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殺人鬼は異世界に来てしまったようです  作者: ひまめ
殺人鬼と漆黒の御姫様
4/91

どんな奴でも絶対に驚かないなんてことはないそれは殺人鬼も例外じゃなかった

「友に秘密を知られたら?何が何でも口を封じるの・・・・一部を除いて」

                              by魔王

                           

Good morning 太陽。今日ほどお前を消したいと思った日はねえよ。昨日俺が魔王に流し込まれた知識。俺が意識を失っても激痛で再び意識を覚醒させてきやがった。意識を失っては激痛で目が覚める。地獄のような時間だったぞ。ようやく治まった頃にはもう日の出だ。・・・・あの魔王死ね。


「・・・・・・・」


実際俺はもう口を開く気力すらない。思考は正常だが如何せん体を動かす気にはならん。耳を澄ますが俺の他に動いている音はしないから魔王は何処かへ行っているのだろう。これで放置とか言ったら絶対にあいつを殺す。・・・・しかし


くぅ~


俺の腹はまだまだ気力があるようだ。こんだけ元気に空腹を訴えてるのだから。


 ◆


「・・・・・・・起きよう」


日が地平線から完全に出た頃。俺はようやく気力が戻ってきた。


激痛あれで体力を相当もってかれたし服も血塗れになっちまった」


おまけに顔も血塗れだ。不快で堪んない。俺はまだ動きたくないという体に鞭を打って立ち上がる。そこで初めて周囲の様子に気づいた。


「・・・・・・・・何処だ此処」


俺の背後に広がっているのは鬱蒼とした森、ここは最初とそこまで違いはないが問題は前。俺の眼下に湖が広がっている。そう眼下・・、つまり俺は今上から湖を見ていることになる。今、俺がいる場所は湖より遥かに高い崖の上だった。


「魔王がやったのか?」


俺は一歩前に出ようとしてバランスを崩す。


「・・・・・・貧血か?」


顔面は見えないが服には大量の血液が乾きこびりついている。良く俺死ななかったな。自分の運に感謝しつつ俺は鬱蒼とした森の中に入っていった。


 ◆


「・・・・あやつは生きてるかのう」


儂は小さな湖の辺で呟く。やれる限りのことはしたし回復もこまめに行なった。これで死ぬ確率は低いじゃろうが絶対ではない。


「後継者を死なすのはもったいないからのう」


あれがただの馬鹿だったら助けようなどとは思わんし継がせる気もない。そんなことをしたら儂は恥を晒すことになるからのう。


「・・・・・しかしこの姿も疲れたのう」


老人も嫌じゃったが。この姿はごつくて気持ち悪いからのう。威厳は出るんじゃが・・・。


「やはりこれが一番だのう」


はそう言って元の姿に戻る。うむ、やはりこの姿が一番じゃ。我はそう言って服を脱ぎ湖へと入ろうとし


「おい、ま・・・・・・おう?」


その声に思わず我は後ろを振り向く。そこには昨日助けた人間の姿。ヤバイヤバイヤバイ。この姿を、の姿を見られた!?・・・・・しかも裸。


 ◆


森の中を歩いていた俺は途中で見つけた小川を辿っていた。たぶんこの水があの湖に繋がっているんだろう。

やがて小川の先に小さな湖が見えてくる。あのでかいやつ程じゃないが十分だ。俺はその湖へ歩いていくと丁度足を水に浸している魔王がいた。


「あ?」


俺が声を掛けようとすると魔王の姿が突然ぶれる。その現象に少し驚きながらも俺は近づこうとすると


「おい、ま」


「やはりこれが一番じゃ」


美女が現れた。


「・・・・おう?」


その姿を見て俺は今まで見てた魔王は実は幻なのではないかと思った。だってあれだぜ?あの厳つい面して牙生やして翼生やした奴だぜ?それがいつの間にか美女になるって・・・。

俺はその場で頭を抱えながらとうとうイかれたのかと考えていると先程の美女が声を掛けてくる。


「死ね!!」


「うおっ!?」


突然、美女は俺へと飛び掛ってくる。思わず反射的に俺は転がってその場から逃げた。つうか服着ろ、服!!美女は裸を見られたのが余程ショックだったのか涙目になりながら俺を追撃しようとする。

しかし、あれだ。いいね。美しいとしか言いようがないプロポーション。それに絹のように美しい黒髪。そして宝石のように輝く紫の瞳。それを見た俺は笑を浮かべる。

いいね、どうしても切りたくなっちまうじゃねえか。俺はデザートイーグルとナイフを構えると目の前にいる美女へ駆ける。


「ふん!生かそうかと思ったが!!我の姿を見て生きてられると思うなよ!!し、しかも、は、はだ、裸まで見るとは!?継承などどうでもいい!!ここで殺してやる!!?」


美女・・・というか魔王なのか?は顔を湯気が出るくらい赤く染め俺に腕を振るう。食らってしまえば消し飛ぶような威力。だが、まだ混乱しているのかその一撃は隙だらけで――――


「フッ―――」


俺は紙一重でその攻撃を躱すと魔王(仮)の首を掴み木に叩きつける。


「がっ!?」


その衝撃に魔王(仮)は咳き込み俺を睨む。だが殺すことは出来ないだろう。殺ろうと思えば今すぐにでも俺は魔王の首を切り裂ける。俺より魔王が死ぬほうがどう考えても早い。


「お前魔王なのか?」


「当たり前だ!!」


あ、マジで魔王なんだ。


「で、何でそんな姿になってんだ?つか初だなお前」


「これが私の本当の姿だ!!!そ、それにあ、当たり前だろぅ・・・。」


魔王は叫ぶが徐々にその声は小さくなっていく。


「は、裸を、み、見られたんだから」


魔王は顔をさらに赤くし涙目で言う。・・・・・止めてくれ、凄い切りたくなってくる。


「・・・・・・・」


「・・・・・・」


魔王も俺も黙り込む。・・・このまま掴んでても埒が明かない。俺は掴んでいた手を離すと魔王にコートを着せる。俺の服で唯一血の被害から逃れていたものだ。多分魔王が脱がしたんだろう。


「取り敢えずこれでも着とけ。話はそれから聞く」


「・・・・・・」


魔王は俺をじっと見る。おい、我慢してんだからそんな目で見るなとっとと服を着ろ。


「・・・・ありがとう」


魔王はそう言うと湖に置いてある服に着替えに行く。いや、体でも洗うのか?

俺は取り敢えず魔王を見ずにさっきの衝動をぶつけるように木に向けてデザートイーグルの引金を引いていく。そもそも印象変わりすぎだ。前の厳つい状態なら文句で何でも言えるがその状態だと俺がみっともないように見える。傍から見たら俺が虐めているようにしか見えないしな。世間の価値観ならあの魔王の姿(美女)は間違いなく美しいとか綺麗と言えるだろう。それもとびっきりの上玉と。まあ、俺も男だ。そんなのの裸を見ちまったら・・・・・・切りたくなるだろう?え、ならない?

まあ、ともかく元々言おうと思ってた文句も言えなくなっちまうんだよね。


「・・・・・・・腹減ったな」


俺がマガジンに入っていた銃弾を全て撃ち終わり新しくマガジンをセットしていると丁度魔王がやってきた。


「・・・・・すまない」


何への謝罪かは分からないが俺は無言で渡されたコートを取る。


「構わない。というか俺も服を洗いたいから向こうでいいか?」


俺は魔王の返事も聞かずに湖へと歩いていく。後ろから足音がするからついて来ているのだろう。俺が湖で服を脱いで洗いだすと魔王が隣に座る。


「怒らないのか?我はお前を殺そうとしたのだぞ?」


「別に。むしろ俺の方がすまなかった」


命を狙われるのは慣れてる。今まで散々殺してきたんだ。当然その分恨まれるし命だって狙われる。裸を見られて襲ってきたってことは此奴にとっては重要なことだったんだろう。だったら狙われるようなことをした俺が悪かったのだろう。俺が謝ったことを意外に思ったのか魔王は驚いた様子で俺を見る。


「い、いや。我の方が悪かった」


魔王は慌てたように謝る。・・・・こいつ本当に魔王か?マジで印象が違うんだが。俺は内心でそう訝しがりながら魔王に気になっていたことを聞いた。


「で、何であんな姿になってたんだ?」


別にずっとあの姿でいる必要などないだろう。


「だって、あの姿の方が威厳があるし、それに魔王として舐められないだろう」


・・・・成程。ようはあの姿の方が魔王っぽいと。けどよ・・・


「その姿でも十分過ぎるほどのカリスマを感じるんだが」


何というか。正直厳つい姿の時よりも俺はビビッた。感じる力も迫力もこの姿の方が凄かったしさっきの一撃も冷や汗が止まらなかったからな。俺の言葉に魔王は僅かに顔を上げる。


「・・・・・・本当か?」


「ああ、とんでもないほど感じた」


今の落ち込んでる姿からは全く感じないがな。そんなことを言ってこれ以上落ち込まれるのも面倒くさいから言いはしないが。魔王は俺の言葉を聞いてブツブツ言いながら頷く。あ、くそ。流石にズボンは落ちねえよなあ。服も血がこびり付いて落ちねえよ。俺は傍に置いておいた鞄からシャツを取り出し着替える。


「よし!!」


「あ?」


俺が着替え終わると魔王は勢いよく立ち上がる。そして目を輝かせながら俺を見る。・・・・・今度はなんだ?


「人間よ!我もついて行くぞ!!」


「は?」


此奴何つったよ。ついて行く?俺に?


「うむ、主には世話になったしの!それに主には教えねばならぬことがあるからの!!」


魔王はそう言って俺に飛びついてくる。やめろ!離せ鬱陶しい!!


「人間よ、主の名前は何というのだ?」


魔王は離れると小首を傾げながら聞いてくる。たぶん文句言っても此奴は聞かないのだろう。昨日と今日で何となく此奴のことは分かってきたし・・・・認めたくないが。


「響夜、鳴神響夜だ」


「うむ、我の名前はマオ。マオ・オメテオトル・へーラー。マオと呼ぶがいい!」


そう言って魔王、マオは手を差し出す。取り敢えずはまだ世話になることもあるんだ。俺はそう考えて差し出されたマオの手を握りとった。


「よろしくな響夜!!」


「ああ、よろしく」


これがこれからも続いていく殺人鬼と魔王の出会いだった。


 ◆


あの後から暫く経ち今俺達は焚き火を挟んで向かい合って話している。


「いいか、響夜。知識を与えたから大体のことは分かるはずだ。まずは魔法の属性についてだ。言ってみるがいい。」


なんという高圧的な態度。いや、教えてもらうのは俺だから強くも言えないが


「あ~、炎、水、風、大地、闇、聖、呪、無、空、時、だっけか」


「ああ。魔法が使えない者もいるが大抵は少なくとも初級の魔法は使えるな」


「で、俺の魔法ってのは?」


「うむ、それだがの・・・まあ何というか。我は主と繋がっておるから分かるのじゃが」


「?」


マオは少し難しい顔をする。俺はマオのその様子に首を傾げた。


「主が扱えるのは炎、呪、空の三つじゃ」


「炎は一般的だっけか。で、空はレアなので・・・。」


「呪を使えるという者はいないと言っても過言じゃなの。」


「何でだ?」


俺が与えられた知識の中には呪については能力の特徴だけでそんな情報はなかった。


「呪は使えるものは相当限られるんじゃ。まず上手く操れなかったら自分にその反動が返ってくるし、それが使えるのは余程の罪深きものや恨みなどがあるものじゃからな」


それも大抵操れずに自滅するんじゃが。とマオは言う。


「しかし、主にはピッタリかもしれんな」


マオはそう言って笑う。それは厳ついときのような豪快な笑いでなく女らしい・・・お淑やかとでも言えば良いのだろうか。そんな笑いだった。

その姿を見ながら俺はずっと疑問に思ってたことをマオに聞く。


「なあ、俺の手にあるのは何なんだ?」


そう、俺の手の甲。そこにはよく分からない刺青がはいっていた。翼を生やした・・・・これは天使だろうか。一本の剣を両手に地面に突き立てるように持つ天使の上半身の姿だった。それは黒く描かれていることから堕天使のようにも感じる。


「・・・・・それは・・・あれじゃ」


それを見たマオは歯切れが悪くなる。


「あれって何だ」


「その・・・我との契約の証じゃ」


「証?」


魔力を受け取った時のか?


「うむ、我が死んだとき主は我の代わりに魔王になるという魔王の後継者としての証じゃ」


「・・・・・・・・は?」


「だから魔王の後継者の「ちょっと待て、お前これいつやった」・・・知識と魔力を与える時じゃ。」


「巫山戯んな!お前シャレになんねえぞ!!」


「良いではないか!魔王になれば最強ともいえる力と全ての属性を使うことができるのじゃぞ!!それにその紋章は我を召喚することも出来るし、制限があるとはいえ通信も可能にするのじゃぞ!!」


「そういう問題じゃねえ!!」


畜生やられた!やっぱりタダより高いものはねえのかよ!!?


「・・・・・ハア」


「そう落ち込むでない。それに知識と魔力を与える以上それはどうしても必要なんじゃ」


「・・・・・・」


「そ、それにあれじゃ、ええと別に、我を殺さなくとも婿になれば・・・じゃなくて!!ある意味主は家族以上の繋がり・・・でもなくて・・・」


マオ、必死に弁解しようとしてるが話がどんどん変わっているぞ。

俺はその衝撃の事実に凹む。そんなものになったら敵ばっか増えて休む日すらなくなんじゃね?殺人鬼だって休みたい日はあるんだぞ?


「・・・・・・寝よう」


俺はそう言って横になる。何かマオが慌ててたがんなもん知らん。やがてマオも寝ることにしたのか。静かになった。聞こえてくるのは木々がや草花が風で揺られる音と火が枝を燃やす音だけだった。不思議といつもよりも静寂が心地よく感じた。


「・・・・響夜」


「・・・・・・」


「すまなかった。勝手にそんなことをして」


マオの声は少しだけ震えていた。俺はその声を聞いて静かに溜息を吐く。本当に此奴は・・・・。


「構わねえよ。こんな結果になったとはいえ、魔力といい知識といい世話になったからな」


実際もしマオ以外の奴らに出会っていたらこんな素直に話が通じたかどうかも分からねんだ。その点でいえばメリットの方が遥かに大きい。


「だから謝んじゃねえよ」


「・・・・・・ありがとう」


俺はマオのその声を聞きながら眠りについた。


 ◆


「・・・・・・・」


まだ日の出か。俺は太陽の光を感じながら起きようとし、動けなかった。


「・・・・・・」


俺にしがみついているマオ。心無しか随分心地よさそうに寝ている。


「・・・・マオ」


俺はしがみついてくるマオの肩を揺らす。だがマオは離れるどころか逆に力いっぱいに俺の胴体を締め付ける。


「――――ッ」


い、痛い。仮りにも魔王。なかなかの力だ。普段から力は抑えているのだろう。でなかったら俺の肉体など即座に潰れちまう。


「ま、マオ・・・起きろ。おい、マオ」


俺は少し強くマオの肩を揺らす。早くしろこのままだと潰れるから!


「・・・ん・・・」


俺の祈りが通じたのかマオはもぞもぞと動くと薄く目を開ける。


「おい、目を覚ませ」


「・・・ふわ・・・響・夜・・・おはよう」


そう言って俺から離れるマオ。助かった。なんとか俺の胴体はまっぷたつにならなくて済む。俺は内心でホッとしつつ起きようとする。


「・・・ん」


起きようとする俺にキスをしてくるマオ。・・・・・・What?

その突然の行動に思わず思考が停止する。

触れ合う唇。触れ合っているほんの数秒がまるで何時間のように感じる。


「・・・・・・・」


やがて唇が離れると共にマオは再び眠り出す。先程の光景に呆然とする俺。いや、別にキスが初めてなのだとか言うわけじゃない。ただ会ってそこまで経たない奴に突然されたことは初めてだ。やがて意識が戻ってくる俺。マオの顔を見るがマオはまた心地よさそうに寝てるだけだった。


「・・・・・・意味わからん」


寝ぼけてたのか?俺は取り敢えず起き上がり荷物から朝食の準備をする。マオがいる分量も多いからな。やがて起きたマオは何もなかったかのようにまたはしゃいでいた。きっとあれは寝ぼけてやったのだろう。

俺はそう結論づけ荷物を整理するとマオと共にこの世界に来て初めての旅に出た。


マオがやけに元気だったのは余談だ。

感想、批判、ご意見があったらどうぞお願いします。

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