心の底から溢れ出したもの
洞穴に籠り二日。食料確保以外はすべてこの洞穴の中で過ごした。
「ざっと三百か・・・」
俺は目の前に広がる火の玉を見る。魔力を圧縮して創り出したものだ。俺が指示したとおりに動き爆発する。実証した所直撃すれば鬼でも上半身が消し飛ぶ。これを全て森の中に放つ。後は伏羲が来たら俺に連絡、指示を待つ。といったやり方だ。
「よし行って来いお前ら」
火の玉はふよふよと漂いながら森の中に入っていく。
「マジで幽霊にしか見えん」
あれ肝試しの名物になるんじゃね?
一応一体一体の周囲の状況も分かる。ただ常人だったら頭がぶっ壊れる情報量だろうが。
「後でもう少し増やすか」
俺はアサルトライフルを創り出し背中に担ぐ。銃撃音で位置はバレるだろうが。
「・・・・・何かロボでも創るか」
出来れば遠隔操作可能のものだな。
「・・・メタル○ア?」
まあ、多分動きが鈍いからぶっ壊されると思うが。それでもコンマ一秒の足止めにはなるだろう。それだけでも役に立つ。
「後で考えるか」
俺は早速一つの火の玉と視界を共有する。見ればそこには伏羲の式神が見える。それと同時にその奥にいるのは
「・・・伏羲」
奴はまるでその声が聞こえていたかのように俺を見る。正確には俺が作りだした火の玉を。符気が俺を視界に入れた瞬間、俺の視界は火の玉から切り離されていた。
「・・・何が」
俺が周囲を見渡すと此処から遥か遠くが赤く光っている。やがてその光が治まると同時にそれは起きた。
まず地盤が砕けた。次に木々の一つ一つが今より遥か高くなっていく。そしてまるで湿原の様に地面の上を水が張り巡らされていく。
「何だこりゃあ」
「さて、何だろうな」
背後から聞こえてきた男の声。それに俺の背筋が凍る。
「――――がっ!ぐあ!?」
突然背中を男に殴りつけられる。だがその威力は常人の比ではない。まるで何十トンものダンプカーがぶつかったかのような衝撃。背骨がバキバキと砕け散らせながら宙を浮いた俺を男は地面に叩きつける。
「・・かっ、ハア・・っつあ、どう、やって・・?」
立ち上がった俺の口から出たのは疑問だった。目の前にいる男、伏羲はついさっきまで此処から遥か遠くにいた筈だ。それなのにどうやって此処に来たと言う。
「何、そんの少し歩いただけだ。気にするな」
何気なく言った言葉。だがそれは俺と伏羲の力の差を明確に表していた。
「くそ!」
「生成・太初の塩水!」
俺は自身の腕を変成しすぐさまその場から飛び退く。その瞬間俺がいた地面が爆発し右足が吹き飛ぶ。悪魔の心臓を再生に回す訳にはいかない。そうすれば右足は再生するだろうが次の攻撃で確実に消される。そう直感したから。
吹き飛ばされた右足を引き摺りながら加速するが片足での速さなどたかが知れている。伏羲の攻撃は徐々に、だが確実に俺を捉えていく。
「――――があ!」
左腕が消し飛んだ。次は胸に風穴が空く。そして脇腹が持っていかれ背骨が見える。
魔人。かつてルイス・キャロルが言った言葉を思い出す。自分達は神器を扱い人の魂を喰らう化け物だと、生半可な攻撃では死なない不死身の身体だと。
「成程」
ああ、よく分かった。現に今俺はこれ程の攻撃を受けても死んでいない。破壊された筈の身体から肉が盛り上がり徐々に再生していく。
「・・・痛い」
そう言った割には俺の口から出た言葉には全く感情が籠っていない。まるで予め用意されていた台詞を声に出して只読んでいるだけの様だ。
「どうした、もう限界か」
気付けば俺は地に伏していた。地面が血で濡れぬるぬると気色悪い。出血のせいで視界も朦朧としている。
「・・・もう声も出ないか」
それに答えようと口を動かすが声なんて出やしない。そりゃそうだ喉を焼かれた上に舌も碌に動かせやしないんだ。
「これは期待外れだったか?」
「・・・・・・・・」
「お前がこれだったらお前が守るものなどガラクタ以下の価値程度なのだろう。簡単に壊せる実に脆い玩具」
「・・・・・・」
「あれらも黄金に破壊されるだろうよ。あれに勝てる者などいはしない」
「・・・・・・・」
それは、嫌だ。
「では約束通り。此処でお前を滅する」
伏羲は懐から札を取りだすと投げつけて来る。それは巨大な水の竜へと姿を変える。
「喜べ、私が持つ中でも高位の術だ」
「――――――」
立ち上がろうと右腕に力を込めるが竜が俺にぶつかるほうが速い。俺は抵抗さえ出来ずに迫りくる竜に飲み込まれた。
「・・・・・実力不足だな」
伏羲はそう言うと興味を失った様にその場から去っていった。
◆
「・・・・・・」
俺が目を覚ました時空には星が瞬き、周囲は荒れ果て俺はクレーターの様に穿った穴に溜まった水の上に浮いていた。俺が気を失ったからか傷は総て塞がっていた。
「・・・情けでも掛けたつもりかよ」
俺は目を腕で覆い隠す。
伏羲はまるで本気じゃなかった。なのに俺は上手くいけば勝てるかもしれないと自惚れていた。その結果がこれだ。何一つ出来ずに地に這い蹲りただやられているだけ。
「何が勝てるだ。畜生」
そんな言葉を自分が吐く資格なんて無い。まるで芋虫だ。空を飛ぶ鳥達から醜く這いずり回って逃げようとする滑稽な生き物。
「・・畜生・・・畜生・・・畜生・・」
俺の頬を何かが伝う。
ああ、こんなものを流すなんて何年振りだろう。
「くそ・・くそ・・ちくしょう゛・・ッ!」
この世界に来て俺は初めて涙を流した。
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