家族とこれから。除者は良くないよな
「家族・・・か」
by響夜
「・・・・・すまなかった」
俺が起きてから最初に言った言葉はこれだった。屈辱的だったがクソ騎士にも頭を下げた。全員気にしなくていいと言っていたが・・・。
「では始めようか・・・・」
・・・・あの言葉が嘘に思えてしょうがない。
「どうした響夜?」
「・・・・いや、何でも無い」
俺は首を傾げるマオにそう答える。現在俺は鎖で自由を奪われている。理由も分かるが少し動きづらい。
「そうか。響夜、何故お前はあの時に暴走したのだ?」
「・・・・全部覚えてる。あの時は、アレイスターの声が聞こえたんだよ」
「アレイスター?」
「ああ、あいつの声が聞こえて。俺の中にある殺人衝動やら諸々を一気に表に出させたんだよ」
「・・・・・・・」
話を聞きながら翁は何を考えてるのか思案顔だ。
「では、響夜があれだけの力を出せたのもそ奴の?」
その言葉に俺は僅かに間をおく。
「・・・分からねえ。あいつに何かされた気はするがそれがきっかけなのか俺自身の力なのか・・・。そこは曖昧だ」
「・・・そうか。では響夜。お前はこれからどうする気だ?」
「?」
その言葉に首を傾げる俺を視てマオは溜息を吐く。
「クラウンだ。それはどうするんだ?」
「入る。それは変わらねえ。何にしろ俺はまだまだ弱い。利用できるものは全部利用する」
「・・・・それでいいのか?」
翁が口を開いてそう言う。まあそう言う理由は分かるが。
「ああ、構わない。あいつが何を考えてんのかは知らねえがそう何度も掛ってたまるかよ」
掛かったらその時はその時だ。あいつからの干渉を防げるまで強くなればいい。
「・・・・そうか」
「・・・・・・・」
俺の様子を見て止めるのは無理だと悟ったのか翁は溜息を吐く。マオの方は何か納得がいかず未だ不満顔だ。心配するのは分かるが諦めろ。無理にでも行くつもりだからな。
「マオ、諦めるんじゃ。そう不貞腐れていても仕方あるまい」
隣で穴が開くのではないかと思う程俺を睨むマオ。そんなマオを翁はどうにか落ち着かせようとしている。保護者と子供の図だな。どっちも相当年食ってるが・・・。
「・・・・響夜」
「あ?何だよ。止めろって話なら聞かねえぞ?」
「・・・分かってる。後で部屋に来るのじゃ」
それだけ言うとマオは部屋を出る。残された俺達も他愛のない会話をして部屋を出て行った。
■
「おい、入るぞマオ」
俺はマオの部屋の扉をノックする。
「うむ、入ってくれ」
その言葉が聞こえると俺は扉を開け中に入る。そこにはマオの他にもハクがいた。
「話ってのは何だ?」
「うん、そのこと」
マオは何かを取り出すと俺に手を出すよう促す。相変わらず普段との口調の差が大きいな。
「貰って」
「・・・・・?」
そう言って渡されたのは一つのネックレス。十字架の形状をしたそれの中央には赤い宝石の様な物が埋まっている。
「プレゼントじゃ。ハクと一緒に作ったの」
「・・・・大事にしてね」
胸を張るマオと笑うハク。俺は二人にも俺と同じ物が首からぶら下げられていることに気付く。形は同じだがマオのは紫、ハクのは青色だ。
「・・・私達は家族?みたいなものだから」
「お互いのことを信頼して、心配して、何より心が繋がっているのじゃ。それは一つの家族というものでしょう」
そう言って微笑む二人。
「・・家族・・・家族、か」
俺はもう一度ネックレスを見てそう呟くと二人に顔を向ける。
「そうだな。ありがとう二人とも」
多分今の俺の顔は向こうでの家族に見せた物と同じだけのものだと思う。その顔を見て二人は少しだけ驚くが今まで以上の笑顔を見せる。
「だからお互いに隠し事なんてして欲しくないの」
「何か辛いことがあったり、嬉しいことがあったら皆で共有しよう?」
その言葉に俺は頷く。
「そうだな。ああ、だから知っておいて欲しい。・・・俺がどういう奴なのか」
家族なんだ。だったら話しておくべきだろう。そう考え俺は二人の近くに座ると昔のことを話しだした。
■
確か、俺が14歳位の時だった。俺の家は他と比べたら随分裕福で屋敷に住んでいた。昔の先祖がどういう仕事をしてきたなんてのは知らない。たぶん人様に言えるようなことじゃないって言うのは何となく理解してた。父親の顔なんてのは覚えてない。というか見たことすらないと思う。普通に学校に通って家族で楽しく話して、そういう至って普通の家庭だったんだと思う。
ある時だ、学校から帰った俺が最初に目にしたのは血で赤く染まった床と殺されている屋敷の奴らの死体。俺はその中を走った。きっと母親は大丈夫だと無事に生きているんだと、そんなありえないことを考えていた。
「母さん!」
何時も母がいる部屋。俺はその部屋の襖を開けた。
「―――――!」
そこに確かに母親はいた。だが当然無事な訳がない。俺の母親は服を脱がされ男達に犯されていた。部屋が広かったし、男達がそっちに夢中だった為か俺の存在には誰も気付かなかった。
「・・あ・・あ、ああ・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
その姿に俺は頭を掻き毟った。どうしてこうなったのか。何故こんな目に合わなくてはいけないのか。そんな中俺の目に入っていたのは下卑た笑いを浮かべる男共の姿
「(ああ、こいつらだ。こいつらが俺の物を奪ったんだ。殺さなくちゃ・・殺さなくちゃ)」
「殺さなくちゃ殺さなくちゃ殺さなくちゃ殺さなくちゃ殺せ殺せ殺せコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス!!!!!」
俺はただ目の前にいた男共を殺す為に駆けだした。
そして気付けば部屋には俺しかいなくなっていた。元々俺の一族ってのは殺人衝動と他者への愛が異常なまでに強かった。近親相姦なんてのは当たり前だったからな。特に一族の中でも俺はそれが色濃く出た。誰よりも人を殺したくて、家族という他者を誰よりも愛していた。
だから俺は奪われないように俺だけの物にした。俺は血や臓物が飛び散った死体の中で母親の生首を愛おしそうに抱いて笑っていた。
「・・・母さん。これからは一緒だ。誰にも奪われないで俺の中でだけ生きればいいよ」
微笑みながら俺は母親に愛を囁き続けた。その後が大変でもあった。俺は帰りが遅かった妹を連れて屋敷を出た。幸い妹には幼いからかそこまで大きな殺人衝動がなかった為血で興奮するということも無かった。必要なものを持った俺達は証拠を消す為に屋敷に火を放って今まで住んできた家を、土地を、離れた。
その後そこがどうなったのかは知らないし興味もない。俺達は新しく生きて妹は表で生きて俺は裏の世界で人を殺し続けた。
■
「・・・これが俺だよ」
家族というものを愛し、そこに含まれない他者は殺す。俺は二人がどんな反応をするのか少し気になった。
「・・・その妹はどうなったの?」
疑問に思い聞いてくるハク。その質問に俺は肩を竦める。
「分からない。心配じゃないのか、と言われれば心配だ。それこそ会ったら抱きしめたい程だ・・・」
「けどよ。あいつに会えるかは分からないんだ。少なくとも俺の記憶の中には生きている」
俺はそう言って立ち上がった。
「・・・そう。会えるといいね」
そう言って笑うマオとハクに俺も笑う。
「そうだな。俺は一回宿に戻る。何時出て行くかは分からないがその時は何か連絡でも入れる」
「うん」
「いってらっしゃい」
「ああ」
見送る二人に俺は笑いながら転移する。一回港街に戻らないとな。もうすぐ宿を引き払うことになるんだから。
俺は港街から少し離れた森の中に転移した。
「ウサ公」
俺は影の中からウサ公を呼び出す。ウサ公は呼び出されると俺の肩に飛び乗った。
「みゅう」
「ああ、分かってる」
俺は短剣を作ると茂みの中に投擲する。短い悲鳴と共に赤い液体が地面に水溜りを作る。俺はその生物の正体を見に茂みの中を見る。そこには額を短剣で貫かれた人に近い姿をした蜥蜴の魔物。
「水蜥蜴人?」
俺はその魔物に首を傾げる。確かに水蜥蜴人は水辺周辺だから河口近くということはあるだろうが少なくとも街周辺ではなく森の奥に生息している筈だ。
「俺がいない間に何かあったのか・・・?」
取り敢えず水蜥蜴人から売れる巣材を剥ぎ取ると街の門へと向かう。
「・・・・・狭い」
久しぶりに来た街は随分と人で賑わっていた。もしかしたらさっきの水蜥蜴人と何か関係があるのかもしれない。
俺はウサ公がはぐれないよう頭の上に乗せる。ギルドに到着するだけでも普段より数倍かかった気がする。これで何もなかったらキレるぞ俺。
「久しぶりだな受付嬢」
「あ、響夜さん。久しぶりです」
俺は受付嬢に挨拶すると早速気になっていることを聞く。
「今日は何でこんな賑やかなんだ?」
「?最近こっちにはいなかったんですか?」
「ああ、ってことはここ最近ずっとこうなのか?」
「はい、少し問題が起きたので・・・」
「・・・・それって水蜥蜴人のことか?」
俺の言葉に受付嬢が意外そうな顔をする。
「ええ、いなかったのによく知っていますね」
「この街に入る前にあった。随分おかしなことだな」
「ええ、水蜥蜴人だけでなく他の魔物たちにも奇妙な動きが現れて・・・。いま各国の軍やギルド達が協力して目撃情報やその原因の調査をしているんです。最近は魔王と聖王が戦争を起こしたりと大変なんですよ」
「ふ~ん」
俺はその言葉に適当に返事をしながら取り敢えず水蜥蜴人が出た場所を報告する。
「ありがとうございます。・・・・あと、ずっと気になっていたのですが」
「あ?」
「そのウサギは・・・?」
「ああ、此奴か。此奴は俺の使い魔だ」
「・・・・・」
「何だ?」
「ああ、いえ。少し意外だなと・・・」
「・・・そうか?まあ、色々あったんだ。爺いるか?」
「はい、マスターは今部屋の方に・・・」
「そうか。少し邪魔するぞ」
俺はそれだけ言うとギルドの奥へと入って行く。
ギルドの中も職員達が慌ただしく動き回っている。これだけ混んでいるから人数も足りないのだろう当然爺も忙しいだろうが・・・
「関係ないか」
むしろ邪魔をして憂さ晴らしするのも良いかもな。・・・俺の器小さいな。言ってて自分で悲しくなる。
「おい爺。入るぞ」
俺は扉をノックするが返事は返ってこない。疑問に思いながらも部屋の扉を開けるとそこにあるのは書類の山…そして生気の抜けた老いぼれの姿。
「生きてるか?」
「ふごおゥ!!?」
俺は触れるのを躊躇いながらもその頭を踏ん付けた。変な声が聞こえたがきっと意識を戻したからだろう。決して俺が踏みつけたからではない。
「生き返ったらなら用件言うぞ爺」
「おい!止めんか小僧!」
この状態じゃ何時までも話が出来ないと俺は仕方なく足を退ける。
「まったく、もう少し年寄りを労わんか・・・」
ぶつぶつ言っている爺を無視して俺は運ばれてきたお茶を飲む。つかこういうお茶やらもどこから来るんだ?今度聞いてみるか・・。
「で、何じゃいボケ」
「ああ、俺もうすぐ此処出るから」
「それはまた急じゃのう。して理由を聞いても良いかのう?」
「ま、色々とな。あれだよ、自分探し」
「お前は先ず常識を探して来い」
俺の言葉は爺にばっさりと切り捨てられる。失礼な奴だなおい。結構常識あるだろ。
「ま、よいがのう。・・・そうそう、最近魔物たちに異変が起きていることを知っているか?」
「聞いた。俺も実際水蜥蜴人と直ぐそこで会ったしな」
俺達はそこら中に散らばっている書類の一枚を見て話す。書類には魔物たちの前回と今回の比較、大きく変わったところなどが事細かく書き記されている。
「・・・主もか。まあそのこじゃがのう、出来れば分かったことや気になったことがあったら報告してくれると嬉しい。当然謝礼もする」
「それくらいなら問題ねえ。たまには此処にも寄って来てやるよ」
「そうかそれじゃ――――・・・・・何じゃいその手は」
「前払い寄越せ(キリッ)
■
「・・・あとは宿の荷物か」
いらない物は魔王城に運びこんじまって必要なものは倉庫にでも入れればいいか・・・。
そんなことを考えているとふとウサ公を見る。
「みゅう?」
「・・・・・お前にも何か欲しいよな」
そうだな。家族で此奴だけ仲間外れってのは良くねえよな。
「取り敢えず耳にアクセサリーでも付けるか?」
いや、ウサギ・・・・ウサギ・・・白い、兎。
「あ、懐中時計」
俺が思い浮かんだものは童話にある不思議の国のアリスの白ウサギだ。これで二足歩行かつ服を着てれば中々のもんだが・・・。アリスにも色々あるがこれが一番妥当か?後はスカーフとかしか思いつかん。
「となると、ついでに時でも止めれるようにでもしてみるか・・・」
実際に止めるとまでは行かなくとも体感時間の停止か何かは出来るようにした方がいざという時安全だろう。
「・・・・・」
思い付くのはエクレールにいたメイド。只敵であったあいつがそう簡単に良いと言うか・・・。
いや、でも家族で此奴を除者は俺が許せない。
「男は度胸、何でもやってみるもんか・・・」
取り敢えず頼んでみよう。それで駄目だったらまた別の何かを考えればいい。
そう考え俺はウサ公を抱きながら宿へと向かう。荷物の整理は大変だろうがやるしかない。
「・・・やってやるよ」
何時かあいつと同じラインに並べ立てる様になるにはどんなことでもやっていかなくちゃいけない。
俺は賑わう人混みの中を宿を目指し歩いて行った。
感想、批判、意見、評価などがありましたらお願いします。
ウサ公は意外と気に行っていてもうまく出番が与えられない・・・。
ごめんよウサ公。文才の高くない私を許して下さい。