谷底は人外魔境の巣窟
「ぶっとべええ!!」
by響夜
「ああ、自己紹介がまだだったな。私の名前は伏羲。クラウン序列第三位だ、敬え黄昏の破壊者」
屋敷へと連れ去られた俺は目の前で椅子に座る伏羲に抗議をする。
「ふぁなへ(離せ)!!」
「ぬ、ああ済まんな。そう言えば猿轡を取っていなかった」
その事に漸く気付いた伏羲は傍にいた式神(仮)に命令すると両腕の拘束を止め猿轡も取る。
「ったく。つうか何で拘束しやがった」
「趣味だ。・・・・・・そう引くな。冗談に決まっておろう」
俺は伏羲に疑いの目を向けながらも警戒を緩める。俺も真っ当な奴から外れてるが此奴程じゃないと自信を持って言える。
「まあ拘束したのは何となくだ。さて、エルザからも聞いたが強くなりたいのだったな」
その言葉に俺は顔を引き締め答える。
「ああ、俺は強くなりたい」
伏羲は瞑っている目を細く開き、決して視線を逸らさずに俺の目を見る。
「・・・ふむ、ああ良いぞ。ただ死なない様に気を付けることだ」
伏羲は面白そうに唇を歪めるとそう言った。その一言に俺は多少の安堵の息を吐き伏羲にこれからのことを聞く。
「それで何をすればいいんだ?」
その言葉に伏羲は何か思案するとやや間を置いて喋った。
「一週間。此処から南東に行くと谷がある。そこで一週間生き延びろ」
「・・・谷?」
「ああ、確か禁止指定区域だったか。妖共が喚いている場所だ」
「ギルドの連中来たらどうすんだ?」
「邪魔をするなら全員捻じ伏せろ。消しても構わんだろ」
そんなことは知らないという様子の伏羲。まあ、俺も別に殺しても構わないんだがな。
「まあそれなら良いんだが」
俺は伏羲からその場所への案内に式神を一体借りると屋敷を出ようとする。
「ああ、響夜。言っておくが自身の不死性には頼るな。気を抜けば死ぬぞ」
今迄の口調とは違う威圧感のある真剣身を帯びた声。俺は思わず背後にいる伏羲を見遣る。だがそこにいるのは先程の真面目な空気は何処に行ったのかニヤニヤと唇を歪めている伏羲。
「・・・んだよ」
「いや、何でもない。さっさと行け」
俺は伏羲に促されるまま屋敷を出て谷へと向かっていった。
◆
「・・・・・・おい」
俺は谷底を見ながら隣に立つ式神に声を掛ける。
「これ谷じゃねえだろ」
俺の眼下に広がるのは古い屋敷を中心に広がる鬱蒼とした森。谷と言うだけあって谷に沿って長方形の様な形をしているがとにかく長い。苔見てぇにそこら中に木が生えてやがる。
式神は俺の肩を叩く。何かと思い隣を見ればそこにはサムズアップをする式神。
「・・・・お前ってそんなキャラだったのか」
俺がそんなどうでもいいことを考えていると突然背中を押された。
「・・・・へ?」
気付けば俺は空を飛んでいた。だがそれも束の間、俺は重力に捕まり空から地上へと叩き落とされる。
「うおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオォォォォォ!!!!!」
俺は何十メートルという高さからのスカイダイビングに悲鳴を上げる。下には幸い所狭しと木があるから何とかなるだろうがそれでも何かが嫌な音を立てて削れていく。
「ちょ、死ぬ。アホか!うぶっ!だ、ぶほっ!?」
俺は頭、腹、首といたる所を木にぶつけながら地面へと落ちる。見事な顔面での着地を遂げた俺は揺れる視界と頭を必死に働かせ周囲の状況を確認する。
「・・・・くっそ!いきなり落としやがって・・・・此処何処だよ」
落ちる直前まで見ていた光景と俺が落ちた時に見た場所の光景を重ね現在の場所を推測する。生憎崖の場所を確認しようにも成長し過ぎた木が邪魔をして空なんて見えない。日の光も届かない筈なのに草は生えているという不思議現象だ。
「・・・・・・」
集中・・・集中・・・。
俺は心を落ち着かせながら周囲一帯の気配を感じ取る。
俺が感じ取れる距離では何体かが此方に向かって来ているのが分かる。
「不死性に頼るな、か・・・」
何でそんなことを言ったかは分からないがあの口ぶりからなるべく致命傷は避けた方が良いのだろう。
「・・・やるか」
俺はナイフを二本創ると一番近くに迫ってきている奴の下へと向かう。
「一気にいくぞ!」
木の幹を蹴って方向転換。俺は近付いてきている奴の背後に回り込む形になる。
「――――――」
見えたのは体表の赤い鬼。恐らく大鬼の亜種だろう。俺は奴の頭上に飛び強襲する。
俺は肩脚からの踵蹴りをお見舞いし首筋に両手にあったナイフを突き立てる。
「ガァラァぁアアアアァァァァァァァ!!」
赤鬼はその身体を捻り俺の脇腹に一撃を入れる。
――――ゴキゴキ、ボキッ!メキャ!
何かが折れる音と共に俺の口から赤い液体が吹き零れる。俺はそのまま木を破壊しながら飛ばされる。
「・・・がふっ・・・か・・・成程、こういうことか」
要するにあれだ。
気を抜いた瞬間下手すれば消される。
俺はその事実を理解し、再生していく身体を起こしながら此方に突進してくる赤鬼を睨む。
「速過ぎだ馬鹿野郎」
確かに。これが標準より少し強いなんて言ったら向こうの奴等はカスみてえなもんだな。
形無き略奪者は破壊されちまったから使えない。軍勢も此処で下手に音を出したら他の妖も寄ってくるかもしれない。
見れば既にその後ろにも数体の妖が見える。
「肉体強化しかないか・・」
俺は再び武器を創り出す。今度は手甲の形をしたものだ。殴った対象の動きが遅くなるという呪いを付けた物。
「ラァ!」
俺は近付いてくる赤鬼に加速し懐に潜り込む。瞬間的な速度は此方の方が上らしい。俺は赤鬼の顎をアッパーで殴り飛ばすとガラ空きの胴体を次々に殴りつける。
「ぶっ壊れろぉ!!」
俺は右手に魔力を込める。
「疾走する魔狼の牙!!」
放たれた一撃は赤鬼の胴に大きな風穴を空ける。赤鬼はそのまま吹き飛ばされ背後から襲い掛かろうとしていた妖にぶつかり一緒に倒れる。
「次こいやァ!」
そのまま倒れた一体の妖に馬乗りになり殴る。だが横から巨大な狼が俺を襲い逆に俺が馬乗りにされる。
「舐めんな畜生!」
噛み付こうとする狼の口を手甲を付けた両腕で牙を掴み縦に裂く。
「が、ぶきゅら!がァ!!!」
顔を裂かれながらも俺に噛み付こうとする狼に対し俺は口の中に手を突っ込む。
「っぶ、りゅあ!が、オオオォ!!!!」
絶叫。俺はその声を無視し掴んだ狼の背骨を引き抜いた。ぐちゅぐちゅと音を立てて引き抜かれる背骨。既に狼はこと切れて倒れている。
俺は背骨を途中で折ると狼を蹴り上げ退かす。
「・・・・ッあ゛!?」
立ち上がる前に俺は横から飛来した大木に脚の骨を砕かれる。
「ってえんだよ!!!」
俺は大木を投げてきた腕の長いゴリラの頭上から剣群を落とし串刺しにする。
次の攻撃が来る前に立ち上がるとそこには殴りあっている妖達の姿。俺の取り合いでもしているのだろうか。
―――ガシャ・・・ガシャ・・・
何か金属同士がぶつかり合う音。俺はその方向に目を向けるとそこには江戸時代の侍の姿をした妖の姿。ただし顔は白骨化し恐らくスケルトンの上位種か何かだろう。怨霊という可能性もある。
「幻想交響曲」
流石にあれを入れて全員相手にするのはきつい。そう考え俺も漆黒の鎧に身を包み相対する。
「「――――」」
フランベルジュと野太刀。互いに剣を受け流すように反らし敵の首を狙う。
「か・・か・・」
だがその攻撃を俺達はどちらも身を捻ることで躱し体勢を整える。
「・・・お、前おもし、ろい。そのから・・だ。貰う」
落ち武者は一気に加速すると俺の鎧の隙間を縫うように野太刀を指し込もうとする。
「■■■■!!!」
それをさせまいと俺はフランベルジュを地面に突き立て外側へと弾く。そのまま顔面に手甲での一撃を入れ仰け反らせる。
「■■■■■■」
地面に突き立てた剣を引き抜きざまに切り上げる。落ち武者はバックステップで範囲外に出ようとするが鎧に僅かに切り込みが入る怪力による衝撃で吹き飛ばされた。
その音で殴り合っていた妖共の数体が俺へ向かって来る。
「■■■」
突進してくる一体の脇を擦り抜け際に一閃。半分に引き裂く。
「かかかかかか!!!!」
落ち武者の脇腹への刺突を俺は跳躍によって避けそのまま正面にいた雷蛇を蹴り飛ばす。だがその瞬間に感電によって動きが鈍る。その隙を狙い俺に向かい一斉に振り下ろされる爪牙。鎧は軋む音を立てて右肩から先が壊れる。
「シハハ母はは!!!」
そして左腕を斬り飛ばす落ち武者。そして放たれた全方位からの閃光。俺の身を包んでいた。
「がっ、く、っづあ!!」
俺は閃光に飲まれ地面に這い蹲る。鎧を着ていようとも衝撃は防げず俺は少しでも動きやすいように鎧を中にしまう。もう俺が動けないと思ったのだろう。妖共は一斉に俺へと飛び掛かる。
立ち上がらねえと!俺は転がりながらもその場から離脱し拳を構える。
「疾走する魔狼の牙!!」
発動させたのは遠距離での攻撃。空間を固定しその中に溜めた魔力を爆発させる。
「手加減無しだ!砕け散れええ!!!」
爆発した魔力はその空間内にいた総てを吹き飛ばす。生じた土煙りが晴れた時に見えたのは上半身や下半身が吹き飛んだ妖の姿。
「・・・テメェは突っ込んでこなかったか」
俺は奥で佇んでいる落ち武者を睨む。どうやらそれ以外の奴等は今ので死んだかあいつに気圧されたかでもう此処にはいない。
「想像形成」
俺は先程よりも強固なナイフを創造し握りしめる。そしてその瞬間に落ち武者は俺の下へ突っ込んできていた。
「ハアアァァァァ!!!」
「かアアアアァァァァァァァ!!!!」
振るう野太刀をナイフで逸らしその小回りで有利な超近距離へと持ち込む。上段から振るわれた一閃をナイフの刀身を滑らせるように当てサマーソルトをぶち込む。だがそれは落ち武者の右手で防ぎ薙ぎ払われる。
俺は空中で体勢を整えナイフを投擲懐から取り出したグロックとデザートイーグルで牽制する。発砲音で寄ってこられようと今は此奴をどうにかしないといけない。それにもしかしたら落ち武者と相打ってくれるかもしれないという打算。だが、その音で何かが来ることもなく木々のざわめきだけが聞き取れる。
「・・だよなあ」
けど、好都合だ。
「我が軍勢よ!」
俺は今まで使わなかった軍勢を使いその照準を落ち武者に向ける。
「俺の鉛玉で、逝っちまいなあ!!!」
放たれる無数の弾丸。落ち武者はも最初はその全てを弾くが距離が詰まるにすれ被弾による損傷が増える。だが落ち武者の加速は止まることを知らず俺に迫る。脚が砕け片目を持っていかれる。だが動くに至っての必要な個所は全て防いでいる。
そしてとうとうその嵐を抜けた落ち武者は構えた野太刀を一閃。
「かかかかかかか!!」
その声は恐らく勝利の歓喜だったのだろう。なら
「残念だったな」
俺は刀身を挟み込んで創造する。
「死んじまえよ」
創造された剣は野太刀の中心を通る様に出現し野太刀はその突然の衝撃で真っ二つに折れる。その剣を俺は身を捻り遠心力を加えてでの一撃を放つ。
「がっ!・・あ、か」
俺の一撃は骨を砕き上半身と下半身を両断する。だがこれでも奴は動くのだろう。
「疾走する魔狼の牙」
俺は奴の上半身に全力での一撃を放つ。それは奴の骨を一つ残らず砕く。既に放たれた衝撃でクレーターが出来その中心にいるのは俺だけだった。
「あ・・・疲れた。マジ無理」
俺はフラフラと体を揺らしながら歩く。もしかしたら衝撃でまた面倒臭い奴が来るかもしれない。
俺は少し離れた場所にある一番高かった樹に登る。念の為ウサ公を呼び出し結界も張っておく。
「・・・おやすみ」
俺の瞼はそのまま下がり、意識もまた深く落ちていった。
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