気にいらない、とでも言うかのように大佐はその顔を歪める。


「(・・・・・・これはやばいかも)」


 エルザは妙なざわつきを抱き、どうか何事も起きないようにとただ祈るばかりであった。


 ◆


「ロージャ、貴方が此処を動くなど珍しい」


 ミズガルズにて、席に座っていた黄金、ロジオンは友人の声に口元に笑みを浮かべる。


「それは私の台詞だぞ、アレイスター。卿がここまで頻繁に動くなど今まで無かったではないか」


 口を開いたロージャの目の前。そこには相変わらずの微笑を浮かべながらアレイスターが座っていた。


「なに、もうすぐ貴方との約束の日が近いのでね。私も最後の仕上げに入っているのですよ」


「ふふふ、そうか。して、卿も参加するのだろう?」


「いえ、最近羽虫が飛んでいるものですから。少し害虫駆除に」


「放っておいても問題あるまい」


「彼には問題があるのですよ」


 その言葉にロジオンは再び笑みを浮かべる。


「そうか、では卿の好きにするといい」


 それだけ言うとロジオンは立ち上がる。


「行くので?」


「ああ、卿が気にいっている男にも興味がある。行くぞ、ゲッツ」


「・・・・・・・・・」


 その言葉に部屋の影から無言で偉丈夫が現れる。偉丈夫が目の前にいる影法師をみたほんの一瞬だけ、その瞳には殺意宿っていた。

 偉丈夫は前を行く黄金の後を無言のまま着いて行く。


 部屋の中、一人席に座り影法師が嗤う。


サタンは己が化身を創り世界を征服する。・・・はてさて、彼はどう動くか、実に楽しみだ」


「Doomsday clock(世界終末時計)はまた一つ時を刻む」


 零時まであと―――――


 影法師の声は誰にも聞えることなく静寂の中に消えて行った。


感想、批判、意見、評価などがありましたらお願いします。




言い忘れてましたがこれからは暫く―――最後までかもしれないけど―――三人称視点でいきます。

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