海を越えれば新大陸
「日本も昔はこうだったのだろうか・・・」
by響夜
「起きるのじゃー」
「・・・・・起きてー」
意識の底に落ちていた俺の意識が徐々に浮上していく。
「・・・あ~・・・寝る」
俺がもう一眠りしようとすると毛布が剥がされた。
「・・・・・・・・」
俺は眠い目を擦りながら毛布を探そうとするが誰かが持ているのか見つからない。そうしているうちに俺は否応なく起きることを強制された。
「・・・・・・夜だな」
「・・・・昼間だよキョーヤ」
「主は吸血鬼にでもなったのか?」
苦笑するハクと呆れているマオ。二人の姿を見た俺は重石でも付けたかのように動きが鈍い身体を動かしベッドから降りる。
「・・・・エルザは?」
俺はぼさぼさの髪を掻きながら此処にいないもう一人の所在を聞く。
「エルザは甲板の上じゃ」
「・・・そろそろ着くって」
その二人の言葉に俺は納得すると着替えを出す。まだ多少の眠気からかボタンの位置が一つズレたりと四苦八苦だ。
「・・・・ふぁ、ぁ~~~」
俺は大きな欠伸をするとようやく意識が活性化する。それと共に此処が何処なのかようやく思い出す。
「そういや船の上にいたな・・・」
俺は部屋に取り付けられている窓から外を見る。そこから見えるのは何処までも続いてくように広がっている青い海。
「二人とも飯はもう食ったのか?」
「うむ、響夜が何時までも起きないから食べてしまったのじゃ」
「・・・キョーヤお腹空いたの?」
「いや、俺を待ってて食ってないとかだったら済まないと思ってな」
俺はそう言いながら部屋の扉に手を掛ける。
「ま、何時までも此処にいてもしょうがないし外出ようぜ」
俺は後ろにいる二人にそう促すと部屋を出る。俺達は今あの港街から出航した船に乗っている。
それは海の向こう側にある神国に行く為だ。俺は数日前にあった出来事を思い出す。
◆
朝日に照らされながら正反対の表情を浮かべ相対する俺と双子。
「あ、僕はルイス」
喋るのは金髪の少年。
「僕はキャロル」
次に喋るのは金髪の少女。互いにその顔は瓜二つだ。
「「ねえねえ、遊ぼうよー」」
そう言いながら俺に笑顔を向ける双子に警戒する。少なくとも此奴の序列は此方より上。見かけが子供とはいえ油断なんてのは出来ない。
「何しに来やがった」
「酷いなあ、僕達はただ遊びに来ただけだよォ~。ねえ?」
「ねえ」
俺の言葉に唇を尖らせ頷き合う双子。
「こっちは遊んでる暇なんてねえんだよ餓鬼」
俺の言葉に更にむっとした顔をする双子。
「「失礼だね。餓鬼は君の方だろ。クラウンは皆百年は生きてるよ」」
「・・・は?」
俺の顔が面白かったのか期限が多少良くなった双子はけらけらと笑う。
「そっか、君知らないんだね?クラウンは神器を扱う為の人間が集まる。僕達は皆不死で不老の魔人だ」
「僕らの肉体は神器でしか殺すことは出来ない。例え傷を負おうとも他者の命を代価に再生する」
「だから皆他者の命を奪い喰らわせる。神器にとって魂って言うのはおいしいらしいよ?」
可愛らしく小首を傾げて言う双子。その状態のまま双子は目を細めその唇を歪める。
――――クラウンの魂なんて極上だろうね
「―――響夜君!!」
突然聞こえた声と共に誰かが俺を押し退ける。
―――ガキィィィン!!
鉄と鉄が奏でる音。
そこには騎士剣を振るっているエルザの姿。そしてその騎士剣が振るわれている対象さっきまで話していた双子の片割れ。
「あれ?戦乙女、息災何よりだよ」
「・・・・ルイス・キャロル」
可愛らしい笑みを浮かべる双子とは反対にエルザは苦々しい顔をする。
「困るなあ戦乙女。もし君を殺しちゃったら僕達が君の上司に怒られちゃう」
「――――――!?」
エルザの騎士剣を片手で撥ね退けその首を圧し折ろうとするルイス。
「神殺しの鎖!」
咄嗟の判断で俺はルイスへと鎖の群集を放った。
「お?――――危ないなあ。蚊に刺されるのも結構嫌なんだよ?」
俺の放った神殺しの鎖はルイスとエルザの間に壁を作り距離を話す。
「済みません。助かりました」
「いや、俺の方こそ助かった」
俺の傍へと退いたエルザとそう言葉を交わすと俺達は双子を見る。
「「そっかあ、あれが黄昏の破壊者の神器かあ・・・」」
そう言って俺を見る双子に俺は睨め返す。
「・・・・勝てる勝算は?」
「―――――全力で相対して三割」
三割。エルザ程の力を有していてもこの確立なのだ。正しく次元が違うと言えるだろう。
「実力差もありますが、何より能力の相性が悪すぎる」
「三割、か」
俺は覚悟を決める。・・・・ここまで追い詰められたのは警察に正体がバレそうになった時位か?
「・・・・・」
「・・・・・・」
無言で互いを見やる俺とエルザ。お互いの意思が伝わったのか俺達は頷く。
「早朝マラソンをこの歳でやるとは・・・」
「若いんだから頑張ってください」
俺は脚で地面を掴む様に力を入れると拳を引く。
「疾走する魔狼の牙!!」
簡易型とはいえほぼノータイムでの業火による一撃。威力こそ劣るが放たれたそれは対象の視界を遮りその動きを止める。
「あばよ!」
「さようなら!」
俺達は後ろを確認することなく廃ビルの柵を越え飛び降りる。
「私は貴方を愛してしまった 孤高なる者よ その罪を卑しさを 私諸共食潰して欲しい」
「どうかこの鎖を引き千切ってくれ」
「疾走する魔狼!」
「雷鳴轟かす勝利の咆哮!!」
共に神器を開放しての本気の逃走。捕まれば逃げ切ることはほぼ不可能。そこで殺されるだろう。
「ッ、ッ、ッ・・・・・」
その加速に耐えきれず俺の目から血流し耳からも血が噴き出す。四肢からも肉が避け血が噴き出していく。痛みでハンドルを握る手が緩みそうになるが俺は力を振り絞ってハンドルにしがみ付く。
「―――――」
徐々に上がっていく速度。それは音速を超えエルザと並ぶほどの速度を出していた。
「・・・・・・・な!?」
エルザが顔を僅かに背後へ向けると驚愕を露わにする。そして聞こえて来た爆音。
「「酷いじゃないか。それともこれは鬼ごっこなのかな?」」
すぐ真横から聞こえて来る呑気な声。その声に俺の背筋が冷える。
「じゃあ・・・・捕まえた~」
そう言って放たれた一撃。右頬に走る激痛と衝撃、そして何かが抉られる感触。
「がっ―――ハァッ、ぐごぉ!!!?」
気付けば俺は壁へと叩きつけられていた。
「「丈夫だねえ。今の一撃普通の人間は死んでるよ?」」
叩きつけられた俺を見て口笛を吹く少年と面白そうな顔をする少女。どちらもその顔には無邪気な笑顔が浮かんでいる。
「―――――ハア!」
油断していた二人へ背後からエルザが強襲する。雷速で振り下ろされた騎士剣は双子の首を両断した―――――かの様に思えた。
―――ガキィィィィィン
「痛いなあ戦乙女」
事も無げに喋るルイス。その首にはエルザが持つ騎士剣。奴はエルザの一撃をまるで小枝の様に自然体で受け止めていた。
「な、そんな!?」
エルザはその事実をまるで信じられないかのように目を見開く。
「だーかーらー」
「「蚊に刺されるのも結構嫌なんだよ?」」
「きゃあ―――!」
ルイスはその騎士剣を取ると風切り音と共に吹き飛ばされる騎士剣。当然それを握っていたエルザも轟音と共に瓦礫の山へと吹き飛ばされた。
「くっそ!形無き略奪者!!」
その言葉に応え魔剣は無数の槍へと枝分かれし双子へと襲い掛かる。
「「凄いけど、神器じゃなきゃ殺せないよ」」
その牙を突き立てようと迫っていた槍は何かにぶつかり破壊される。今の一撃により魔剣は完全に砕け散り、そこにあるのは砕けた槍の欠片だけ。再生などしはしない。
「疾走する魔狼の牙!!」
それを犠牲にし響夜は空間転移でその距離を零にする。零距離で放たれた拳は膨大な魔力を解き放ち爆発させる。
「ぶっ壊れやがれぇ!!」
一撃、そして数秒の間もなく二撃目が放たれる。三撃目、四撃目、拳の嵐は止まることなく双子へと放たれる。
「オオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!」
咆哮。まるで手負いの獣が吠えるかのような声。だが
「「五月蠅いよ」」
その拳は誰かに掴まれ破壊された。
「がっ―――」
そして潰される頭部。俺は一瞬目の前が黒く塗りつぶされ、次の瞬間には視界を取り戻していた。
「「ッ!?凄いね、今の一撃はクラウンでも黄金と影法師を除けば死ぬはずなんだけど・・」
気のせいか双子の声が僅かに震えている。
「―――――!!!」
その隙を逃さずエルザはその首に騎士剣を振るう。
「く・・はっ・・・!」
苦悶の声。戦乙女の一閃は目の前の化け物に切り傷とは言え確かな傷を残していた。傷口から血が流れ出しキャロルの首を赤く塗らす。それを見た双子はその目を大きく見開き息を呑む。
「「・・・そうか、僕達の血は赤いのか・・」」
意味の分からない言動。俺達はそれを不気味に感じ距離を取る。
「「そうだ・・・そうだ・・うん、そうだよね」」
何に納得したのか双子は頷くと俺達に今迄とは違う笑顔を浮かべる。
「「うん、結構楽しかったかな。アリガト、僕達の遊び相手になってくれて」」
突然礼を述べられ俺達は間抜け顔を晒す。
「「じゃあね、また遊ぼうよ!!」」
その奇行に俺達は着いて行けず双子が消えて行った後も暫く放心していた。
「・・・・・あ」
漸く現状が理解出来た俺達は顔を見合わせる。
「・・・生き残った?」
その事実を認識した俺達はその場にへたり込む。
「・・・・あ、魔剣」
俺はそのことを思い出し砕かれた魔剣を手に取る。
「やっぱ駄目か・・・」
魔剣は砕け散りボロボロと砂へと変わっていっている。手元に残ったのはこの世界に来た時に手に入れた赤い欠片。それは最後に見たときよりも黒く染まっている。
「・・・・・・」
俺はその結晶を眺めその視線を東の空へと移す。そこには既に全身を晒す太陽があった。
◆
「よう、エルザ」
俺は甲板で海を眺めている。右手には包帯が巻かれ頬にもガーゼが貼ってある。エルザもクラウンの一員。再生はするがどうやら双子は吹き飛ばす時に追撃を加えていたらしい。未だ治っていない。
「あ、響夜君。おはようございます」
俺に気付いたエルザが挨拶をする。俺はそれに片手を上げ答える。
「どうだ怪我の調子は」
「支障ありません」
「そうか」
背後の手摺に身を預けながら俺はその言葉に返事する。ふと目をやれば海や空を飛んでいるカモメ達を見てはしゃぐマオとハク。
「・・・ところであいつら連れて来て大丈夫だったのか?」
今から会いに行く奴もあの双子やジークフリートみてえな奴だったら困る。俺はマオ達を指しながらエルザに目をやると彼女は苦笑する。
「大丈夫ですよ。少なくとも気にいった相手には何もしませんから・・・・たぶん」
不穏な言葉が聞こえたが大丈夫だろう。どちらにしても此処まで来たら覚悟を決めるしかないのだ。俺は煙草を取り出し一服する。・・・うま。
「呑気ですね」
「・・・・まあな、向こうでも大体こうしてた」
俺は殺人衝動の他にも幾つか普通の奴と違う。銃器を持ち硝煙の臭いを嗅がないと安心しないし、家族がいることを確認しなければ変な動悸に襲われる。そして本能が命の危険を感じ取れば奥底からどうしようもない怒りと逆にそれを冷ます様に思考が波打たなくなり感覚が鋭敏化する。そしてそこには無数の骸と地獄の業火だけが映っている。
「・・・・・・・」
俺は紫煙を燻らせながら空を仰ぎ見る。一瞬空が赤く見える。
「・・・・・・青いな」
だが瞼きして見た空は雲の無い青い空だった。少し疲れてるのかもしれない。俺は眉間を揉みながら視線を海へと移す。
「もう、そろそろか・・?」
「ええ、そうですね。そろそろ見えて来ると思いますが・・・」
俺達がそんなことを言っているとマオとハクが走り寄って来る。
「響夜、エルザ!見えてきたぞ!!」
「・・・見えてきた」
その言葉に俺達は二人が指差す方を見る。
「見えたのじゃ!あれが神国じゃな!!」
◆
「・・・だいぶ変わるな」
俺は街の中を見て呟く。見た目は和。その一言に尽きる。着物や麻で作られた簡素な服が目立つ。道の脇には桜が植えられその先には此処から遥か遠くにあるにもかかわらず巨大な桜の木がくっきりと見える。
向こうの世界で言うなら平安時代と江戸時代を足した様な感じだろう。服装や家屋は江戸時代。使っている道具や文書を見る限りは平安に近い。
「ここじゃ魔法も陰陽道って感じだな・・・」
この国・・・というか大陸は他とは異なる。此処では呪符と呼ばれる札に魔力を込め放つらしい。少量の魔力でより効率的な運用を。この大陸の魔物は妖と呼ばれ通常の魔物より遥かに強力な力を持っているらしい。それに打ち勝つために人間が編み出した技術。それは他の大陸の者には隠蔽され、もし知られようとも使うことは出来ない。そういうものらしい・・・。
「この大陸には陰陽師も侍もいますよ?」
「・・・まじかよ」
流石にそこまでは記憶していない。
「で?連絡した相手ってのは何処にいるんだ?」
俺はエルザへと首を向けると彼女は少し意外そうな顔をする。
「彼女達とは良いのですか?」
「ああ、一緒にいたいとは思うが・・・・今は時間が惜しい」
コンマ一秒でも早く階段を昇りきらなくては、走り続ける為には休憩は必要だが休憩し過ぎればそれはただ時間を浪費しただけ。無駄な行為には等しく何も生まれない。
「俺じゃクラウンの最下位の奴に追い付かないだろ?」
俺の問いにエルザは少し言い難そうな顔をするが顔を背けて口を開く。
「ええ、多分秒殺、もって十分程かと・・・」
その予想通りの回答に俺は肩を竦める。
「ま、そんなもんだよな。で、背後にいる方は何時まで覗き見してるんだ?」
「・・・・・ふむ、気配を読み取るのは中々のもの」
聞こえてくる声は青年、よりも上か。口調は芝居がかった様で翁の様な感じがする。
「だが、実力は中の上。クラウンでは最低辺だな」
そう言って現れたのは白を基調とする陰陽師で想像できる物と同じ服装の男。帽子(?)はしておらず髪は結ってあるが申し訳ない程度に見た目を良くしようというのが窺える。目は瞑っているのか細目なのか分からないがそこも翁と同じ様に感じる。
「・・・伏羲。来るのが少し遅いと思いますが」
エルザの言葉に伏羲と呼ばれた男は肩を竦め呆れたように言う。
「そも、私が認めた者しか弟子にはせん。決めるのはお前ではなく私なのだから見極める時間位は欲しい者だ」
それ以上は答える気はないのか伏羲はその閉じた目で此方を見る。目を閉じている筈なのに何故か俺の奥底までも見透かすような感覚を覚える。
「ふむ、これは中々・・・」
男はその閉じていた目を僅かに開ける。僅かに金色に光る瞳が俺を射抜く。
「黄昏の破壊者。ああ、気にいった。名は何だ?」
「・・・・鳴神響夜」
「響夜か。では響夜。お前を気にいった。明日にでも修行を始められるようにしよう。安心しろ、今の十倍は強くなれるぞ?」
どうしてだろうか。不安しか感じない・・。
俺がそんなことを感じている中伏羲は指を鳴らすと俺の両脇に黒甲冑のゴーレム(?)、いや式神か?
現れた二体の黒甲冑は俺の腕を掴んで持ち上げる。
「では行くぞ。エルザ連れには適当に行って来い」
それだけ言うと伏羲はさっさと歩いて行く。そしてその後を無理矢理連れて行かれる俺。ご丁寧に口には猿轡を噛まされている。
「さあ、行くぞ。これで当分の暇つぶしは出来る!」
そう自分の本音を暴露し伏羲を師にしての地獄の修行が幕を開けた。
感想、批判、意見、評価などがありましたらお願いします。
すみません、寝てしまい投稿が遅れました。
許して下さい(>_<)