再会と犯人
今回話が分かりづらいです。まあ、この回での説明は物語が進んでいけば分かると思いますので頭の片隅にでも――――――追いやってください。
「・・・・・・・小夜」
「・・・・兄様」
「・・・本当に小夜なのか?」
「はい、小夜でございます」
はにかみながら響夜を見る小夜。そして響夜もまたその顔を驚愕に染めていたがそれは徐々に笑みへと変わっていく。
「小夜」
「兄様」
響夜は愛おしそうに小夜を抱きしめる。小夜も涙を流しながら響夜に抱き着く。二人は互いの存在を確かめる様に永遠とも思われる時間抱きしめあった。
◆
「無事ですか桃子様」
「あ、はい。済みません鳴神様」
申し訳なさそうな表情をしながらもその視線は響夜の背後にいる小夜に注がれている。それに気付き響夜は苦笑する。
「理由は後から話す。少なくとも危害は加えないから・・・。ウサ公もありがとうな」
響夜の声に困惑しながらも頷く桃子と、撫でられ目を細めるウサ公。
「よお、起きたな。黄昏の破壊者」
「ああ、お陰でクタクタだクソ野郎」
背後から聞える声に響夜は答える。
「で、何の用だ、ジークフリート」
「シグルズだ。俺は認めた奴にはこの名前で呼ばせてる」
シグルズは好戦的な眼をしながら響夜に近付く。混ぜるな危険の一触即発の二人の間を取り持つように鵺が割り込む。
「ふ、二人とも落ち着いて!シグルズも今は話があるってだけだろ!!」
「「・・・・・・っち」」
二人はほぼ同時に舌打ちをしながらも引きさがる。
「移動しましょうか。此処で長話というのも何でしょう?」
小夜の言葉にその場にいる全員が一応の納得をする。
城の廊下を歩きながら響夜達は周囲を見渡す。ウサ公は疲れてしまったのか響夜の腕に抱かれながら眠っている。ちなみにウサ公が響夜に抱かれているのを見て小夜がウサ公に襲い掛かろうとしたのは余談だ。
「どうですか兄様、この城は気に入ってもらえたでしょうか?」
「凄いな、所々あの家の雰囲気が感じられる」
「ええ、私の記憶の中でも鮮明に残っていますから・・・。他の品も兄様がいると分かって急いで用意させたんですよ?」
それだ、響夜は今迄気に掛かっていたことを問い尋ねる。
「どうやって俺がここにいると分かったんだ?」
「先日ですよ。街中で兄様とぶつかったときです。兄様は私がフードを被っていたから分からなかったと思いますけど・・・」
そう聞いて思い出すのは昨日ぶつかった人物。自分の顔を見て固まっていたが、と響夜はその理由も分かり納得する。
「・・・あの場で言ってくれても良かったんだぞ?」
「いえ、あの様なみっともない姿では兄様とは御会いできません。それに城に招待する為にも準備しなくてはいけませんでしたから・・・」
「んで、招待する為に桃子を攫った・・・と」
「そう言うことですわ。済まないわね人間」
「え!・・え、えっと・・は、はい・・?」
唐突に謝罪され困惑する桃子。小夜はそれを横目に苦笑しながら先を行く。
◆
「で、テメェは何の用だ、おい?」
一行が案内されたのは食堂だ。部屋の中央に長方形の大きなテーブルが設けられ全員が席に着くと数名の侍女が皿を運んでくる。
響夜は席に着くと開口一番シグルズへと口を開いた。
「ああ、まあ用はあったが・・・それより先に聞くことが出来た」
シグルズはその視線を小夜へと移す。
「テメェ黄昏の破壊者の兄妹っつったよな?そりゃあ、おかしくねえか?」
シグルズの言葉に小夜は微笑を浮かべる。
「ええ、そうね。けど、それは後から話すわ」
「あ、あの・・・食器の数が多くはないでしょうか?」
見れば確かに、今此処にいるのはウサ公を入れても五人と一匹。対して用意された食器の数はウサ公の物を入れ八皿だ。
「いえ、『それで問題ない』―――――ようこそ、お客様」
「うむ、初めましてだな。吸血鬼」
「よろしくあるヨ!」
「初めまして」
第三者の声が聞こえたかと思うと空いていた椅子に何時の間にか三つの影。
「・・・・んだよ、テメェらかよ」
「私達では不服か小童?」
シグルズの言葉に伏羲は相変わらずの微笑で答える。他の二人もまるで最初からいたかのような仕草だ。
「初めまして、と言った方がいいのかしら・・・覗き魔さん?」
「失礼なことを言うな。犯人を突き止めるのは当たり前のことだろう」
「斃すかどうかは響夜の決めることだけどネ」
肩を竦める伏羲とにんまりと笑う楽毅。小夜は呆れたように溜息を吐くと全員の顔を見渡す。
「とにかく、これで招待した方は全員揃ったわね」
小夜はワインの入ったグラスを持ち上げる。他の面々もまたぞれに続く様に持ち上げる。
「この出会いを祝し、乾杯」
「「「「「「乾杯!!」」」」」」
小夜の言葉に続き互いのグラスを持ち上げ声にする。
「ワインなんて久々ですね・・・」
「シグルズ!どっちが食えるか勝負ネ!!」
「面白え!今度こそテメェを負かしてやらあ!!」
「大勢で食べるなんて久しぶりだよ~」
「皆さん凄いですね」
「あら、この程度だと思わないことよ人間」
「全くだな。そこの馬鹿二人は一ヶ月分の食料を空にする様な大食いだぞ?」
「俺が見た時はそれ以上あった気がすんだが・・・・?」
「みゅ!」
それぞれが騒ぎながら笑う光景。それはまるで互いに旧知の仲の如きものであるかのように見えた。まるで人の気配が感じられなかった城の中に笑い声が染み渡っていった。
◆
「鵺と桃子は完全に酔ってんな・・・」
「楽気も食い過ぎだな熟睡してやがる」
「腹痛ぇ・・・」
「シグルズも色々な意味で危険域ですね・・・」
「あれだけ食えば当たり前ね」
テーブルを埋め尽くしていた食器や料理が完全に消え失せ響夜、小夜、伏羲、シグルズ、エルザの五人は互いに真剣な表情をしていた。
「で、テメェがこっちに来れた理由だ・・」
「単刀直入に聞く。誰がお前の魂を持ってきた?」
「魂ってのは誰かが持ってくんのか?」
その言葉に疑問を持った響夜は三人に聞く。
「・・・・・・」
「人それぞれだな。クラウンの中にもその時の光景をハッキリ覚えている者もいれば朧気な者、エルザの様に全く覚えていない者もいる」
無言のシグルズに代わり伏羲が答える。だが伏羲の顔にも苦々しさが見えた。
「ハッキリ言えば、殺したくなる程の怒りを覚える。自身の死さえ決めることが出来ず働かされるのだ・・・」
その表情を見て、響夜は本来なら決して言わないであろうことを口にする。それは彼が今何よりも気になっていることだから・・・。
「お前らの魂は、誰が奪ったんだ・・・・?」
「・・・・・・・・・、お前に最も近く、全く逆の者だ」
沈黙を破り伏羲はその言葉を吐き出す。それにシグルズが僅かに目を見開いた。
「・・・・此処からは私の推測、だが、私はこれが確信に至っていると思う」
「クラウンの序列の意味だ」
伏羲から出た言葉。響夜や小夜はともかく、それはクラウンに長く席を置くエルザやシグルズ達もが疑問に思っていたことだ。
「あれが戦闘能力や知力によるものでないことはクラウンは全員分かっているな」
その言葉に三人は頷く。
「クラウンにはある共通点がある。全員が向こうから魂を抜きとられたこと。これは響夜には該当しないが移動したという点では同じだ。エルザは他の全員を考えて抜き取られていないということはないだろう。
そして序列の番号だ。一位、二位はまだ分かる。あれは格が違うからな。だが例えば私とルイス・キャロル、シグルズとエルザ。これはどちらが強い訳ではないだろう。能力ではシグルズがエルザに勝つ可能性は低い。
私が思うにこれは恐らく鎖だ」
「「「「鎖?」」」」
「ああ、昔アレイスター・クロウリーは私に言った。万物は必ず鎖に繋がれているのだ。力を得れば鎖は壊れ獣はその自由を得る。しかし、鎖を壊すことが出来なければ獣は鎖の長さまでしか力は振るえない、とな。
そこから私が出した憶測だ。この世界は我々にとっての小屋だ。無類の強さを発揮できる場所。そしてこれは一位に近い程に強くなり全身をつなぐ鎖も多くなる。
そして十三位に近い程に繋ぐ鎖は減る。鎖は魔力にも関係しているのだろう。響夜自身は魔力など持っていないだろう?だがエクレールの勇者は自身の魔力を持っているということから予想出来る。召喚といえど魂を引き抜くのに変わりないからな。
そして鎖が少ない程その者はそれだけ広く力を振るえる。例えば異界だ。鎖の多い者達は異界に引き摺りこまれれば振るえる力が小さくなる。故に自身の異界を持っている。少ないものは異界に引き摺りこまれようとも力は衰えなくあらゆる状況での戦闘が可能だ。それは響夜や楽毅のスキルを考えれば納得できる」
「「「「確かに」」」」
言われスキルを考える四人。成程、響夜の力はどの様な状況、それが例え異界だろうと対応できるだろう。
「要するにあれか?鎖の多い番犬は小屋の中なら無双できるが鎖の範囲外は弱体化する。対して鎖のねえ野犬は小屋だろうが何処だろうが通常と変わらねえで戦えると?」
「まあ、そんな所だ。少々分かりにくいかも知れんがな」
もし楽毅が起きていれば今の説明に発狂でもするだろう。事実、四人もいまいち把握できていない。
「・・・・分かったような分かんねえような」
無い知恵を振り絞り整理する響夜とシグルズ。それを見て伏羲は内心苦笑する。
「(やはり、分かり辛いか。まあ実際に体験した方が余程分かりやすいだろうからな・・・)」
「ああ、脳みその詰まっていない馬鹿弟子。そういえば貴様、何とか形作れたらしいな?」
「うっせえクソ。ああ、発動できたよ。それが何だ?」
「何、ならばこれからは本格的に修行をせねばとな・・。それに―――――」
「私の顔に泥を塗ってくれたからな」
その言葉に響夜の顔から血の気が失せる。顔面蒼白、まるで死人のような顔色で響夜は伏羲を見る。
「何だ?ああ、そうか、その程度では生温いと言うことだな。仕方がない、ではシグルズも修行に付き合わせて本気でやるか・・・」
「おい、待ちやがれ!何で俺も付き合わなくちゃいけねえんだよ!?」
「伏羲故仕方なし。諦めが肝心ですよシグルズ」
槍告げるエルザの顔には明らかな安堵の色が窺える。恐らくはまた自分が犠牲になるのではと内心冷汗をかいていたのだろう、今ではまるで慈母の様な顔つきだ。
「おい、伏羲!俺達三人じゃ生温いだろ?此処はエルザと吸血鬼、楽毅も入れるべきじゃねえのか!?」
その言葉に伏羲はふむ、と顎に指を添え思案する。それを見たエルザは慌てた様子で口を開く。
「シグルズ!それはおかしいでしょう!?大体私はあなたと違って仕事が――――」
「ハッ、んなもんあの大佐の仕事の片付けとかだろうが!!」
「ちょっと、何で私もやらなくちゃいけないのよ「テメェの兄貴と一緒にいられるだろうが」任せなさい、私は問題ないわ」
兄といられるならと小夜は態度を一変する。味方のいなくなったエルザは誰にも助けが得られず
「―――――そうだな、エルザも入れるか」
「・・・・・・・・・・(がくっ)」
その判決が下された。
◆
既に集まっていた者達は案内された客室に入り城の中は静まっている。そんな中食堂では未だに二つの影があった。小夜と伏羲だ。
「・・・・・何で話を逸らしたのかしら?」
「知り過ぎても混乱しかまねかんだろう」
小夜の言葉に伏羲は平然とした口調で返す。
「それで、お前は誰に魂を抜きとられたか、覚えているか?」
「姿はほとんど見えなかったわ・・・けど」
小夜は険しい表情をする。まるで醜悪なものを見たかのように。
「不気味な声だったわ。まるで自分が利用されている様で、不快だったわね」
「・・・・その声の主、名は言っていたか?」
「ええ」
そして小夜はその声の主の名を口に出す。
「――――――、よ」
「―――――――――そうか」
その名を聞き、伏羲はほくそ笑む。その笑みはまるで悪戯を思い浮かんだ少年の様なもの。ただそこに宿る邪悪さは吸血鬼である小夜でさえまるで化け物を見ているかのような物であった。
感想、批判、意見、評価などがありましたらお願いします。
分かりづらかったですよね?まあ前書き通り頭の片隅にでも。
さて、活動報告でも書いたんですがキャラ紹介をどうしようか悩んでいます。キャラが増えてきたのでいい加減覚えられねえよ、という方もいると思うんですよね・・。
スキルなども各キャラ考えていますがそれについても紹介はどうするか、というところです。
書いてほしいという方、書かなくてもいいという方どちらでも感想か活動報告にコメントして下さると嬉しいです。もし来たらそれを見て考えようと思います。