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護衛復帰と続く異変

 浮遊する意識から徐々に持ちあがる感覚と共に、重い瞼をゆっくりと持ち上げ響夜は目を覚ました。


「・・・あ」


 目覚めきっていない脳を働かせながら響夜は今の状況を思い出す。だがどれだけ思い出そうとも響夜はこの場所に覚えなど無い。

 宇宙だろうか・・・。何処までも続く闇の中に光り輝く何かが映っている。動いている物もあればその場に留まり光っている。それは星に例えられるだろう。そんな幻想的な光景の中にひとつ、出来るのならば二度と来るなと言いたくなりそうな者の姿があった。


「――――!?」


 そしてその人物の姿は彼の眠気を一瞬で吹き飛ばす程の衝撃を与える。


「ああ、落ち着きたまえ。何もしない(・・・・・)」


 神経を逆撫でする様な声で、信じられる訳の無いことを言う男。響夜はその男を睨み付け名を呼ぶ。


「・・・・何の用だ、アレイスター・クロウリー」


「随分と警戒している。私が君に何かしたかね?」


 どの口が、と思わないでもないが此処で何か言おうともこの男は否定も肯定もしないだろうとそれ以上口を開くのをやめる。


「此方へどうかね。立ったままというのも疲れるだろう・・」


 そう言って何も無い筈の空間からもう一人分の椅子が現れる。座れ、ということなのだろう。どの道帰ろうにもこの男しか出方など知らないのだ。そう考え響夜は素直に椅子に座る。


「ふむ、この空間はどうかね?」


 椅子に座り暫く沈黙が続いていると唐突にアレイスターが口を開く。


「・・・どうってのは?」


「何でもいい。君がこの空間を見ての感想という物だ」


「感想、ねえ・・・・・」


 その言葉に響夜は素直に周囲を見渡し、再び口を開いた。


「・・・此処は、宇宙、じゃねえよな。似てるけど、何処か違う気がする」


「あの世界でも無い。あの世界は何と言うか創られた感じがする」


「・・・無色、というか未知・・か?」


「然り、正解だ黄昏の破壊者ロキ。此処は宇宙などでは無いしあの世界でも無い。此処は通常の世界より遥か高みに位置している。ある種の新世界とでも言うべきかもしれんね」


「・・・・・・」


「此処にあるものは理解など出来ないし、しようとさえ思わない。何故なら此処は存在などしない物だから」


「知らない物は創れない。過程が無ければ見つけられない・・・ってか?」


「通常、結果だけが出るなど有り得ないものだよ。最初に未知と遭遇する者は必ず過程があるし、既知の物を創り出すのにも過程は存在する」


「で?未知だらけのこの世界でテメェは俺に何しに来た」


「・・・ふむ、君の右手、随分面白いことになっている」


「あ?」


 言われてみるが響夜の右腕は変わらず絞り込まれた筋肉の分かる白い腕だ、どこにも異常など無い。


「融合、か。まあそれについては向こうに戻ってからみるといい。

 さて、何し来たか。君の様子を見に来たというのもあるがいいことを教えよう」


「・・・・」


 話をはぐらかされ小さくを舌を打つがアレイスターは一切気にせず話を続ける。


「武器、というものは人に使われる為にある。それ故、人は己が武器を選んだのだと思うだろう。だが一流の鍛冶屋というものは武器が人を選ぶと言う。ああ、その通りだ。そして神器もまた然り。人が神器を選ぶのではない。神器が人を選び己を使わせるのだ。故、神器はその人物の渇望に近い色を持つ」


「・・・・だったら、俺の神器こいつらが俺の渇望に合致してるってのか?」


「ああ、そうだとも。君の渇望は何なのか。私個人としては興味が尽きないが・・・」


 その言葉を言い終えた瞬間アレイスターの姿が歪む。


「ふむ、時間か。では、さようならだ黄昏の破壊者ロキ君が果たしてこの先どうなるか、楽しみにするとしよう」


「おい、待ちやがれ―――――」


 もう言うべきことは無いとでも言うかのようにその姿を消していくアレイスター。響夜がアレイスターへと手を伸ばした瞬間―――――暗転。


「・・・・・・・あ?」


 朝日で照らされた部屋の天上へと視界が変わっていた。そのことに茫然としながら響夜は起き上り周囲を見渡す。


「伏羲の部屋か・・・?」


 以前通された客間と同じつくりになっている部屋を見渡し響夜は呟く。襖を開き外を覗くがそこから見える景色も見覚えのあるものだった。


「・・・何で連れてきたんだか」


 疑問に思いながらも響夜はアレイスターが言っていたことを思い出し右手へと視線を移す。


「おいおいおい、何の冗談だこりゃ」


 先程見たときまでは――――といってもあれが現実なのかどうかの確証など無いのだが――――変わらぬ腕だった筈が漆黒に赤い幾何学模様と発動状態になっている。冗談だとしても質が悪い。


「・・・・これじゃあ俺完全に変質者だぞ」


 つっこむ場所はそこなのかとも思うが本人にとっては酷く重要な問題なのだろう、頭を抱え悩みこむ。


「あ、手袋でもすりゃ問題ねえじゃん」


 盲点だったとでも言うかのように顔上げると何も無かったかのように襖を開ける。


「伏羲何処だ、伏羲」


 道中廊下にいた何体かの式神たちに場所を聞きながら響夜は廊下を歩いて行く。


「サンキューな」


「・・・・・・ぐっ


 何故か礼を言うたびにサムズアップする式神たちに首を傾げながらも響夜は教えられた部屋へと向かっていく。


「早く!早く、持って来るネ!!」


 その襖を開けようとした瞬間に聞こえた声に手を止める。


「楽毅!止めてください!天井が壊れますから!!?」


「エルザ、早く止めんと天井が崩れるぞ?」


「何で貴方はそんな平然としてるんですか!?此処貴方の家でしょう!!?」


 後から聞えてくる聞き覚えのある声。相変わらず苦労屋ご苦労さんと思いながら苦笑しつつ襖を開ける。


「・・・あっ!響夜君、もう大丈夫なんですか?」


「ああ、あと君つけんな」


「眠り過ぎだ馬鹿弟子。貴様が起きんから楽毅の腹に食い物が吸い込まれて逝っているぞ」


「響夜!起きたならお前もはむくむむん(食うヨ)!!」


「何言ってんのか全然わかんねえよ」


 マイペースというか何というか・・。

 山の様に詰まれた皿を見て響夜は思わず苦笑いする。その間にも次々に料理が楽毅の腹へ吸い込まれていく。


「伏羲―――――」


「分かっておる。貴様の右腕のことだろう。安心しろ、隠せるものは用意しておいた」


「・・・・よく分ってらっしゃる」


 伏羲の言葉に安心する響夜。すると横から小さなメモ用紙の様な物が渡される。


「依頼の続きだ。家の場所は覚えているな?」


「・・・は?続きって・・・あれとっくに終わったんじゃねえの」


「・・・はあ。そんな訳あるか馬鹿弟子。あれで終わったなど誰も言っていないだろうが」


 呆れたと言わんばかりに首を振る伏羲。その様子に何か文句でも言おうとするが、確かに伏羲は(・・・)何も言っていないと響夜は諦める。


「・・・で、相変わらずあのお嬢様の所で?」


「ああ・・・安心しろ。犯人の特定だけはしておいた」


 そう言って伏羲はもう一つ、先程とは違い巻物を渡して来る。そこに書かれているのは何かの地図。恐らくは先程言っていた犯人の居場所なのだろう。


「言っておくが直ぐにそこに向かうなよ」


「あ?」


「貴様が暴れてから何かと警戒されていてな。今言ってもどうせ直ぐ逃げられる」


「じゃあどうすんだよ」


「暫く護ってろ。その内出てくるだろ」


「狙ってる理由は?」


「知るか、依頼されたんだったら護るだけだ」


「はいはい、そーですか」


 両手を上にあげ響夜はやる気のない口調で答える。


「それと、これからは稽古を付けてやる・・・」


「何で?」


「お前、私の式神と戦った時の最後のことを覚えているか?」


「・・・・朧気だ」


「そうか。ならその時の感覚を思い出させる」


「あいよ」


「最後にだ。これを着て行け」


 そう言って伏羲が差し出してきたのはエルザ達の来ている軍服。形などが若干違く、色が黒く見た目はほぼ黒いコートだ。そしてそれに付随するように魔方陣が描かれた白い手袋。


「選別だ。耐久性もあるしいざとなったら入れておいた軍の証で大抵のことは押し通せる。手袋はその魔方陣を通して魔法を使える。大掛りな陣を描く時はそれで代用できる」


「随分良い物くれるな。身形みなり位きちんとしておけ、師である私に恥じを掻かせる気か」


「ざーす。んじゃこれはありがたく貰って行くわ」


 響夜はそう言うと未だに料理を食べている楽毅と片付けで忙しそうな様子のエルザ達に一言二言言うと部屋を出ていく。


「あ~・・・だるい。何故こんな面倒臭いことを」


 そう言いながら懐から煙草を取りだす。


「・・・試してみるか」


 先程貰った手袋を嵌め魔力を通す。するとライター程の小さな火が灯る。


「へえ・・魔力の効率運用、か?」


 普段より遥かに小さい魔力で成功したことに軽く感動しながら響夜は先を歩いていった。


 ◆


「此度、護衛を務めさせてもらう鳴神響夜です」


「はい、よろしくお願いします。鳴神様」


「・・・・はい」


 にこにこと笑っている桃子にげんなりとしながらも響夜は返事をする。

 こほん、と桃子は息をすると元気な声で言った。


「では、再び外に出たいです」


「・・・・・・・」


「外に出たいです」


「・・・・・むりd「出たいです、外に」・・・」


「出たいd「分かりましたから」――――ありがとうございます!」


 キラキラという音が聞こえてくるほどに目を輝かせながら響夜を見る。その瞳から逃げる様に響夜は目を逸らす。


「ではさっそく行きましょう」


「いえ、その前に依頼主に話を・・・」


「父上へは大丈夫です!」


 依頼主へと話をしに行く響夜を桃子は強引に止める。それを見て響夜は呆れながらも外出を了承する。そこからの桃子の行動は素早かった。誰にも見つからず、足音一つ立てずに廊下を歩いて行く。


「鳴神様が来るまで退屈だったんです」


「・・・」


「来る人は皆黒い鎧を着た方々ですし、声を掛けても誰も口を開いてくれなくて・・・」


「(そりゃ、あいつら喋れねえし、式神だから伏羲の命令に忠実だからな・・・)」


「お陰で外に出ようとしてもすぐバレて、凄く怖いんです・・・主に顔が」


「そうですか」


 内心で式神たちを憐れに思いながら桃子の言葉に相槌を打ちながら響夜も後を着いて行く。そのまま外に出るまで誰にも会わず二人は外へ出た。桃子は奇妙に感じながらも、外へ出られたという喜びからかそんなことなど頭の片隅へ吹き飛んでしまった。


「(・・・・成功したか)」


 その事実に後ろを歩いていた響夜は安堵の息を吐く。誰にも会わなかった理由、それは響夜が人払いの魔法を行っていたからだ。本来なら専門で無い響夜ならば術式を描く必要があるが伏羲から貰った手袋で代用し行ったのだ。その結果は成功。響夜一人だったならば絶対に失敗していただろう。


「・・・・・桃子様、なるべく離れないよう」


「はい!」


 嬉しさから桃子は満面の笑みで返事をする。響夜はそれを横目で確認しながら周囲の警戒をする。


「(・・・今戦うのはマズイよな)」


 響夜は自身の状態を軽く確認する。式神と戦った時の記憶は朧気だが伏羲の言い方から何かあったのだろう。修行内容が感覚を覚えると言っていたことから何が起きたのか予想していく。


「鳴神様、千年桜が!」


 その言葉に響夜は思考を打ち切ると桃子を見る。


「あれを見てください!!」


 桃子が指差す方向へと顔を向ける。見れば通りにいた全員が同じ方向を見ている。


「―――――――」


 それを見て眉を顰める。千年桜、そう呼ばれていた大樹が発光しているのだ。その光景に惚けていた者達はハッと正気を取り戻すとがやがやと騒ぎ始める。やれ水神様が現れたのだとか、やれ水神様からのお告げなど勝手な想像を口に出す。


「・・・どうなってやがる」


 魔物達の大規模な移動。そしてこの現象。響夜はここ最近続く異常事態から嫌な予感が思考を横切った。


 ◆


「・・・・っつ、・・・く・・」


 闇で覆われた部屋の中、伏羲は一人座禅を組んでいた。彼の体を魔力が覆いそれだけで部屋の軋む音が聞こえてくる。


「・・・はあ・・・はあ・・・」


 頬伝う汗を拭いながら伏羲は荒い息を吐く。


「・・・久しぶりだな、ここまでの力を使うのは」


 伏羲は一度大きく息を吸うと全身に力を張り巡らす。筋肉が膨張し先程とは次元が違う程の魔力が彼から漏れだす。


「ハアアアアアァァァァァ――――――――!!!!!」


 遂に魔力の奔流に耐えきれず部屋が崩れ落ちていく。結界を張っているこそいるもののただいるだけで結界が軋む音を立てている。


「・・・・ああ、懐かしい。随分久しぶりにこの感覚を味わう」


「しかし、まだ足りんな。まだ奴に及ばない・・・」


 口ではそう言いながらも挑戦的な笑みを浮かべる伏羲。

その額には人には決してないだろう黒く染まった眼があった。




感想、批判、意見、評価などがありましたらお願いします。



伏羲、結界を張ったとありますが一応彼の全力での結界です。それでも神器を僅かに使用するだけで決壊寸前・・・・化物ですね。


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