殺人鬼から見てもとても魔王には見えん
「無性に切り殺したくなることってあるよね?」
by響夜
「我を見てそんなこと言うでない!!」
byマオ
この世界にはスキルってのがあるらしい。何でも通常スキル、特殊スキル、固有スキルってのがあるらしい。右へいくほど珍しくその力も協力になるとか・・・。
何故突然こんなことを言ったのかそれは俺のスキルが分かったからだ。
固有スキル:想像形成
固有スキル:魔神の観察眼
固有スキル:鬼神の武勇伝
特殊スキル:魔王の加護
通常スキル:属性付加
ってのが俺のスキルらしい。上から説明していくと想像形成ってのは想像したものを魔力で創るってものらしい。ただしイメージが明確でないと形があやふやになったり効果も小さくなるようだ。で、魔神の観察眼ってのは俺の殺人鬼としての能力、対象の筋肉の動きや体の構造が分かるらしい。鬼神の武勇伝は俺の身体能力のことだと思う。持ち主の能力をすべて底上げするらしい。魔王の加護は言うまでもなくマオが俺につけた後継者として証のせいだ。いちおう能力増強やら回復力増強の効果があるらしい。で、属性付加は持ち主の属性を武器やらに纏わせることが可能らしい。
スキルってのは経験で獲得するのもあれば最初からもっているもの、あとは魔導具や神器で得られたりとか・・。
そうそう神器ってのは魔導具のさらに上らしい。何でも神が作ったもので誰も造ることが出来ないものだとか・・・。これには特殊型と形状型しかなくマオ曰く
「神の創ったものに人間が格をつけるなどおこがましいと思ったのじゃろう」
とのこと。
ま、これは俺が生きる上での知識の確認といったところだ。
◆
「響夜~。まだなのか~?」
俺達は今山の上を登っている。マオは知識を与える際に俺に不要だと思ったものは与えなかったらしくこの世界にはまだまだ知らないことがあった。例えば村や街の情報、魔物についてなんてのはマオは何を考えたのか俺に与えなかった。
「うるせえよ。だったら自分で歩け」
マオはずっと本来の姿のままだが黒いドレス(?)しか持ってないらしく歩きづらいとかほざき俺が背負っている。山の中をドレスとか此奴は何を考えてやがる。
「む、響夜」
「分かってる」
俺のスキルと普段から鍛え上げている聴覚は近付いてくる敵の足音を察知していた。俺は背負っていたマオを降ろす。それと同時に現れる魔物。虎、いや狼・・だろうか。額には一本の紅い角を生やし虎のような牙に狼のような体躯ただその大きさは恐らく4,5m程もあるだろう。その体は見るからに強靭で、恐らく銃は効かないだろう。
「気を付けるのだぞ響夜。あれはゴブリンどもより遥かに強いぞ」
「あいよ」
丁度良い。此奴で魔法ってのを試してやるか。俺は魔物の注意を引き付けながらマオから離れる。
「遊ぼうぜ猫スケ。まあ人語を理解できるのかは知らねえが」
俺は魔物を試しにナイフで切り付ける。だがやはりその体に傷を付けることは出来ず魔物は自らの力を誇示するかのように吠える。うるせえんだよ。耳がいてえだろうが。取り敢えず注意は引き付けたので良しとする。
「集中・・・集中・・」
「力とは支配するもの。」マオはそう言っていた。魔力を俺の意思通りに操り構成する。
「形成・・・呪・・・炎・・・空」
三つの魔法と想像形成、属性攻撃を使う。想像形成で形を創る。それに呪の属性を付加させる。さらにそれに炎の属性を被せて付加させる。あとはそれを空の魔法で操る。
「地獄車」
ま、こんな感じか。空中に現れたのは刺を生やした二つの車輪。呪で癒せない傷をつけるという呪いを付け炎で車輪を包む。あとは空でそれを俺の意思で操る。空を使わずともできるが此方の方が敵の攻撃を躱せる。
「殺れ」
あとはそれを放つだけ。車輪は目の前にいる魔物へと向かう。魔物はその車輪を迎撃しようとする。だが二つの車輪は魔物を挟撃するように立ち回る為魔物は必ずどちらかの攻撃を受けていく。魔物に刻まれていく傷跡そしての傷は徐々に増えていき。
「・・・ガァ・・・」
魔物はもはや虫の息と言ってもいい状態だった。俺は懐からデザートイーグルを取り出す。確かに只の銃では傷付けられない。・・・なら魔法での銃ならどうよ。
「・・・・」
俺は銃弾を想像形成で構造を組み換え呪の属性を付加させる。そしてその銃弾を魔物に向けて放つ。放たれた銃弾は車輪に注目していた魔物に当たり。・・・・・爆発した。
「・・・・これは中々良いものだな」
俺はその結果に満足し車輪を消す。魔物の腹は爆発で飛び散り。傷跡からは焼け焦げた匂いがする。俺はその死体を観察して効果範囲を把握しておく。次使うとき自分ごと巻き込まれたら堪ったもんじゃない。
「随分と上手く扱えたの」
マオは俺に近づいてそう言ってくる。
「まあな、何か創るときに重要なのは腕だ。この場合何かを創るってのは要は想像すればいいんだろ?」
今まで退屈を紛らわせるのに色々やってたんだ。これぐらいは何とか出来る。
「ただ、魔力を少し使いすぎじゃな。あれぐらいなら其処まで魔力を使わなくとも出来るぞ」
「そこはこれからの練習次第だろ?」
「まあの。我に頼るがいい!」
そう言って胸を張るマオ。此奴は魔王よりも子供みたいな感じだな。
「・・・・・・」
俺は騒いでるマオを無視して先へ進む。マオも俺の後を慌てて付いてきた。
「街はまだかのう」
「お前知らねえのか?」
「詳しい土地など我は知らん」
マオはやけに誇らしげに言う。・・・それは自慢にはならねえぞ。俺は呆れながら先を歩いていく。
「響夜~!!」
「う゛っ!?」
今何か人間が発するようなものじゃねえ言葉が出たがそれは無視だ。突然マオが俺に首に手を回して抱きついてくる。首が、首が苦しい。俺はこれ以上首が絞まる前にマオを支える。
「いきなり抱きついてくるんじゃねえ!」
「良いではないか。歩くのが辛いんじゃ」
マオは頬を膨らませて言う。何だ此奴は。俺はマオを背負いながら山をさらに歩いていく。やがて森が広がり俺達は森から出た。
「・・・・・・・」
「お~・・・」
マオは瞳を輝かせながら感嘆の声を上げる。俺も目の前に広がる光景を見る。そこに広がっているのは太陽の光を受け輝く海。そしてそこには港と街が広がっている。街は中々大きく多くの建物が見える。
「ほら!行くぞ響夜!!」
マオは俺の手を掴んで引っ張る。
「おい、待てそんな急に走ったら――――」
「ひゃっ!」
俺が言おうと思ったら案の定はマオは転んでしまった。見ればドレスも破けてしまいマオは涙目になっている。
「・・・・ハア」
泣きたいのはこっちだ。俺はコートを脱いでマオに渡す。
「ほれ、ついでに鞄の中の服やるからそれに着替えろ」
こんな姿で街に行ったら絶対に目立つ。只でさえ此奴は容姿がいいんだ。余計に目立っちまう。マオは俺から衣類を受け取ると木の影へ入り着替える。
「・・・・何でこんな疲れなきゃいけないんだ」
俺は深い溜息を吐いて空を見上げる。ああ、太陽がうざってえ。
◆
「・・・・でかいな」
着替え終わったマオを連れて俺達は街に入った。こうやって街の中を見るとやはり此処が異世界なのだと実感させられる。周りには耳や尻尾を生やした獣人、翼や牙を生やした魔族、長い耳が特徴のエルフ、それに毛むくじゃらのドワーフ、人間もいる。皆やはり俺の世界とは違うものを着て鎧や、冒険者のような服装の奴もいる。その多くが武器を装備している。おそらくこれが知識の中にあった冒険者って奴なのだろう。
「響夜!あれは何だ?」
マオは街の中は初めてなのかそこら中に目移りしている。これだけなら御令嬢とかで済むんだろう。
「あ?・・・ありゃ街灯・・・か?」
この世界に該当なんてあったんだな。魔導具か何かで制御してるのか?ただその数も少なく恐らく限りがあるのだろう。
「・・・・・・」
さっきからどうも視線が俺たちに来る。服装に問題があるんだろうが、こればかりは仕方がない。先ずは金をどうにかしないとな。
「マオ。お前は金持ってるか?」
俺はマオに聞く。ここでもってないと言ったら・・・どうしようか。俺のスキルで創るか?
「一応持っているぞ!!」
元気よく言うマオを見て俺は負担が減ったことに内心喜んだ。
「そんじゃ先ずはお前の服を買うか」
知識を与えられてなかったらこの世界の字なんて分かんねえし。硬貨の基準も良く分かんなかっただろう。マオには一応感謝しねえとな。
「いいのか?」
「構わねえよ」
不安そうに俺を見るマオの頭を撫でて言う。今更俺の迷惑とか考えんじゃねえ。
マオは撫でられたのが照れ臭かったのか少し俯いて顔を赤くする。
「そうと決まれば先ずは服屋か・・・」
どこにあるんかな。俺とマオは人混みの中を歩きながら探す。
「きょ、響夜」
「あ?ああ、悪い悪い」
どうやらいつの間にか歩くペースが早くなっていたらしい。俺はマオとはぐれないよう歩くペースを落とし手を繋ぐ。
「響夜?」
「はぐれたら面倒臭いだろう」
その行動を不思議そうに見てくるマオに俺は言う。何時の間にか随分お人好しになっちまったな。
「ほら探すぞ」
「うむ!」
マオは満面の笑みで頷くと上機嫌で歩き出す。俺もその手を握りながらマオの隣を歩いて行った。
◆
「~♪」
満足そうな様子で歩くマオ。そして隣でマオの服を持ちながらぐったりとした様子で歩く俺。女の買い物というものをどうやら甘く見ていたらしい。マオは真剣な顔をして何着も試着し俺や店員に感想を聞いたりし、納得したら新しいものを探し出す。それが何時間も・・・。
「・・・・・疲れた」
もうとっとと宿を探して休もう。俺はそう考えてマオに言う。
「マオ、そろそろ宿を探すぞ」
確かこれだけ買い物してもまだ余裕があったな。お前の一応ってどれ位だ?
「うむ、何処がいいかのう」
新発見だがマオの勘は異常なほどに当たる。服の時もそれを存分に発揮していたからな。
「む~~、響夜!あそこじゃ!!あの宿がいいぞ!!」
マオは元気よく俺に言う。マオの指さす方向を見ればそこには一軒の宿屋。外装もそこまで悪くなく混んでいるわけでもない。俺はその宿屋へと歩いていくマオの後ろについて行った。
「すみません。」
対人関係はマオでは不安があるので俺が人を呼ぶ。こういうところでは一応敬語を使うぞ?これで外に閉め出されたら堪ったもんじゃない。
「あら?お客さんかしら」
俺の呼び声で一人の女性が奥から現れる。・・・若いな、20代ってところか。
「どうしました?」
俺がそんなことを考えていると目の前にいる女性は首を傾げる。
「ああ、いえ、お美しいものですから」
「あら、そんなまた。そんなこと言っても負けてあげませんよ?」
俺の言葉に女性は笑って答える。っち、ダメだったか。勿論そんなことを声に出して言うわけもな、俺は肩を竦めて微笑した。
「・・・・」
痛い。足を踏むなマオ。止めろ。マオは不機嫌そうな表情で俺の足を思い切り踏み付ける。
「あらあら、彼女さんが御立腹ですよ」
女性はマオのそんな表情を見て笑った。いや、こっちからしたら全然笑えないんだけどさ。
「ははは、済みません。一部屋お願いしたいんですけど」
「はい。どれ位の滞在になりますか?」
「あ~・・・」
決めてねえな。俺が悩んでいるのを見て女性は言った。
「決めてないなら取り敢えずだけで、後から延長することもできますよ?」
「あ、じゃあそれで。えっと取り敢えず十日間程」
「三食お付きになさいますか?」
「あ、はい。」
「でしたら銀貨七枚になりますね」
女性の言葉に俺はマオの持っていた硬貨を支払う。すると女性は差し出された硬貨を取り代わりに一つの鍵を差し出してきた。
「ではお部屋の鍵になります」
俺はそれを受け取ると未だに不機嫌そうな顔をしたマオを連れて部屋へと向かった。
「おい、何でそんな怒ってるんだ?」
「ふん、響夜など床で寝ればいいのじゃ」
マオは俺の質問に答えず手から鍵をひったくると早々に部屋へと入っていく。
「・・・・意味わかんねえし」
俺はその行動に溜息を吐きながらも部屋へと入りマオの荷物を置く。中はそれなりに広く、綺麗に掃除されていた。こう考えてみるとこの世界に来ての初めてまともな寝床だな。俺はベッドで横なろうと近づくと
「ふん!」
ベッドの上にマオが乗って邪魔してきやがった。俺はもう一つのベッドへと向かおうとするが
「おい」
そのベッドは先ほど置いたはずの荷物で占領されていた。此奴魔法使いやがったな・・・。マオは相変わらず不機嫌そうな面をしぷいっと顔を背ける。俺はその行動にこの日何度目になるのかの溜息を吐くと壁を背にして床に座り込む。
「・・・・・・疲れた」
今までの疲労のせいか目を瞑ると強烈な睡魔が俺を襲う。俺はその衝動に抗えず深い眠りに落ちていった。
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